第60話「蘇生の儀式2」
しばらくして──
「ギブタウンを隈なく探したのだが、どこにも見つからん……」
「てめぇらの誰かがめてるんじゃねぇのか?」
「念のため身体検査をした。だが見つからなかった……鍵穴は特殊だから合鍵もないし、同じ形の鍵を作るのも試みたが無理だった。申し訳ないがアンタの父さんを生き返らせることは不可能だ」
「不可能? 翼は目の前にあるんだぞ? だったら棺ごとぶっ壊せよ!」
「それであなたのお父さんの骨が、砕けでもしたら、蘇生できなくなるかも」
「じゃあ俺の苦労は一体なんだったんだ? なんのために体を酷使してまで鬼畜ミッションに行った? なにと引き換えに数々の災難に遭った?」
「まぁ、そう言わず、些細ながら、報酬は差し上げますから」
「うるさい!!!!」
♢♦︎♢
「……そ、そんなぁ……ニ、ニーナさん、カルネスさんの居場所を割り出したように場所特定魔法で鍵の場所を特定できないのですか? それでさっきの声を送る魔法で地上へ伝えることは可能ですか?」
「生憎だけど、無機物の場所を割り出すのは、さすがの私でもお手上げだわ……」
♢♦︎♢
「父さんを生き返らし、見返りとして一生遊んで暮らせるほどのお金を貰うこと、それだけを期待してなんとか鬼畜ミッションを乗り越えることができた……その楽しみがあるから這いながらもなんとか乗り越えることができた。それなのにアホ兵士が鍵を落っことした……その不注意で俺の人生は一気にどん底に……もう希望もなにもない。辛い思いをしてきたというのになにも得ることができない。努力すれば報われるとはなんなのか……やはり父さんの言うことは間違ってた。もういい、この翼売り飛ばして……さっさと……家に……帰ろ……父さんはもう生き返ることができないんだよな……」
そのようなことをブツブツいいからがギブタウンから離れていく。
カルネスとチェロスが追いかけて来る。
「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ……息子さん……こんな所にいたのか……」
「カルネスか。今更なんの用だ? ストーカー野郎が」
「たしかにあなたのお父さんは生き返らせることができないかもしれない。だが、僕の父さん、すなわちカルロス、もしくはニーナさんを生き返らせてみてはどうだ?」
「フン、誰がそんな見ず知らずの奴を生き返らせるか。そんなんだったら翼を売り飛ばした方がマシだっつーの! これは冗談じゃないからな。いちいち余計なこと言ってくんな」
「アンタは見返りが欲しいからアンタの父さんを生き返らせたかったんだよな?」
チェロスが問いかける。
「そうだが?」
「ならニーナさんを生き返らせればいい。あの人は魔法使いと聞いている。ニーナさんを生き返らせた暁には、魔法でお礼をしてくれるに違いない」
「父さんことカルロスは少々意地っ張りな性格をしていることは否めないのだが、お礼をする時とことんしてくれる……はずですよ」
「二人して違う奴生き返らせろとか言ってくるんじゃねえよ! わけがわからんくなる!」
「すまない、息子さん。俺としてはできれば父親を生き返らせてほしかったから言っただけだ。でも選ぶのはあなただ。さっきも言った通り、鍵がないことには申し訳ないけどあなたのお父さんを生き返らせることは諦めた方がいい。だからといって翼を売るのは大反対だ。だから、俺やチェロスが言ったように、僕の父さんとかニーナさんを生き返らせてみてはどうだ?」
「父さんは言ってたよな。人助けをした方がいい物を貰えるかもしれないし、相手も気分を悪くしないし自分も得をする、と……」
息子はしばらく考えると。
「分かった、手を打とう。特別だぞ」
「よし、そうと決まればもう一度墓石の所に戻りましょう。その間、どちらを生き返らせていただくか、選んでおいてください。もちろん両方でもいいですよ」
息子は決めた。
そして墓庭へ着く。
「ここはまず、カルロスとかいう奴を生き返らせてみるか。少々こいつに使うのはもったいなさそうだが、息子のカルネスもいるから両方からお礼が貰えるだろうしな。そこが決め手だ。そうと決まればカルロスの死体が入った棺桶を持ってこい!」
♢♦︎♢
「結局、僕ちゃんを生き返らせることにしたのか。さすがは僕ちゃんが見込んだ野郎だ。ま、僕ちゃんは天才で秀才で、とんでもないイケメンだからな。選ばれるのも当然だ」
「「……」」
♢♦︎♢
兵士たちはカルロスの死体が入った棺桶を運び終えた。
「では息子さん、父さんの名前を叫んでください」
「はぁ、しゃーねぇなぁ……カルネス、カルロスを生き返らせたらちゃんとお礼してくれよな」
「分かってますよ」
「よし、お利口だ(叫ぶのは少々バカバカしいが)……カルロス!!!!」
