第56話「因縁の決着2」
ラヴォスは静かに笑みを浮かべ、チェロスを見下ろすように言った。
「ほう……裏切り者のチェロスではないか。久しぶりだな。こちらでの生活は満喫できたかな?」
チェロスは視線を逸らす。
「ああ」
ラヴォスの口元がゆがみ、冷たい刃のような声が続いた。
「よろしい。ならばお前もカルネスと共に、葬ってやる」
「カルネスさんも、チェロスさんも死なせはしません(そうでもしないと報酬が貰えないからなぁ最後くらいめっちゃ良い物貰えないだろうか……)」
「なんだ貴様は。邪魔だ、引っ込んでろ」
「(でもなんかこいつ俺らの計画を踏みにじられた件と、関係ある気がするな……青髪……なにか思い出せそうな……ま、今はそんなことより……)」
ラヴォスは眉をひそめながらも考えを巡らせる。
計画を踏みにじられた件と、目の前の青髪の男との因果関係が頭の片隅でつながりかけるが、そんな呑気なことを考えている余裕はない。
ラヴォスはチェロスより、計画を踏みにじったカルネスを始末するのが先だと判断した。
「チェロスは後で始末してやる。今は先に俺の計画を台無しにしたカルネスと決着をつけてやろう。決着には広間が最適だ。この城の広間まで来い!」
「裏切った俺より、カルネスさんの方が憎んでるというのか……一体全体なにをしたんだ」
ラヴォスがカルネスに触れると、二人は瞬間移動のように広間へ飛ばされた。
仲間たちも急いで後を追う。
途中まで追いかけたが、広間の場所が分からないようだ。
チェロスと息子はエントランスにあるカルネスコンピュータの前にいた。
「カルネスが言ってたのは確か、この端末に城のセキュリティが入っていて、特定のパスワードを入れるとカウンターの奥に隠し扉が現れるって話だ。そいつが広間に繋がってるはずだ」
しかし情報が断片的だ。
画面に広がる権限メニューや暗号表を凝視し、カルネスが走り書きしたと思われる汚いメモを手がかりに、複雑な解除手順を組み立てる。
時間差トグル、時刻で反転するビット列、古い磁気キーの読み取り……城のセキュリティはガバガバだが、広間への扉はなぜかただのパスワード入力では済まない。
「ここか……ここでいいのか?」
数値を合わせ、コマンドを二度確認してからボタンを押す。
ピッという電子音が鳴り、一瞬だけ赤い警告が点滅した。
「なにやってんだ! 早くしろてめぇ!」
背後から息子の声が飛んだ。
焦って指が滑ると、別のウィンドウを開いてしまい、余計なログが流れ出す。
「おい、もたもたしやがって! 時間の無駄だ、さっさとやれよ!」
侮蔑と焦燥の中で彼は怒りを飲み込み、再びキーを叩いた。
室内の一角でかすかな金属音がすると、隠し扉が出現する。
「入るぞ」
「やっぱり、行かないとダメか……」
「急いでた割には開けたらそれかよ」
そうしてグダグダ言いつつも扉へ入る。
「ん? なんだ……?」
「敵の軍隊か……まさか、こんな通路にまで来るとは……」
なんと、敵軍は広間までの通路にワープして待機していたのだ。
予想外の布陣に、二人の顔が同時に強張る。
「敵を避けつつ、広間まで向かうぞ」
「避ける? 武器は?」
「いや、持ってない。こんなにいるとは思ってなかった」
「は? 俺は一般人で生身だ。アンタみてぇに戦闘服でもねぇしな。お前は兵士なんだから、あいつら倒してくれりゃいいのに……」
「いやこの量はだな……」
通路には敵がびっしり。
正面からの突破など到底無理だ。
「……ふん、もういい、ついてこい」
息子は壁沿いに体を寄せ、前へ進んだ。
敵が振り向いた瞬間、また次の死角へ。
その背後を、息子に倣うようにチェロスも同じように忍び足でついていく。
順調かと思われた、その時、足元の瓦礫を踏み、かすかな音が響くと、敵の一人が不審そうに顔を上げる。
「しまった……」
二人はしゃがみ込み、敵の視線が通り過ぎるのを待ち、小声で呟いた。
「危なかったな。もう一歩間違えばバレてた」
「……お前の誘導がなきゃ無理だったな」
「ああ、もっと感謝しろ。そして報酬も増やせ」
小声で喋り終えると、息子は再び壁沿いに進み、敵の死角を巧みにすり抜ける。
途中、角を曲がった先で兵の影と鉢合わせになりかけたが、息子は咄嗟にチェロスを押し込むように狭い隙間へ隠した。
兵は何事もなかったかのように通り過ぎる。
「はい、これで報酬はさらに増えたな」
チェロスは軽く頷いた。
通路の奥、重厚な扉が見える。
