第18話「偽りの影と崩れゆく橋」
「コピーの術!」
ラヴォスの叫びと同時に、空気がねじれ、揺らめく。
そこに立っていたのは、カルロスとニーナの分身だった。
「なに!?」
二人のクローンは、見た目や声色など本物と見分けがつかない。
「フッ……この日のために日々練習していたのだ。こいつはてめぇらのクローンだ。俺は帰る。これ以上ダメージを受けては困る。あとはこいつらに任せた。クローンよ、カルロスたちを倒してくれ。それともうじきこいつらの仲間がこちらへ向かっている。そいつも倒してくれ」
「分かった」
「了解したわ」
「いいか? 勝った気でいるなよ。またいつか軍事力を高めて復讐にくるからな。もしくはこのクローンに倒されてもいいぞ。どうせならこの手で仕留めてやりたいがな」
言い終えると、ラヴォスの姿は空間の裂け目に吸い込まれ、掻き消える。
その後、カルロスはは偽者のカルロスたちにニーナの横に縄で結いつけられる。
「クッソ! なんでこう、僕ちゃんは毎度のように縄で縛られるのだ」
「……カルロス」
「なんだ? 名前で呼ぶの珍しいじゃねぇか」
「かっこよかったわよ。ほんの少しだけ。いつもだらけてばかりのカルロスにこんな一面があったなんて」
「……」
カルロスは少々赤面する。
「だがな、もう終わりだ。奴はラヴォスといい、俺に復讐しにきた。ラヴォスには致命傷は与えることができたが、結局逃げられた挙句、僕ちゃんたちのクローンがつくられてしまった。そしてあいつは僕ちゃんたちの仲間がこちらへ近づいて来ていると言ったが、そいつはおそらく青年だ。仕事を終え、城外の扉の異変に気づき、こちらへやってきたのだろう。僕ちゃんの偽者と出くわしてみろ。あいつは戦える能力し、僕ちゃんみたいに武器もないだろう。だから確実に殺される。助けがこなければ僕ちゃんたちはあいつらに殺されるかまたはこのまま餓死するだろう。そしてラヴォスは治療でもして傷は回復し、再度ギブタウンを襲われ、殲滅されるだけだ」
偽者のカルロスたちは歩き始める。
「どこへ行く」
「いいことを聞いた。まずはこちらへ近づいてくる人物をやっつける。余裕ができたらこちらへ戻り、お前らにとどめを刺す。ラヴォス様はカルロスを倒した後もギブタウン城の乗っ取りか全壊を狙っている。そのためには邪魔者を排除しなければならない。行くぞニーナ」
「えぇ」
「待て! まずは僕ちゃんが相手だ!」
半分くらいまで進み、背を向きながら話す。
「死にかけの奴、ましてや身動きがとれない奴を相手してるのは時間の無駄だ。言っただろう。こんな奴は放っておいてもそのうち力尽きる。今の優先順位はこちらへやってくる傷を負っていない奴に二人掛かりで戦うのが先だ」
偽カルロスたちは青年の方へ向かっていく。
「クッソ……無事でいてくれ!」
残された二人は、ただ青年の無事を信じ、縄に縛られたまま祈るように待ち続けるしかなかった。
♢♦︎♢
一方、テイクタウン城では──
「違う! そうじゃないんだ! クローンよ……なにをしている……まずはあの宿敵……カルロスにとどめを刺せ……またあの時のように失敗するのかもしれないのだぞ……クッ……」
「ラヴォス様! 動かないでくだせぇ…俺っちがパパッと治療してやりやすんで!」
「おう助かるぞクルーよ……」
「ラヴォス様がこんなボロボロに……ラヴォス様のかわりに俺が出向きましょうか?」
「言っただろう、俺はこの手か魔術により奴を殺らないと気がすまない」
「ラヴォス様……」
「ミクロン……ここは下がってくれ」
「分かりました!」
「ああ、すまない……」
モニターを切り替えると、映し出されたのはクローンの視界だった。
「クローンはコピー元の性格にも依存し、少しの理性と本能が働いていて、操ろうにも操れまい。また、遠距離でコントロールするのは初めてだから難しいな。まずは縄で縛られているカルロスを倒すようにと念を送ったのだが、青髪の奴の方へ向かった。青髪の奴を倒して、一刻も早くカルロスの所へ戻ってくれればいいが……青髪の奴は父と同じ境遇で同情しちまうのだが、カルロスと手を組んでいるなら、悪いがくたばってもらうぞ」
♢♦︎♢
青年は一人の息子を育てながら宝石店で働いていた。
貧しい家庭で暮らしていることや、最近会社を辞めたくらいで、そこまで変哲のない人生を歩んできていた青年に突然悲劇が訪れる。
買い物帰りにギブタウン城の下を通りかかったところ、運悪くカルロスの餌食となり、精神が極限まで削られるほど酷使されたのだ。
青年はカルロスに押し付けられたミッションを制覇するという偉業を成し遂げ、城へと帰還した。
城に戻るとすぐさまある異変に気づく。
普段開いてない扉が壊されて開いていて、中はひんやりと、ジメジメしていたため、ただならぬ異変が起きていることは明らかであった。
