第17話「父親の復讐」
しばらくの間、ギブタウンは敵襲にあうことはなかった。
青年が奴隷にされたなどはあったが、カルロスたちにとっては比較的平和な日々が続いた。
ラヴォスは一度、突発的にカルロスを襲ったが失敗に終わった。
それからというもの、彼は表立って動くことはなく、しかし着実に軍を強化し、ギブタウン城の内情を探り、計画的な侵略を企てていた。
それは青年が最後の仕事に向かっていた頃の出来事である。
青年が出かけてしばらくした時のこと。
ニーナは販売データを整理し、後日のプレゼン用資料を黙々と作成していた。
一方のカルロスは、相変わらず酒を片手にふらふらとニーナの周りをうろつき、くだらない自慢話を繰り返していた。
「ったく、この城は僕ちゃんがあって成り立っているんだぞ」
「だから?」
「かわいくねぇなほんとお前は。ぐちぐち言ってねぇで僕ちゃんや城に貢献しろっつってんだよ」
ギブタウン城の城外はいつもの茶番が繰り広げられた。
「上司が仕事してないから、見本にならないわ」
「昔はめっちゃ働いてたがな」
「今は?」
「だから昔はちゃんとだな……」
「今はって聞いてるの!」
「何人か逮捕へ導いた」
「仕事に直接関係ないことばかりじゃない。上司が出来損ないなら部下もそうなってもおかしくないと思うけど。だいたい、こんな城とっとと辞めてもいいのだけど。てか仕事の邪魔だしどっか行ってくれる?」
「うるせぇ……てめぇいい加減にしろ……もういい! てめぇと話してるとストレスが溜まる! ゲーセン行ってくる!」
「さっき行ったばかりじゃない!」
「うるせぇ! てめぇがどっか行けって言ったんじゃねえか! それにさっきの負け方納得いかなかったんだ!」
そこでは酒を片手にスロットを回し、ゲームに興じながら豪遊を始める。
そんな時──
『ドォォォォン!!!!』
突如、城を震わせる爆発音が響き渡り、壁の石が砕け散った。
粉塵が舞い、火花が飛び散る。
『ピカーーー!!!!』
そして閃光が走る。
「ん? 何事だ?」
閃光によりカルロスたちの目が眩む。
「なんなんだ一体!?」
「キャーーー!!」
「ニーナ!?」
「助けてぇぇぇぇ!!!」
「クソ! この台いい感じだったのに!」
呑気な言葉を吐き捨てながらも、カルロスは慌ててニーナのもとへ駆け寄った。
床には書類が散らばり、椅子が倒れているだけでそこにはすでに彼女の姿はなかった。
「ニーナ! どこだ!」
声を張り上げるが、返事はない。
ふと視線を巡らせたカルロスは、普段なら堅く施錠されている頑丈な扉が無理やりこじ開けられていることに気づく。
「とにかくみんなに報告せねば」
ニーナが消えたことを告げようと城のエントランスにドタドタと向かう。
「メグ! リリア! マヤ! ニーナが攫われた!」
「そんな嘘で私を動揺させるつもり? アンタの嘘には飽き飽きしたわ」
「どうせまた悪巧みかなにかでしょ」
「さっきの爆破音とかは聞こえただろ? その後ニーナが……」
「はいはい、そういうのいいから出てってちょうだい。また面倒なことに巻き込まれたくないから」
「ダメだこいつら。もう僕ちゃんでなんとかするしかない!」
爆発音は防音壁に遮られていたのか、ここまで届いていなかったらしい。
そして日頃の素行の悪さもあって、誰一人として本気にしてくれない。
カルロスは仕方なく単独行動を決意した。
「くそったれ! 誰かに連れ去られたことは間違いねぇ! 扉をこじ開けた形跡がある! 犯人とニーナはおそらくこの扉の先だ! ちんたらしている暇はない! 追いかけよう! ただ、こんな短時間であのニーナを連れ去り、さらにこの頑丈な扉を破壊したのだからただ者じゃねぇな…」
カルロスは扉に入り、長い階段を駆け下りている間、ニーナの入社直後から数日間の台詞を思い出す。
初めまして、今日からここで働かせていただくニーナと申します。
たくさんのご迷惑をおかけしますが、一日でも早く戦力になれるよう精一杯頑張りますので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
カルロスさん……なんだか思ったより頼りない方ですね。
そんなので仕事が務まるのですか?
