第14話「カルロスの事件簿3」
数時間前、キャロルとクルーはラヴォス軍に貢献するため、町の支配を目論んでいた。
「ちっせぇ町だな……ここを侵略する価値はあるか?」
キャロルは町を見渡しながら呟いた。
「ま、ちっちゃいから、金目の物とかはそんなに期待はできやせんが、リスクはそれなりに少ないんじゃねぇっスか?」
「そうだな。てめぇにしちゃ、いい発言したな」
「一言余計ッスよ…」
そして町人の前でキャロルは叫ぶ。
「おい、てめぇら! 俺らに殺されたくなかったらおとなしく言うことを聞け!」
「そうでヤンス!」
「うわーーーー! ヤバそうな奴が来たぞ!」
「逃げろーーー!!」
町の住民はどこかへ行こうとする。
「おい、クルー、行け!」
「了解でヤンス!」
クルーは華麗な手さばきにより、逃げたものを残らず殺害した。
そして死者の懐から金目のものを盗み、キャロルの元へと戻る。
♢♦︎♢
小さな町に突然の悲劇が訪れ、小さい町ながらかつての賑わいは消え去った。
静寂だけが残り、町に残った人数はわずか三人。
近くで冷酷な目つきでキャロルを見つめる男、遠くで怯えるサラリーマン風の男、そして家の陰に隠れ怯える少女。
「あれェ? 俺んことは殺らねェのか?」
近くにいる男が喋る。
「……」
「……」
「……」
「目を一度も逸らさなかった」
「(すごいでヤンス。鋭い目つきのキャロルさんに睨まれて一度も目を逸らしていない)」
「てめぇ、俺らの仲間になりたいとう願望はあるか?」
「こんな人里離れた小せェ町にいつまでもいても退屈だったと思っていたところだ。それよりかはマシだな。殺しでもなんでもやるぞ。俺はスリルを味わいたいんだ」
男は少しも迷わず答えた。
「そんじゃあ腕試しにあそこに隠れてる女を殺せ」
「了解だ」
キャロルが指さしたのは、十代に届くかどうかの少女。
恐怖に支配され、涙に濡れた頬は泥で汚れている。
男はずしずしと重い足音を響かせて近づき、躊躇なく包丁を突き立てた。
短い悲鳴が上がり、すぐに消えた。
少女の体は力なく崩れ落ち、静寂だけが残る。
男は血のついた刃を拭いもせず、少女の懐から金目の物を抜き取った。
そして当たり前のように、それをキャロルへ差し出す。
「我々はラヴォス様の最終目的を果たすために、資金調達もしているのだ。それがよく分かっているようだな。ならば次は宝石でも強奪してこい!」
「なんだかよく分からねェが、俺はそのラヴォス様とやらに仕えるってことなんだな」
「いいだろう。行ってくる」
「ああ、よろしく頼むぞ。てめぇ、名はなんだ?」
男は歩き出し、数歩進んだところで立ち止まった。
背を向けたまま低く呟く。
「ジーズだ」
ジーズは宝石強盗をするために宝石店へ向かった。
そこは青年が務めていた宝石店だ。
「よさげな新人が入りましたね! 少々気障りなところがありますけど」
「ああ、てめぇよりよっぽど使えそうな奴になりそうだな」
「そんなこと言わなくてもいいじゃないですかぁ!」
「フン」
「あれ、あいつは?」
そこにはこちらを遠くで見つめる気弱そうな中年のサラリーマンがいた。
キャロルはそのサラリーマンの元へとゆっくり向かう。
サラリーマンは足をすくんでその場から動くことはできなかった。
「おい、そこのおっさん!」
「……は……はい……………」
「なぜ、さっき逃げなかった。横で女が殺されてたろ」
「…………こ……こ……怖くて…………………」
「フッ……そうか」
「は、はい………」
「なにやってるんスか! そんな邪魔くさい男なんて早く殺っちゃってくださいよ!」
「クルー、黙れ!」
「クッ……」
「おい、おっさん!」
「ひぇッ! なんでしょう?」
「殺されるか金を払うか、選べ」
「う、うちは貧乏で……で、でも殺されたくない……」
「そんな価値のない人間で、金もないのならやはり殺るぞ」
「ま、待ってください!! 私の家族から金を奪います!! それで勘弁してもらえないでしょうか!?」
「微々たる額であると思うがそれでいいだろう。念のため、てめぇの家族全員殺しておけ。手段は厭わない。ただ、大事にはするな。命拾いしたな」
「分かりました……」
「もし未遂になった場合や、捕まった場合のテキトーな動機を今の内に考えておけ。そして我々のことは一切口外するな」
サラリーマンの顔は蒼白に染まり、膝は崩れそうに震えていた。
彼は不幸にも出張で立ち寄っただけの町で最悪の悲劇に呑み込まれてしまったのだ。
その男こそ、カルロスが後に訪れる家の父親であった。
♢♦︎♢
次の日、サラリーマンはキャロルの命令を果たそうと、まず車で轢殺を試みたが、それは失敗に終わる。
その後、例の仕掛けを作り、職場に向かうフリをする。
妻と子を殺そうとしたが、カルロスに仕掛けを見破られた。
それを木陰から見ていたサラリーマンは自らの手で矢を放ったが失敗。
その後、逃走したが、カルロスに捕まった。
