第33話「カルネスの過去4」
目が覚めると西の洞窟の入口付近にいた。
「ん?」
「やっと 気づいた」
「じぇ、ジェイムズ!?」
「ずっと 寝言 金 おっぱい 言ってた」
「そうだ! 金だ! 俺が必死こいて集めた金になるアイテムはどこだ!」
「すまん カルネス ほんとは 俺 さっき言った アイテム 全部 デタラメ」
「いや! なに言ってんだ! それらのアイテムはあったし、全ては俺を利用した金儲けだったんだろ!? お前が親友なばかりに騙された俺がバカだった。お前は親友なんかじゃない、絶交だ! 金は水流に飲まれてしまったしよ……最悪だ」
「それより 着替えなくて いいか 風邪引く」
「ああ、ほっとけ」
「(そういえば……俺は水流に飲まれ死を覚悟したが、俺は生きている。ん? なんでこいつの服も濡れてんだ? こいつは洞窟の前で待ってたはずなのに。まさか……)なぁ、伝説のタリスマンって知ってるか?」
「いや 知らない」
「知らないだ? じゃあなんでさっき……」
「何度も言う 俺 言った アイテム 存在しなく 険しい 洞窟 お前 行かせる 口実」
「事実を言ってそうだな……(でも実際にそれらのアイテムは存在した。偶然とは恐ろしいものだ。じゃあこいつはだらけていた俺が城主になるために、修行に行きたくなるような発言をしてくれたのか。さらに水流から俺を助けた。危険と分かっていながら親も助けに行けない洞窟まで。びしょびしょになりがら……わざわざこんな俺のために……それなのに俺はひどいことを言ってしまった。なのにあいつは俺に風邪の心配までしてくれた……)ジェイムズ、ごめんな。ひどいことを言ってしまって。助けてくれてありがとな」
「お安い 御用 洞窟の中 異音聞こえた 心配 なった 助けに行った 親友 カルネス 放っておくわけ いかない」
「お前は命の恩人だ。大親友だ。絶交とか言って悪かった。そうとなれば、ジェイムズの努力を無駄にせず、毎日修行して城主を目指すぞ!」
カルネスはジェイムズと握手を交わし、意気揚々と城へと戻っていった。
「結局宝はもう手に入らんし、部下に払う金はなんとかするしかないけど、まあいい経験にはなったな」
西の洞窟はしばらくして水は引いた。
ジェイムズによると中からミリヤとジェイムズの親の水死体と、原型のない伝説のタリスマンのようなものが落ちていたらしい。
♢♦︎♢
月日がたったある日、ジェイムズに誓ったあの言葉はなんだったのか。
カルネスは仕事中に居眠りしていた。
「グースカピー……」
帳簿は山積み、書類は散乱……にもかかわらず、カルネスは椅子を傾けて天井を向き、鼻ちょうちんをふくらませていた。
そこへ、ある人物がやってくる。
「カルネスさん! 寝てる場合じゃありません! 起きてください!」
「……んだよ気持ちよく寝てるとこを起こしやがってよ。ん? 君はたしかこの前入ってきたミオ君じゃないか。そんな物騒な顔してどうしたのだ? 君は今までの奴らより比較的俺に優しいんだから大人しくしとけばいいのに!」
「実はカルロス像が盗まれたのです!」
「カルロス像? あぁ、いらんいらんあんなゴミ。いつか捨てようと思ってたくらいだ。そんなもの盗むなんて趣味の悪い強盗だな」
「なにをおっしゃっているのですか! 城の宝ですよ? 一大事です!」
「そんなゴミより俺は伝説のタリスマンが欲しかったんだ。いや待てよ……そういえばあの時父さんはあんなこと言ってたな……」
カルロスがカルネスに引き継ぎを行う際、このような発言をしている。
「強くなんねぇとてめぇの命はおろか僕ちゃんの城や財産が守れなくなるからな。責任重大だぞ。だから意地でも強くなってもらうからな。特に僕ちゃんの等身大の像であるカルロス像は、いかなる時でも死守するのだ」
「このまま盗まれたままで、いつか父さんがこの城を訪れたら……」
カルネスの脳裏に、父の小言がありありと浮かび上がる。
「あれ? 僕ちゃんの像はどうした?」
「あれ、おかしいな……どうしちゃたんでしょうね?」
「まさか盗まれたりしてないよな? あれだけ言ったのだからな」
「やだな〜! 盗まれてるわけないじゃないですか! 城や財産を守るって約束したじゃないですか〜! まさかゴミだと思って捨ててないですよ~!」
「じゃあ今すぐこちらへ僕ちゃんの像を持ってこい! 今すぐにだ!」
そんな光景が頭の中で勝手に再生され、背筋に冷たい汗が走る。
「そうなっちまったらちとマズイな……よし、ミオ君! すぐに兵士を手配して、強盗を捕まえて、カルロス像を取り戻すように指示してこい!」
カルネスの声は張りのある命令口調だった。
しかしその声はどこか速攻で収縮し、空回りしそうなほど無理をしていた。
「ほとんどの兵士は例の敵情の偵察に行っているので、今この城には門番の警備兵と私くらいしかいません」
カルネスは廊下を見渡すと、いつもより静かで、鎧の金属音もまばらである。
