第55話「因縁の決着1」
テイクタウンで、息子も探している天使の翼の情報を入手したラヴォスは、兵士たちに指示を飛ばした。
業務連絡として、出先で天使の翼やその羽を見つけたら必ず回収するように命じる。
一方その頃、息子はラヴォス軍のボスたちを次々と倒し、父を蘇らせるために必要な翼や欠片を集めていた。
しかしギブタウンの城にテイクタウンのボスが侵入し、集めた品をすべて奪われてしまう。
暗闇の中での犯行だったが、チェロスだけは犯人の正体と逃走先を突き止めていた。
チェロスはカルネスに真実を告げる。
自分ははかつてテイクタウンでラヴォスの部下として戦っていた元兵士だった。
だが戦いで故郷と家族を失い、心を壊してギブタウンにたどり着いた。
自責の念と絶望に押しつぶされながらも、カルネスのもとで兵士として再起を目指していた。
ラヴォスが動いている以上、城への襲撃は時間の問題だと判断し、兵たちに厳戒態勢を敷かせた。
カルネスの脳裏には、縄で縛られていたカルロスと、すれ違いざまに見たラヴォスの姿が蘇る。
あの時の男が再び現れるのではないか……そんな不安が胸をよぎった。
その頃、テイクタウンではラヴォスが激昂していた。
部下のボスたちが相次いで敗北したとの報告が入ったのだ。
翼と欠片を奪う任務も失敗し、青年に奪い返されたという。
ラヴォスは単独でギブタウンへ向かう。
部下の制止を無視し、立ち去る彼の背中を誰も止められなかった。
その頃、息子はワープポールを使ってギブタウンに帰還していた。
命懸けの任務を終え、息を切らしながら受付のミオに報告する。
彼の手には三枚の天使の羽と五つの水晶の欠片が握られていた。
ミオは笑顔で迎え、カルネスへの報告を促したが、受付にはチェロスしかいなかった。
その頃、カルネスはトイレへと向かっていた。
用を足し、ほっと息を吐いた瞬間、扉を開けた目の前に見覚えのある影が立っていた。
ラヴォスだった。
冷たい笑みを浮かべ、ゆっくりと歩み寄る。
カルネスは青ざめ、叫びを上げる。
その様子を遠くから見ていた兵士が、顔を引きつらせながら駆け出した。
ギブタウンに、ついに戦いの予兆が迫っていた。
♢♦︎♢
「遅かったか……」
「チェロスがちんたらしてたからだ」
「とにかく、まだ遠くには行ってないはずだ。手分けして探そう」
「単独行動は危険だ。もしカルネスを攫った奴に出くわしたら危険すぎる」
「でもどうするか考える暇はない……」
その時、カルネスナビがけたたましく鳴り響く。
画面には、見知らぬ発信者の名。
「カルネスは、あなたのお父さんが亡くなった場所にいるわ」
濁った声が、機械越しに響いた。
「なんだ今の汚い声は。カルネスは父さんが亡くなった場所にいるとかほざいてたが……」
息子は顔をしかめ、舌打ちをした。
「金がかかってるんだ。信憑性は薄いが、一か八かその場所に行ってみるか? おい、なんかよくわからん奴から電話がかかってきて、カルネスは俺の父さんの死に場所にいるって言ってたんだけど」
「もしかしたら今のニーナさんかも」
「ニーナ? ああ、あの厚化粧の魔女か。まだそんな亡霊の話してんのかよ」
「あの人は魔法使いだから、死後の世界からこっちの世界に電話してきてもおかしくはないと思うが」
「もう勝手にしろ、行くんなら行け。俺も報酬のために渋々ついてくから。ミッション終わってやっと休めると思ったのにな。まだ俺の地獄は続くらしい。マジでクソだわ。チェロスの頼みなんか断っときゃよかった。あの時協力してやるなんて言わなきゃ、今ごろ金もらって酒飲んで寝てたのによ。カルネスが消えただ? 知らねぇよ。むしろもう殺されてりゃ、面倒が一つ減って清々しいんだが」
「息子さん、なにぼーっとしてる」
「バカなアンタには一生分からないだろうな。それに息子さんとか呼ぶな、虫唾が走る。お前らにわかるか? 俺の人生がどれだけぶっ壊されたか。無駄な任務に駆り出され、寝る間もなくこき使われて、頭がおかしくなりそうだったんだぞ。これが終わったら報酬だけもらって帰る。カルネスが死んでようが関係ねぇ。なんならあいつの死体踏んでやるわ」
「不謹慎な事言うな!」