扉を押し開けると、広間の中心で二つのの影が向かい合っていた。
「ようやく、決着がつけられそうだな」
「お前がなんの計画を立てているのかは、よく分からんが、何度復讐しても、結果は同じだ!」
「私はこの時をどんなに待ちわびた事か。お前らを倒し、私の計画は遂行されるのだ。私の計画の動機は……私の父の敵打ちだ」
「父親の敵打ち? どういうことだ?」
「私の父は、カルロスによって傷つけられ、自殺したのだ」
♢♦︎♢
死の世界ではカルロスたちはニーナを伝って広間の様子を教えてもらっていた。
「え、そんなことあったっけ?」
「てことは、結局アンタが原因じゃない! アンタ、なにしたのよ!」
「ん~あ、そういえば……」
カルロスは昔、ラヴォスの父親を奴隷にしていたことを思い出した。
♢♦︎♢
「私の父はカルロスによって追い詰められ、命を絶った。父は優秀な兵士で、誰よりも誠実だった。カルロスは己の不祥事を隠すため、父に罪を擦り付けた。父はそれに耐えられず死んだんだ。私はそれを知り、ずっと恨んできた。そしてお前が幼い頃の話だが、このような因縁があるというのに、せっかくの機会をお前によって台無しにされたのだ」
「城を乗っ取り、金目的で、復讐するわけではないのか?」
「もちろん、城の乗っ取りも考えている。お前とカルロスを倒すついでにな。まあ、乗っ取りといいうか、秩序なきこの地に私の統治を敷く。お前らのような無能で気ままな連中が支配するより、私のほうがはるかに適任だ」
「秩序なきか……たしかに人の依頼を無視して、自分のやりたいように行動をとろうとしたり、人を騙しただけでなく人助けをするのに金を要求したり、救おうとして救えなかった命に対して無意味だと言ったり、自殺しようとしていた人間に対して死ぬことを勧めたりする奴もいる」
「……」
息子はなんとも言えない表情で聞いていた。
「だがな、人々を総括する奴が、我らを殺そうとしている時点で、この城をお前が総括するのは、無理だ!!!!」
「フッ……なんとでも言え!! お前とカルロスを倒し、城を乗っ取ることには変わりはない!!!!」
「残念だが、俺の父さんはすでに数日前に亡くなったぞ。この世界の父さんも多分死んでんじゃないか? だがらもうお前の手によって、倒すこともできないだろう」
「ならば、まずはお前から始末するだけだ。かかってくるがいい、カルネス!!!!」
「望むところだ!!!!」
カルネスは剣を引き抜いた。
訓練の刻印が、その一太刀一太刀に刻み込まれている。
ラヴォスも剣を構える。
刃と刃が触れ合う金属音が広間に高く響いた。
二人の間に火花が散り、戦闘のテンポが瞬時に加速する。
カルネスは素早く攻め、連続で斬り込む。
ラヴォスは重心を低く保ち、受け流しながら反撃の隙を窺う。
刃が交差するたびに、二人の呼吸は荒く、汗が額を伝った。
♢♦︎♢
「カ、カルネス!! 死ぬな!!!」
死の世界で、カルロスはカルネスを応援していた。
青年はカルロスが少しは息子思いの一面を見せたので、ホッとした。
「(おっ、カルロスさん!)」
「お前が死んだら、僕ちゃんの城とか財産、そして僕ちゃんの大事な物とかを、一体誰が管理するというんだ!!!! だから死んだらただじゃおかないぞ!!!! なにがなんでも財宝を死守しろ!!!!」
「(はぁ……カルロスさん……)」
呆れる青年であった。
♢♦︎♢
カルネスが一瞬の隙をついて斬り下ろす。
ラヴォスは咄嗟に受け止め、逆に突きを放つが、カルネスは崩れない。
交差の末に身を翻して距離をとる。
「……これで、とどめだ!」
カルネスの声に力がこもり、全てを賭けた一撃を放った。
「フッ……そうはさせるか!」
ラヴォスの一撃がカルネスを貫く。
「うぐぉ……!」
カルネスの体が崩れ落ちる。
激戦の末、カルネスは致命傷を負ってしまったが、ラヴォスにもある程度ダメージを与えた。
「この私をここまで傷をつけるとは……だが、所詮この私の相手ではないな……奪い返された水晶の欠片を再び奪い、それを組み立て、過去に戻り、カルロスを倒しに行く」
そう告げると、ラヴォスは一瞬のうちに姿を消した。
その後、城の防備を掻い潜り、金目の品や保管されていた水晶の欠片、天使の翼を奪い去っていった。
カルネスの吐息は弱まり、カルロスは震える声で言う。
「何度も言うが……俺の父はもう……いない……行ってしまったか……うっ……」
広間に残されたのは血の痕、そして虚ろな沈黙だけだった。




