第32話「カルネスの過去3」
カルネスは振り返ると、そこには若くて美しく、巨乳の女性がいた。
その距離は思った以上に近く、吐息すら感じられるほどだ。
「(ウッハー、かわええ女……!)」
心の中で歓声を上げつつも、表情は必死に取り繕うカルネス。
「あら、驚かせてごめんなさいね」
「それより聞き捨てならないことを耳にした気がするな。あんたが今言った伝説のタリスマンってのはなにだ? 金目の物には少々敏感でな」
「あなた、消えない炎と麗しい水、そして鋭利な草を持ってるのよねぇ?」
女は一歩近づくとカルネスの身体に触れ始めた。
肩、胸、腕と流れるように触れ、そのまま手は迷うことなく股間へ。
「も、持ってるが、アンタどこを触ってるのだ! そこにはしまってないぞ!」
「あら、嫌だった?」
「いや、そんなことはない……いや、そうではない!」
カルネスは顔を真っ赤にし、怒りながらもどこか嬉しそうな表情を浮かべる。
「アンタ、一体なにが目的だ! 質問に答えろ! 伝説のタリスマンってのはなんだ!」
「私はね、か弱いの。モンスターなんか目にしたらそれはそれは恐ろしくて恐ろしくて足が竦んでしまうわ」
「だからなにが言いたいのだ! 目的を言え!」
女性は再びカルネスをボディタッチする。
「(ヤバい……下半身が膨らんでくる……)」
「ねぇ、カルネス……そんなムキにならなくても……」
「!? なぜ、俺の名前を知っている!」
「さっきジェイムズって人と話していたでしょう? その時にあなたのことをカルネスと呼んでいた……」
洞窟の入口で感じていた視線の正体はこの女だった。
「(こいつ、聞いてやがったのか。ま、この女なら覗かれるのも悪くないな)」
「そしてたしかこう会話をしていた。消えない炎、麗しい水、鋭利な草を持ってきたら多めの金と換金すると。しかしあなたそのジェイムズに騙されているわよ。だって西の洞窟の西部にある泉の中央に3つのアイテムを置くと伝説のタリスマンが完成するんだけど、それは一生暮らせるほどの金額で売れるらしいわ」
「なるほど……そうやって宝は誕生するという訳か。どおりで洞窟の隅から隅まで探しても宝は見つからなかったということか……ってそんな高額で売れるの?」
「ええ、そうよ」
「それが城の輩が言ってた宝のことなのか? ジェイムズの野郎……利益を横取りするつもりだったのか」
「ひどい奴よねぇ……」
「もっともだ。危ねぇ、もうちっとでジェイムズに騙されるところだった」
「ところで、私が情報提供したということで、お宝の3割の金額を譲ってもらえないかしら?」
「フッテン…結局は金目的か……まぁいいぞ、手を打とう(それに、さっきから密着してくるからめっちゃ乳が当たってる。こんなの断るに断れないだろ)」
「決まりっ! 泉まで一緒に行っていいかしら? 泉に行くにはアイスシューズが必要なんだけど、あげちゃうからさ」
「ああ、好きにしろ(ああ、俺は今幸せだ。生きててよかった)」
アイスシューズを手に入れた。
アイスシューズとは、履くと水面を歩くことができる優れ物である。
水の多いエリアには持ってこいということだ。
「あ、自己紹介が遅れたわ。私はミリヤ。よろしくね」
「よろしくな(ミリヤちゃんか。可愛い名前だね)」
その後、なんとか二人でモンスターから逃げつつ、アイスシューズを駆使し、ミリヤの案内で泉までたどり着けた。
洞窟に入る前から強くなりたいという意思はあったが、ミリヤにいいところを見せつけたいということでよりその意思は強まり、多少リードをしたり男らしい一面を見せた。
「おお! 着いたねぇ……さすがカルネス……チュッ!」
頬に柔らかな感触が触れた瞬間、カルネスは頭が真っ白になる。
彼女の無邪気さゆえか、それとも計算ずくか、どちらにせよ男心を揺さぶるには十分すぎた。
「(こいつ!? 初対面の俺にキスまでしてきやがった! まぁ、悪くないな)」
「なんで赤面してるの?」
「(やべぇ……この状況をどう取り繕えば……)」
カルネスは慌てて視線を逸らし、咄嗟に口を開いた。
「ああ、ちょっと顔面を虫に刺されてな……(ウレピー! 最高!)」
♢♦︎♢
その頃、ジェイムズは──
「カルネス 遅い ほんとは消えない 炎麗しい水 鋭利な草 これらのアイテム 存在しない 全てデタラメ カルネス 強くさせる 嘘 後で怒られる 覚悟 そうでもしないと あいつの性格上 こんな険しい洞窟 修行行って くれない すぐに怒って 洞窟 出てくる思った 嫌な予感する」
