第66話「身分による格差」
ギブタウンの城主カルロスは怠け者で、部下に仕事を押しつけてばかりいた。
ある日、通りかかった青年を強引に働かせたが、突如として城が光に包まれ、カルロスたちは未来へ飛ばされてしまう。
彼らは命を落とすが、青年の息子が天使の翼を集めて蘇らせた。
一行は時の水晶を用いて元の世界へ戻ろうと試みるが、異世界へと転送されてしまう。
そこに現れたのは、カルロスの祖先──かつて世界を富と力で支配しようとした暴君、カルゴス。
カルゴスはかつて、ゴードンとその仲間たちにより討たれた。
崩壊する城の中で、瀕死のカルゴスは自らの魂を時の水晶に封じ、永遠に存在し続けることを選んだ。
カルロスたちはなんとか水晶の中のカルゴスを封印することに成功する。
だが青年がその水晶に触れた瞬間、彼の身体は異界へと吸い込まれてしまう。
そこにはカルゴスがいた。
そして青年の肉体はカルゴスによる恐るべき実験によって分解され、世界征服のための機械兵器として再構築される。
♢♦︎♢
残忍なカルゴス。
カルゴスたちによる被害に遭った町は他にもあった。
代表的な町はパオンタウンだ。
そこはギブタウンから遠くない所にある。
そこはギブタウンが襲われる前に滅ぼされていた。
そしてそこはヴィレムといった格差がある場所だ。
それはパオンタウンとその周りのカルロスを襲ったサラリーマンの家があった村、キャロルたちが侵略した村などを中心とした身分による格差である。
ヴィレムとは、かつて戦争を仕掛けてきた大富豪の残党のことを指す。
戦争で敗れた彼らの名は、いまや呪われた血筋として語られている。
パオンタウンは敗戦の果てに焼き尽くされ、夥しい死者を出した。
町は未だ瓦礫と灰に覆われ、復興の兆しすら見えない。
そして生き残ったヴィレムの人々は裏切り者の末裔として忌み嫌われ、どの土地でも冷たい視線を浴びていた。
隔離こそされていないが、少しでも目立った行動を取れば、即刻死刑。
身分ゆえに働くことも、住むことも許されず、その絶望と飢えが彼らを狂気へと駆り立てる。
その身分だけで蔑まれ、見下される……やがて絶望と憎悪が彼らの心を侵食していった。
『我らを見下ろす者どもに、天罰を』
ヴィレムたちは同志を糾合し始めた。
パオンタウンの不幸で富を得た戦争成金の集団をカルゴス族と呼び、その襲撃のことをパオンタウン襲撃事件と呼んだ。
生き残った人が書き残した書物に襲撃者カルゴスという文字が記載されていたため、現代にも伝わっている。
カルゴス族の代表のカルゴスは世界一の富豪であり、法に縛られず全てが自由な世界を創るために、金や地位によって、様々な国をこれまで占拠してきたとのこと。
素直に要求を呑まなかった場合は町ごと滅ぼされるという。
パオンタウンはもともと技術と文明が発達した都市で、生活の利便性や文化の水準は極めて高かった。
それゆえに彼らは誇りを持ち、膝を折ることを良しとしなかった。
結果、町は炎に包まれ、文明は灰と化した。
生存者はわずか数名に過ぎなかったという。
その犠牲者の一人がベッカム・アムス。
彼は息子のノーブルを残し、戦火の中で命を落とした。
ノーブルはかつての素封家の血を継ぐ者であり、戦後、数十年の時を経て、荒廃したパオンタウンを再建するため立ち上がった。
町長として彼は瓦礫の下に眠る人々の夢を掘り起こし、再び誇りある街を取り戻すべく、復興の指揮を執っていた。
♢♦︎♢
私はノーブル。
ノーブル高等魔術学校の校長だ。
数年前のある日、それは私がパオンタウンの町長だったときの話だ。
あの日はひどく雨が降っており、私は憂鬱だったが、渋々食料などを買いに外出する。
私は一人暮らしであり、自炊をしなければならない。
兄弟はおらず、父親はパオンタウン襲撃事件により戦死、母親はその後老衰死している。
私は止むを得ず外出し、ジメジメした道を歩いて隣町まで買い物に行った。
食料を買って、その帰り道の出来事である。
パオンタウンに差し掛かる所で私の足が止まる。
老夫婦だろうか、二人の老け込んだ男女がパオンタウンを見ながらコソコソ話しているのを目撃する。
