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第54話「猫かぶりの限界」

「よう、久しぶりだな」


「アンタは誰だっけ?」


「忘れたとは言わせないぞ。極悪人であるカルロスをとっ捕まえた。なのにてめぇは俺の怒りも知らずに奴を逃しやがってよ!」


「すまないが、大昔の記憶だから思い出すまでちょっと待っててくれ」


「いい加減にしろ!」


「冗談だ。思い出した」


「こっちは真剣だというのに、ふざけるな! トイレの前で立ち話もしゃくだ! こっちへ来い!」


遠くでそれを見ていた兵士が、凍りついた顔で叫び声を上げ、慌てて城へと走り去った。

事態の急変を知らせる足音が、廊下に響く。


 ♢♦︎♢


一方、死の世界では──


「やったわ!」


「まさか……」


「ええ、そのまさかよ! 息子くんが翼を取り戻したのよ!」


「よかったですね、カルロスさん」


「本当に帰れんのか? なんだか悪い予感がするんだが」


「なに言ってんのよ。もうじき、君が翼で私たちを生き返らせてくれて、欠片で水晶を作り、元の世界に帰れるっていうのに。てか、アンタが一番帰りたがっていたじゃない」


「……さっきの夢が正夢になったんだ」


「夢?」


「ニーナがモンスターに殺される夢だ。その後に嫌な夢を見たんだ。ニーナの件が現実になったなら、あれも現実になるかもしれない」


「二回目にみたのはどんな夢だったのですか?」


「僕ちゃんが縄で縛られていた」


「それって、偽物の私たちが現れた時の事じゃなくて?」


「あれとはシチュエーションが違った。と、とにかく息子が翼を使うまで城の様子を見続けてくれ! そして異変があったら言え! 今はかわった様子はないか!?」


「んー、別に変わった様子はないけれど、しいて言えばカルネスくんが城にいないくらいね」


「違う場所は見れないのか? カルネスがいる所を見てみて」


「今更だけどこうやって魔法で城の様子を視るのって、盗撮みたいでよくない気がしてきたわ。向こうはこっちが視てるのなんて知らないんだし……」


「口答えすんな! とにかくカルネスがいる所を視てみろ。それともこのスーパーエリートに歯向かうってのか?」


「はぁ、分かったわよ。視ればいいんでしょ視れば」


ニーナが魔法で視た映像にカルネスがトイレで用を足している姿が映し出されていた。


「カルネスはトイレ中じゃない! だから言わんこっちゃない!」


「お気の毒に……」


すると、カルネスが悲鳴を上げる。


「悲鳴? なんなの?」


映し出された先には、ラヴォスの姿があった。


 ♢♦︎♢


ギブタウン城では──


「ただいまです! 奪われた欠片や翼を見事に取り返して、新たな欠片とかも収集してまいりました! あれ? カルネスさんは?」


「おお、あいつから奪え返したのか。すげぇな」


「あいつ? あのボスのことを知ってるんですか?」


「あっ……全てを話すぜ」


「なるほど……要約するとこうですね。チェロスさんは元々、先程のボスの手下だったが、脱退した。その頃は精神が崩壊していた。途方に暮れて行き着いた先はギブタウンで、そこの兵士となったが、チェロスさんのことを皆が敵に思えて白眼視された。そのため先日、カルネスさんにあんな事を言われ、そして自責の念に駆られ、自ら命を絶とうと……」


「そういうこった。迷惑をかけたな」


「そうとなると、ボスの組織の仲間が、裏切ったチェロスさんに復讐しようと襲ってくるとか考えたが、さすがに考えすぎか。もしかしたらチェロスさんを一人にするのはまずいかもしれないですね」


「そうだな、だから城の周りに兵士を固めているところだ」


「た、大変だ! カルネスさんが攫われた!」


ラヴォスの様子を見ていた兵士が慌ててやってくる。


「フラグ回収が早いですね。いうてもなんでカルネスさんなんですかね? きっとお目当てのチェロスさんがいなかったから、代わりにカルネスさんを連れ去ったってところでしょうか」


「とにかく、なんだかやばそうな奴なんだ。早く来てください!」


話を聞いたチェロスの顔が固まる。

自分がカルネスたちに全てを話したことが誘因になったのではないか。

それと同時に今度こそラヴォスに殺されると思った。


「おい聞いてんのかよチェロス!」


「カルネスがいなくなるとこの城は成り立たん。それに……カルネスと仲直りしたんじゃねぇのかよ! お前も協力しろ! カルネスを助けたら、立派な兵士として認める!」


「カルネスと仲直りしたって聞いたが、なにも変わっちゃいねぇ!」


「助けに行かないのですか? 挽回するチャンスですよ」


城の者たちの詰問に、チェロスは押し切られるように答えた。


「……分かった。助けに行こう。息子さんも協力してくれるよな?」


「え、やだ」


息子は即答した。


「だって、当初の目的は果たしたし。翼が手に入ったから今から父さんを生き返らせるから遠慮しておきますわ。それに、翼が手に入った現在、用無しのカルネスなんか知らねぇよ。所詮アンタらとは上辺だけの関係でしたから」