そう、ジェイムズが言った三つのアイテムはネットの情報でもなく、咄嗟に思いついた嘘で、洞窟を前にして面倒くさいと言い出したカルネスを険しい洞窟で修行させるといったいわば嘘の方便である。
しかし、偶然なことに洞窟内で三つのアイテム(厳密には三つのアイテムの特徴と合致したアイテムで、ミリヤはジェイムズたちの会話を盗み聞きしていたため、三つのアイテムの名前を口にした)が見つかり、それは兵士が噂していた伝説のタリスマンという宝を作る素材であった。
♢♦︎♢
一方、カルネスはミリヤの案内で泉の中央へ着いた。
泉の水面は薄く霧がかかり、光を反射して淡く輝いている。
「ここに窪みがあるでしょう? 左からに消えない炎、麗しい水、鋭利な草を設置してちょうだい」
泉の周りには3つの窪みがあり、カルネスは言う通りに設置をすると洞窟内に水飛沫が溢れた。
どうやら、窪みに素材をはめたことが原因らしい。
「すると反応が起き、やがて伝説のタリスマンが完成するはずよ。カルネス……ありがとう」
「ミリヤさんの役に立てたなら光栄だ」
「そろそろカルネスには用無しだわ」
「え?」
カルネスはその言葉の意味を理解する前に、次の瞬間ミリヤの素早い動きに驚いた。
次の瞬間ミリヤは強引に伝説のタリスマンの素材を奪い、水飛沫を抜けて走って逃げていく。
カルネスは一瞬唖然と立ち尽くした。
泉に残された水飛沫が光を乱反射し、ミリヤの姿は瞬く間に遠くへ消えていった。
そう、カルネスは利用されていたのである。
数秒後、カルネスはようやくなにが起きたのか理解ができた。
「おい! 待ちやがれ! どこに行く! クソッ! あのおっぱいをもう一度堪能したい! じゃない! 俺の金が遠ざかっていく! 俺は騙されたんだ! まだ奴は近くにいる! 追いかけて取り戻そう!」
カルネスの怒りと焦燥が、胸の奥で渦を巻く。
♢♦︎♢
一方、ミリヤは──
「フッ……フフッ……ハハハハッ!! ハハハハハハハハハハ!! いやぁ、のぞき見していた時から感じてたけど本当に間抜けな奴だった。伝説のタリスマンはこれを錬金術したらできるもので、洞窟なんかに置いてもできるわけないわ。ま、泉なんかに置いて手放しちゃったからこれは正真正銘私もの。 ハハハハハハハハハハ!!」
ミリヤはカルネスを欺き、伝説のタリスマンの素材を手にした喜びから、甲高い笑い声が漏れた。
「間抜けはアンタの方じゃないのか? 前見てみろよ」
「カルネス! もう追いついてきたのか!?」
振り返ると、カルネスが息を切らして追いついてきた。
「前? あ、行き止まりだ! しまった!」
崖の上にいたミリヤだったが、水飛沫により水位が上がり、その水が流れて下の通路が塞がり、閉じ込められてしまった。
「本性を現したようだな。最初から俺を利用し、伝説のタリスマンを盗むつもりだったのか」
「ええ、その通りよ。しかし私はまだ諦めていない。あんたを倒せばこれは私のものになるんだから!」
「戦う……か……俺は今まで修行をサボってきたから本格的に戦うのは初めてだが、この女だけは許せない。俺の本気を見せてやる! 俺の金を返せ!!!」
ミリヤは冷静に距離を取り、水の流れを操りながら攻撃してくる。
「これでどうかしら?」
カルネスはアイスシューズを履き、滑りながら回避し、それを高度な氷上ステップと自画自賛した。
「見ろ、完璧な回避だ!」
勢い余って転倒しかけるも、アイスシューズでバランスを取る。
「これが俺の必殺、スライディング回転回避だ!」
カルネスはそのまま反射的に水面を蹴り上げ、空中で拳を振り下ろす。
「これが俺の空中全力斬り……必殺奥義!」
しかし空振りしてミリヤは軽くジャンプしてかわす。
カルネスは地面に倒れこみながらも、偶然アイスシューズで滑り、ミリヤの足元に転がる。
彼はミリヤの足を蹴り上げたつもりだったが、勢いで自分も後ろに転倒。
その拍子にミリヤの足元を軽く弾き、バランスを崩させる。
「うおおお!? 俺の戦術、完璧に決まった!」
ミリヤは転倒し、慌てて起き上がろうとするが、水の上で滑って前方の岩にぶつかり、気絶した。
「少々手こずったが、なんとか勝つことができたな。しっかし、全然か弱くなかったな。女にしちゃ強かったぞ」
目の前に倒れているミリヤに目がいく。
ミリヤの胸元は大きく開いていた。
「ミリヤが気絶してるうちにおっぱいでも揉んでおくか……」
カルネスは鼻を伸ばし、ミリヤに少しずつ近づく。
すると再びやってきた水流がカルネスを襲った。
「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
カルネスはその水流に飲み込まれてしまった。




