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第40話「死後の世界」

「おお、病気が治ったみたいだぞ」


「わーい!! やったー!!」


「ん……? …………言いにくいのだが……」


「どうしました? まさか……」


「チビが死んだ……」


「ええ!? そんな……薬で助かったんじゃないんですか? ったく! ならなんの意味があって私を!」


「いや、チビは病気で死んだんじゃない……寿命で死んだんだ」


「………なんだ〜じゃあ、最初からそのまま放っておいてよかったじゃん」


「そんな……チビ……」


村長の娘はしゃがみこみ、泣いてしまう。

少女のすすり泣きが木造の壁に反響する。

風が吹き、どこからか鈴の音が微かに響いた。

まるでそれが別れの合図であるかのように。


「(そのまま放っておいてよかった? てめぇ命をなんだと思ってるんだ……娘が泣いてしまったではないか……)」


それを背に息子はあくまで淡々と報酬の話を切り出した。


「ともかく、やることはやったんだ。報酬をくれ」


オスカーは拳を握りしめた。

胸の奥からこみ上げる怒りを、なんとか押し殺す。


「……ああ、そうだな。報酬は渡そう……だがな」


言葉が喉まで出かかったが、彼はそこで口を閉ざした。

どれだけ説教しても、この青年には届かない。

怒鳴れば娘がさらに怯えるだけだ。

彼は深く息を吐き、ただ袋を差し出した。

息子は天使の翼の羽を手に入れた。


「は? なにこれ?」


「天使の翼の一部……とでも言ったところか。それを三枚集めると一つの翼になるらしい。お前さん父親を生き返らせるんだろ? 少しでも役立つと思うからやるよ」


「それだったら、いっそ翼をくださいよ! まぁ、いいか。犬が助からなかったのはアレだけど、父さんたちを生き返らせることばかり考えていたから、いろいろムキになってたけどたまにはこんな手助けもいいかもな。でも、手助けより報酬だな」


「最後の一言はなんか納得いかんけど、まぁ、なんだ……ありがとな」


カルネスナビが鳴る。


「よう、俺だ。調子はどうすか?」


「はい、カルネスさん。順調です。欠片と翼の劣化版みたいのを手に入れることができました」


「おお、やりやしたね。これであと城に戻ってくるだけか」


こうして息子はウィンタータウンを後にした。


その日から村長の家は静まり返ってしまった。

なんせ、家族同然の犬が亡くなってしまったのだから。

娘はペットロスでしばらく元気がなかったが、数日後、新しい家族がやって来て、元気を取り戻すことになる。


 ♢♦︎♢


一方城では──


「カルネスさん……話があります」


カルネスは書類に目を通していたが、手を止める。


「お、なんだミオ? 珍しいな」


「チェロスが死のうとしてたのよ。自分のせいだって深刻になったらどうですか?」


「俺はチェロスといえども一人の人間を自殺に追い詰めてしまったのか……せっかく息子さんが天使の翼を集めているというのに俺は反するようなことをしている。だがこないだ、チェロスにあんなことをされたのは事実だ……だからせめてトイレくらいは使わせてやるか」


カルネスは少しだけ自嘲気味に笑う。


「もういいでしょう。チェロスさんも反省してるみたいだし歩み寄ったらどうですか?」


「まぁ……そうだな、あとでチェロスに謝ろう」


その時、ちょうど扉が開き、チェロスが姿を見せた。

彼の目はどこか疲れているが、そこには以前のような敵意はなかった。


「俺も……すまんかったな。それに俺が原因なのにその後もグチグチ言ってしまったこともある」


「ああ、こちらこそすまんな。他の兵士にももう軽蔑しないように言っておくよ」


一瞬の沈黙の後、二人は自然に笑い合う。

重かった空気がようやく解けた。

そしてカルネスナビの連絡先を交換する。


 ♢♦︎♢


「ここはどこだ……?」


白く霞んだ空間の中で、カルロスが目を覚ました。

足元は柔らかな雲、見渡す限り灰色の空。

音も風もなく、静寂だけが果てしなく続いていた。


「もしかして僕ちゃんは死んだのか? そしてここは死後の世界!? 死後の世界はこんなにも寂しく、孤独なものなのか!」


死の象徴ともいえるその地は、永遠に形を変えぬ雲の海。

生者の気配はなく、ただ孤独だけが支配していた。


「クソ! クソ! クソ! 僕ちゃんは死んでしまったのか! なんで未来の世界まで来て死なないといけないんだよ! 本当にいいことないな!」


その叫びは空虚に反響し、すぐに掻き消えた。

彼がうなだれたその時、知っている人物が現れた。


「ん? お、お前は!」


「カ、カルロスさん!? こんにちは」


そこへ青年も冥界にいて、カルロスと合流する。


「呑気に挨拶してる場合かよ! お前がいるってことはやっぱここは死後の世界か」



「どうやらそのようですね……というか、カルロスさんも亡くなったのですか?」


「ったりめーだ!」


カルロスは頭をかきむしりながら怒鳴る。


「ここにいるってことはそういうことだろうが! てめぇの死体を見つけたあと、生き返らせてやろうと思って天使の翼を集める旅に出たんだ。だが、その翼が手に入るっていう洞窟でモンスターに殺された! カルネス、そして情報を教えたチェロス! 全員許さん! だが、元はといえばお前が死んだのが悪い! てめぇが死にやがったから、親切にも生き返らせてやろうとして過酷な洞窟に行ったんだぞ! 全ての発端はお前だ!」


