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第3話「豪遊する男」

青年は、カルロスから押し付けられた届け物の絨毯を手に取り、通り道にある洞窟を抜けていった。

洞窟内は薄暗く、湿った空気が肌にまとわりつく。

足元は不安定で、岩の尖った突起に何度も躓きそうになった。

道中にはモンスターも現れたが、彼は岩石に関する知識を活かし、モンスターの好む鉱石を投げて注意を逸らすなど知恵を絞って突破した。


洞窟を抜けた先には、配達先の女性の住む小屋が見えた。

女性からは納期が遅れたことに対するクレームも飛んできた。

青年は言葉を選び、柔らかく対応することで最小限の衝突で済ませることができた。

小屋を後にして、青年はギブタウン城へと戻る。

もちろん帰り道も過酷であった。


 ♢♦︎♢


「ただいま戻りました……」


「おお、届けてくれたのか!(まさか本当にたどり着くとは……)お疲れちゃん♪ 任務完了だ♪ ちょっと遅かったのは気に食わないが、最初だから目をつむってやろう」


「ほんと疲れましたよ……」


カルロスはにやりと笑い、青年の疲れなど気にも留めず次の指示を出す。


「この調子でじゃんじゃん配達してくれたまえ! んで、次はこの届け物をこれから渡す地図に記載されている研究室へと届けてくれ」


「研究室……一体何に使うんですかね、こんな物……」


「知るか! 先払いされた以上、こちらには届ける義務があるんだ。いいな?」


「はいはい分かってますよぉ……」


「配達はまだまだ始まったばかりだ。気を引き締めて行けよ」


その後も青年はカルロスによる無理難題の押し付けにより、血が滲むような思いをすることになる。

青年にとって、宝石店で働いていた方がマシだったのかもしれない。


 ♢♦︎♢


カルロスの横暴な振る舞いにより、ギブタウン城の従業員は次々と辞めていった。

現在も残っているスタッフは、ほんのわずかしかいない。


以下が、その現役メンバーである。


カルロス:社長兼城主。検品が主な担当だが、仕事をしている姿は誰も見たことがない。


ニーナ:カルロスには低評価を受けているが、総務・経理・会計監査など実務を支えていて、会社になくてはならない存在だ。


メグ:緑髪の女性。店舗の店長で、魔術学校出身。魔法アイテムに関する知識が豊富。


アーサー:水色の髪をしている男。生産管理・開発担当。寡黙で少し風変わりな性格。


リリア:情報システム担当。マヤと仲が良く、陰口が大好き。


マヤ:人事・広報担当。リリアと仲が良く、陰口が大好き。


シーサー:販売担当で、店舗で接客をしながら発注業務もこなす。


メル:ギブタウン周辺に詳しく、城の受付を務める。


青年:カルロスの奴隷。ECサイトで売れた商品の配達担当。


 ♢♦︎♢


「あの男、ただ自分が怠けたいからって関係ない子を危険な場所まで行かせて配達に行かせてるんですよ!」


ニーナはメグにカルロスが青年を奴隷にしていることを話した。


「あの男、ついにそんなことまで……」


メグは呆れ果て、しばらく言葉を失った。

しばらくしてメグは口を開く。


「売り上げの八割は通信販売。ここ一帯はモンスターが多く、出歩くのが危険。だから食料とか生活必需品はよく注文されていたわ。配達課の人たちは給料が高い分、体を張ってこの辺りの人たちに商品を届けていた。でもあの傲慢男のせいでハラスメントを受けたり、なにもないのに減給されたりして従業員は辞めていった。人員不足で配達ができなくなり、受注された商品は納期通り届けることができなくなった。だからクレームが殺到したわ。『注文した商品はどうなってる!?』『俺たちを飢え死にさせる気か!』『もうアンタんとこは利用しない!』ってね。結局は人件費を節約しようとして従業員の給料を減らしたあの傲慢男が悪いのよ。なのに今度は奴隷って……」


「聞けば聞くほどひどいですね……自分のせいで人が減ったのに、無関係な人を巻き込むなんて……」


「「サイテー!!」」


リリアとマヤが現れ、口を揃える。


「それだけじゃない。ショッキングなことがあったの。店頭販売の商品のことだけど、傲慢男は検品も一応担当になっているから、サボってることが多くてなかなか店頭に商品が並ばず品薄ってこともあった。生活に困ってるお客さんはここまで来てくれたわ。少しでも生活必需品が買えればいいってね。その中に勇敢な冒険家がいたの。注文した商品が届かないっていう別のお客さんのことを聞いたその人は商品を買いに来て、一般の人の家を回って売るってこともやってくれてたみたい。でもその人も少しして道中のモンスターに殺された。そんなことがあったから、この城の評判はガタ落ちよ」