棺桶は、天使の翼の力を受けて震え、やがて眩い光に包まれた。
その光が静まると同時に、棺の蓋が音を立てて跳ね上がる。
そして中から、カルロスが姿を現した。
しかし、全員がすぐに違和感に気づく。
「はぁー!? なんだこいつは!?」
棺桶の中から出てきたカルロスは、明らかにおかしかった。
「はて……?」
「カルロスって、こんなにも死にかけのジジイだったのか!?」
そこに立っていたのはやつれた老人。
顔の皺も声の掠れも、カルネスが知る父の面影からはほど遠い。
カルネスも驚いて駆け寄る。
「誰だこの爺さん!? 父さんを生き返らせたんじゃないのか!?」
「親の顔も忘れたのか?」
声も老人なその人物は今にも倒れそうだった。
♢♦︎♢
「遅い!」
一方その頃、死の世界ではカルロス本人はまだそこにいた。
広い空間で、彼の怒声が木霊していた。
「遅い遅い遅い遅い!! あいつら、僕ちゃんに天使の翼を使ったんだろ!? なんで僕ちゃん、まだここにいるんだよ!!」
ニーナは地上の様子を覗いていたが、その騒がしさにため息をつき、視界を閉じる。
「うるさいわね……いい? カルロス、落ち着いて聞きなさい。地上ではもう儀式は終わってるの」
「は? じゃあなんで僕ちゃんが生き返ってないんだ!?」
「おそらくだけどね、私たちが未来の世界にタイムスリップして、カルネス君と初めて会った時のことを思い出して?」
♢♦︎♢
「誰だ貴様は!」
「あいつ事情を話してくるんじゃなかったのかよ! 僕ちゃんはスーパーエリートのカルロスだが」
「カルロス? なんか聞き覚えのある名前だな……いやしかしさっさと帰れ! さもなくば貴様を殺す!」
「どういうことだ! 話が違うぞ!」
「もしかして……もしかしてあなたは父さん?」
「……お、お前は……カルネス!」
♢♦︎♢
「アンタのことを聞き覚えがあるってくらいの認識だったことや、若返ったと思った、ということは、おそらく未来の世界のアンタとカルネス君はしばらく会ってなかったんじゃないかしら。そして未来の世界のアンタはカルネス君がいない遠くの場所かなんかで亡くなった……こんなところかしら。それで未来のアンタが生き返ったんじゃない?」
「ちょっと待て! なにが言いたい!」
「つまりね、同じ存在が二人死んでたってこと。
時間をまたいだカルロスと、元々のカルロス。
その場合、世界は元の時代の方を優先して蘇らせる。だから地上で映ってるのは老いたカルロス」
「いやいや、そうじゃなくて……僕ちゃんはどうしたらいいんだよ……未来の世界で死んだら、天使の翼を使っても生き返ることが不可能というのか!?」
「翼の仕様はよく知らないわ。そうかもしれないし、ランダムだったって可能性もあるし。運が悪かったとしか言えないわね」
「お気の毒に……」
青年はしみじみと呟く。
「黙れ小僧! 他人事みたいに言うな!」
「一応私もカルロスさんと同じ立場なんですが……」
「黙れ! 黙れ! 黙れ! 毎回そうだがこいつと一緒にいるのは災いの元だ! この疫病神!」
「……ふと思ったんですが、未来の世界にカルロスさんが存在していましたよね? ということは、カルロスさんはなにかしらの方法で、過去に戻ることができることが言えるんじゃないのでしょうか? そうなると筋が通ります」
「フン、そうかもな……だがそれはいつになるか分からん」
♢♦︎♢
「おい! どういうことだ! 話が違うぞ!」
「息子さん……大変申し訳ございませんが、予想だにしないことが起きてしまいました」
「過去からやって来た若き頃の父さんではなく、この世界で死んでいたと思しき死際寸前の父さんが生き返ってしまったのだ。その可能性があることを考えていませんでした。天使の翼は未知な上に、ここ最近いろんなことが立ち続けに起きていたので、考える隙もありませんでした。実の息子が言うのもなんだが、それなら死んだままの方がよかったわ……」
「てめぇ!」
息子はカルネスを思いっきり殴り飛ばす。
「グワァ!!!!」
「おい! なにをしてる! こっちに来い!」
「離せ!」
息子は兵士たちに連行される。
「ったく、容赦ないですねぇ、俺はあの戦いの時の怪我がまだ治っていないというのに……まぁ、あれだけ苦労してこの結果じゃ、無理もないか」
「よく分からんが、なんかすまんのぅ……」
「いや、父さんは悪くない」
息子は兵士たちを振り解き、鋭い目でカルロスの所に走ってくる。
「てめぇ! もうてめぇでいい! 金寄越せ! てめぇから莫大な報酬を貰うまでが任務なんだよ!」
息子はカルロスを胸ぐらを掴み、そして容赦なく殴り飛ばす。
「痛いぞ、任務ってなんのことじゃ……金寄越せとか言われても……うっ……」
カルロスは倒れ、簡単に死んでしまった。