「パオンタウンがこんなにも復興したとはねぇ」
「だが一度は落ちぶれた町。少しでも手を加えれば、また滅びるさ」
私は息を呑んだ……ヴィレムだ。
かつてカルゴスのもとで町を焼き、民を蹂躙した残党。
彼らが、まだ生きていたのか。
そしてまた、復讐の牙を研いでいるというのか。
私は町長として、同じ悲劇を繰り返させまいと、その人物たちを尾行することにした。
冷たい雨が服に染み込み、息は白く凍る。
それでも、足を止めるわけにはいかなかった。
二人の老夫婦はパオンタウンの門を抜け、ゆっくりと中へ入っていく。
その後の言動からも、やはり町を襲う意図があると確信した。
私は警備部隊へ通報し、張り込みを依頼した。
しかし、事態は予想をはるかに超えていた。
老夫婦はただの人間ではなく、魔法使いだったのだ。
突如、夜空を裂くような轟音とともに、閃光が走った。
彼らは強力な魔法を放ち、パオンタウン城を次々と破壊していった。
私は多少の魔法なら扱える。
だが彼らの力はまるで次元が違った。
防御の魔法を展開する暇もなく、城壁が崩れ、瓦礫が飛び散る。
私や警察部隊は必死に指揮を執りながらも、どうすることもできずに立ち尽くした。
無力さが胸を刺し、涙がこみ上げた。
私は町長でありながら、ただ見ていることしかできなかったのだ。
やがて応援を呼び、大人数でようやく老夫婦の身柄を確保した。
だが時すでに遅し。
城は半壊し、多くの犠牲が出ていた。
焼けた瓦礫の匂いと、降り続く雨が混じり合う。
まだ残っていたのか、あの冷酷なヴィレムたちが。
私は深く悔いた。
町長として、歴史を知っていながら、このような惨劇を許してしまったことを。
カルゴスは大魔法使いだった。
その影響で、ヴィレムの中にも魔術を操る者がいるのだろう。
ならば今後は、魔法への対抗手段を備えねばならない。
だが無闇に討つことはできない。
中には心を入れ替え、静かに暮らしているヴィレムもいる。
彼らもまた、生きる理由があり、守りたいものがあるのかもしれない。
ヴィレムだというだけで恐れられ、忌み嫌われる彼ら。
私はその現実に、やるせなさを覚えた。
敵としてしか見られない存在を、どうにか理解したいと願う自分がいた。
それでも町を守るためには、備えが必要だ。
私は決意した。
パオンタウン周辺の人々にも魔法を学ばせ、
誰もが自らを、そして町を守れるようにするのだ。
こうして私はノーブル高等魔術学校を設立した。
この学校は、単なる学び舎ではない。
絶望の中から立ち上がるための場所であり、再び訪れるかもしれぬ脅威に備えるための、希望の灯火である。
私は願っている。
この学校が憎しみの連鎖を断ち切る第一歩となることを。
老夫婦の娘はフラム。
その名を聞いたとき、私は胸の奥が疼いた。
フラムといえば、ノーブル高等魔術学校の卒業生だ。
かつては問題児として名を馳せた少女。
あの頃彼女を導けたのは、私とニーナのおかげでもあった。
親がヴィレムであれば、子もまたヴィレム子と呼ばれ、まるで罪を受け継ぐように差別される。
その烙印は、何代経とうとも消えることはないのだろうか。
人々の偏見が、血筋を鎖のように繋ぎとめ、自由を奪っていく。
ヴィレムたちにとっても、きっとそれは耐え難い現実だったのだろう。
彼らはかつての罪と後悔を抱え、自分たちの子にその重荷を背負わせてしまったことを心のどこかで悔いていたのかもしれない。
フラムの両親が城を破壊したのも、ただの憎悪や暴力の衝動ではなかったのかもしれない。
もしかすると、それは血の宿命を断ち切るための、最後の抵抗だったのではないか。
けれども私は願わずにはいられない。
どんな過去があろうと、子を産み育てるならば、せめて愛情だけは、絶やさずにいてほしいと。
愛だけが憎しみの連鎖を断つ唯一の魔法なのだから。
だが現実はいつだって皮肉だ。
愛を信じる者ほど深く傷つき、憎しみを選んだ者ほど楽に生き延びる。
それでも私は信じたい……まだ灯る光があると。
そしてその光こそが滅びかけたこの世界をもう一度照らすのだと。




