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第39話「金の力3」

「おかえり! 結構早かったわね」


「ただいまです」


「どう? ミッションは慣れてきた?」


「はい、ミオさんたちのサポートのおかげで! とりあえず皆に挨拶してきますね」


「まぁ礼儀正しいのね。一緒に行きましょ」


息子とミオはカルネスと落ち合った。


「おかえりなさい」


「ただいまです。だいぶ、ミッションに慣れてきました!」


「おお、早いですね」


「あっ! チェロスさんはどこにいらっしゃいますか?」


「さっきまで話してたが、城から出て行きましたよ。おそらく仕事に戻ったはず。門とかその辺にいるはずです」


「ありがとうございます。では挨拶しに参ります」


「別にあんな奴にわざわざ挨拶しに行かなくていいのに」


「いつも親切にしていただけてるのでそのぐらいは礼儀ですよ……あと、うまく言えないのですがなんだか悪い予感がするんですよね。それではまた後ほどよろしくお願いします」


息子はお辞儀をして、城から出ようとしたその時だった。


「いってえええ!!!」


息子は地面に落ちていた破片を踏んでしまった。

カルネスが割った水晶の破片がそのまま放置されていたのだ。


「だ、大丈夫ですか!?」


「ちょっと痛かったですね」


「手当てしないと」


「そこまでしなくても大丈夫ですよ。本当に悪い予感がするので早く行かないと。でもここに破片を置いておくと危ないので片付けてくれませんか?」


「分かりました」


カルネスは水晶の破片全てを倉庫にしまった。


息子はもちろん、チェロスに挨拶をしたいわけではない。

彼の本音は少しでも好印象を与え、次に貰える報酬を上げたいという打算にあった。

だがその軽い打算の裏で何かが動き出していた。

息子が口にした悪い予感は、単なる気のせいではなかったのだ。


チェロスは門にはいなく、しばらく探すと普段あまり使用されない別館の屋上にいた。


「チェロスさん! なにしてるんですか!」


風が強く吹き抜ける中、柵の外に立つチェロスがゆっくりと振り向いた。


「見つかってしまったか。俺、死のうとしてたんだ」


「なんですか! ダメですよ!」


息子の予感は的中した。

チェロスは屋上から飛び降りようとしていたのだ。


「俺、皆から嫌われてるし……生きてる価値なんてないと思った。アンタは知らないと思うが、昔、俺はとんでもない組織に所属しててな。悪事も散々やった。脱退した後も、カルネスを手にかけそうになった。それらを償うには……もう死ぬしかないと思ったんだ。さらに両親も故郷も失った。家族も未来もない俺が、生きる意味なんてあるのか……」


チェロスの声は風にかき消されそうなほど弱かった。


「自分の命を大切になさってください。私はチェロスがなくなったら悲しいです。それにチェロスさんは親切な方だと思っていますよ。いきなり現れた私を告別式に招待してくれたりしてくれたじゃないですか。業務ももちろんこなし、気遣いもできる。この城はチェロスさんを必要としています。今は皆から冷たい視線を感じたりすることもあるとは思いますが、そんなに簡単に命を捨てないでください。このまま働いていたら、皆、チェロスさんを認めてくれると思いますよ」


「そうか。一人でもそう言ってくれる人がいると死ぬに死ねないな。ありがとよ。頑張ってみるよ」


「(よし、ひとまずこれだけ言っておけばいいか)」


 ♢♦︎♢


「なにィ? チェロスが自殺未遂!? 止めたのは息子さんだと? そいつは傑作だな! まぁチェロスなら死んでも構わんが、死体の処理や葬式の手続きが面倒だしな。その点だけは助かったよ」


カルネスの軽口に、場の空気が一瞬凍りついた。


「そんな言い方しなくてもいいんじゃないですか?」


「そ、そうだな。息子さんが言うなら今はそう言っておこう。でも驚いたな。まさかさっきの俺の発言に傷ついて死のうとしたのか?」


「だからその話はやめましょうよ!」


「そうよ。それに息子くんは最近父親を亡くしているのよ? 少しは弁えたらどうなんですか?」


ミオも話しかけてくる。


「ごめんなさい!」


「大丈夫ですよ、カルネスさん。もう顔をあげてください。でもなんて言ったのかは知りませんが、もうチェロスさんが傷つくことを言うのはやめてくださいね。それでは皆さん。私はそろそろミッションに行ってきます」


「体を壊してもダメだし、もうちょっと休んでもいいのよ?」


「大丈夫ですよ。私に気を使わないでも結構です」


「そっか、頑張ってね」


息子は次の目的地、ウィンタータウンへ移動する。


「はぁ……なんかロクなことないよなぁ……父さんが死んだというのを聞き、翼とかを探しに行ったのはいいけど、火事になってるところをなんとかしろとか言い出して水を持ってきてやったのにあんま報酬なかったり、砂漠んとこに行ったら変なオカマに出会うし、また変なのが出てくるんだろうなぁ……」


すると中年の男性が通りかかる。


「ほう、この村では見ない顔だな。どこから来たのやら。俺は、ここの薬剤師であり、この村の村長だ。なんか体の具合が悪くなったら、気軽に話してこい。それに合った薬を用意してやる」


「そうですか。でも今のところ体調は悪くないので、結構です」


少し歩くと犬を連れた小学生低学年くらいの女の子に出会う。


「なにしてるんですか?」


「この子の面倒みてるの」


「この子とは、その犬ですか?」


「うん。だけど……」


「だけど……どうかしたんですか?」


「この子は病気でもうあんまり長くはないの。ついこの間までは元気に、はしゃいでいたのに……ここ最近、モンスターからの感染症みたいなのが、うつってしまってもうあんまり元気がないの……」


