第34話「カルネスの過去5」
数時間後、カルネスはウェイトタウンに到着した。
道中、陽が傾き始めて岩肌が赤く染まり、遠くからは火の洞窟特有の熱気が風に乗って届いていた。
ボトムスの家に到着すると、玄関先には年老いた男女がいて、目に疲労と不安を滲ませながらこちらを見返した。
口調はぎこちなくとも、彼らはボトムスの居場所を教えてくれた。
ボトムスはウェイトタウンから比較的近い火の洞窟にいるらしい。
洞窟へ続く道は狭く、足元の砂利が崩れやすい。
時折、地面から小さな蒸気が立ち上り、岩の裂け目からは赤い光が漏れていた。
カルネスは息を整えながら、奥へ奥へと進んでいった。
やがて洞窟の一角に人影と、不自然に大きな塊が見えた。
近づくと、それがカルネス像だと分かった。
像を抱えて立つ人物、ボトムスがそこにいた。
「やぁやぁボトムス君ではないか」
「ゲッ……カルネスッ……!」
ボトムスはカルネス像の前に立つ。
「ゲッっとはなんだね? なにかまずいことでも?」
「それは……」
「それは?」
「えい!」
ボトムスは火炎放射器でカルネスに攻撃した。
カルネスは少し火傷を負った。
「おい! 無駄な抵抗はやめろ! 単刀直入に聞く。お前、我が城のカルロス像を盗んだだろ」
「いや……そんなことは……」
「ならてめぇの後ろの両サイドからチラチラ見えている像らしきものはなんだ! そこをどいてみろ!」
「こうなってしまったからでは仕方ない…てあ悪いがカルネスには死んでもらう!」
また火炎放射器で攻撃する。
「どうしてこんなことをするんだ!」
「それは……テイクタウンの……いや、部外者のアンタには関係ないことだ!」
「部外者だと!? 元上司だろうが!」
「元だろ。それにアンタと働いてる時も常にアンタにムカついてたんだ」
「なんだと!」
その瞬間、鋭い金属音が風に乗って届いた。
空気を切る軋み音とともに弾丸が飛んできて、一直線にボトムスへ向かった。
それはボトムスの額を貫き、血が瞬時に滲み出る。
「ぐほっ!!!」
「ぎゃぁぁぁ!!! おい、しっかりしろ! 今すぐ軍医を呼んで治療してもらうからな!」
「カルネス……ミ……ミクロン……だ……気を付けろ………」
「ボトムス!!!!」
「ボトムスが死に際に呟いたミクロンという人物……ミクロンとは一体……敵軍か? もしやあいつは敵軍に捕まっていたのか? 早いとこ城へ戻って事情を話さなければ。俺らが敵軍に関与したとなると、あれほど攻撃的ならギブタウン城の危機も時間の問題だ。像は少々返り血を浴びたぐらいで、拭けばいいから父さんには怒られずにすむが……この状況はヤバいかもしれないな」
♢♦︎♢
狙撃場所にはミクロンがいた。
「こいつの町を侵略する時に元ギブタウンの兵士と聞き、さらにギブタウンに侵入する自信があるとか言うから、我々の最終目的に近づけると考え、生かしておいた。それならギブタウンに侵入して、敵情や金目の物を盗んで来いと命令した。そして金目の物を持ってきたら火の洞窟の奥地で待っていろと……だがなぜギブタウンの役員らしき者も連れてきた」
吐き出される声は冷え切っているが、その奥には焦燥が見え隠れしていた。
ミクロンはラヴォスがいる玉座の間に向かい、事情をを話した。
「バカ野郎! 殺しただと? 奴には敵情を聞き出す必要があっただろ! ギブタウンの偵察に行かせ、敵情把握の上少しでも自軍が有利に攻められればと考えていたのに」
「しかしヒョロヒョロな男に負けてましたよ? そんな雑魚を我が城で重宝しなくても……」
「俺に口答えをするな。殺されたいか?」
ラヴォスの鋭い視線が突き刺さる。
「申し訳ございません」
♢♦︎♢
一方カルネスは像を奪還し、ゆっくりと城門へと歩みを進めていた。
「おかえりなさい!」
「おお、ミオか。像重すぎだろ! ということで一仕事してきたぞ。おい、ビール!」
「カルネスさん! 勤務時間にそれはまずいのでは?」
「あぁ、そうだったな。ところで留守番ご苦労さん。異常はなかったか?」
「はい、異常なしです!」
「上出来だ……よし、ミオ、お前はこれから城の受付嬢に任命しよう!」
「ありがとうございます!」
「ただ、お前はワープポールの受付、俺は城のエントランスの受付な。俺の方が格は上だ」
「はぁ……」
「そうだ、ミオ、聞け。真剣な話だ。もしかすると我々は命を狙われてるかもしれん」
「急にシリアスな話になりましたね。出かけてる間になにかあったのですか?」
「実はボトムスが先ほど何者かにより狙撃された。ミクロン……あいつは死に際にその名を口にした」
「ミクロン……聞いたことないですが、少なくとも私たちの城の兵士ではないですね。敵軍ですかね?」