カルロスは顔を真っ赤にしながら、怒鳴り散らす。

怒りというより、悔しさに近い叫びだった。


「そ、そんな……無茶苦茶ですよ……カルロスさんたちが水晶に入らなければこんなことには……だいたい、あんな所に時の水晶なんか置くのが悪いんですよ……」


「うるさい! 知らんだろ普通そんなもん!」


カルロスは指を突きつける。


「てーか、てめぇなんで死んでたんだ? 家に帰ったはずじゃねぇのか? 息子がなんか言ってた気がするが、ちゃんと説明しろ!」


「はい、忘れ物をして城に戻ったのですが、水晶の様子がおかしくて、カルロスさんたちが水晶の中に吸い込まれたとにらんで私も水晶に入って追いかけたんですよ」


「チッ……余計なことを。ようやくてめぇがいる理由が分かった」


「別の世界にたどり着いたのですが、どこを探してもカルロスさんたちがいなかったんです。その間私はいろいろな所に旅をしていました。それでカルロスさんたちを無我夢中に探したのですがやはりどこを探してもいない。途中意識が朦朧として気がついたらここにいました。どうやら私は疲れて死んでしまったみたいですあれ? そういや、こういう死に方だっけ? 重大なことを忘れている気が……思い出せない)」。


思い出せないのも無理はない。

そう、記憶はラヴォスにより消されているのである。


「でもこういった形ですが、カルロスさんと再会できてよかったです」


「いや、全然よくねーよ。そうか、入れ違いになっていたのか。しかしやはりというか、僕ちゃんの推理通りあの水晶が原因で未来の世界に飛ばされたのか」


「そうです」


「不思議と思ったんだ。なぜカルネスが大人になった時代にてめぇが存在してんのか。あとな、カルネスの言うことが正しいならば、なぜかお前だけ違う日に飛ばされたらしいぞ。ニーナと僕ちゃんは同じタイミングで水晶に入ったからか、未来に行ったら同じ日、同じ時間に到着したけど、お前は少し遅れて水晶に入ったから時空かなんかの問題で別の日、時間に飛ばされたんじゃねぇかってこった」


「そういうことだったんですね。だからどこを探してもいなかったのですね」


「しかし言い逃れはできん。お前を助けようとして僕ちゃんが死んでしまった。一体どう責任を取ってくれるんだ! そしてこれからどうしたらいいんだ! それに……ニーナ、ニーナはどこだ!?」


「それは本当に申し訳ございません。帰れる方法を考えてみます。しかしニーナさんに関しては私は一切知りません。話を伺うかぎりだとカルロスさんとニーナさんは一緒にいたんじゃないんですか?」


「ならまだニーナは生きているのか? そしたらここにニーナがいないことも辻褄が合うし……ニ、ニーナはきっと無事だ。翼を集めて僕ちゃんを生き返らせてくれるに違いない」


「さっきから気になっていたんですが翼とは?」


「ああ、天使の翼といい、死んだ人間を生き返らせることができるアイテムだ。お前を生き返らせるべく、そいつの情報をカルネスとかに吹き込まれてこのザマだ」


「なるほどですね。でもそんなうまくいきますかねぇ……もしかしたらニーナさんが助けてくれるかもしれませんが、どうやってここを抜け出るか考えたほうがよさそうですね」


「フン、現実味のない奴め。死んじまった以上、ニーナが翼を集めてくれるのを待つ以外、どうやっても抜け出せねぇよ」


「……」


 ♢♦︎♢


『ったく……カルロスはなにをしているのやら。最初のミッションであっけなく死んでしまうのだから』


そう言いながら、ステージを攻略するニーナ。

ステージは徐々に難しくなっていた。

しばらくして、体力が衰えてきたニーナはとうとうモンスターにやられて死んでしまった。


『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


 ♢♦︎♢


『うわああ! ニーナ! なんだ夢か。ん? ここはどこだ? それにこの縄は? デジャヴを感じるような。 ん? なにかが近づいてくる……うわぁぁ! 来るな!!』


カルロスは洞窟で縛られていた。

そこへある人物が近づいて来ると目が覚める。


「……ロスさん……カルロスさん!」


「ん……」


「うなされてましたが大丈夫ですか?」


カルロスは雲上で倒れ込み、うなされていた。


「……ああ、ちょっと悪い夢を見てな。何度か夢を見ていたが、ここにいるってことは残念ながら僕ちゃんが死んだことについては夢ではなかったか……ん? ニ、ニーナ!」


雲上にはニーナがいた。


「カルロス?」


「お前も死んでしまったか……」


「カルロスがいるってことはここは死の世界ね。そうだ、私、モンスターにやられて死んだんだ」


「さっきニーナがモンスターに殺される夢を見たんだ。たしかあればレプティリアンだな」


しかも話せば、モンスターの特徴なども一致していた。


「嘘!? 当たってる!?」


「偶然なのか、はたまたなにかあるのか……」


「ま、これからどうするか考えましょ」


「そうしましょう」


「お前らよくそんなに冷静でいられるな……」


カルロスは落ち着かない様子である。


 ♢♦︎♢


「おかえりなさい!」


「ちょっと鬼畜になってきたかもしれません」


「ですよね、だんだん鬼畜になってくるって噂を本で読んだことがあります。でもですね、もう折り返し地点ですよ! 一筋縄では行かないと思いますが、頑張ってください!」


「はい!」


カルネスと数分話した後、息子はボルタウンへ向かった。

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