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第38話「金の力2」

息子はサハラタウンに到着した。


「ここが砂漠か。さっきは火で暑かったし、もう暑いのは懲り懲りなんだけど。こんなとこ早く出たいもんだ」


照りつける太陽の光に息子は目を細めながら、靴の中に入り込む砂を鬱陶しそうに振り払う。


「ウェルカムトゥ~~! よぅ~~~うこそォ! サハーラァターウゥンへ~」


「あっ、また変なの来た」


息子は無視して先へ進もうとする。


「ねェ! なんで無視すんのォ? ねぇ~ねぇ~」


それでも息子は無視しようとする。


「ちょっとォ! いい加減にシナサイYO!」


日焼けした肌に派手なアクセサリー、妙に艶のある唇……その名はダニエル。

サハラタウン在住の、クセの強い同性愛者である。


「すみません、ちょっと危険な香りがしたもんで、ハイ。それでは」


「ちょっとアンタねぇ……話くらい聞いてェくれてもいいんじゃなくて?」


「私は急いでいるんですけど」


「フフフ、観念なさい。あなたは私の虜になるの」


「だから急いでるし、なに言ってんの! アンタ危険!」


息子は逃げるように走り出した。

砂埃を巻き上げながら、町の奥へと全力で駆け抜ける。


「はぁ、はぁ、ここまでくれば大丈夫かな。にしてもかなり危ない奴だったな。早く翼とか集めてとっとと町から出よう」


息子はいくつかのステージを突破して、水晶の欠片を一つ手に入れ、ギブタウンへ戻ろうとした時だ。


「喉乾いたから少し余ってた秘伝の水を飲んだけど、めちゃくちゃうめぇのな。ウッドタウンで使っちまったのがもったいねえ。ん? 向こうが騒がしいな」


「なんで橋が壊れているんだよ!」


「あれ? お前の嫁さんって……」


「ああ、橋の向こうには病気の妻がいる……薬を買いにこっちに来たが、戻ってきたらなんだこの有様は! これじゃあ帰れねえじゃねぇか!」


「たぶんさっきの地震でやられたんだろう」


サハラタウンの中央部には巨大な橋が架けられており、上層と下層をつなぐ唯一の通路だった。

その下を流れるのは毒の水と呼ばれており、触れただけで皮膚が焼けるという濁流だ。

この橋が落ちれば、人も物も行き来できなくなる。

それはつまり、町の半分が孤立するということだ。


「一刻も争うことなんだよ。薬を飲ませてあげられなかったら、大変なことになってしまう……妻は歩けるような体じゃないし」


「でもこれどうすんだよて……」


「知るか! クソ! いつものように薬を買い溜めしておけばよかった!」


「……見なかったことにしますか。また面倒なことになりかねませんし」



息子はぼそっと呟いた。

三人の男が、壊れた橋の近くで話していた。

どうやらその中の一人の家が橋の向こうにあり、妻が病で寝込んでいるらしい。

男は薬を買いにこちら側へ渡ってきたが、地震で橋が崩れ、帰る手段を失ったのだ。

息子は巻き込まれまいと立ち去ろうとしたが、一人の男に呼び止められた。


「す、すいません」


「どうせ、言うことは分かってるんですよ。『この橋の復興には木材が必要なので取ってきてください』とかだろ?」


「お願いだ! 俺は建築家だ。木材さえあれば小一時間で橋を完成させられる! 妻の命がかかってるんだ!」


「君たちの今、おかれている状況はある程度話を聞いていたので分かっています。しかしなぜ関係のない私に助けを求めるのでしょう? 巻き込むのでしょう? この町の住人ならともかく、通りすがりの私を巻き込むのはどうかしてますよ。それに私は忙しい」


青年はお人好しな性格で自ら助けようとするが、息子は青年と正反対だった。


「君は言い方があまりにも酷すぎる。断るにしてももっと丁重に断ったらどうだ?」


「あんたにそんなこと言われる筋合いはないね」


「いや、俺もムキになっちゃいかんな。すまん、君も忙しいとは思うが、木材集めを手伝ってくれないか? 俺ら三人だけで集め、橋を作るのは、あまりにも時間が掛かりすぎてしまう。妻の命が尽きる方が早いだろう。悪いんだが、木材集めを手伝ってくれ! 頼む! 妻のために!」


息子は少し考える。


「ん~、そこまで言うのなら多少考えたが、最初の態度が気に食わなかった。どうでもいい他人を救う時間なんて無駄。私にはそれよりも優先したいことがるので」


「もういいや、こうやって話してるのも時間の無駄だ。君に頼んだのが間違いだったよ。無理だとよ。たしかに通りすがりの人に赤の他人の妻を助けを求めて、断られるのは当然かもしれないな。はっはっは……」