役に立たない上司ね。
アンタはどれだけ自分勝手なのかしら?
「それでもニーナは僕ちゃんについてきてくれた。お前がいるからこの城は成り立ってる。大事な部下を見捨てるわけには行かない! 待ってろ、ニーナ、今助けに行くからな!」
カルロスは普段の行いで失った信用を、せめて取り戻したいという打算と混ざった感情であることに気づかない。
「それにしても奴の目的はなんだ? 怨みを買うような奴はいないはずだ。スーパーエリートな僕ちゃんを目につけ、金目的の犯行か? それとも別の目的で……いずれにせよ、ニーナを連れさらったのは許せない。早くそのツラを拝んでやるよ」
吐き捨てるように言葉を残し、カルロスは墓庭を駆け抜けていく。
やがて辿り着いたのは暗く湿った洞穴。
そこは東の洞窟の深部へと繋がっていた。
かつてカルロスが縄で縛られ、屈辱を味わった因縁の場所である。
ちなみに東の洞窟の正規の入口は別の場所にある。
♢♦︎♢
数時間前、テイクタウン城ではラヴォスが計画を立てていた。
「ギブタウンのニーナという奴を攫う!」
「なぜでしょう?」
「ギブタウンの脳内監視データを見ていたが、奴らは仲が悪いがよく引っ付いている。なんだかんだニーナはカルロスのせいで仕事が進まないことが心配なようだ。ニーナの姿がいなければ、奴は探し出すに違いない」
「了解です。では攫うのは、ラヴォス様にお願いします。あとは作戦通りですね」
「ああ、作戦がまとまったことだし、例の時間になったら襲来といくか。まずはギブタウン城の爆破だったな」
♢♦︎♢
「ここは?」
ニーナは意識を取り戻すと、以前のカルロス同様、東の洞窟の深部の同じ所に縄で縛られていた。
「ようやく気づいたようだな」
「あなたは?」
「俺か? 俺はな……」
そこへカルロスが来る。
「やはり餌で釣ったらおびき寄せることができたか。憎き男カルロスよ」
「お前は、あの時のマヌケじゃねえか」
「ちょっと! カルロス! どういうこと!?」
「俺はてめぇのことが憎たらしくてしょうがない。父親を殺されただけではなく、俺に恥をかかせやがって!ようやく、ようやくだ!復讐の時が来たのだ! ただてめぇを真っ先に殺すだけでは面白くない」
「父親を殺すって一体!?」
「ニーナは黙ってろ!」
「……」
「ほほう、だからニーナを」
「ああ、まずはこの女を殺し、てめぇを悲しませ、最終的にはてめぇも殺す! それで前回のような失敗はしないためにも、すぐに地獄に送ってやるよ」
「ちょっと! なんで私がアンタのせいで殺されないといけないのよ! そんなの黙ってられないでしょ!」
「言っておくが、僕ちゃんにとっちゃその女、別にどうでもいい。たいした価値のないクソ女だ」
「は? そうなのか? ではなぜ助けに来た!」
「人を助けるのに理由なんざいるか?」
「カルロス……」
「クッソ……殺人犯の言うセリフかよ!」
「ニーナ、なにがなんでもお前を助けるからな。城主としての使命でもある」
「フッ……まぁよい。度胸はあるようだな。前回はてめぇを逃したが、今回はそうはいかねぇ…勝負だ!」
「望むところだ……ん? ぐほぉっ!」
カルロスはラヴォスが戦闘態勢を取る前に、常備していた小型ミサイルでラヴォス腹部を貫く。
「やったぜ!」
ラヴォスは重傷を負う。
「飛び道具で攻撃とは小癪なまねを……己の力で戦おうとしないのか……」
「フン……勝ちゃいいんだよ勝ちゃあ! バーカ! さぁ、観念しろ!」
「クックックッ……ハッハッハッ!!!」
「なにがおかしい?!」
「コピーの術!」
そこにはカルロスとニーナの分身が現れた。




