第35話「カルネスの過去6」
次の瞬間、上空から小型爆弾が投下された。
轟音とともに地面がえぐれ、爆風が血と土を撒き散らす。
「うわぁぁあああああ!!」
真っ先に爆心地へ近かったスコットが吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
鎧は砕け、血が泥と混じって広がった。
「スコット!!」
駆け寄った仲間の顔が凍りつく。
「足がぁぁぁぁぁ!!」
スコットの右脚は膝から先が完全に消えていた。
断面は焼け焦げ、肉片がぶら下がり、骨の欠片が白く覗く。
「右足が……ない!! どこかへ吹き飛ばされたんだ!」
草むらの奥で何かが落ちる音がした。
見れば、まだ熱気を帯びた脚の残骸が木の枝に引っ掛かり、だらりと垂れ下がっていた。
「しっかりしろスコット! 目を閉じるな!」
「い、痛い痛い痛いッ!! 俺の足、俺の足を返せぇぇぇ!!」
血は噴水のように吹き出し、地面に黒々とした水たまりを作っていく。
「パスカル! 軍医を呼べ! 今すぐ止血だ!」
「はっ!」
上空にいた敵の飛行兵たちは弓兵に追い払われたが、その被害は既に甚大だった。
「クソッ! クソッ! クソッ!! くそったれ!! 俺が死守するんじゃなかったのか! 言ってるそばから仲間をこんな目に遭わせてしまった……!」
己の無力さが胸を締めつける。
怒りと自己嫌悪が入り混じり、カルネスは地面に拳を叩きつけるようにして叫んだ。
『プルル……プルル……』
その時、ポケットに入れていたタブレット端末が不意に震え、着信音が鳴った。
乾いた音が、喧騒の中で妙に非現実的だった。
「もしもし……」
「おう、カルネスか。順調か?」
「その声は……父さん!」
「いかにも」
「順調か……順調……ではないな……ハハハ……」
「お前は本気を出せばとんでもない力を発揮することは僕ちゃんが誰よりも知っている。お前が今、なにをやらかしたかは知らんが、お前が信じる道を歩めばいいのだ。カルネス……強くなったな……お前に城主という肩書きを授けよう。じゃあな……元気でやれよ」
「ちょっと待て父さん! 俺はたった今……」
『プープープー……』
電話は切れてしまった。
「強い……か……部下を大怪我させておいてそれはないんじゃないか父さん……いつものように口うるさくガミガミ叱ってくれよ……なんで今日に限って……俺なんかが城主となり、城全体を指揮していいのか? 俺は無力なのに……」
会議の様子を盗聴していたカルロスはカルネスに城主を任せた。
「カルネスさんがいてこそ私は勇気を出してこんな危ない場所に行けたのだと思うのです」
「微力ながら全力でサポートいたしますので、行きましょう! カルネスさん!」
痛ましい光景の中で、それは一筋の光のように届く。
「お前ら……ああ、そうだな。心強い味方だ。ここで蹲っていても仕方ないしな。ありがとな、お前たち! よし、パスカルはそのままスコットの側にいろ。俺らは一足先にテイクタウン城へ向かう」
「「はっ!」」
「(爆弾投下など卑怯な真似を……兵士を遠ざけるのが狙いか? 今に見てろ、ミクロン。その腐った脳みそを叩きのめしてやるよ。タイミングは悪かったが、念願の城主になれたことだ……城主としての初任務、頑張るぞ!) よし、残りの兵士ども! 行くぞ!」
「「はっ!」」
その後、テイクタウンの城の入口に着く。
「着いたぞ。いかにも怪しげな城だな」
「何者だ!」
敵兵が現れる。
「てぃ!!」
敵兵はあっという間に倒れ、倒れ際に手近の無線機に手を伸ばす。
がくがくと震える声で言葉が伝えられた。
「侵入者……だ……城の入口だ………」
「こいつ無線機で応援を呼びやがったな……一体何人攻めてくるんだ? こちとら四人だというのに。無謀すぎたか?」
♢♦︎♢
その無線を傍受していたのはミクロンだった。
「まさか向こうからノコノコ来るとはな……四人だけか。面白くなってきた。だが余計な味方は要らん。よし……」
ミクロンは瞬間移動のように姿を消し、カルネスたちの前に立った。
「ちょっと心配になってきたな……一旦城に戻るか……」
「おいおい、なぜ背中を見せるんだ? まさか逃げようとしてたんじゃないだろうな?」
「へへっ、そんなわけないじゃん」
「(ん? 一人?)」
「だよな。それだとつまらんからな! そりゃ!」
ミクロンが高速で動き、兵士三人は大ダメージを受ける。
「「「グッ……」」」
「大したことないな。おい、君、かかってこいや。やはりこの俺、ミクロンに敵う相手はいないのか?」
「……おおお……おおお……」
「おいおい、なにしてる。早く来いよ」
「……うおおお……おおお……」
「来なければ俺から行くぞ?」
「……おおお……おおお……俺は怒ったぞ!!!!! うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! お前がボトムスを殺ったミクロンだな!!!!! うりゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
