第6話「仲間の死」
チェロスが指示を受けたのは、城内や負傷兵救護所、そして輜重部隊の所を行き来し、食糧などを分け与えるという、あくまで後方支援の護衛であった。
しかし ──
「大変だ! 敵兵が大量に城にまで入ってきた!」
城の外にいた兵士が大慌てで城内に入ってくる。
「あれだけ囲っていたのにか?」
「俺たちが思っていたよりも、敵兵の数が多かったんだ! そしてもう城内に入り込んでいる! 見てみろ!」
兵士が指差す先には、血が一面に広がり、味方の屍が無惨に転がっていた。
「……これはひどいな……だが犠牲はつきもの……失ってしまったものは仕方ない……だがうろたえるな! おい! チェロス! ここは俺たちに任せてお前は城内を守れ! 今、城内にたくさんの兵士が戦ってるはずだ! そちらに向かえ! 急げ!」
当初の予想をはるかに上回る敵兵の数。
チェロスの役割はサポートから、否応なく護衛へと変わらざるを得なくなった。
「ああ」
「今援軍も呼んでいる最中だ、それまでなんとか凌いでくれ!」
こうしてチェロスはミクロンの指示により、SPなどを駆使して、城内にいる兵士を護衛する。
チェロスはSPの電気の矢を駆使した。
それは文字通り電気の矢を放ち、敵兵を痺れさせるものだ。
その隙を突き、味方兵が敵を仕留めた。
♢♦︎♢
「ラヴォス様、いくら貴方といえど、この数の敵兵は多すぎます!」
「クラウンか……」
「どうか、ここは我々にお任せを!」
そこへ敵軍を掃討したチェロスたちが来る。
「お、チェロス! ちょうどいいところへ来た。ラヴォス様の護衛を頼む!」
するとラヴォスは、目の前にいる敵を一掃した。
「俺なら心配ない! こんな雑魚ども、俺の手で葬ってやる」
「さすがはラヴォス様! しかしラヴォス様、この状況、指揮する者が必要です!」
ラヴォスは一瞬だけ戦場を見渡し、鋭く言い放つ。
「……クラウン。お前が隊を率いろ」
「な、なんと……!」
「今この場でお前を兵長に任命する! 兵をまとめ、外の敵を殲滅せよ!」
「……ありがたきお言葉! 必ずやご期待に応えてみせます!」
「そうとなれば、もたもたせずに今すぐ行け!」
「はっ!」
こうしてクラウンが兵長になり、チェロスたちに指示を出す。
「チェロス! お前は俺の補佐だ! 俺の指示に従え!」
戦場は煙に包まれ、鉄と血の匂いが充満していた。
兵士たちは必死に前線を守り、互いに声を掛け合いながら戦っている。
そんな中、クラウンが大声で叫ぶ。
「どうした、チェロス! なにをコソコソしてるんだ!」
「クラウン兵長、これを……」
チェロスはミクロンに救急道具のことを言われていたからか、クラウンに傷薬を渡そうとした。
「フン…そんなもの必要ない。この俺を誰だと思っている。長きにわたり、ラヴォス様の側近にいた者だ。そう容易くやられぬわ!」
「兵長、いいのか? 兵長たるもの常に万全でなければ、もしもの時、命を落とすかもしれないんだぞ。ついこの間ヴァルサ兵長が亡くなったのを忘れたわけじゃないだろ。これ以上、強い兵士が亡くなればこの軍の兵力もただじゃ済まなくなる。だから……」
「黙れ!! お前のようなチマチマした行動を取るくらいなら、俺は常に前を見て戦う。人の後ろにしか立てない弱虫とは考えが違う。兵長たるもの、目の前に大きな敵が現れば引かず、命尽きるまで戦うまでだ。たしかに、これ以上は兵力を失いたくはないが、軍や城、いやラヴォス様を確実にお守りできるなら、俺は俺の戦い方で戦う。それだけだ」
そこへ敵の大将が姿を現す。
「現れたか……ここまで来たとなると兵の壁は壊されたということだな……」
そこへラヴォスも現れる。
「ラヴォス様!」
「奴の首は俺が取る。後は……任せた」
「「はっ!!」」
「我ら軍隊に告ぐ! ラヴォス様の首を守れ! 後ろを振り向くな! 前を見て戦え!」
「「おおおおおおお!!」」
その叫びに応えるかのように、軍勢が前に進む。
怒号と剣戟が交錯し、戦場は死闘と化した。
