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第30話「カルネスの過去1」

「……あの時の出来事は、結局なんだったんだ?」


カルネスは過去の出来事を反芻しながら、今日も仕事を続けていた。


 ♢♦︎♢


カルロスたちがタイムスリップする前のギブタウン城。

青年が配達に駆り出されている間にも年月は流れ、カルロスは老け込んでいた。

やがて青年が配達をほとんど終わらせた頃、カルネスは大人になり、ラヴォスの襲来による危機から救った際に約束を交わした、ギブタウン城のトップに上り詰めるために、毎日修行を積み重ねるはずだった。


カルネスは大きくなるにつれ、段々とカルロスのような憎々しい性格になっていた。

だが現実のカルネスは、カルロスに似てきた。

緑の髪を乱し、肩書きは魔法使いの超見習い。

そのくせ極度の面倒くさがり屋で、努力より怠惰を選ぶ日々。


まもなく定年退職を迎えるカルロスがギブタウン城に立ち寄った時のことだ。

彼は後を継ぐ息子カルネスに、城主の引き継ぎを始めた。


「おい! おい! カルネス!」


「ハッ!」


なんと、カルネスはカルロスから仕事の引き継ぎを受けている最中に居眠りを始めていた。


「バカモン! 引き継ぎの最中に居眠りするな! そんなんで、城主を目指しているのか!? 僕ちゃんの城の後を継ぐんだからしっかりやれよ!」


「ごめんなさい!」


「謝るのはいいから、もう言わせないでくれよ」


「はい……」


「それと城を汚すことをしたらただじゃおかないからな。そのためには清掃は早朝に必ずすること。あと人を雇うときは有能な奴で、少ない給料でもたっぷり働いてくれる人材を雇うこと。いいな?」


「……ったく、分かりましたよ」


「僕ちゃんの城の後継者、すなわち城主を命じているのだぞ! なんだ、その舐めた口の聞き方は! お前が子供の頃は勇敢でたくましい奴だった。僕ちゃんがラヴォスに縄で縛られているときはラヴォスの目を盗んで助けてくれたりした。なのにいつからお前はそんなダメ人間になってしまったのか。失敗作を産んでしまったものだ」


カルネスはカルロスに叱責されながらもあの時の記憶を思い出していた。

縄に縛られたカルロスを救った幼い日の自分。

勇気と誇りに満ちていたあの頃それは、今の自分の姿とはあまりに遠かった。


俺はカルネス。

カルロスは自分勝手でダメな父親だ。

だが今の俺は人のことを言えない。

俺が幼い頃、父親は仕事に追われていると言い、辛そうに職場に行っていた。

しかし今思えば、父さんの性格上、きっと誰かに仕事を押しつけていたに違いない。

なぜなら父親は本当に自分勝手で、傲慢で、よく殺されないなと思うほど性格が悪いからだ。

俺が子供の頃はそこまで考えられなかったのだが、今思うと本当にそう思う。

だって自分の都合で考えをすぐに変えたり、仕事が溜まっているのに豪遊していたりする父さんが真面目に仕事をするはずがない。

きっと辛そうにしていたのは演技かなにかだ。

そんな父でも慕うってほどじゃないが、何気にそこそこ戦闘力はあるんだ。

まぁ小賢しい戦い方をして微妙な強さだけど。

で、何年かしてそんな俺は父の仕事の後継をすることになった。

特に働く先などなかったからな。

今は引き継ぎの最中だ。


 ♢♦︎♢


「おい、なーにぼーっとしてんだ。何秒か無駄にしたわい」


「ごめんなさい」


「それとな、お前はしばらく受付対応でもしとけ。本当は僕ちゃんのように強靭な心や体を持ち、過酷な出先で肉体を酷使して一瞬たりとも気を抜かず働いてほしいところだが、お前のような弱者には到底不可能だろう。せいぜい城の受付対応がお似合いだな」


始まった……父さんの嫌な性格、人を見下すこと。

でもたしかに俺は弱い。

悔しかった。



「いくらなんでも言い過ぎじゃ。もちろん努力はする。父さんに近づけるように」


「口だけは達者だな。大した強さも能力やスキルもない、ましてや僕ちゃんのように全米が虜になる美貌も持っていない。そんなお前に僕ちゃんの城の後継者になれるのか? 昔のように勇敢でたくましく、それがいい感じで成長してくれたのならよかったのだが、いつからこんなだらしねぇ奴に。少々甘やかしすぎたな。不安になってきた。だがな、それは僕ちゃんの指導不足だ。過去は変えられん。この先強くなり、何事も耐え抜く覚悟があり、光のような成長を見せてくれるなら城主としてこの城に務めろ。僕ちゃん直々に命じているのだ。お前を変える絶好の機会だと思って働いてみてはどうだ? せめて僕ちゃんの足元に及ぶぐらいにはな」