「お前に説教される筋合いはねぇよ。赤の他人の命なんざ、俺の金にもならねぇし、興味もねぇ。つーかギブタウン城の構造も知らねぇのに、俺が先動けるわけねぇだろ。てめぇが先導しろよ。なにがぼーっとしてるだ、聞こえが悪い。頭使え、無能」
その冷酷な物言いに、周囲の空気が凍りつく。
事態は一触即発。
ギブタウン城は今また、新たな緊張に包まれていた。
♢♦︎♢
死後の世界では──
「最初にその魔法を使えば、私の居場所を探すことができたのでは……」
「「たしかに……」」
「なら、三日も無駄に探す必要はなかったじゃねぇか!」
カルロスが怒鳴る。
「あの時、覗き見の魔法を使っていれば、即座に場所を突き止めて、即座に欠片を集め、即座に元の世界に戻れた! そしたら、僕ちゃんが死ぬことも、翼を探す苦労もなかったのによ!」
「ごめん。あの時は、その魔法を使うって発想がなかったの。それに、息子くんは今にも死にそうだったのに、どうしてミッションに行かせたの? 正直、途中で力尽きてたと思うわ」
「だとしても、翼集めの手間が……」
「もう、らちがあきません!」
息子は声を張った。
「私から言い出しといてなんですが、今更過去をうだうだ言っても仕方ないでしょう!」
「し、しかし……カルネスの居場所は魔法で分かるけど、どうやって居場所を地上にいる息子さんとかに伝えましょう……それよりも、翼を使って私を生き返らせてくれれば協力するのに……」
報酬目当てで蘇生を後回しにしたのもあるが、緊急事態になったり、蘇生方法などの話をまだ息子は受けていないため、まだ天使の翼を使っていなかった。
「地上の奴に伝える魔法なんてあったか?」
「うーん……」
カルロスとニーナは使える魔法をシェアして、考えた。
「……あったわ! 声を伝える魔法!」
ニーナの表情が明るくなる。
「私の魔法を使えば、カルネスナビを通じて息子に連絡できる!」
そしてニーナは声を伝える魔法を使う。
「私の魔法で、カルネスナビを通じて息子くんに電話をかけることができた! その結果、カルネスくんの居場所を教えられたから、そこへ向かってくれてる!」
「早く元の世界へ戻ることができるなら姑息な手段を使おうと構わん。つーか、カルネスが誘拐されてしまったため、僕ちゃんを蘇生させることを後回しにされたんだっけ? 僕ちゃんも舐められたもんだな。優先順位を判断できないなんててめぇはお前の子供にどうしつけたのか」
♢♦︎♢
チェロスに先導され、渋々息子も列に加わった。城内の石畳に、急ぎ足の足音がこだまする。
「早く来い!」
チェロスの声に促されて、息子は不機嫌そうに周囲を見渡した。
「まあ、そんなに焦るなよ」
「カルネスは? ん? いたぞ!」
「あーあ、いちゃったか」
「さっきからなに?」
「うっせぇな。とにかくボス一体なら兵士たちで倒せんじゃね? 俺の体力は完全燃焼したから兵士どもに戦わせようぜ」
「それじゃあお前はなんのための協力か分からんし、あいつを甘く見ちゃいかん……」
「あいつ? 知り合いなのか?」
「まあ、かくかくしかじかで……」
「ああ、あいつが組織のボスのラヴォスなのか。ならさっきも言った通り裏切ったチェロスが殺されるべきだな」
「ころ……でもおかしい。カルネスは囮かと思ったが一向に解放する気配がない。それどころか……」
二人の間に漂うのは、長年の因縁と憎悪の炎。
遠くでそれを見ていたチェロスは、息を呑んだ。
「ここまできて、どういう風の吹き回しだ? お前は父さんを倒すことに失敗して、恥でもかいて、大人しくしているとでも思っていたが」
「フッ……私は決して貴様らの討伐と城の乗っ取りを諦めたわけではない。今まで大人しくしていたのは、ここまで来るための準備をしていたのだ」
「一度や二度ならず、また城を襲ってくるとはな……だが、何度やっても同じことだ。痛い目にあう前に、素直に復讐を諦めたらどうだ?」
「痛い目にあう? クックッ……笑わせるな。なんなら、今ここで貴様と決着をつけて、殺してやってもいいぞ」
「いいだろう。殺せるものなら殺してみろ。決着をつけてやる」
「討伐? 城の乗っ取り? 復讐? どういうことだ。なんでカルネスが? なにか因縁があるとでもいうのか?」
疑問が頭をよぎった瞬間、ラヴォスがこちらを振り向いた。
その眼光がチェロスを射抜くと、一瞬にして空気が凍りついた。
周囲の音が急に遠のいたように感じられた。