「そんな大勢で行かなくてもいいだろ……」
「昨夜、兵士たちにはカルネスさんが偵察に行くように指示してませんでしたっけ?」
「あれ、そうだったけ? あ、そういえば昨日……」
「兵士ども集合! 全ての兵士に告ぐ! 明日みんなで敵軍のアジトの偵察にでも行っとけ!」
「え、みんなでですか!?」
「ああ、文句あっか?」
「あ、あの……みんないなくなるともしものことがあれば……」
「うるせぇ!! (明日は寝たい気分だから口うるさい連中はどっか行っとけ!)」
口では威勢を張るが、その声の端々に空回りが滲む。
そして誰も本当に納得してはいないようだった。
♢♦︎♢
「(クソ……こんな時に限って事件なんか起こりやがって……昨日の俺はなにを言ってるんだ。普段兵士がいたら丸投げするのに……いや、ピンチはチャンスとも言うしな。よし、ここは新人にいいとこを見せるか)……よし、俺が強盗を捕まえよう! その間、お前は城で見張り番を務めろ! 初めての重大な仕事だと思うが、できるか?」
内心は計算と焦燥の混在だ。
カルネスは自分を奮い立たせるため、あえて先輩風を吹かせた。
「了解しました!」
「(決まった……)とは言うものの、どこに捕まえに行けばいいのだ? いつの犯行だ? 昨日の夜に巡回した時はたしかあの像はあったから、犯行はそれから今日の朝方にかけてか? 今から無造作に犯人を追っかけても見つからないと思うし、城に痕跡とか残ってないか調べるか」
「そうですね……ちょっと見てきますね」
ミオは早足で立ち去る。
廊下に残されたのは、扉が閉まる音と、カルネスのため息だけだった。
♢♦︎♢
ミオは数分かけて城全体を見て、なにか証拠となるものが残っていないか確認したが、城はいつもと変わりなく、これといった証拠は出てこなかった。
「もしかしたら門番が知っているかもな。この城に侵入するには入門の許可がおりないといけないからな。それと、カルネスコンピュータに侵入者の履歴が残るはずだ。お前は門番に不審なものがいなかったか直接聞いてこい! 俺はコンピュータを調べる!」
「了解です!」
カルネスはカルネスコンピュータを調べる。
キーボードを打つ手が微かに震える。
「履歴によると昨晩から今朝にかけて、入門したのはウチの兵士くらいか」
ミオと合流する。
「こちらは少し気になったことはあったものの、不審者などの出入りはないため、異常なしだ。門はどうだったか?」
「いえ、こちらも特に異常なしでした」
「一体どうなってるのだ? 窓とかを壊されて侵入した形跡もないし、門を抜けたとしか考えられなかったのだが……」
「こうは考えられませんか? 兵士の格好をして門を通ったと」
「変装していたということか。その線が濃厚だな。逆に他の可能性は思いつかないくらいだ」
♢♦︎♢
カルネスたちは推理したことをまとめた。
「これまでの情報をまとめると、兵士たちが出かけたのが昨日の夜二時からだ。それより後に入門したら、出入りが少ないから、門番に怪しまれて印象に残りやすいはず。しかし兵士は特に変な人物は見てないと言う。犯人側からもその時間に出入りするのは避けたいはずだ。すなわち城にまだ大勢の兵士が残っている時に犯人は入門をした。俺が昨晩巡回をして、最後に像の確認ができたのが夜の十二時だ。つまり夜の十二時から二時の間で犯行が行われた。そして兵士一同が門から出た二時に兵士に混ざり、門を出た。他の兵士とかは偵察とはいえ、大きい武器は持って行くだろうから、犯人が大きい荷物を持っていてもさほど違和感はないはずだ。像なら等身大とはいえ、武器の袋などに入れて持ち帰えることはギリいけるだろう。そうなると特定は難しそうだな…この城の兵士の格好をして、同じような荷物を持って、大勢の兵士に紛れて外に出た……」
「もし、違う服装で門を通れば、門番に呼び止められますよね?」
「そりゃそうだろ。犯人もアホじゃないし」
「だとしたら引っかかります。なぜ、犯人はこの城の兵士の軍服を着ていたんでしょうか?」
「それだ! 犯人はこの城の兵士の軍服を着ていたんだ!」
「だからそう言ってるじゃないですか!」
「傭兵だった人物で、唯一軍服を返却していない奴がいたはずだ!」
カルネスはカルネスコンピュータで検索し、その人物を特定した。
名前はボトムスで、数年前傭兵として雇ったが、ある日出先で忽然と姿を消し、それ以来顔は見ていない。
「ボトムスだ。そいつに違いない。ここで勤めていた記録が残っている。動機だって想像できる。父さんがこの城にいた頃に父さんに嫌な思いをされて散々陰口叩いてたからな」
「その人は今どこに住んでるんですか?」
「あいつはたしか森を抜けた所にあるウェイトタウンに住んでたんじゃなかったか?」
「じゃあそこに行く必要がありそうですね」
「よし、ちょっくらウェイトタウンに行ってくる! ミオ、留守番よろしくな!」
「了解です。行ってらっしゃいませ!」
カルネスはウェイトタウンに向かった。