カルネスは悲しみで怒りが込み上げてきた。
そして攻撃を仕掛けるが、ミクロンは身のこなしが速く、カルネスの攻撃はほとんど空を切っていた。
「どうした? その程度か?」
嘲笑と共に、鋭い蹴りがカルネスの腹を抉る。
息が詰まり、膝が崩れそうになる。
「ぐっ……!」
カルネスは苦しげに歯を食いしばる。技量でも体格でも、明らかに相手が上だ。頭では分かっていた――勝ち目は薄い、と。
だが脳裏をよぎるのは、倒れたボトムスの顔。
「(ここで負けたら……奴の死はなんだったんだ!)」
ミクロンが刃を振り上げる。
「終わりだ!」
その瞬間、カルネスは無我夢中で拳を振り抜いた。狙いもなく、ただ感情に突き動かされた一撃。
「うおおおおおお!!!」
拳は偶然にもミクロンの顔面を直撃した。予想外の力で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられるミクロン。
「ぐ……ふっ……!」
カルネスは息も絶え絶えに立っていた。腕は震え、次に殴られたら倒れるのは自分だと理解している。それでも、ただ一発の渾身が勝敗を分けたのだ。
「……や、やったのか……俺が……?」
ミクロンはよろめきながらも立ち上がろうとしたが、足に力が入らず、そのまま崩れ落ちた。
「まさか……俺が……カルネスごときに……負けるとはな……まさか負けるとはな。カルネスと言ったな」
「ハァ……ハァ……あぁ、よぉく覚えておけ」
「ラヴォス様には言えねぇよ。こんな奴に負けたのだから恥だ。ところでお前、ギブタウンに住んでるんだよな?」
「あぁ、そしてたった今城主となったところだ!」
「フッ……ならば丁度いい。情報提供をしよう。ラヴォス様は近々お前の城を支配しようとしている。ラヴォス様は俺やお前の何十倍も強い。そしてギブタウンの連中に強い恨みを抱いているから、余計に力を発揮するであろうな。今のうちに修行を積んでおくんだな」
「ラヴォス様? 誰だそりゃ?」
「これだけ危機が迫っているのに知らないとはな。呑気な奴だ。これ以上教えるわけにはいかない。忠告はしたからな」
「(よく分からないが負け惜しみかなにかか?) ま、いっか。帰ろ帰ろ」
カルネスはギブタウン城に帰還した。
兵士は軍医により手当を受けて、今でもギブタウン城に勤めている。
♢♦︎♢
致命傷を受けたミクロンはラヴォスの所へ行く。
「城の前で不審な者が出没したようだが、倒してくれたんだろうな」
「はっ! このミクロンが倒しました!」
するとラヴォスは凄まじい形相をして怒鳴り散らす。
「貴様俺に嘘をついたな! お前は嘘をつくと目が右上がりになる癖があるからな! それに、そのボロボロになった体を見ると……」
「はい、申し訳ございません。侵入者のカルネスに敗れました」
ミクロンは嘘を貫き通せないと踏んで正直に話した。
「カルネスか……そうか。ならお前にもう一度チャンスをやろう。これからもこのラヴォス軍で働け。それも兵長としてだ」
「兵長!? はっ! ありがたきお言葉! 兵長として恥のないよう、邁進してまいります!」
「ヴァルサもクラウンもいなくなったんだ。軍事力が落ちてきている。頼むぞ」
ラヴォスはカルネスという名前を聞き、カルロスのことを思い出して、再び彼を憎んだ。
彼は自室でカルロスの写真を的にしてダーツで貫いた。
♢♦︎♢
しばらくしてラヴォスは呪術により、未来の世界にいた年老いたカルロスを呪い殺すことを試みた。
しかし老死と同じタイミングだったため、ラヴォスの手応えはなく、失敗に終わったと感じていた。
未来の世界で暮らしていたカルロスは老衰死した。
ある日カルロスが死んだ連絡が来た。
しばらくしてカルネスたちはカルロスの存在を忘れかけていた。
数日後、過去から別のカルロスがやってくることになる。
カルネスは過去の世界のカルロスと出会うが、すぐにそのカルロスも翼集めの最中に死んでしまった。
♢♦︎♢
「そういや、俺、ずっとここで受付をやっていて強くなっているのだろうか? 名目上城主だが、内容は受付や清掃など地道なことばかり」
カルネスはこのような経緯があり、城主となったが、業務内容に疑問に思っていた。
「あの時の出来事はなんだったのだろうか……」
カルネスはそう思い、その日の夜から修行に励むようになり、数日後にはそこそこ強くなっていった。
彼は多少ながら物事をプラスに捉えることができたり、ダラダラと働くのではなく目的意識を持って働いていた。
城での主な仕事は受付や清掃、そして人事管理や商品の検収など地味なことを行っているが、業務終了後は筋トレなど行い、出先ではモンスターと戦う。
そんな日々が続いた。
少し抜けている部分などはあるものの、彼は城主と呼べる存在になっていた。
♢♦︎♢
ちなみにカルネスが城主になった今、城の役員は以下の通りである。
・カルネス(代表取締役・人事・城の受付)
・カルネス・ミオ(総務・経理・会計監査)
・ミオ(情報システム・広報・ミッションの受付)
・チェロス(門番)
・他兵士(生産管理・開発)
・事務スタッフ
・販売スタッフ
・兵士数名