そしてなにより、カルロスとニーナの姿がないことがそれを物語っていた。
多少の葛藤はあったが、意を決して中に入る。
すると先が見えない下り階段が待ち構えており、随分と階段を下ると、墓石がポツンと立った墓庭へ出た。
奥から聞き覚えのある声がした。
そう、忘れようとも忘れられない憎たらしいあの声だ。
「お疲れちゃん♪ どうやら全ての任務が終わったようだな。よくここまで頑張ったな。約束通り顔を元通りにしてやろう」
見た目や声はカルロスだ。
でもなぜだろう。
顔を戻してくれるはずなのに喜びという感情が生まれなかった。
いつもと変わらない声、いつもと同じ口調。
でもなぜだかいつもと違う。
この人物は危険だと第六感が告げた。
「だがその前に」
続けてニーナも来る。
「よく頑張ってくれたわね。さ、こっちに来てちょうだい」
ニーナにも違和感を覚える。
「あなたたち……カルロスさん、そしてニーナさんではないですね?」
「ああ! 我々は城の人間ではないのだ! 本物のカルロスとニーナはある場所に監禁している」
偽カルロスがあっさりと正体を明かす。
「なんだと?」
夢なのかと思った束の間、彼らが襲いかかってきた。
そして痛みが走り、現実だと理解する。
「だがな、そんなんはどうでもいい。まずは貴様に死んでもらう!」
「まずい、逃げろ!」
その後青年は偽者のカルロスとニーナに追い回されて、必死に洞窟内を走り回った。
かなり逃げ回った。
配達の疲れもあって限界を迎えようとしていた。
橋を渡った瞬間、地震が起きる。
「「うわああああああああああ!!」」
老朽化していた橋は崩れ落ち、追いすがっていた偽カルロスと偽ニーナは奈落へと消えた。
「ハァハァ……なんとか逃げ切った。配達のおかげで少しは鍛えられたから、体力も上がったのかな」
追い回されてたどり着いた所は、運良くカルロスが縛られている洞窟の奥地へと繋がっていた。
「カルロスさん!」
「おお!助けに来てくれたのか」
「よかった。本物だ。逃げ回ってたら、偽者のカルロスさんたちが橋から落ちました」
「ひょっとして今の地震で……」
「でもどうして奴らはカルロスさんたちに化けて私を襲ったのですか? 一体彼らは何者なんでしょうか?」
「まぁ、それはいいだろう。お前には分からないほうがいい。それより悪いんだが、まずは縄をほどいてくれ」
青年はカルロスとニーナの縄をほどく。
「ふぅ……やっと解放されたぜ。ありがとな。あ、そうだ!」
「なんでしょう?」
「今回の件も含め、今まで仕事を押し付けたり、いろいろなことに巻き込んですまんな」
「い、いいえ…そのおかげでいろいろと得られたこととかありましたから。たとえばさっき実感したのですが、体力が上がったり……」
「おお、そうか。さすがは僕ちゃんが見込んだてめぇだ。ただ、ミッションは相当きつかったろ」
「は、はい」
「それを乗り越えられたてめぇはなかなかの逸材だ。今後も僕ちゃんについてきてくれるよな?」
「いや、もうこりごりです」
「そうか……残念だ」
「それで正解よ。こんな男と関わらないほうがいいわよ。こいつの下で働いてる私が言うんだから間違いないわ」
「そんなこと言うな! 助けてやっただろ!」
「それとこれとは別よ! 結局は負けたわけだし、この子が助けに来なければ死んでたわよ!」
「う、うるせえ!」
「痴話喧嘩ですか?」
「「違う!」」
「それはそうと、仕事も片付き、ラヴォスも追い払ったことだ。今夜は祝福だ!」
「その前に顔を……」
「なんの話だ?」
「ちょっとカルロス!」
「冗談だ。イケメンな奴は嫌いだが、お前ならイケメンでも許してやろう。墓庭に行くぞ」
「墓庭?」
「あの空間はなぜか魔法の成功率が高くなったり、効果が上がったりするんだ。墓石の神秘的な効果があるとかないとか。だから普段からあの扉を施錠して、時々僕ちゃんはそこで魔法の練習をしているのだ」
「アンタ、魔法がもっと使えるようになっても、よからぬことにしか使わない気がするけどね。そうか、施錠しているってことはやっぱり人には見せられない魔法でも練習してるってことか」
「そんなわけないだろ! 勝手に納得すな! 施錠しているのは、一人だと集中して練習できるからだ! それと魔法の最中に邪魔が入ると失敗して、とんでもないことになりかねないからな。万一扉を施錠し忘れても、長ったらしい階段で引き返してくれるという寸法だ」
「ふーん……」
「なんだその目は!」
「いきなりこの子の顔を変えたくらいだからまだ信用できないのよね」
「もうしねぇわ! そんなに僕ちゃんを責めるな! 意外とピュアなんだからよ! とりあえず墓庭に行くぞ!」
そして一同は墓庭へ向う。な