カルロスがサラリーマンを逮捕へと導いている一方、キャロルとクルーは小さな町から離れた。
カルロスはジーズを逮捕へと導いた後はこの場所に来て、偶然町を侵略後のキャロルたちに出会ったということだ。
♢♦︎♢
「奴はどんな容姿だったのだ? 金髪でとにかく憎々しいおっさん?」
「(金髪……それに宝石……逮捕……まさか……)」
「なんだと!? あのサラリーマンも捕まった!? それもその金髪の男の仕業か!」
「(サラリーマン……まさか僕ちゃんが捕まえたあの家族の父親か!)」
「ただ、ラヴォス様にバレたら恥だ。絶対にラヴォス様に報告するのではないぞ、クルーよ。フリじゃないからな」
カルロスが捕まえたサラリーマン、そして森で捕まえた宝石強盗(コードネーム:ジーズ)はラヴォスの部下のキャロルに捕まっていた。
「(謎のおっさんや金髪のおっさんという呼ばれ方は気にくわないが、奴らの野望を阻止できたのは我ながらあっぱれだな)」
「その金髪のおっさんめ……触れてはいけないものに触れてしまうとは愚かな奴だ! 今すぐ金髪のおっさんを見つけ出せ! と、言いたいところだが、今はそんな悠長なこと言ってられん。それに奴はジーズやサラリーマンが俺らにより動かされたことは知らぬだろうから今は放っておいて問題ないだろう。ジーズたちには俺らのことを口外するなと言っておいたからな」
「(いや……盗み聞きしちまったから、全部知ちゃったんだよな)」
「それとラヴォス様への報告はまだだ。こんな失態を演じて帰れねぇよ。今時点で帰って報告すると、俺たちの立場がない。俺がなんとかするからてめぇは城で待機してろ。本来ならこの時間に俺とお前で城に戻るスケジュールでいたから、ラヴォス様になにか聞かれたら長引いてるとか理由をつけとけ。ラヴォス様は計画通りに動かない奴は平気で切るから、そうならんように頼む。それじゃあよろしくな」
彼は電話を切り、ギブタウン周辺の町へと向かって行く。
カルロスはずっと尾行をし続けていた。
「(こいつ……とんでもねぇ奴だな……)」
いや、尾行を続けるアンタも十分とんでもない。
だがカルロスに言わせれば、これは任務の一環らしい。
「(こいつは僕ちゃんの手でお仕置きをする必要があるな。奴が目的を果たして、浮かれている時に攻撃するとしよう)」
彼はラヴォス様への報告を恐れ、このままでは帰れないと判断したのかまた別の場所へと移動する。
ウッドタウンとボルタウンはめぼしい物はなかったのか、多少の町の破壊や荒事を行った。
程なくして、彼はある遺跡へとやってきた。
サハラタウンだ。
彼はサハラタウン在住のダニエルと話していた。
「耳寄りな情報を教えてあげるわ。実はこの周辺で金塊が眠っているそうよォ」
「それは、たしかなのか?」
キャロルは金目のものを狙って、様々な町に現れたのである。
なぜなら、ジーズとサラリーマンの失敗があるので、他の案件で業績を上げる、いわゆる汚名返上をして、長引いたとしても失敗の件を大目に見てもらうという魂胆だった。多少ラヴォスに叱られることを承知の上で。ようやく金目のものがありそうな町へたどり着いたので、金目的で町の男性に声をかけた。
「ええ、って、あらぁ、あなた、案外いい男ねェ」
「………」
「ごめーん、金塊のことよねェ? あたしもよく分からないんだけどぉ、この先の砂漠地帯に埋まってるんじゃないか、って囁かれているのよ。それに人から聞いた噂だから真偽のほどは分からないんだけどぉ……少しは知ってることあるから話すわ」
さらに詳しい情報を聞き出す。
「なるほどな……そこを掘れば金塊が出てくると」
「まぁ、あくまでも噂だけどねぇ。はぁい、情報提供したってことで、あたしとキスしてちょうだい!」
「勘弁してくれ……」
♢♦︎♢
ダニエルに特定の場所を掘ると大量の金塊が出てくるかもしれないという情報を聞き、キャロルは砂漠地帯のその場所にたどり着き、金塊を巡って何時間か掘り続けていた。
「ちくしょう、どこまで執念深い奴だ。こんなあっちぃ中、よく地味な作業ができるな……」
カルロスは木陰からその姿を眺め、さすがに呆れていた。
これ以上付き合うのもバカらしい。
「こんなの付き合ってられん。撤収だ。かーえろ。ん? 帰る? どこにだ? そういや……」
ようやく、本業を思い出す。
頭の隅にもなかった配達業務のことが脳裏を駆け巡った。
ニーナに説教された記憶、溜まっている荷物の山など、忘れたいはずの現実が頭をよぎった。
「嫌なもん思い出しちゃったぜ。またあのおつぼねに会うのも億劫だな。ま、配達業務はどうせあいつがやってくれてるだろうからここはのんびりと城へ戻るか……」
カルロスが踵を返した、その瞬間……
『ブッ……ベベベッ』
乾いた砂漠に、不釣り合いすぎる破裂音が響き渡った。
堂々たる音色、それでいて明らかに間抜け。
よりによってこのタイミングで、カルロスのオナラが大暴れしてしまったのだ。