♢♦︎♢
激戦の果てラヴォス軍が勝利した。
「これが我らの力だ。手段を選ばずして手に入れた軍の力の前では歴然とした実力の差があるのだ。しかし今回の敵襲により、多くの犠牲や損害はあった。だが我々は勝利した。よくやったな。俺は一足先に城に戻る」
そう言い残し、ラヴォスは一足先に城に戻っていった。
♢♦︎♢
戦いの熱気がまだ残る荒れた戦場。
血の匂いと硝煙の混ざった空気の中、チェロスとクラウンは疲労で重い足取りを引きずりながら城へと戻ろうとしていた。
「ふぅ……なかなかキツイ戦いだった。戻るぞチェロス」
「ああ」
クラウンとチェロスは城に戻ろうとした。
その時、背後からチェロス目掛けて死に際の敵兵により放たれた弾が向かってきた。
「伏せろ!!」
咄嗟の判断でクラウンがチェロスの前に出る。
そしてクラウンの胸に弾が貫通する。
「ぐふっ!!」
「おい、しっかりしろ!! おい!!」
「まさか……兵長に任命されて……わずかな時間で……己の命が絶つとは…ったく……まさかお前から……傷薬を……受け取らなかったことを……後悔するとは……」
「なにを言ってんだ!! こんな状態なのに傷薬でどうにかなるわけないだろ!! 結局、俺はまた誰かを死なせてしまうのか……」
「フッ……そいつは残念だな……お前の力が足らんからだ…うっ……! とは言え俺も…人のことは言えんな……俺は……ラヴォス様を…お守り…するべく……今まで…生きてきたが…まさかそれが…ラヴォス様では…なく……お前のような下級兵士を……守るために……力尽きるとは……」
「クラウン……兵長……」
「まぁ……どちらにせよお前の命が助かったことには違いない…本当に…強い奴は……理由なんぞ関係なく…誰かを…この手で守れるもんだ…チェロス、強くなれ………」
クラウンは死んでしまった。
「………クラウン兵長!!」
チェロスは次々と仲間が死んでいき、ショックを受けていた。
俺は結局…誰かに救われてばかりだな…
今生きている自分が憎くなる…
……しょう……
ちくしょう!!!!
どうして……どうして俺の周りは人がいなくなるんだ!!!!
戦場の中心でただ一人で叫ぶチェロスであった。
そして周りの兵士もショックを受けて倒れこんだ。
「なにをしている! ただちに奴の首を切り落とせ!」
「……はっ!」
♢♦︎♢
それを城で見ていたラヴォス。
「お前までいなくなるとは……これ以上、俺からなにを奪う。自分の父を失い……強い味方も失っていく……」
かつて父を失った経験が、ラヴォスの胸に重くのしかかる。
「……クソッ!!」
「「ラヴォス様!!」」
「こうしてはいられない! 早いとこ奴を葬りさるプランを立てなければ……」
♢♦︎♢
さらに月日が経ったある日のことである。
あれから敵軍が攻めてくることはなかった。
城の修復や軍事力の強化を図るために、チェロスたちは順調にミッションを遂行していた。
「今日のミッションも大変だったな。しかし本当にこんなことして、俺は強くなってるのか? 結局本当の強さとはなんなのだろうか。あれからしばらく経ったが未だに分らんな……」
彼は戦場での記憶と自分の生き方を頭の中で反芻する。
「よく考えてみれば何故あの時、争いなど起こしたのだろうか? 互いに仲が悪かった訳でも、なにかで揉めていた訳でもかったのに。突然、俺の町は襲われた。一体全体なにがあったのだろうか? そういえばリアムおじさんに頼まれた種を買った帰りにすれ違った大男がいたよな。あれ、今思えばラヴォスなんじゃ……だとしたら何故、あんな所に……」
疑念を抱きながらテイクタウンの廊下を歩いていた。
「ん? あそこは?」
チェロスの視界には普段、開いていないはずのドアが開いていた。
「いつもならこの部屋のドアは閉まってるはずだ。鍵をかけ忘れたのだろうか。そういえば、この部屋のこと前から気になっていたんだ。中はなにがあるんだ?」
チェロスは恐る恐る部屋に入って行った。




