第31話「カルネスの過去2」
俺は給料の件、ぬいぐるみの件、エロ動画の件を思い出した。
こうして見ると俺は一体なんのためにこの城に勤めているのかと思うこともある。
城主になるんじゃなかったのか?
父さんはそんなことを望んてたのか?
いや違う。
城主になるには、まず修行を積み重ねるべきだ。
そして仕事を真面目にやることだ。
ということは分かってはいる。
だが、モチベーションがないだけなんだ。
最近は毎日ダラダラと過ごし、夜にはエロ動画を見て寝る日々……
ある意味修行と呼べるのでは?
いやなにを呑気なことを言っているのだ。
いつ、父さんが言っていた敵軍が攻めてくるか分からない。
俺が◯慰行為をしているうちに敵軍は日々強化しているに違いない。
だから今日から本格的に修行するしかないか……
いや、面倒だし明日からやるか。
一日早かろうと変わらない。
そう思いつつも一週間ほど、本調子ではないだの、足が痛いだの、自分に言い聞かせ、甘やかしていた。
さらにはビールの飲みすぎで、二日酔のため修行を怠り、寝室で横になっていた。
そんなある日。
「カルネスさん! こんな所にいたんですか!」
扉が勢いよく開き、兵士のフレディが飛び込んできた。
「こんな所ってなんだよ! 寝室だぞ! 勝手に入ってくるなって言ってるだろ!」
「もう二、三日も姿を見なかったので、皆で探していたんですよ」
「俺は体調が悪かったんだ」
「だとしてもせめて連絡くらいしてくれてもいいじゃないですか!」
「わぁったよ! わりぃな!」
その時、フレディの視線が床に転がった空き缶をとらえた。
ベッド脇に散らばった、いくつものビールの残骸。
「なんですか! これは! ま、まさか二日酔い……」
「そ、そんなことない! 飲んでない! これは罠だ! 俺は誰かに陥れ……」
「カルネスさんは城主ですよ?」
「グッ……」
その一言が、鋭い刃のように胸を突いた。
「最近、兵士とか噂が絶えず、カルネスさんナメられてますよ? もっと責任感を持ってください。あれ、城主ですよね?」
「そうだよ。繰り返すんじゃない」
「にしても、カルネスさん、普段なにをしてるんでしたっけ?」
「ふ、普段は……修行をしているぞ。いつ敵軍が攻めてきても対処できるように対策を練っている」
「ほぅ……」
「ただ、今は体調が悪いから、安静にしているだけだ。敵襲に備え、城の強化ももちろんだが、人材育成もしっかりしているぞ。そして受付や清掃など地味な仕事など幅広く業務をこなしている」
「見直しました。カルロスさんはきっと理想の城になったと喜ばれているでしょうね。そしてそんなに業務を遂行しているなら、そりゃ、たまには体調悪くなって寝込んでしまうこともありますよね」
「ああ、しかし体調管理も仕事のうちと言うくらいだから、もっとしっかりしないとな(本当はゲームセンターとかで遊び呆けて、仕事的には最後に言った受付と清掃ぐらいしかやってないとは口が裂けても言えない)」
俺……父さんに似てきたのか?