「お前、無理してないか?」


「そうかもな……愛する妻よ。待っていてくれ」


「とにかく俺らで木材を集めるか……」


「そういうことならァ、あたしに任せなさぁい!」


「ゲッ! この声は変態オカマ!」


「あら、こんな所で会うとは奇遇ねェ」


「またお前かよ……ますます面倒なことになったなぁ……」


なんと、ダニエルはすさまじい跳躍力で橋を飛び越えてきた。


「こんなあたしでも昔は高飛びをやっていたのよォ!」


「でもなんでそっち側にいるんだ?」


「取り残されている人がいないか見てきたのォ。あたしに薬を渡してェ? かわりに飲ませてくるわァ!」


「な、なんて英雄だ……」


「戻ってきたら木材を集めてくるからあなたたちは橋の復興に専念してちょうだい!」


ダニエルは妻の命を救い、さらには橋復興のために木材集めまで手伝うという。

その行動力に周囲の男たちは言葉を失った。


「ま、俺は用無しみたいだし帰るか」


「はぁん、待ってぇ~」


「うわ、きめーんだよ。近づくんじゃねぇ」


「あなた、イイ男だと思っていたケド、自分勝手で最低な男ねェ」


「別にアンタにそう思われてもいいんだが」


すると、カルネスナビが鳴る。


「調子はどうですか?」


カルネスからだ。


「それが面倒なことに巻き込まれた。ま、もう少ししたら帰るわ」


「なんか口調変わってないですか?」


「あっ……いろいろとトラブルに巻き込まれましたが、も、もうすぐ帰れるとは思います!」


息子は慌ててカルネスナビを切ると、そそくさと城へ戻っていった。


 ♢♦︎♢


「来てやったぞ」


「俺らはてめぇを許していない。てめぇは俺らがお前を軽蔑している理由は分かってるのか?」


「……」


数ヶ月前のことである。

カルネスは門で兵士を育成していた。


「…………ハハハハハハハハハハ!! もうどうにでもなれ!! ハハハハハハハハ!! ハハ………」


そこへテイクタウンから逃げ出したチェロスが狂ったようにやって来る。


「な、なんだ貴様……」


「よう、死ね」


狂ったチェロスはカルネスに向かって弓矢を放つ。

チェロスは今までたくさんの人々を死なせてきたため、人を殺めることに抵抗がなくなっていた。


「ぎゃあああああああああ矢があああああああああ!!!」


カルネスは倒れ込む。


「フン、情けねぇ奴だ。特に用はないんだがちょうど通りかかった所にあんたがいたから襲ってみたのさ。きっと矢はは心臓に当たって即死だろうよ。悪く思うな」


「ま……て……」


「なんだ、生きているのか。しぶとい奴だ。そうだ、俺をここで働かせてくれ。途方に暮れているところでな」


「それは……できない……」


「なぜだ? 働いてやるんだぞ? 嫌ならトドメを刺すぞ?」


恐怖と痛みの中、カルネスは生きるために頷くしかなかった。


「うぐ……」


「そうだ。お前はあの時、特に理由もなく俺を殺そうとした。応急処置でなんとか助かったが、矢の位置がほんの少しでもずれていたら俺は死んでいた。あの時は恐怖に負け、渋々お前をギブタウンで働くことを許可したが、当然のこと皆お前を避けるようになった。しばらくしたらお前は大人しくなり、あまり襲うことはなくなったから警戒というより、軽蔑するようになってきた。遠まわしに辞めろと言ってるみたいなもんだったな」


「いろいろすまなかったな。でも俺は変わったんだ。ここで働いていくうちに少しは良心的になったんだ。昔はいろいろとあってだな。良心を取り戻すのに苦労をした。関係のないあんたを巻き込んで本当にすまない」


「この前父さんを狙ったってことを聞いて改めて危険な野郎だと思ったしな」


「……あの時は、まだ完全に戻れてなかった。カルロスさんが敵に見えたんだ……すまない。本当に」


「フン……俺は殺されかけたんだ。許すわけがない」


「俺はどうしたらいいんだ……」


チェロスは俯いたまま、拳をぎゅっと握りしめた。

その手には古い傷跡がいくつも刻まれている。

かつて奪ってきた命の重みを、今さらになって指先が思い出しているようだった。


「(俺は……何のためにまだ、生きてるんだ)」


許されることはない償いきれぬ過去。

風が吹き抜け、外の空が遠くに見えた。

その高さを見上げるたび、ふと心のどこかが軽くなる。

その軽さが何を意味するのか彼自身も分かっていた。

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