第51話「変人いや星人2」
しばらくして町にたどり着く。
町で船着き場を探している途中、女性が歩いていた。
するとアーサーさんは、その女性……いや女性の胸をじっと見つめていた。
「あのおっぱいの形は………」
「(ん? なんか喋ってる?)」
「…………ロケット」
「ロケット? ロケットなんてこの町にはないですよ?」
「……おっぱい……」
彼がなにを言いたかったのかは分からないが、多分、知らなくていいことなんだろう。
その後、船着き場にたどり着き、船長に交渉する。
「船を一隻? うーむ……どうしたものか……急に来た奴に……」
「おっぱい」
「は? おっぱい? なに言ってんだお前?」
「ちょっと、アーサーさん! 今は控えてください!」
「おっぱいってなにか、この町の酒場にいるあの若いねーちゃんのことか?」
「………」
「(酒場なんて行ってないから答えようがない……アーサーさんどうする?)」
「さっき……さっきいた。ロケット」
「まじか! ロケットおっぱいはこの町に一人しかおらん。きっと酒場の子だ! あのねーちゃんいいよな〜! スタイルいいし、きれーな乳してるしおまけにボイン。おめぇ、大きいのと小さいの、どっちがいい?」
「大きい……」
「だよなあ、わっはっはっ!」
しばらくこの話は続いた。
「はっはっはっ! おめぇ、俺と気が合うなぁ! 気に入った! 今回だけ特別に少しの間、船貸してやるよ」
「ええ!?」
なんと、おっぱいの話だけで、船を貸してくれたのだ。
こんなこと普通はあるだろうか。
おっぱいの話に入っていけない私は逆に浮いている気もする。
さっきの村長といい、今の船長といい、なぜか話がスムーズに進む。
私が疑問に思う方がおかしいのだろうか。
おっぱいってなんだっけ?
それすら分からなくなっていた。
ともかく、船を借りることができた私はアーサーさんと共に自分の仲間を探しに行く。
我々はこの後、船に乗り、仲間たちの居どころを調べるため、いろんな島へ訪れた。
しかし、どの島も遭難者は来ていないという。
「どうしよう、完全に手詰まりだ」
「おっぱい」
「アーサーさんってこんな時でもおっぱいしか言えないんですか?」
「そうっぱい」
「そうっぱいってアンタ、ふざけてるようにしか思えませんよ!」
「すまん……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
こんな会話をしつつ、船を移動させていると、近くから怪しい人たちが乗っている船が来た。
風に揺れる帆がただ事ではない気配を伝えていた。
「それにしても、こんなボロい船で移動って……ラヴォス様も無茶言うなぁ」
「本当だよな、これから向かう所は結構遠くにあるのに」
「今あるのはこのどでけぇ大砲だけか」
「おい、あのデカい船なんだ?」
「あんまり人が乗ってないような感じがするな。よし! この大砲をぶっ放して、あの船を奪おうぜ」
「そいつはいい考えだ」
そう言うや否や、奴らは我々の船を砲撃し、すごい人数が乗り込んできた。
「なんだ!? こいつらは!」
「やい、この船を俺たちに渡せ! さもなくば、殺すぞ!!」
♢♦︎♢
数時間前、ラヴォスはクルーたちに指示をしていた。
「以前、ボルテックスマシンの時に青髪に敗れたことを覚えてるな。だがそいつは俺がこの手で始末したからもういいだろう。本当なら罰を受けてもらうところだったが、今回はお前らにチャンスをやろう」
「チャンスというのは?」
「宝だ。ピーブータウンの近くの島に宝が眠っている。侵略には金がつきものだ。いくらあってもいいだろう。そいつを取ってきてくれ!」
「「はっ!」」
「だがお前らの評価は下がった。しょうもない奴にはしょうもない船がお似合いだ。ボロい船を使え」
「「へ、へい……」」
♢♦︎♢
「こんなボロ船よりアンタらの立派な船を寄越せってんだ」
「くっ! どうしましょう、アーサーさん……今度こそダメかもしれません! ってどうせおっぱいしか言いませんよね!」
「おっぱい」
「やはりか! どうすれば!」