「聞けば聞くほどひどいですね……そんなカルロスは今なにをしているんだろ……」


「どうせ働きもせずに遊んでるんでしょ。よくゲームセンターに出没するって話よ」


「関係ない人には働かせて、当の本人は豪遊……」


その時、部屋の隅にいたアーサーが無言で立ち上がった。

彼は無表情のまま、エレベーターのボタンを押す。


「あれ、アーサーどこ行くの?」


「……」


「……商品開発の仕事をしに」


「ああ、そう。いってらっしゃい」


アーサーは言葉少なに頷き、静かにエレベーターの中に消えていった。


 ♢♦︎♢


一方その頃、青年はカルロスの押し付けた仕事を黙々とこなしていた。

地図を片手に、汗と埃にまみれながら百件以上の家を巡る。

荷物を届けると時々怒号も浴びせられる。


「よく泣かずにここまでやってこれたな。感謝するぞ〜」


「あ……はい……」


「メルの情報だと次は本当に過酷な場所だ。だがこれで最後の配達だ。そう思うと楽なもんだろ?」


「最後……ですね……やっとだ……」


青年に最後の配達に向かってもらった。


「ふぅ、これで肩の荷が下りたぜ」


「まるでアンタが片付けたみたいな口振りね……」


「お前には関係ないことだ。役立たず魔女がよ」


「はぁ……こんな城で働くんじゃなかった……あの人がいなかったらこんな続けられなかったかも」


「あの人だと?」


「アンタに話す義理はないわ」


「ちぇっ、可愛くねぇな。まぁよい、こんな小娘に構ってる暇はない。僕ちゃんは仕事に行ってくる」


「仕事という名のギャンブルね。さっき負けたからってまた行くの? 完全に依存症ね」


「うるせぇ!」


カルロスは腹を立てながらゲームセンターに向かう。

途中アーサーに出くわす。


「おい、アーサー!」


「……なんでしょうか?」


「お前、商品発掘部門だったよな」


「……はぁ、商品開発部門ですね」


「ならばある物を採ってきてほしいのだ!」


「ある物とは?」


「コーンチの実だ。珍しい木の実でな、なにかと開発の役に立つだろう」


アーサーは一瞬目を閉じ、心の中でため息をつく。


「……分かりました。場所は?」


「そんなの資料室で調べろ! なんのための資料室だ!」


「分かりました……」


「(これでよしと、この珍しい木の実を売ればいい値段になるんじゃねぇか?)ウシシ!」


「はぁ……」


アーサーは資料館に向かう途中に振り返ると、カルロスが不気味な笑みを浮かべており、訝しげに首を傾げた。


「さて邪魔はいなくなった。ゲームセンターに向かうとするか」


カルロスはゲームセンターに向かっていった。


アーサーは、資料館への道すがら情報通のメルとすれ違う。

コーンチの実について尋ねたい気持ちはあったが、内気な性格と緊張で声が出ず、そのまま立ち去るしかなかった。


 ♢♦︎♢


一方、青年は配達の仕事を続けていた。

道中は想像以上に危険で、幾度となく命を脅かされる場面に直面した。

ゴブリンやオークのような獰猛なモンスターだけでなく、鋭い爪と尾を持つレプティリアンといった人型のトカゲ型モンスターも姿を現し、足を止める隙も与えなかった。

青年の体はすでに限界に近く、何度も追い詰められながらも必死に前へ進んだ。

さらにもし配達が遅れれば顧客からの怒声やクレームが待っており、板挟みのような状況は精神をもすり減らしていった。

それでも青年の精神的支柱となっているのは息子の存在である。

元の姿で息子に笑いかけたい。


そしてついに青年は偉業を成し遂げた。

最後の届け物の配達を終え、青年は城へと帰還した。


「戻りました。早速ですが顔を……ってあれ?」


青年は異変に気づく。

城にはカルロスやニーナどころか、メルやメグなど全ての役員の姿がどこにもなかった。


「そういえば受付のメルさんもいなかった。配達に行ってる間になにかあったのだろうか」


青年はひとまず冷静になり、カルロスたちが消えた原因を探るべく、痕跡などを調べるために無人と化した城を調べ尽くす。


その結果、城の一部が爆破されていることに気づいた。

また、城外の普段は施錠されている扉がこじ開けられていた。

中はひんやりと、ジメジメしていた。


「扉が開いている……嫌な予感しかしないけど、手掛かりはこの扉の先にある気がする」


多少の葛藤はあったが、息子の顔を思い浮かべ、意を決してその扉を押した。


少し進むと先が見えない階段があり、数分かけて下った。

そこには一つの墓石がポツリと立っていた。


「墓石? こんな場所へと繋がっていたのか。それにしても一体ここは?」


青年は周りを見渡すが、一つの墓石と、今下ってきた階段しかない。


『ドォン!!』


階段の隣から爆発音がすると穴が開いた。


「なんだ!?」


すると穴の奥から聞き覚えのある声がして、誰かがこちらに近づいてくる。

そう、忘れようとも忘れられない憎たらしいあの声である。

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