まるで別人だった。

ミッションを終えた瞬間、息子の仮面が剥がれる。

各地で起こるトラブルの連続に、彼の我慢はとうに限界を迎えていた。


「息子さん……キャラ変わってるぞ」


「僕はこんな奴っすよ? 城では報酬目当てで猫を被ってただけです」


「そうなのか……見損なった……なら俺の自殺を食い止めたのも、口先だけだったのか……」


「いかにも。アンタに死なれたら、翼を一つ多く取ってくることになりかねん。報酬も少なくなるかもだし。だからだよ」


「なんだかカルロスさんみたいな考え方だな」


「カルロスみたい……か……それは心外だ。さすがに父さんを奴隷にしたカルロスと同類は気に食わんな。分かりました、手伝います。但し、分かってますよね?」


息子は口元がニヤリとする。


「なんだ?」


「報酬ですよ、報酬。もしも、カルネスさんを助けることができたら、報酬をたんまりください。万が一、助けることができなかった場合でも、助ける意志はあったんです。気持ちとしてちょびっとください」


「……分かった」


「そうこなくっちゃ。ぐずぐずしてると、攫った奴が遠くへ逃げちまう。父さんの蘇生は二の次です。とにかく急ぎますよ、皆さん!」


そう言って、彼は誰よりも軽い足取りで駆け出した。

城の人間が襲われたというのに、頭の中は報酬のことばかり。

そのニヤニヤとした笑みは、どこか不気味だった。


「なんかやだわこの人……こんなピンチの時に……」


 ♢♦︎♢


カルロスは腕を組み、まるで他人事のように呟いた。


「なに冷静になってるのよ。息子さんが攫われたのよ?」


「息子? 僕ちゃんはその息子に殺されたようなもんなんだぞ? カルネスに水晶を割られ、欠片集めのためにミッションに行くことになり、そのミッションの道中で死んだのだから」


「だからってカルネス君を見殺しにすんの?」


「いいんだよ。攫った奴に殺されでもして、死後の世界で反省するがよい。そもそも俺は死んでんだ。手助けなどできねぇよ」


「……カルロスさんは親として失格です」


「親? だからあいつ息子と認めん!」


「はぁ、ダメだこいつ……」


青年はついに、カルロスの傲慢さに耐えきれずに呆れてしまう。


「あんだと!? おい! 今なんと言った!」


「ダメだと言いました。あなたのその横暴な態度にはうんざりです。私は今までどれだけあなたの傲慢さに振り回されたことか。自分の仕事が溜まってるから私の顔を不細工にして顔を元に戻してほしければ代わりに仕事をやれ? 未来の世界で死んだのは私のせい? 笑わせないでください。全ての元凶はあなたじゃないですか」


カルロスの顔が一瞬で引きつる。

青年は続けた。


「これを機にはっきり申し上げますが、あなたは本当に厚顔無恥で救いようがない人間です。人から信頼されたいなら、十全十美であれとは言いませんが、もう少しまともな人間になったらどうです? せめて親としてもう少し子にやさしくしてあげたらどうでしょうか?」


「うっせー! 黙れ! 途中難しいこと言っててよく分らんが、僕ちゃんをバカにしてるのはたしかだ! スーパーエリートに歯向かうとは! 心外だな!」


「よくこの状況で喧嘩ができるわね! 特にカルロス!」


「なんで僕ちゃんだけなんだよ!」


「アンタが元々どうしようもないから普段言わない子にここまで言うんでしょ!」


「はぁ……しゃーねぇな。ニーナ、カルネスを覗き見の魔法で視て、なにかあったら……なんとかしろ!」


「は? なによそれ?」


「はっ! そういえば……!」


なにか言いたそうな息子。


「今回はカルネス君を助けるために視るけど、今後アンタのためには使わないんだから!」


「えー、勘弁してくれよ」


「お、お取込み中失礼しますが……」


「「なに?」」


「最初にその魔法を使えば、私の居場所を探すことができたのでは……」


「「たしかに……」


その瞬間、三人の間に、言葉では言い表せない虚しさが流れた。

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