第16話「甘党な悪党」
チェロスがテイクタウン城へ来る前の話である。
「どうだったか?」
「さすがラヴォス様! いいコピーっぷりでした!」
ラヴォスは試運転を経て、コピーの術を体得した。
コピーの術は一種の影分身のようなものだ。
それをミクロンの前で披露する。
「しかしながら、奴をどうやって引き付けるのですかい?」
「ギブタウンのニーナという奴をさらう!」
「なぜでしょう?」
「ギブタウンの脳内監視データを見ていたが、奴らは仲が悪いがよく引っ付いている。ニーナの姿がいなければ、奴は探し出すに違いない」
数日後、ギブタウン周辺一帯に黒い霧が包まれることとなる。
♢♦︎♢
ラヴォスはカルロスを強く憎んでいた。
カルロスを恨む理由、それは数年前、カルロスは尊敬していたラヴォスの父親を奴隷にし、最終的に自殺に追い込んだからだ。
ラヴォスの恨みの念は数年経っても消えず、年々強まる一方だった。
ラヴォスは父親の死から数年後、ある程度軍事訓練を積んだが、敵軍内情調査は完璧ではない頃、憎しみに支配されたラヴォスは突発的にカルロスを倒すことを決断する。
『金やごちそうを用意する。場所は東の洞窟の深部で今日の正午集合だ』
「おい、誰だ! どんなアホでも罠と分かる文章を作ったのは!」
「俺っちでっせ!」
「やはり貴様か! クルー!」
ラヴォスはカルロスへの復讐のため、部下にカルロスを誘き寄せる手紙を作成するように命じていた。
クルーは手紙をカルロス家の郵便受けに投函した。
「オーソドックスな文章かと!」
「どこがだ! こんな文章で来るわけが! もう約束の時間だが、奴はいないだろ。やはりもっと計画的を練って行動すべきだったか」
「あ、でも見てくやせぇ! 東の洞窟に仕掛けた監視カメラの映像にそれらしき人物が映り込んできやすぜ!」
「あれは、カルロスだ! こいつ頭のネジが外れてんじゃねぇか? 相当なバカなのか? 腹が減ってるのか? いや腹が減ってるにしても……ともかくなんか知らんけどでかしたぞ! とりあえず洞窟にワープする! 貴様は留守番してろ!」
「了解でヤンス!」
ラヴォスは東の洞窟のカルロスが誘き寄せられた所へ移動する。
♢♦︎♢
「よう、久しぶりだな」
その瞳には憎悪の炎が宿っている。
「誰だ!?」
「俺が誰だか覚えてないのか」
「ま、まさか! 借金取か?」
「ちげぇよ! 昔奴隷にしてる奴はいなかったか?」
「もしや僕ちゃんが奴隷にしていた……」
「だからそう言ってんだろ! ようやく思い出したようだな! 数年前、アンタが奴隷にしてた男がいただろ。俺はその子供だ! 父親を死に追いやった復讐をしにきた!」
「ああ、なんか自殺したとか言ってたっけ。なにを今更。お前なんかがスーパーエリートの僕ちゃんに勝てるわけないだろ」
「いいだろ、ならば勝負だ!」
だが、戦力は圧倒的だった。
ラヴォスの拳が容赦なく叩き込まれ、カルロスは抵抗する間もなく岩壁に叩きつけられる。
数発の蹴りが追い打ちとなり、ついには縄で縛られ身動きが取れなくなった。
「クソッ!」
「こんな罠に引っかかるバカを憎しみ、父親は自殺したと思うと余計に腹立たしいな。そうとなればここで素直に殺すのは少々もったいないな。痛みつけてじわじわと殺してやろう。しばらくここでじっとしてろ。ここには人は来やせんだろ。後でたっぷりと調理してやるからな」
「おい! 待て!」
カルロスの絶叫も虚しく、ラヴォスは姿を消した。
洞窟には縄で縛られたカルロスの荒い息遣いだけが残る。
♢♦︎♢
「おい、夢見の術(監視カメラ)で視てみろよ」
「おおーっ! 見事に縄でぐるぐるの刑にされてますねぇ!」
「フフフ……ハハハハハハハ!!」
「でも早く殺さなくていいんですかい? 助けでもきたら……」
「こんな僻地に人など来ねぇよ! 奴は一瞬で息の根を止めるより、じわじわと痛みつけて殺したいからな」
「た、たしかにあっけなく死んじまったらつまんないっスからね」
♢♦︎♢
数時間にわたり、ラヴォスはテイクタウンのギルドで、酒を酌み交わしながら、カルロスの悪口などを語った。
「噂には聞いてましたが、奴はそこまでクズとは……」
「そろそろ奴を仕留めに行かなくていいんですかい?」
「そうだな。息の根を止めに行くか」
ラヴォスは監視カメラのモニターを確認する。
「まだマヌケな顔して縄で縛られているな」
そして洞窟へ移動する。
「よう。待たせたな」
「うわぁぁ! 来るな!!」
ラヴォスがカルロスの所に向かってゆっくりと歩いていく。
カルロスの近くまで来たら、テイクタウン城の兵士が魔法でラヴォスの脳内に直接囁く。
「ボス、ちょっと来てください」
「チッ、今いいとこだっちゅーのによ!」
ラヴォスは舌打ちをして、渋々テイクタウン城へ戻る。
「なんだいい時に!」
「ラヴォス様の大好きなストロベリーチョコケーキが入荷しました!」
「そんな事で脳内無線で呼びつけるな!」
