第62話「悪魔な天使2」
ギブタウンという場所があった。
そこには一つの城が建っており、その城は届け物の配達を主な目的として建てられたものだった。
その城には、城主の男カルロスと、彼に仕える部下のニーナという女がいた。
カルロスは極度のサボリ癖があり、ほとんどの仕事を他人に押しつけていた。
部下のニーナがどれほど注意しても、彼は聞く耳を持たず、怠惰な日々を送っていた。
ある日のこと、カルロスは仕事の効率を上げるという名目で、城の近くを歩いていた一人の青年を捕まえ、強引に奴隷として使うことにした。
青年はなんとか仕事をすべて片づけた。
城外が突如まばゆい光に包まれる。
その光に飲み込まれ、カルロスとニーナの姿は消えた。
やがて、青年も再び城へ戻った瞬間、同じように光に包まれ、姿を消す。
彼らは、未来の世界へ飛ばされた。
彼らは元の世界へ帰ろうとするが、その途中で命を落としてしまう。
青年の息子を名乗る者が現れた。
彼は元の世界に戻るための水晶の欠片と、死者を蘇らせる天使の翼を探す旅に出た。
そしてそれらを集め、カルロスとニーナを蘇生させた。
♢♦︎♢
カルロスたちは、水晶の欠片を慎重に組み立てていた。
「ったくよ、カルネスが水晶を割らなければこんなことには」
「せめてアンタが欠片を集めたらそう言いなさいよ!」
「ったくよ、スーパーエリートの僕ちゃんに向かってなんだその態度は」
そして水晶から淡い光が漏れ、転移の準備が整う。
「にしても、あいつは帰れないのは残念だったな。ま、今回は不幸にも、兵士たちの不注意が原因でどうしようもなかった訳だし……まぁ、僕ちゃんたちだけでも、元の世界に帰ればいいじゃないか……と思ったけどせっかく死後の世界から戻ってこられたんだし、もう少しここでゆっくりしてこうぜ」
「なに言ってんのよ! やっとの思いで、元の世界に帰れるって時に! 帰りたくても帰れないのあの子の気持ちを考えたことある!? てか、アンタが一番帰りたがってたじゃない!」
「はいはい、分かりましたよ、すぐ帰るからそんなに怒鳴るなよ! 時空を越えた時、なんか体力ももってかれたからちょっと休みたかっただけだわ。まー、口うるせぇからさっさと元の世界へ帰るとしよう」
「おい! 待てよ金髪男と魔法女!」
息子はカルロスを殴る。
「いってぇな……スーパーエリートになにをする無礼者!」
「無礼者はどっちだよ! スーパーエリートかスーパーエロートか知らんが、こっちは死に物狂いで翼や欠片を集めてきたっつーのに、その貴重な翼を消費して生き返らせてみりゃ、礼も言わず、すぐに帰ろうとした。そんなの黙って見てられるかよ!」
「チッ……仕方ねぇな。顔はアイツにそっくりだが、似ても似つかねぇ。ま、いいさ。お前のおかげで元の世界に帰れる。感謝してるぞ。これで満足だろ?」
「そんなの、嬉しいわけねぇだろ!! こんなクズに礼を言われても一ミリも嬉しくねぇよ!! 俺がお礼って言ったのは形としてお礼してもらうことだ。金をくれ金を!!!!」
そこへ兵士が来る。
「鍵がありました!!!!」
「鍵? なんだっけ?」
「あなたのお父さんの遺体の棺の鍵ですよ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁ????」
無くしたと思っていた兵士のポケットにあった。
灯台下暗しである。
「手元にある天使の翼はこいつらに使ってしまったじゃねえか……もう一つ天使の翼を集める気力は残ってない……」
その瞬間、彼の視界が真っ白に染まった。
静寂の中、光の粒子が舞い上がり、その中心からかつての天使が、静かに降り立った。
「面識のない二人を助けるなんて意外と優しいじゃない?」
「出たな、悪魔な天使」
「鍵が見つかったようね。ラヴォスが落とした天使の翼は、私が回収しておいたわ。欲しいなら、ステージで勝負よ。ウッドタウンから始まり、スカイギャラクシーがゴール」
「なんじゃそりゃ! バカバカしいにもほどがある!」
「……翼、欲しくないの?」
「もぉぉぉぉ! やるよ! やってやるよ!!」
