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第2話「青年の悲劇」

カルロスはギブタウン城の城主であり、地位や身分が高かった。

歳は中年……いやそれ以上だ。

見た目は年齢よりも若いが、魔法で顔を変えてもらったという噂もある。

城内では陰で老害と呼ばれ、憎んでいた者が多かった。

なぜなら彼は傲慢で、人を見下したり罵倒したりするのが日常茶飯事だったからだ。

それだけではなく、トップにもかかわらず、自分の仕事をロクにせずに、溜まった仕事を部下たちに丸投げして、当の本人は豪遊していたのだ。

部下たちは彼の言動や非道な仕打ちに耐えられずに辞職する者が多かった。


ニーナは気が強く、正義感のある魔女だった。

カルロスに唯一ハッキリと物申せる存在であり、彼の横暴な言動にもきちんと反論できる。

ギブタウン城において、彼女はなくてはならない存在だった。

カルロスの横暴を止めるのは、武器でも魔法でもない。

正義を掲げる彼女の声こそが、唯一の盾であった。

カルロスとニーナはしばしば対立したが、たいていはカルロスに原因があった。

あの傲慢なカルロスですら、ニーナの威厳には押されて黙ることがしばしばあった。


 ♢♦︎♢


「すまないが、君を連行する」


「なっ、なんですかいきなり!? 私はただ買い物をしにここへ!」


「うるせぇ! 黙ってろ!」


カルロスは強引に青年の腕を掴み、エレベーターに連れ込む。

そして最上階、廻縁と呼ばれる空間へ。


青年は怯えた声を震わせながら質問する。


「あのぉ……あ、あなたは? なにが目的ですか?」


「やあ♪ 僕ちゃんはカルロスという男さ ♪」


カルロスは城外の高欄に身を乗り出し、青年に語りかける。


「そしてこっちがニーナだ」


「ニーナよ」


「あ、はい……」


気弱な青年はこの状況を飲み込めていないらしく、顔を下げ、おどおどとしている。


「おい! 青いの!」


カルロスは大声を上げる。


少しの沈黙が流れた後、青年が口を開く。


「私……ですか?」


青年はおそるおそる顔を上げる。


「お前しかいないだろ!」


するとカルロスは眉間にシワを寄せて声のトーンを落とした。


「ってお前、遠くで見たら分からんかったがイケメンだな……気にくわん……」


青年の美形な顔を見て、明らかに不満げな表情を浮かべながら呪文のような言葉を唱え始めた。


 ♢♦︎♢


その様子を兵士が見ていた。


「なんだ? 見ない顔のやつを脅しているぞ。新人いじめか?」


「ったくよ…ロクに働きもしないのに悪事だけは働くからなあいつは。なにか悪巧みでもしてるんじゃないか?」


「カルロスの奴、胸倉を掴みやがったぞ!」


「あいつが手を出すだなんて別に珍しいことではないだろ」


「まぁ、いつものことだな。とはいえ、カルロスに目をつけられるとは気の毒なこった」


 ♢♦︎♢


「僕ちゃんはなぁ、イケメンが大嫌いなんだ! 僕ちゃんの隣にイケメンがいると、皆が僕ちゃんの美貌を見てくれないではないか! お前なんかこうだ! てい!!」


「え?」


その刹那、城全体に閃光が走り、青年は目が眩む。


「フッ……僕ちゃんの引き立て役になるがいい」


たしかにそう聞こえた。


数秒後、目を開けると、ニーナが絶句して青年を見つめていた。


城外にはクリスタル型の水晶が立て掛けてあり、鏡のように顔が反射されていたため、青年はそれを見た。

なんとひどく変形した顔が映っていた。

つまり今の閃光なにかにより、イケメンからブサイクになってしまったようだ。


「アンタこの子になにをしたの!?」


「へっ! オカイモキ魔法だ! 最近習得したのだ! いや~少し自信がなかったが、まさか成功するとはな! 練習した甲斐があったぜ!」


「そんなくだらない魔法をこの子にかける必要ってある!?」


「いつも言ってるだろう! 僕より顔の良い奴がいたら生きるのが辛くなるんだ。それで仕事のモチベーションも下がる。それだとてめぇも困るだろ?」


「そんなことしなくたってアンタ役に立ってないんだから変わんないわよ!」


「だから僕より顔の良い奴が現れたから、ひどい顔にしてやったまでだ! 文句あっか?」


「現れたとか言ってるけど、アンタがこの子を連れてきたんじゃない!」


「あのぅ……お取込み中失礼します。私、この顔でも別にいいですよ」


「えっ、どうして!?」


その言葉に、ニーナだけでなくカルロスまでも目を丸くした。

常人なら絶望する場面で、青年は妙な穏やかさを漂わせていたからだ。


「ほら~! 本人もそう言ってるだろ~」


「アンタは黙って! でもどうしてそんな顔でいいの?」


「今失業中で貧しい生活をしているんです。幼い息子と二人で暮らしていますが、毎日生き延びるのにやっとです。そんな中、顔がいいからか、無駄に女性はモテるんですが、変な女性に騙されて気づけばお金が減っていることが、何度かありました。それならいっそ、顔も悪いまま、息子とひっそりと暮らせたらいいなと思うこともあったんです」