「大人しく渡せば命までは取らねぇ。だが拒むなら、海の藻屑になってもらう!」
敵は容赦なく襲いかかってきた。
刃が擦れ、甲板に鉄の火花がちらつく。
私は斬りつけ合いの渦中で小さな切り傷を負い、腕に痛みを感じる。
アーサーは相変わらず無表情で、ただ突っ立っているだけだった。
「これで終わりだ!」
刃先がこちらに向けられ、冷たい金属の先端が首筋をかすめる。
その瞬間、遠方から低く唸るような衝撃音が響いた。
次の瞬間、大砲の弾が敵の一団を吹き飛ばす。
喧騒の中で誰かが甲板へ飛び移る足音がする。
影が近づき、何者かが次々と我々の船に乗り込んできた。
「よう、ハック! やっと見つけたぜ!」
声が聞こえた瞬間、胸の奥が跳ねる。
目の前に立っていたのは私が必死で探していた仲間たちだった。
「ピッケ、マニー、ギブト!」
「あの嵐の後、みんな離ればなれになったと思ったけど……」
「俺たち三人は、偶然、同じ島で遭難していたから、合流できたんだ」
「そんで、お前を探して船で移動してたら、向こうで、なんややらいかにも悪そうな奴らが暴れていたから、大砲を一発おみまいしてやったのさ」
「危うく、こっちも死にかけたよ……」
「そいつは待たせて悪かったな。だが、俺らが来たからにはもう大丈夫だ。あとは任せな」
仲間が加わった瞬間、戦場の空気が一変する。
甲板上で戦いの火花が散った。
ギブトが大剣を構え、一直線に突進する。
「どけぇええッ!!」
大剣が風を裂き、敵の盾を真っ二つに叩き割る。
「マニー、右だ!」
「了解!」
マニーが跳ねるように飛び出し、双剣を交差させて敵の懐へ。
背後を取って首筋を斬り裂くと、血しぶきが弧を描いた。
ピッケは大盾を構え、味方を庇うように前に出る。
槍の突きが何度も叩きつけられるが、彼の鉄壁の盾は微動だにしない。
「ハック、下がってろ! こっからはオイラたちの舞台だ!」
「お、おう……!」
ギブトの剣が敵陣を切り裂き、マニーの刃が死角を突き、ピッケが盾で押し返す。
上空から弓兵が狙うが、ギブトが跳躍して矢を叩き落とし、空中で一閃すると、弓兵ごと吹き飛ばした。
「くそっ、止めろ、誰か止めろ!」
焦った敵が火薬樽に火を放つ。
だがピッケが即座に盾を投げ、燃え上がる樽を海へ弾き飛ばす。
「危なっ! あんたら反則級だよ!」
敵の数はすでに半分以下。
血煙と潮風が入り混じる中、三人は息を合わせ、最後の一団に向け突撃した。
「こ、こいつら超つえーぞ!」
「当たり前だ、ハック以外は皆、城で護衛をしていた最強のエリートなんだからな」
「くっ! あいつらは後回しだ。俺は先にこの無口な騎士を潰す!」
残った敵はピッケたちの隙を伺い、ボーッと突っ立っていたアーサーを捕まえ、首元に刃物を突き出した。
「アーサーさん! 大丈夫ですか!?」
「おい、なにか言い残すことはないか?」
「おっぱい」
「へ?」
一言……それは場を凍らせるには十分すぎる言葉だった。
「隙あり!」
ピッケたちは敵を切りつける。
「グハッ!」
「なんだこいつらの強さは! それになんだあの変人は! ともかく一旦、退却だ! クルーさん! 行きますよ!」
「クッ! 悔しいがそうするでヤンスか!」
「待て! くそ、逃げやがったか……」
怪しい敵たちは逃げていった。
敵は撤退したが、その直後、船体に異変が走る。戦闘でバラスト水が放出され、船のバランスが大きく崩れたのだ。
甲板が傾き、鎖の軋む音が高く鳴る。
「まずい!! このままだと……」
「やっぱい」
「やっぱいってなに!? ヤバいってこと!? こんな時に、ふざけたことを喋んないで!」
「ハック、掴まれ! あとそこの、わけわからん青いやつ、お前もだ!」
念のため浮き輪をつけ、ピッケたちが乗っていた船に乗ることができた。
「あ、危ないところだった」
「ふぅ、なんかよう知らん青い奴もいるが、ハックも見つかったし、これで宝探しの続きができるな」
「ああ、ただちょっと待ってくれ。寄りたい所があるんだ」
アーサーとハック、そして三人の仲間はある場所へと向かった。