俺は嘘をついて部下に尻拭いさせたり、部下の給料をギャンブルの金につぎ込んだり、仕事中に酒を飲んで体調が悪くなるような最低クズ野郎だ。
さらには取り返しのつかなくなりそうな嘘や言い訳を並べてしまう。
父さんも似たようなもんだよな。
やはり俺は父さん化してきてしまったのでは……
自分の力のなさを痛感するカルネスであった。
♢♦︎♢
その後もカルネスはだらけていた。
するとと寝室の扉の外から話が聞こえた。
カルネスは重い体を起こして扉の前に行く。
「ん? なにか聞こえる。誰か話しているのか?」
扉の外で兵士たちが話していた。
「そういやさ、西の洞窟にモンスターがうじゃうじゃいるらしい」
「まじかよ……近寄りたくないわ」
西の洞窟とは東の洞窟や迷いの森同様、踏み入れたらその地に住むモンスターに食い殺されてしまったり、行方不明者が続出する場所だった。
さらに西の洞窟はモンスター以外にも激しい滝が流れており、滝壺などにより命を落とす者も少なくない。
「ただ噂によるとすげぇ高値で売れる宝が眠っているらしい。死ぬか宝を取るか……」
「俺は絶対行かないね。死んだら元も子もないからな」
カルネスが盗み聞きしている。
こう考えながら聞いていた。
立場上、強くないといけないのに、実力はそうでもない。
自覚しているが、倦怠感に負け、カルロスの理想の城主とは真逆にダラダラと過ごしている。
このままずっと怠けていても、役員からは呆れられ、体力も落ち、ただ城にいるだけの部下に慕われない上司になる。
いやもうなっている。
兵士の言葉に刺激され、だらけていられるのも潮時だと思った。
彼は少し前向きに考えると、絶好のチャンスだと捉え、盗み聞きした過酷そうな洞窟で修行することを考える。
けれども目的は宝を見つけることである。
「西の洞窟か……とりあえずそこで修行をしてみるか。宝が眠っているかもしれないということで、それを持ってこれたら、ギャンブルで失われた部下の給料も取り戻せる。一石二鳥だ! そうとなれば俄然行く気になってきたぞ!いざ、西の洞窟へ!」
♢♦︎♢
カルネスは勢いよく宣言したものの、実際には洞窟へ行く準備などまったく整っていなかった。
鎧は手入れを怠り錆びついているし、剣は刃こぼれが激しい。
食料はパン、それにビール数本。
まるで修行というよりピクニックのような荷物だった。
カルネスは数分かけて西の洞窟の入口へ到着した。
そこまでの道のりもそこそこ過酷だったが、なんとか息を荒げながらたどり着いた。
「ん? あそこに佇んでいるのはジェイムズか?」
西の洞窟の入口には、カルネスの数少ない親友のジェイムズがいた。
「おい、ジェイムズ!!」
「カルネス まさか西 洞窟行くか」
「ああ、止めるなよ。俺は決心したのだ」
「お前 心配」
「お節介だな〜」
「俺の親 ここに入ったきり 戻ってこない ずっと 待ってる」
「ま、まじか……」
「この洞窟 古くから 恐れられてる 弱いカルネス どうして行く気 なった」
「弱いって言うな! まぁ、ちょっといろいろあってな。立場的に強くならないといけんのだよ。でも、こう洞窟を前にすると修行するのめんどっちくなっちゃった」
「そんなこと言うな そうだ この洞窟 どこか 消えない炎 麗しい水 鋭利な草 あるらしい こいつら取ってきたら 高くはないが 換金する」
カルネスは交渉をしてそれらのアイテムと多めの金額を換金する約束をした。
「(その額なら二日くらいギャンブルでつぎ込んだ金は取り戻せそうだな……)でもあるらしいってことは確証はねーのか?」
「どっかの サイト 載ってた」
「おいおい、ネットの情報なんて、信憑性もクソもねーじゃねぇか! 俺は金が欲しいんだ! 今すぐに!」
「お前 強くなりたくないのか 金なんて 二の次」
そしてカルネスは一人洞窟に入っていった。
「本来の目的はそうだったよな。まぁ、少なからず金になる物は落ちていそうだ。そうとなれば入るか。にしてもさっきから視線を感じる気がするんだよな……気のせいか?」
岩肌に反響する足音の向こうで、何者かの影がひっそりと二人を覗いていた。
その影はゆっくりとカルネスを尾行する。
やがてモンスターが現れた。
追撃を振り切るように何度も角を曲がり、泥に足を取られながらも、どうにか生き延びて進んでいった。
しばらく探索を続けると、前方に人影が転がっているのが目に入った。
それは肉を食いちぎられ、骨が露わになった死体だった。
ジェイムズが探していた親なのだろうか。
数時間後、意外にも目当てのアイテムは早々に収集できた。
消えない炎、麗しい水、鋭利な草が揃ったが、それらを手にする間も、影は執拗にカルネスを追い続けていた。
「ジェイムズが言っていた消えない炎、麗しい水、鋭利な草らしきものは持ってくることができた。しかし城の輩が言ってた宝と呼ばれていた物だが、洞窟の隅から隅まで入念に探索したが、それらしきものは見つからなかったぞ? この草とかはそんな高額そうじゃないし、とても宝とは呼べない。ということは城の輩が言ってた宝の存在は嘘っぱちということだったのか? だとすれば、今回はジェイムズが言ってたアイテムのみで我慢するか」
「宝……それは伝説のタリスマンのことかしら?」
「誰だアンタ! いつの間に!」
カルネスは驚愕し、勢いよく振り返った。




