第12話「カルロスの事件簿1」
ギブタウン城は、かつて様々なサービスを提供し、栄華を誇っていた。
だが、城主カルロスの怠慢とハラスメントが原因で、役員たちは次々に辞職し、城の経営は壊滅的な状況へと追い込まれていた。
カルロスは減員した人員を補おうと新しい人材を採用しようと試みるが、ことごとく失敗。
そこで彼は卑怯な手口を使い、無関係な一般の青年を巧妙に操り、奴隷のような形で働かせる。
青年は仕事をみるみるうちにカルロスが放置していた案件を片付けていった。
♢♦︎♢
青年がやってくる数ヶ月前のこと。
カルロスは普段からろくに働かず、ただひたすら城でくつろいでいた。
部下でありながら威厳があるニーナはカルロスにこう言った。
「だらけてないで少しは人の役に立つようなことしたらどうなの?」
カルロスは渋々、近くにあるボンビー村へと足を運び、困っていそうな人を探し始めた。
「ったく……なーんで上司の僕ちゃんが部下に従わないとならんのだ。あいつ威圧的でちょっちビビっちまったじゃねぇか」
愚痴をこぼしながら歩いていると、一人でうろつく幼い少年を見つける。
「おい! てめぇなんか困ってねぇか?」
「ひぇ!?」
「おいおい、そんなに驚かなくてもいいだろ。僕ちゃんはスーパーエリートのカルロスだ」
「ふぇぇぇぇん!!」
声を掛けてみたものの少年は怯え、泣き出すばかり。
「人の顔見て泣くなよ。これだから餓鬼は情緒不安定で嫌いなのだ。まぁよい、キッズ一人で外いてなんかあったのか? 親はどうした?」
「そ、それが……おじいちゃん……助けて……」
「誰がおじいちゃんだ! 失礼な奴だ! それに話が通じない! 僕ちゃんは帰るぞ! ニーナには人助けをしたということにしておこう! なにも本当に助けなくても嘘つけばいいのだからな!」
「待って!」
「悪いが、お前には用無しだ」
「お母さんとお父さんが命を狙われているの……」
「なんだと?」
話を聞くうちに母親が何度も命を狙われているという不穏な事実が浮かび上がった。
「三日ほど前から始まってるんだけど、まずお母さんが買い物の帰宅途中に車に轢かれそうになったんだ」
「そんなの運転手の不注意かなんかだろ」
「いや、その後もお母さんが何回か殺されそうになったんだ……」
「あらどうしたの? なにその人?」
話していると、その子の母親が買い物から帰ってきた。
「危ないから家に入りなさい」
「……分かった。家ここだからバイバイ、おじいちゃん」
母親が帰宅した瞬間、仕掛けられた罠が作動し、矢が放たれる。
間一髪で直撃は免れたが、明らかに悪意ある襲撃だった。
「いやあああああああ!」
カルロスは被害者の家に招き入れられ、事情を聴く。
扉と木に糸を張り巡らし、開けた瞬間に矢が飛ぶ仕掛けのようであり、壁には矢の痕が幾つも残っていた。
どうやら何度も試し撃ちが行われていたらしい。
「まただ……殺される……」
「そういやさっきアンタの父親も命を狙われているって言ってたが、どこにいるんだ?」
「仕事よ。見ての通り貧乏だから、こんな状況でも一日でも仕事を休んだら食費だってないわ」
「これが貧富の差というものか。いつ命が終わるかも分からないのに大変な奴だな。で、父親も実際に被害に遭うところは見たのか?」
「いえ、目撃はしてないけど……」
「ならもういいじゃん。そろそろいいか?僕ちゃん帰らせてもらうぞ」
「なんも解決できてないじゃない! お願いだから犯人を見つけてください!」
「僕ちゃんは仕事で忙しいんだ。悪いが構ってられん」
カルロスが家を出ると矢が飛んできて、頬にかすり傷ができる。
「ウギャーーーーー!!!!」
なんと、扉の前に犯人が来ていて、カルロスめがけてクロスボウを使い、矢を飛ばしたのである。
犯人はすぐに逃亡した。
「おのれ……僕ちゃんの美形なお顔に傷をつけやがって!」
自分の身に被害が及んだ途端、驚くべき機敏さで犯人を追い詰め、ものの数分で捕らえてしまった。
「捕まえたぞ! クソ野郎! よくも僕ちゃんの美形なお顔に傷つけやがったな!」
そしてその正体はなんと家族の父親であった。
「あなた……なんでこんなこと……」
母親と子供はショックで立ち直れなかった。
生活苦に追い詰められた父親は、家族をも標的にしようとしていた。
母親と子供は信じられぬ裏切りに泣き崩れ、父は逮捕される。
「金絡みの殺人未遂か。大富豪の僕ちゃんには微塵も共感ができない事件だったな」
カルロスは自慢げに鼻歌交じりで城に帰ってきた。
♢♦︎♢
「おう、帰ったぞ」