「そうか……お気の毒に……」


「でも、病気を治す方法があって、この島のどこかにこの病気を治す薬のもとがあるみたいなの」


「はぁ……それで?」


「でも、その辺りにモンスターがうようよしていて、だれも取りに行くことができなかったの」


「どこにでも、モンスターはいるんだな…まぁ他人のことはいいや。先を急ぐか」


「あ、そうだ!」


「はい?」


「その薬のもとを、取ってきてもらっていいかしら? あなたなんとなく強そうに見えるし」


「え~やだなぁ、私、あんまり犬好きじゃないんですよ~! 犬って、基本的にくっせぇし、ちゃんとしつけないと、うるさく吠えるわ、物を破壊するわ。おまけに飼い主がバカにされて、犬の方が偉いや賢いアピールするのが腹立つんだよ。しかも今私は水晶の欠片と天使の翼を集めること以外、興味ないんです。まぁ、報酬があれば、話は別なんですけどねぇ~! こんなガキンチョには期待しないですがねぇ〜」


「なんてことを言うの! 犬が死にかかってるのにもかかわらず、よくそんなことが言えるわね! もう、行こうチビ!」


その後、女の子は先ほどの中年男性に駆け寄る。


「うわーん! 変な犬嫌いの大人にチビがバカにされたよー! しかも、薬のもとを持ってきてって言ったら、変な言い方で断られたー! チビを助けてやりたいだけなのにー!」


「おう! てめぇか! うちの娘を泣かしたのは!」


中年男性は息子の所へ、鬼のような形相でガツガツと近づいてくる。


「勝手にその子が、泣いてるだけじゃないですか……」


「なに言ってんだてめぇは! 娘がそこにいるチビを助けてやりたくて、お前に助けを求めただけなのに、助けないだけじゃなく、なんで犬の悪口まで言うんだ!」


「だから言ってるじゃないですか~! 私は犬は嫌いだと。それに今私は水晶の欠片と天使の翼を集めてるんです。そんな犬を助けてる余裕はありません」


「犬の命すら救おうとしないお前が天使の翼だと!? なんの冗談だ? お前のような頼りないクズが、天使の翼なんか取れるはずがない。あの翼は俺も知っているが、そう簡単にお目にかかれるものでもないんだ」


「頼りないとは失礼な! 私は自分の父親を生き返らせるために、天使の翼を探して過酷な仕事を乗り越えているんだ! ギリギリで生きている貧相な犬を助けているより、自分の死んだ父を助けるほうがよっぽど価値がある!」


『パチン!』


中年男性は息子にビンタをした。


「いってぇな! なにしやがるんだ!」


「いい加減にしやがれ! ふざけんな! なにが価値のある父親を生き返らせるだ! 調子のいいこと言いやがって! 俺たちはな! 生活がどれだけ苦しくなっても、どんな病気にかかろうとな、一生懸命、努力して生きてんだよ! 働いても働いてもロクな金はもらえない……病魔が治ったと思ったら追い討ちをかけるように、ここ最近モンスターが多くなって感染症を引き起こしやすくなっている。その感染症で死ぬこともあるんだ。でも俺らは必死こいて生きてんだよ! お前と違ってな!」


「(めんどくせぇ頑固ジジイ。ここは少し言いなりになるか)……分かりました。前言撤回します。私もその犬を助けます! 私にできることがあるでしょうか?」


「おう、分かればよろしい。そうだな、お前には、罰として薬の材料を持ってきてもらう」


「え~めんどい~」


「うるさい! 文句言わずにやれ! うちのチビを助けてくれるんだろ?」


「分かりましたよ。やればいいんでしょ。それで、薬の材料になにが必要なんですか?」


「氷の珠と青い薬とくらげの足。そして最も必要なのは命の水」


「分かりました」


息子は汚いメモに四つのアイテムを殴り書きをする。


「おお、そうだ! 言い忘れてたな。薬の材料を持って来いと言ったから分かると思うが、俺はここの薬剤師だ。そして村長でもあるんだ。名はオスカー。よろしくな。そして娘のリナだ。娘になにかしたらただじゃおかないからな」


「(ったく、今度は暴力頑固ジジイかよ……極端なんだよなー)」


息子は命の水以外を集め、途中経過の報告として戻ってきた。


「小汚い犬を助けるために、命懸けで鬼畜なステージをクリアしてまで材料を取ってきてやってんのになんでこれぽっちしか、報酬がもらえないんですか~? 私がここに来なかったら、その犬どうなってか分かりますよね? だから、少しは私を敬ってほしいですよ~! ですからもっと報酬くだちゃい」


「そうか、金目当てなら、働かなくてもいいや。帰れ」


「わ~やっぱり嘘です。金ほしいから、働きます!」


「(クズが……)」


この後も少しごねたがなんとかまたステージに行った。


 ♢♦︎♢


そして、ついに息子は命の水を持ってきた。


「よし、持ってきてくれたか。ありがとよ。ちょっくら待ってろ」


オスカーは調合して薬を作る。


「よし、薬はできた。チビに飲ませよう。どうだ……?」


そして犬に与える。


「おお、病気が治ったみたいだぞ」


「わーい!! やったー!!」


女の子ははしゃいで、家中を駆け回る。

しかし犬の様子がおかしい。


「ん……? …………言いにくいのだが……」


「どうしました? まさか……」


「チビが死んだ……」


なんと、薬を飲ませた犬は死んでしまった。

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