第29話「資料館にて」
青年は主にカルロスにより、無理難題な仕事を押し付けられて長期間に渡り、肉体労働をさせられた。
奴隷解放、時の水晶の不思議な力で一同は未来の世界へ飛ばされてしまう。
青年は水晶の効果を知りながらも、自らの意思で触れ、カルロスたちを救うために時空を越えた。
しかしカルロス、ニーナ、青年、メグはそれぞれ別々のタイミングで吸い込まれたため、同じ未来に現れながらも、時間軸は異なっていた。
その間、青年はカルロスたちを探す傍ら、町で困っている人々を助けていた。
人体に影響を及ぼす謎の病、行方不明者の連続など、その原因がラヴォス軍にあると突き止め、侵略の只中で偶然ラヴォスと遭遇する。
青年は邪魔者と見なされ、無惨にも命を奪われた。
カルロスたちは青年の亡骸を見つけ、葬り、カルネスから天使の翼の噂を聞く。
♢♦︎♢
「さて、探すかぁ……極力翼は探したくねぇけどよ」
カルロスがぶつぶつと独り言をつぶやく。
「なんか言った?」
ニーナは険しい顔をしてカルロスを睨み付ける。
「べ、別に。ん? あそこにいるのは門で会った青色の服装の兵士じゃねぇか?」
青色の軍服をまとった兵士、それはカルロスたちが到着した時に門で立っていたチェロスであった。
チェロスは洞窟の前でじっとしていた。
「おーい!」
声をかけると、チェロスが振り返る。
「ん? ああ、こないだの連中か」
「お前、なんで葬儀に参加してなかったんだ?」
カルロスが問いかける。
「俺は嫌われてるからな」
淡々とした口調に、どこか自嘲が混じっている。
「へぇ、そうか。んでなんでこんな所に突っ立ってるんだ」
「いや、ちょっとションベンを」
「汚ねぇな」
「俺嫌われてるから、城のトイレを使わせてくれないんだよ」
「かわいそうな奴だな。ちょっと聞きたいことがある。だがその前にその汚いモノをしまえ」
「ああ……で、聞きたいこととは?」
「お前、天使の翼の詳しいこととか知ってるか?」
「天使の翼? すまない、知らない」
「そうか。それを探していたんだが、知らないならいいや。行くぞニーナ」
「待て」
「あ? 無知なてめぇにはもう用無しだ」
「もしかすると資料室に翼のことが書かれている本があるかもしれない」
「既にカルネスが三日間資料室にこもってたって言ってたけど、翼のことは分かんなかったとよ」
「資料室にはとてつもない数の本が並んでいるんだ。三日でも探しきれない可能性もある」
「そんなにあんの?」
「ああ、俺も手伝うから、まずは三人がかりで情報を探るってのはどうだ? なんの情報も知らないで闇雲に翼探しの旅に出るってのはらちが明かないからやめておいた方がいいと思うぞ」
「じゃあ頼むぞ」
「ああ」
ニーナが意外そうにチェロスを見た。
「最初は悪い人だと思っていたけど……案外いい人なのね。なんで嫌われてるのか分からないわ」
「過去に色々やらかしたからな。嫌われても当然だ。近づかないほうが身のためかもしれんぞ。それでもいいなら行くか、資料室へ」
チェロスの案内で、カルロスたちは資料室へ向かった。
「ここだ。入るぞ」
重厚な扉を開けると、床から天井まで、左右の壁一面にぎっしりと本が詰め込まれていた。
「たしかにとんでもねぇ数の本だな! 俺らの世界に比べてだいぶ増えたな。ま、手分けしてそれっぽい本を見つけるか」
♢♦︎♢
数時間が経過した。
「そろそろ……限界だ……僕ちゃんにはこんな地味な作業は向いとらん……」
カルロスは机に突っ伏し、だらしなく舌を出す。すると、ふと思い出したように顔を上げた。
「そういや俺がここにしまっておいたエロ本はどうした?」
「エロ本? たしか処分したぞ。この城に相応しくないと言ってカルネスが」
「あの野郎!」
「ただな……処分場からは消えてたらしい。捨てるふりして、実はカルネスが持ってるのかもな」
カルロスが絶叫しようとしたその時、ニーナが鋭く声を上げた。
するとニーナが呼ぶ。
「ちょっと来て!」
「おっ、見つけたのか?」
「んー、天使の翼かは分からないけど、この文章が引っかかったの」
★洞窟、砂漠、海や雪山、火山、空の果ての闇に紛れる場所に翼あり。
「ちょっとチュロス来い」
「チェロスさんね!」
「なんだ?」
「この文章って、天使の翼のことを指しているかどうかって分かるか?」
「んー、正直天使の翼のことかどうかは分からんな。ただ、ギブタウンの周りには、洞窟、砂漠、海や雪山、火山があるんだ。そして空の果て…とかってやつは宇宙かもな。最近スカイギャラクシーという名前が付いた小さな島があり、宇宙のこととか研究している老人がいると聞いた」