「恐らくそうだ。敵軍は動き出したのだ。もしかしたら攻めてくるかもしれないから、本格的に城の強化をする必要がありそうだな。ひとまず俺は工兵を手配して城の強化を図る。そして城全体を砲台で固めるために砲兵を配置する。お前は受付で業務を遂行しろ」
「了解です!」
◯慰行為なんて毎晩やらないで城の強化を着々と進めるべきだった。
城主なる為には俺はギブタウン城の頂点に立ち、みんなを指揮しなければならない。
今すべきことはなんなのだろうか。
♢♦︎♢
夕暮れの中、カルネスは兵士たちを前に立ち会議を開いた。
「俺は正直修行をサボりすぎた…俺は大して強くないのに偉そうにお前らにガミガミ言ってすまない……この通りだ。敵軍が動き出したからにはもうボヤボヤしてる暇はないんだ! 俺は今から敵軍の城へ忍び込み、敵軍の侵略を食い止める。そのためにはミクロンを倒す。倒したことにより敵軍が引き下がるか、襲ってくるかは分からないが…襲ってきたときのために砲兵は城を固めてほしい。また、歩兵は俺の護衛をしてほしい」
カルネスの声は粗削りだが、諦めない意志が滲んでいた。
「「はっ!」」
「カルネスさん、少しは見直しました」
「カルネスさん、分かりました! カルネスさんに従います!」
中にはこれまで軽んじていたカルネスを見直す者の声も交じった。
「みんな、ありがとう」
「でも、ミクロンはどこにいるのでしょうか?」
「テイクタウンだ。ボトムスは敵軍に口止めされていたのか、なかなか言わなかったが、たしかにそう口を滑らせていた」
「テイクタウンというと隣町の……」
「そうだ。隣町ながら恐れられているテイクタウンだ。その上、道のりは険しいが行けるな?」
「もちろんです! こないだカルネスさんに言われて偵察をしてきましたから」
「(だからこないだカルネスさんは兵士をテイクタウンに偵察に行かせたのですね。こうなることを想定して)」
ミオは感心するが、それは偶然だ。
「(こないだ俺がサボるために偵察に行っとけってテキトーに指示しておいたんだったが、運が味方したのか吉と出たな。よぉし、ここは……)いいか、お前ら、一瞬たりとも気を抜くな! 誰一人生半可な気持ちでいてはならん!」
「「了解です!」」
「よし、出陣だ!」
「「はっ!」」
♢♦︎♢
カルロス(この世界に生きていてかなり老け込んでいる)が望遠鏡と盗聴器で会議の様子を伺っていた。
「ふむ……ようやく僕ちゃんの理想の城になりつつあるな。カルネスはここまで指揮できるとは。カルネス。お前は立派な息子だ。あとで電話かなにかで城主を命じよう。僕ちゃんは長くはない。どこか遠くで悠々自適に過ごすか……」
♢♦︎♢
「いいか、険しい道だがお前らついてこい」
エドワード、フレディ、そしてスコット、ジョニー、パスカルといった兵士を率い、テイクタウンへと進軍していた。
「相手はボトムスの頭を一発で貫くことができた……言わばスナイパーといっても過言ではないだろう。兵力はすさまじいだろうな。油断はするなよ」
「「はっ!」」
♢♦︎♢
一同はテイクタウンに繋がるテイクの森の入口に到着する。
「ここから先がダンジョンだが、もしかしたら敵軍が潜伏しているかもしれない。いつどこから狙われるか分からないから心して行けよ。ちょっと待て、緊張してきたせいか、ちょいと尿意が侵入する前にションベンを……」
カルネスが立ちションを始めたその瞬間、矢が彼の目の前をかすめた。
「うぎゃあああああああ!!」
「カルネスさん!」
驚いたカルネスは体勢を崩し、放たれた尿が敵兵の顔に直撃する。
「かかれー!!」
その隙に兵士たちが一斉に突撃し、敵兵を討ち取った。
「危ないところだった……た、助けてくれてあんがとな。しかしダンジョン入口にも敵は潜んでいたか。油断はできんものだ。敵軍の奴、こんな入口まで兵士を置いて……用心深い奴だ……ミクロンめ……お前の顔もションベンでビショビショにしてやろか?」
「(なに言ってんだこの人……)」
信頼されかけたカルネスだが、そう思われた。
だが結局、カルネスの尿攻撃のおかげで敵を退けることができたのだった。
そしてある程度進むといかにも怪しげな城が見えてきた。
「よし、テイクタウンの城が見えてきたぞ!ここから先はさらに敵がいてもおかしくはない場所だ。だがどんなことがあろうともお前らは俺が死守する! (決まった……)」
「ありがとうございます!」
前方には槍兵が立ちふさがり、後方には弓兵が援護に回る。
敵を迎え撃ち、戦況は優勢に思えた。
だがそれは思いもよらぬ形で悲劇を呼ぶことになる。
『ドォーン!!!!』
上空から何かが落ちてきた。




