第20話「未来の世界」
カルロスとニーナはタイムスリップ中の記憶はほぼなく、目が覚めると、草原が広がっており、少し先には周りが城壁で囲まれている大きな城が見える場所にいた。
カルロスの近くにニーナはいたが、青年や他の人物の姿はなかった。
「いてぇぇぇぇぇ!!!!」
カルロスが泣き叫ぶ。
空中に異次元の渦巻きのようなものが浮いている。
それは異次元ホールだ。
どうやら彼らは時空を超えてタイムスリップをして、空中に浮いている渦巻きが出口となり、そこから落下して尻餅をついたようだ。
数秒してその渦は消えてしまう。
彼らはすぐに状況を把握できなかった。
無理もない、さっきまで城外にいたのに瞬間的に見たこともない場所にいる上、水晶の力でタイムスリップしてしまったことが青年のように知っていないからだ。
「ここはどこだ?」
「どうしてこんな所にいるのかしら?」
「たしか水晶がいきなり光って……気がついたらここにいた。水晶が光った後の記憶がほとんどない。一瞬の出来事だったような長く眠りについていたような……自分でもなにを言ってるのか分からないのだが……」
ニーナが頷いている。
「一体どうなっているのだ? 光った水晶の効果によって僕ちゃんたちはここにいるというのか?」
「それより、まずはここがどこなのかをたしかめましょう?」
ニーナの提案により、カルロスとニーナは手分けして手掛かりになりそうなものを見つけるために探索した。
カルロスは城壁の左側を探索していたが、行き止まりだったので元の場所に戻ってきた。
すると、右側からニーナも戻ってきた。
「手掛かりになりそうなものはあったか? こっちは行き止まりだった」
「こっちに門があったわ。行ってみましょう」
ニーナについていくと、門があり、そこには一人の青い服装の兵士がいた。
「あっ、人がいる!!!」
ニーナは思わず声を張り上げた。
「ん? なんだお前、見ない顔だが。もしや敵軍か? ならばお前らを殺す!」
兵士は少々警戒気味だ。
「物騒だな。お前は僕ちゃんたちを勘違いしてないか?」
「なんだこの中年のおっさん。お前もこの女と一緒か」
「まぁ、そうだが、中年は余計だ」
「どこぞの奴らかは知らんが、なんかうぜぇ。死ね!」
兵士は言葉と同時に矢を放った。
カルロスは咄嗟に身をひねり、辛うじて矢を避ける。
「なっ! 避けた!?」
「危ねぇな!! もし刺さっていたら僕ちゃんの美貌が台無しになるところだったじゃねえか!!」
「ねぇ、ここがどこなのか教えて?」
「そんなことよりまずは答えろ! お前らは何者だ!?」
「僕ちゃんはスーパーエリートのカルロスだ」
「私は魔法使いのニーナよ」
カルロスとニーナは自己紹介をした。
「見たところ敵でもなさそうだ。お前もこないだの奴の仲間か?」
「こないだの奴? なんじゃそりゃ」
「まぁいい、また違うみたいだな。ここがどこなのか教えてやろう。ここは、ギブタウンだ」
「ギブタウン? 諦めてしまいそうな名前だな」
「ギブアップではない、ギブタウンだ」
「ちょっとカルロス! ギブタウンって言えば……」
すると遠くから響く声に遮られた。
「おーい、チェロス。会議があるから今すぐ来い」
「おう、今行くわ」
どうやら青い服装の兵士はチェロスという名前だそうだ。
「という訳だ。俺は仕事に戻る。じゃあな」
このままでは手掛かりが掴めないままだと察したカルロスは、声のする方へ進もうとしたチェロスを慌てて呼び止めた。
「ちょっと待て。僕ちゃんたちはどうなる? ずっとここにいる訳にもいかないだろ」
「わぁったよ。とりあえず城の中で待ってろ。俺も城の中に行くからついてこい」
カルロスたちはチェロスについて行った。
ある程度進むとチェロスはこう言う。
「城の中にいるなり外にいるなり勝手にしてろ。一応城の人間は事情を話しておく」
そう言い残し、急いで城の方へ進んでしまった。