「そしたら洞窟とかそういう場所に行くしかねぇか。欠片も落ちているかもしれないんだ。やはり並行して探すって感じでいいか」
「あとこの文言も気になるけど分かる?」
同じページの後半部分にこう記載されていた。
★翼の持ち主はかけっこ好きのレミニセンスエンジェルである。
「すまん、それは分からん」
「そっか……」
「そんなん興味ねぇよ。はよ行くぞ」
「だがな、行く前にちょっと聞いてほしい」
「なんだ?」
「今言った場所には人間を襲ってくるモンスターがたくさんいるんだ。何度かそれらに探検しに行った人がいたが、行方不明になる者が多かった。それ以来、誰も近づこうとしないが、やはりそれらに翼が隠されているのかもしれないな」
「それって数年前のギブタウンと変わってねぇよ。僕ちゃんを誰だと思っているんだ。スーパーエリートのカルロスだぞ。数年前は城主だった。だから心配すんな、任せておけ」
「分かった。なら準備をしたら声をかけろ。ワープポールに案内する」
「ワープポール?」
「ああ。ギブタウン城の一室に設置されている。いわばステージセレクトのようなもので、行きたい場所を思えばそこにワープできる」
「なんだそりゃ! 随分ハイテクになったもんだな。僕ちゃんの時代にはなかったぞ」
「ギブタウンは技術発展に力を入れているからな。そこから洞窟や砂漠へ向かい、翼の欠片を探せばいい」
「なるほど。分かったぜ」
「ともかく準備をして行けるようになったら声をかけろ」
「準備? 準備なんざ必要ねぇよ!」
「いいのか? 危険なモンスターがたくさん潜んでいるんだぞ? 装備を揃えなくてもいいのか?」
「だから僕ちゃんを誰だと思ってるんだ! チュロスてめぇさっきから僕ちゃんのこと舐めすぎなんだよ! だいたい何日ここにいればいいんだ! 早く元の世界へ帰りたいんだ! 早くしろ!」
「……」
「ごめんね、チェロスさん。せっかく気を使ってもらったのに」
「……ああ」
♢♦︎♢
チェロスはワープポールへ案内する。
「本当にいいのだな?」
「うるせぇ! このポールだな? えーと、こうやって……」
チェロスの忠告を無視して、カルロスとニーナはまずは最初の洞窟というウッドタウンに繋がる初心者向けステージに移動した。
「ここが洞窟か。とっとと行くぞ」
転移の光が収まると、そこは薄暗い洞窟。
湿った空気がまとわりつき、岩肌からは雫が滴り落ちる。
「湿気で髪がまとまらないわ」
ニーナは額に張り付いた髪を払いながらため息をついた。
「うるせぇな。髪型なんてどうでもいいだろ! 僕ちゃんの目的はただひとつ、早く元の世界に帰ることなんだよ!」
カルロスは胸を張って洞窟を進む。
だが足音がやけに大きく響き、まるでモンスターに知らせているようだった。
「……アンタ、もう少し静かに歩きなさいよ」
ニーナが小声で窘めたその時だった。
奥から不気味な音が響いてきた。
そして洞窟の岩陰から、小さな影が現れる。
「わ、いきなりモンスターが迫って……う、うわああああああああああ!!!!」
なんと、カルロスは数秒で最初に出会った雑魚モンスターにやられてあっけなく死んでしまった。
「カ、カルロス!! (あんだけ余裕ぶっこいてそれはないわよ!! カルロスが死んだショックよりあんだけ威張っててすぐに死んじゃう恥ずかしさの方が勝ってる! と、とにかく先に進まなきゃ! まさかカルロスの分まで翼を集めないといけなくなったのかしら……)」
ニーナは荒い息をつきながらモンスターの攻撃をかわし、欠片と翼を求めて奥地へ足を進める。
♢♦︎♢
それからしばらくしても彼らは帰ってくることはなかった。
「言わんこっちゃない。まだ戻ってこないということはおそらくもう洞窟内で死んだんだろう。やはりあの時、強引にでもカルロスさんたちに装備を着させれば…」
チェロスはワープポールの前に立ってそうささやいた。
「さて、そろそろ門番の時間だ。門へ行くとするか」
「ん?」
その時だった、部屋の扉が開けられる音がした。
何者かがこちらへ近づいてくる。
「あ、アンタは……」
チェロスはその人物の顔を認識すると、青ざめてきた。
♢♦︎♢
その頃、城の受付ではカルネスが一人、考え込んでいた。
「そういや俺……ずっとここで受付をやっていて、強くなってるのか? 名目上は城主だが、実際は受付と清掃ばかり……」
そう、カルネスはギブタウンの城主となっていた。
「……あの時の出来事は、結局なんだったんだ?」
カルネスは過去の出来事を反芻しながら、今日も仕事を続けていた。