「はい、頑張ります」


「そうとなればまずは僕ちゃんのやり残した仕事の片付けから頼む」


「やり残しがあるんですね……」


「なんか文句あっか?」


「いや、全然……」


父さんが自分の不始末を押しつけることなど、今さら驚きでもない。


「あ、あとな、大事なことを思い出した。僕ちゃんが城から退いても、もしかしたら敵軍が攻めてくるかもしれん。お前が助けてくれた時の他にも僕ちゃんとニーナって奴が襲われている。僕ちゃんたちのクローンを出して城を乗っ取ろうとしていたのだ。だから気をつけろよ。また攻めてくるかもしんねぇからな。強くなんねぇとてめぇの命とか僕ちゃんの城や財産が守れなくなるからな。お前の命はともかく、僕ちゃんの宝物が失われたら僕ちゃんはなにを生きがいにしていいか分からない。特に僕ちゃんの等身大の像であるカルロス像は、いかなる時でも死守するのだ。責任重大だぞ。だから意地でも強くなってもらうからな」


「はいはい分かりましたよ」


「まずは受付対応からはじめ、いずれは修行とかして、どんどんスキルアップしちゃってくれ。僕ちゃんは家でビール飲みながらのんびりと優雅に暮らしたいから、業務の引き継ぎとかは極力早く覚えてくれよ」


父さんの言葉は、励ましではなく、ただの都合のいい命令だった。


数日して父さんはギブタウン城から退いた。

俺は父さんに言われた通り受付対応をしたり、時には体を鍛えたり、ミッション先で修行をしたりした。


毎日修行を積み重ねるはずだった。

最初は気合いが入っていた。

そう、最初だけは。

すぐにモチベーションは下がった。


父さんが退職すると聞いた時、俺はどんなに大変な仕事やつまらない仕事もベストを尽くすことを誓った。

しかし父さんの期待には沿えず、ダラダラと過ごし、時間だけが過ぎていく。


 ♢♦︎♢


「おい、誰かカルネスを知らないか?」


「いや、見てないけど……」


兵士たちがざわめく。


「最近さ、俺たちロクに給料貰ってなくね?」


「言われてみればそうだな」


「おいおい、どうなってんだ? この城は……」


カルネスはゲームセンターにいた。

カルネスは筐体に寄りかかり、ため息混じりに笑った。


「あー、またすっちゃった。まぁ、いいか。まだ金ならあるし。でも、このまま続けると、部下たちの給料分がなくなってしまうな……ま、いっか。どうせあいつらはロクに働いてないだろうし」


非情で冷酷、他人の給料を踏み潰す勇気もま一つの強さなのだろうか。

どちらにせよ、俺がこのミニゲームで生き残るためには、どんなことでも、非情でなくてはならない。

たとえ、それが間違っていたとしても……


 ♢♦︎♢


「ていっ、ていっ! ふぅ~いい汗かいた!」


「なにしてるんですか、カルネスさん!?」


兵士が駆け寄ると、カルネスの前にはボロボロになったクマの人形が転がっていた。


「いやぁ、うちの城にはサンドバッグがないから、クマの人形を数百回殴ってた」


「クマって……修行でもしてたんですか?」


「いや、退屈だからストレス発散に殴ってた」


それを聞き、兵士はため息をつきながら、その場を後にした。


「おい、なんだ、そのため息は! どこへ行く!」


「いや……ちょっと外に……」


兵士同士は顔を見合わせて、こそこそと話す。


「はぁ……見てらんないよ。仕事が暇だからってあんなことするか?」


「キモいというか、最近なんかあの人怖いんだけど……」


「近づきたくないよな……」


俺はどうすることもできなかった。

ただ人に任せておいて、なにもできなかった。

城が危機に陥ってるのに、戦おうともしなかった。

そんな臆病な奴に強くなる資格があるのだろうか……


 ♢♦︎♢


「大変です!」


「どうしたのだ!!」


「カルネスコンピュータがウィルスに感染していてまともに処理ができません!!」


「なんだと!!!」


兵士は慌てて感染元を探る。


「そこで今、感染元を調べてるのですが、どうにもこうにも感染元のファイルが! ん? なんだこれ!? なんだ! このエロ動画のファイルは! もしやここから感染しているな!おい、誰だ! こんな動画をダウンロードした奴は! それも仕事で使ってるコンピュータなのに!」


「(やっべ……それ俺がこの前の……調子に乗ってよく分からないことが書いてあるサイトで落としたやつだ……いいじゃん別に…毎日退屈でエロ動画を見てストレス発散したって……でも……言えない……俺がやったなんて……)誰だ! けしからん!」


「とにかく、ウィルスの駆除はやっておくので、カルネスさんは受付に戻っててください」


「ス……スマンな」


その後、兵士たちは人目を避けてひそひそと話し合っていた。


「なぁ……さっきのウィルス感染、もしかして……カルネスさんなんじゃねぇか?」


「俺もそう思ってた。だって、エロ本を処理場から持ち出したのもあの人だろ」


兵士たちは顔を見合わせ、ため息をついた。


「受付で居眠りしてるかと思えば、ゲームに金を突っ込むし、子供用の人形を殴ってるし……」


「城主どころか、ただの問題児じゃねぇか」


「はっきり言うけど、あの人に仕えるのもう嫌だな」


噂は広まり、兵士たちの士気は日ごとに下がっていった。


俺はその気配に気づきながらも、何もできなかった。

反論すればするほど、自分が情けなくなるだけだからだ。

……しょう……

ちくしょう!!!!

どうして……どうして俺の周りは人がいなくなるんだ!!!


城の受付で、ただ一人で叫ぶカルネスであった。

平和だった……

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