追いかけて城の中に入ると、入口に受付があった。
チェロスの姿は既になくなっていて、かわりに緑色の髪の男がいた。
すると、緑色の男は気高く話しかけてきた。
「誰だ貴様は!」
「あいつ事情を話してくるんじゃなかったのかよ! 僕ちゃんはスーパーエリートのカルロスだが」
「カルロス? なんか聞き覚えのある名前だな……いやしかしさっさと帰れ! さもなくば貴様を殺す!」
緑髪の男はカルロスという名になにか引っかかりを覚えたが、それを確かめる余裕もなく、追い出そうと剣呑な態度をとった。
この城は近頃、敵軍の襲来が頻発しており、部外者を無条件で拒絶するよう徹底されていたのだ。
「さっき門にいた青い兵士、名前はたしかチュロス……」
「チェロスさんよ!」
「そうだ、チェロスって兵士にここの城に入る許可を貰ったんだけど、そいつが城の人に事情を話すって言っていたんだけど」
「ああ、チェロスはそんなこと言ってたな。しかし俺はあいつは信用していないんだ。あいつと組んでいるのなら死んでもらう」
「どういうことだ! 話が違うぞ!」
緑髪の男はチェロスのことを信用していないらしい。
そして緑髪の男は襲いかかってきた。
カルロスたちは死を覚悟したのか目をつぶる。
だが、なにも起きずに緑髪の男は途中で止まったようだ。
恐る恐る目を開けると、そこには立ち尽くし、震える緑髪の男の姿があった。
「ん? どうした?」
「もしかして……もしかしてあなたは父さん?」
「……お、お前は……カルネス!」
なんと、緑髪の男はカルロスの子供だった。
名前はカルネス。
カルネスはカルロスがすぐに気づくないほど、以前より老けていた。
カルネスはニーナとのやり取りなどを見て徐々に父親だと思った。
そして周囲を見渡せば、門や城壁、内装にどこか既視感がある。
かつて働いていた豪奢な城と似通った造り……そう、ここはギブタウン城に他ならなかった。
ニーナもまた薄々感づいていたようだ。
門でチェロスがギブタウンと口にしていた。
「ちょっと待って、訳が分からないよ。なんで父さん若返ったんだ?」
「お前こそ! 老けすぎだろ!」
カルロスが若返ったのではない。
過去からやってきたがゆえに、見た目が若いままなのだ。
そして逆に、未来で待っていたカルネスは年月を経て成長し、老け込んでいた。
カルロスは城の暦を見て愕然とした。
数十年の歳月が経っている。
ようやく自分たちが未来へ飛ばされてしまったのだと確信する。
その後、カルロスは水晶やタイムスリップのこと、青年のことなど、最近起きたことを事細かく話した。
「そういう事があったのか! もしかして……」
カルネスは城の奥に進み、しばらくすると戻ってきた」
「もしかして、これ?」
そう言いながらあの水晶を台車に乗せて運んできた。
「そう、これだ。きっとこれに吸い込まれたんだ! 早く僕ちゃんに寄越すのだ! おそらく、これに再度触れれば元の世界へ帰れるはず!」
カルロスはすぐにでもその水晶で過去に戻れると思った。
「なにもそこまで焦らなくても」
カルネスは軍手を使い、水晶を持ち上げ、台車から下ろそうとする。
「これって、意外と重いんだな。あっ!」
『ガシャンッ!!!』
次の瞬間、水晶が粉砕した。
カルネスが水晶を台車から下ろそうとした途中、手が滑って水晶を落としてしまったのだ。
「て、てめぇ! なにしてくれとるんじゃ!」
カルロスは顔を真っ赤にし、我が子に掴みかかろうとする。
「ちょっと! なにしてんの!」
ニーナが慌てて止めに入る。
「それはカルネスに言えよ!」
「カルネス君は悪気があって落としたんじゃない、許してあげたら? それにまだ帰れる希望は残っているんだから」
たしかに、砕けただけで完全に帰れないと決まったわけではない。
しかしその希望は一瞬にして失われた。
「無理だ……帰れん」
粉砕した欠片に手を差し伸べたのだが、全く反応しない。