「変にポジティブに考えないで! 絶対元の顔の方がかっこいいわよ! それに息子さんがあなたの変わり果てた顔面を見てどう思う?」


「ニーナ! 余計なことを言うな!(いや待てよ……これは使えるのでは……)」


「(カルロスの口元が緩んでる。間違いない、悪巧みをしている時の顔だ……)」


カルロスはいつものように悪巧みをする。

ニーナはそれをすぐに勘づく。

ニーナはこの顔に幾度となく騙されてきたからだ。


「息子か……たしかにそうですよね。やはりカルロスさん、可能であれば、顔を元に戻してほしいです」


「そうだよな、悪かった。謝る。許してくれ、この通りだ」


「いえ、いいんですよ。それでは、元の顔に戻してください」


「ああ、いいとも」


「ありがとうございます」


「(急に態度を変えた……怪しい……)」


「でもなぜ、お前がここに連れてこられたか分かるか?」


「い、いえ……よく分かりません……いきなりでしたから……」


「それはな、お前は今日から我が城で働いてもらうからだ」


「働くぅ?」


「ちょっと、カルロス! それ本気だったの!?」


ニーナの問いを、カルロスは無視した。


「そうだ。これから言うすべての仕事をやり終えたら、顔を元に戻してやる」


条件は容赦なかった。

カルロスは青年の顔を人質、いや顔質に体を酷使する仕事を次々と突きつける。

その仕事内容とは体を酷使するものであり、一筋縄ではいかないものが多かった。


「あのぉ……カルロスさんの目的は?」


「うるせぇ! てめぇはおとなしく僕ちゃんの言いなりになればいいんだよ!」


「ですが、目的意識がなければ……」


「だから黙れって言っとるだろうが! この時間がもったいない!」


カルロスは青年に殴りかかろうとした。


「はい……大変申し訳ございませんでした」


青年は謝ることしかできなかった。


「分かればいいんだよ、分かれば。仕事内容だが、大まかに言うと配達だ」


ギブタウン城の業務には、仕入れ・販売・製造・検品・事務・受付・配達などがあった。

青年はその中でも特に人手不足が深刻な配達課に回されることになった。

この部署は受注された商品を消費者へ届けることがメインの仕事である。

配達業務は想像を凌駕する厳しさで、前任が配達先で死亡するなど、かなり過酷な場所へ配達させられたらしい。

なぜならギブタウンは辺鄙な場所にあり、消費者へ商品を届けるには、海や山、砂漠に遺跡、果ては雪山から火山まで越えねばならない。

さらに道中には、凶暴なモンスターが多数生息しているのだ。

そのため、唯一カルロスがトップになってからも売上が落ちなかった。


「……という訳だが、頼んだよ新人くん」


「そんな危険な場所に行くの嫌ですよぉ…」


「僕ちゃんに歯向かうと言うのか! 僕ちゃんはなぁ、偉いんだぞ! スーパーエリートなんだぞ!」


「分かりましたよぉ……行けばいいんですよね……」


「分かればいいんだよ。なーに、心配するな。最初に行ってもらう場所は比較的生還率が高いからな」


「はぁ……」


「いいか? 死ぬなよ? そうなれば困るのは僕ちゃんだ。誰が後始末するってんだ」


「は、はい…」


「じゃ、健闘を祈る! 僕ちゃんはビールでも飲んで待ってるから、終わったら報告しちょ♪」


「はい……しかし配達っていつまでやるんですか?」


「ちっ、質問ばっかで動きやせんな。いいか? 僕ちゃんが溜めた仕事が終わったらだ! 始める前からつべこべ言わんではよ行ってきやがれ!」


カルロスは青年の背中を思い切り蹴った。

青年はよろけて前へと倒れ、その先にいたニーナに支えられた。


「ごめんね、こんなことになって……できる限りフォローするから」


「ありがとうございます……」


こうして青年は、ギブタウンの地獄の配達へと送り出された。

息子は町の施設へ、一時的に預けられることとなる。

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