「入荷次第すぐ報告するように言われておりましたので、ご連絡いたしました…」
「たしかにそう言ったが、こんなタイミングで声かけてくる奴がいるか! それもバカ! みんなの前で言うな!」
「ラ、ラヴォス様、意外と甘党なんスね…」
「ストロベリーって……ただのチョコケーキじゃ満足できないんですかい……」
クルーとミクロンは驚きつつ、苦笑いをしている。
「お前らうるせぇ! 悪かったな!! まぁ、食べるけどな!!!」
ラヴォスは苛立ちを誤魔化すように、ケーキを勢いよく口へ運んだ。
その間、クルーは仕方なく監視カメラを眺めていたがそこで異変に気づく。
「ちょちょちょちょ! ラヴォス様! モニター見てください! カルロスの姿がありませんがぁぁぁ!」
「なんだと!!!!」
ラヴォスは血相を変え、即座に洞窟へ移動した。
「クッソ! 逃げやがった! おのれ……許さん……」
洞窟内を探し回るも、すでに気配はない。
焦りと怒りがないまぜになり、ラヴォスは仕方なく城へ戻った。
「クッソ! 逃げやがった!! でもなんで逃げられたんだ? 知ってる野郎はいるか?」
「夢見の術で映像を視ていましたが、緑の髪の少年が現れて縄をほどいていました」
クルーより前に視ていた兵士が言う。
兵士は言う。
「貴様! 見てたんならなぜそん時に言わん!」
「ひぇぇぇぇ! すんません! ラヴォス様がおいしそうにケーキを召し上がられていましたので、声かけて食事を妨害するのはいかがなものと!」
「貴様! 臨機応変ってもんがあんだろ! クッソ! いつか復讐してやる! それも、今度はしっかりと計画を練ってからだ! それと緑の髪の奴とは一体何者なのだ。徹底的に調べる必要があるな!」
ラヴォスは机に向かい、荒々しく日記を書き殴った。
怒りと憎しみと甘ったるいケーキの余韻が混ざり合った、歪んだ記録であった。
俺はカルロスを倒せるなら、どんな手段を使っても構わない。
もう一度、同じようにカルロスを襲撃しに行ってもいいが、さすがに奴もそこまでアホではないだろう。次に俺がやって来ることを警戒して、軍も強化されているに違いない。
ならば、こちらも軍を作り、奴の城を征服するまでだ。
あと調査によるとカルロスを助けたのはカルネスというおそらくカルロスの子供だ。そいつも許さない。
♢♦︎♢
そう、カルロスを助けた少年とはカルネスである。
幼少の時のカルネスはカルロスを危機から救った。
その日の朝のこと。
「手紙が届いたぞ、なんだこれ? はい、父さん」
カルロス家のポストになにやら怪しげな手紙が届いていた。
内容は書き出し人不明で、内容は金やごちそうを用意するから指定の時間にその場所へ来いというものだった。
「どれどれ? 金やごちそうだと? これは行くしかないだろ」
「父さん、どこへ行くの?」
「いや、どこにも行かん。金やごちそうを用意してくれるとかいうんでギブタウン周辺にある東の洞窟の深部へは行かんからな」
その日の夜、なかなか帰ってこない父さんを心配して、俺は子供ながら、父さんが行きそうな場所をいくつか回る。
しかし、ギブタウン城やその近辺をしばらく探しても見つからなかった。
俺は今朝の父親の言葉を思い出す。
「いや、どこにも行かん。金やごちそうを用意してくれるとかいうんでギブタウン周辺にある東の洞窟の深部へは行かんからな」
「そういや父さん、朝にギブタウン周辺の洞窟がなんとかと口を滑らせていたよな……ギブタウン周辺の洞窟というとここか……」
俺は東の洞窟に入り、奥地までたどり着くと縄で縛られたカルロスの姿があった。
「あ、あれは父さん……なんで縄に……誰かいる!」
影の奥にはカルロスとラヴォスがいた。
カルネスは息を潜め、岩陰に身を隠す。
数分後、ラヴォスは姿を消したため、カルネスはカルロスへと駆け寄った。
「父さん!」
「カ、カルネス……なぜここが……助けに来てくれたのか……ただ敵に見つかったらただじゃすまないぞ。父さんは放っといて帰るんだ!」
「いやだ! 父さんを助ける!」
「気持ちはすごい嬉しいが、これは父さんの問題だ。お前には迷惑をかけたくない。手強いし勘の鋭い敵のことだ。お前が助けたところですぐにまた捕まり、始末されるだろう。それに僕ちゃんだけではなく、僕ちゃんを助けたお前も標的にするかもしれない。さあ、敵が戻ってくる前に帰るのだ!」
それでもカルネスは縄をほどこうとする
「バカ! 父さんの声が聞こえないのか? 早く帰れ!」
「やっぱり父さんを見過ごすわけにはいかないよ。このまま敵が戻ってきてもこんな姿の父さんに勝機はない。このまま死を待つより、とりあえず逃げてから助かる方法を考えればいい」
「…………うむ、そうだな。カルネス、賢くなったな」
「そのかわり、あの城はいずれ僕が引き継ぐからね!」
「よかろう。このまま成長し、僕ちゃんが認めたらな」
俺はカルロスの縄をほどき、無我夢中でその場から逃げ切る。
それはラヴォスがケーキに夢中になっている間の出来事だった。