「その前に少しだけ話しておくわ。翼は持ち主がいなくなれば、私のところへ戻る。だって私が作ったんだもの。私ね、思ったの。亡くした家族や友を、もう一度抱きしめたいって願う人がきっといるって。だから、自分の羽を切って、世界に散らしたの。どこかで誰かが、その権利を掴めるように……ほんの少しでも、誰かを幸せにできるならって。あれ? いない!?」
「うおおおおおおおお!!!!」
息子は信じられない速さで駆け抜け、光のゴールを突き抜けた。
♢♦︎♢
その後、青年も生き返らせることができた。
「私の息子、やりましたね」
「ったりめーだろ、感謝しろよ」
「なるほど、かけっこ好きエンジェルってそういうことだったのね」
洞窟、砂漠、海や雪山、火山、空の果ての闇に紛れる場所に翼あり。
翼の持ち主はかけっこ好きのレミニセンスエンジェルである。
「なんだ、魔法使いのババア」
「いえ、こっちの話よ。ともかくありがとう」
そして時の水晶は完成した。
「これでいいのか?」
カルロスは青年に確認させる。
「ええ、間違いないです。そしたら過去の世界というか、元の世界を思い浮かべてください。帰りますよ」
「ああ、じゃあな、カルネス」
三人は水晶で過去は戻って行った。
残された息子は──
「あ! あいつらから報酬貰い忘れたじゃねーか!!! カルネス!!! その分まで報酬を寄越せ!!!」
「あー、はいはい」
息子に莫大な報酬を渡した。
「(はぁ、売上金から引いたせいでコツコツ積み上げてきた利益が……今月赤字だ……)」
♢♦︎♢
ギブタウン城にて──
「しかし、本当に散々な目にあったなぁ! 水晶が光り出してどこかの世界に飛ばされたと思ったら、未来の世界だったり、その先で死んで天国行き、そして説教三昧! もうウンザリだ!」
「でもさ、その散々な目の原因って……ほぼアンタ自身じゃないの?」
「うるさい! 黙れ! ともかくこの水晶はどこかにしまっとけ。ロクなことが起きん……にしても、なんで急に光り出したんだ? 今までそんなこと一度もなかったぞ」
「時の水晶は本来、所有者が過去か未来をイメージして触れたときだけ反応するもの。勝手に光って転送なんて、ありえないはずです。今回の現象は……私にも分かりません」
「チッ、相変わらず役立たずめ」
「ちょっと! 言いすぎよ!」
「それにお前、この城に来る前から水晶のこと知ってたんだろ? だったらなんでもっと早く教えん! 僕ちゃん、知らずに鏡代わりにしてたぞ! 自分でも見惚れるかっけー顔を見るためにな!」
「申し訳ありません。急に召喚され、配達の仕事まで押しつけられて……そこまで気が回らなかったんです」
「そうよ! そもそも鏡の代わりに使うって発想がおかしいのよ!」
「それに、時の水晶は図鑑でしか見たことがなかったんです。まさか本物がこんな身近にあるなんて思いませんでした」
「そもそも、その水晶をアンタが持ち込まなきゃこんなことにはならなかったのよ!」
「ん〜? そういえば……いつ手に入れたんだっけなぁ……」
「覚えてないの!?」
「あーもう、むしゃくしゃしてきた! こんなもん、ぶっ壊してぇ!!」
『ピカン!』
その瞬間、水晶が再び光り出した。
青白い閃光が室内を包み、空間が歪む。
「な、なんだ!? まぶしっ―!」
気づけば、一同は見知らぬ世界に立っていた。
赤黒い空。地平の果てまで続く、焼けたような空間。
「……ど、どこだ? ここは……」
その時、響くような声が空間を満たした。
『……カルロス……』
「ん? なんだぁ? 誰だ! てめぇそんな不快な声で僕ちゃんを呼ぶな!!」
カルロスは青年を睨む。
「い、いえ……私じゃありません……」
「アンタ、頭だけじゃなくて耳まで悪くなったの?」
「元からバカみたいに言うな! 僕ちゃんはスーパーエリートだぞ!」
「だからそのエリートって、いったい何のよ!」
『……カルロス……来るのだ……』
「……今の、私にも聞こえました。先に進みましょう。なにかあるかもしれません」
三人はおそるおそる足を進めた。
そして何もない、真紅の空間の中心にたどり着く。
「ここ……から、声がしたような……」
「にしても……ここは一体……?」
その瞬間、赤い霧の中に巨大な影が、ゆっくりと形を成していった。
「カルロスよ……よく来た……」
「誰だ! 貴様は!」