「カルロス! ちょっと来なさい!」
そこには鬼の形相をしたニーナが待ち構えていた。
「(お前はこの間入社したばかりなのに上司に偉そうな口聞いてんじゃねえよ)」
「ねぇカルロス。今、お前はこの間入社したばかりなのに上司に偉そうな口聞いてんじゃねえよって思ってたでしょ」
「げっ! なぜ分かった!」
「カルロスの思ってることはお見通しよ」
「まさかお前、魔法で俺の心を読み取ったんじゃ!」
「そんなことしないわよ!」
「(魔法を使わなくても僕ちゃんの考えていることはお見通しということか…気味悪いな…迂闊にこの女に近づくのはよそう…)」
「迂闊に近づくのはよそうって?」
「怖い怖い! もう喋らんでくれ!」
カルロスが頭を抱えると、ニーナは深いため息をつき、真剣な目を向けた。
「それは無理な話ね。今のアンタじゃここを経営できない。このままだと倒産するわよ。なぜだか分かる?」
「なぜだ! さっき事件を解決した僕ちゃんが経営者なんだから倒産などせんわい」
ニーナは呆れたように首を振った。
「さっき? ほんとに人の役に立つようなことをしてたの? まぁしたとしても事件と経営は関係ないでしょ。いいからちょっとこっちへ来なさい。さっきアンタが出掛けている間に荷受を見てきたけど、なにこれは?」
荷受には消費者に届けるべく配達の荷物がたくさん積んであった。
「おい、お前勝手に……」
「もう一度言うわ。このままだと倒産するわよ!」
「ケッ、僕ちゃんにかぎってそんなことありえ……」
「ありえるわ! ただでさえアンタの振る舞いにより、従業員が減ってるのに、仕事をサボってるからここに積んである商品はまだ消費者の手に渡っていないじゃない! 商品を発注したのに届かない、または遅配により、納期通り届かなく、クレームが起きたり、信用性が低下して利用者は減少傾向。やがて販売不振になり、利益が出ずに、倒産」
カルロスは顔をそむけ、ぶつぶつ言い訳を吐いた。
「全てはあのジジイがいけねぇんだよ。城の宝を壊したんだからよ」
「すぐ人のせいにしない! 宝を壊したのも実はアンタ、罪をなすりつけてるんじゃないの?」
「げっ……そ、そんなことはねぇよ」
「その気になれば魔法で過去の映像も見れるのだけど」
「や、やめてくれ!」
「ふーん、まぁそんなことできないけどね」
「な、なにが言いてぇんだよ!」
「だいたいなんで納品日が古いものが積み上げた荷物の下にあるの?」
「そりゃあ新しく来たものは上に積むから必然的にそうなるだろ」
「古いものを上に積まないと納品順に利用者に届けられないでしょ! しかも潰れてるし最悪ね。これはパッケージの再手配から始めなければ」
「ぐちぐちいう暇があればてめぇが配達しろよ!」
「まぁ、こんな状況なら不本意だけど手伝うわ。でも上司がしっかりしてないとね……」
「犯人確保なんぞしてないでこっちに取り掛かるべきじゃねぇか! なんで指示しないんだ!」
「指示するのはアンタの役目でしょ! それにぐうたらしてるということは仕事が片付いている状態だと思ってたわよ! それを知っていたらあんなことは言わずにまずは仕事の片付けから指示してたでしょ! 違う違う、だからなんで部下である私が指示するのよ!」
「上下関係も大事だが、人それぞれの才能や能力がある。そして苦手とする事もある。互いに補うのが仕事ってもんだろ?」
カルロスはどこか得意げに言った。
「なにをかっこつけてるようなこと言ってんのよ! アンタが言うんじゃ全然かっこよくないし、説得力がないわよ!」
「チッ、うるせぇな、いちいちよ」
「アンタと城の経営のためを思って言ってるんでしょ!」
「はぁ、わーったよ。仕事すればいいんだろ。仕事をすれば」
「最初から素直にそう言いなさいよ。とりあえず今はこの溜まっている配送物を処理してちょうだい」
「ああ、しょーがねぇな」
「元はといえばアンタのせいってことは忘れないでおいてね。留守番は申し訳ないけどメグ先輩にお願いしようかしら」
こうして二人の配達業務が始まった。
しかし、その道のりは幾多の苦境に阻まれ、思うように進まない。
いくら運んでも荷物の山は減らない。
理由は単に量が多いからではなかった。
カルロスが配達先で職務を怠っていたのだ。
犯人確保による報奨金に味を占め、荷物を後回しにしてまで犯罪者探しに血眼になっていたのである。
一方、ニーナはカルロスの横着に気づかぬまま、黙々と任務に励んでいた。
商品を魔法で縮小化して大量に抱え、効率的に配達をこなし、納期が遅れた商品を届ける際には頭を下げて謝罪して回る。




