第100話「力なき憎き滑稽マン」
ニーナは時空の狭間に取り残されるが、天使メリー(自身の先祖)に導かれ、カルロスのくだらない魔法を思い出す。
それを武器に、影のカルゴスを倒し、現実世界に戻ることに成功する。
仲間たちと再会し、戦いの終わった世界で日常を取り戻す。
♢♦︎♢
数日後、荒々しい笑い声が城に響き渡った。
「ヒャッハー! こないだは逃げられたが、今度こそタダじゃ済まねぇぞ!」
再び現れたのは、例の盗賊団。
しかも女性の仲間を増やし、以前より数も多い。
アーサーが目を輝かせた。
「……おっぱいがいっぱい……」
「どこ見てんのよ!!」
マヤが全力で突っ込みを入れ、リリアも呆れ顔でため息をつく。
盗賊団の女頭領が胸を張り、にやりと笑った。
「フフン! アタシらの魅力からは誰も逃れられないってことさ!」
「やれやれ……行くぞ、みんな!」
ニーナは仲間たちを見回し、小さくうなずいた。
盗賊団が武器を構えてにじり寄ってくる。
だが、なぜかその動きには妙な迫力があった。
「……お、おっぱいが……揺れてる……!」
アーサーがごくりと喉を鳴らす。
「だからどこ見てんのよ!!」
「ちょっと! アーサー! 戦いに集中して!」
女頭領は挑発するように腕を組み、ぐいっと胸を強調した。
「フフフ……これぞ我ら盗賊団最大の武器! 恐怖せよ!」
カルロスが鼻を伸ばす。
「バカかお前ら……そんなもんで勝てるか! で、でもそそるものはあるな」
そしてシーサーがぼそりとつぶやく。
「……迫力もある」
「唯一まともなアンタまで何言ってんのよ!」
ニーナはそんなやり取りを見て、ため息をついた。
「もう……この仲間たちと一緒なら、何度でも戦えそうね」
盗賊団が一斉に突撃してきた。
だがその迫力は揺れるものに全部持っていかれていた。
「くっ……あれは……おっぱいアタック!!」
アーサーが真剣な顔で叫ぶ。
「ふざけてる場合!?」
「くらえ! 豊満ダブルインパクト!!」
「バスト・クラッシュ!!」
「爆乳サンダーストライク!!」
『どん! ばいん!』
敵の胸同士がぶつかり合い、衝撃波が走る。
「……何の戦いだこれは……」
「もう見ないでよアーサー!! いや、みんな!!」
「すまん……でも、揺れてる……」
シーサーは腕を組みながら妙に冷静だった。
「……重力の奇跡さ」
「アンタまでボケてんじゃないわよ!!」
「いえ、僕は感心しているんです」
男どもが役に立たないので痺れを切らしたニーナが呪文を放つ。
「はぁぁっ! バストフィールド!」
光が走り、盗賊団たちのおっぱいが一瞬でしぼんだ。
「ぎゃあああああ!!」
「あ、アタシの……武器がぁぁぁ!!」
盗賊団は泣き叫びながら退散していった。
アーサーはしばし呆然とし、そして崩れ落ちるようにつぶやいた。
「……夢を……奪わないでくれ……」
マヤは容赦なく蹴り飛ばした。
「夢見るな!!」
リリアは小声でニーナにささやく。
「……戻ってきてすぐにこれって……大丈夫かな?」
ニーナは苦笑いしかできなかった。
するとカルロスが鼻で笑った。
「チッ……くだらねぇ茶番だったな」
仲間たちが一斉に振り返る。
「な、なにその態度……?」
「結局よ、全部僕ちゃんのおかげだろ? 僕ちゃんがいなきゃ、とっくに全員、乳圧に押し潰されてたぜ!」
「はあぁぁ!?!?」
「お前らはただキャーキャー騒いでただけだ。盗賊も、おっぱいも、お前らも、このスーパーエリートの前じゃ無力だ!」
「何言ってんのアンタ、冷静なフリしてアーサーの隣でただ鼻伸ばして突っ立ってただけじゃない!」
「もうイヤこの連中!!」
♢♦︎♢
世界を揺るがした大事件は終わり、仲間たちは無事に元の時代へ帰還していた。
戻ってきたら小さい事件もわちゃわちゃして解決した。
だが、カルロスには一つだけ、いや、本人にとっては最大の問題が残っていた。
そう、彼の本業は配達である。
どんな場所でも届ける、腕っぷし自慢の力任せデリバリーが売りの運び屋である。
今回時空を超えて戻ってきた影響で、時間がほんの少しだけズレてしまって先になっていた。
ほんの数時間のはずだったが……
「……な、なんだこの伝票の山はァァ!!!」
カルロスの絶叫が事務所に響き渡った。
机の上には書類の山、積み上げられた未配達の荷物。
壁には『至急!』『再配達お願いします!』『お客様お叱りです!』の張り紙がびっしり。
「ヒィィ……これ、僕ちゃんがやんのか……?」
珍しく顔を青ざめさせるカルロス。
そこへ顔を出した青年。
「カルロスさん、なんかすごいことになってますね」
「すごいどころじゃねぇよ! 時空のせいでちょっと到着が遅れただけでこのザマだ! ったくよォ……」
カルロスはそしてニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「……なぁお前、どうせ暇だろ? ちょっとこの配達、手伝え」
「……は?」
青年はぽかんと目を丸くした。
「どうせ皆協力してくれん。メグもいなくて人手不足なんだ。僕ちゃん一人でできる量じゃねぇ」
「……カルロスさん……」
青年の表情が曇る。
「なんだ?」
「ふざけんなおいゴラァ!」
カルロスの目がカッと見開かれる。
「なっ、なにィ!? この僕ちゃんの頼みを断るだと!?」
青年は真剣なまなざしで首を振った。
「それとこれとは別です。配達はカルロスさんの仕事でしょう。私は散々協力しました」
「ぐぬぬぬ……!」
「それがあなたの本業ですよね?」
青年は冷静に返す。
カルロスの顔が引きつる。
「ぐっ……くそっ……正論で殴ってくるんじゃねぇ!」
結局誰も協力してくれず、山のような荷物を一人で背負い込み、文句を言いながら走り回ることになった。
足はガクガク、腰はギシギシ。
荷物は雪崩のように増えていく。
ついにカルロスは、道端でドサリとへたり込んだ。
「……ちくしょう……なんで……僕ちゃんが……こんな目に……」
「カルロスさん。結局こうなるんですね。あんだけ大口叩いておいて」
カルロスは慌てて顔を上げ、必死に笑みを作る。
「お、お前! ちょうどいいところに来た! ちょっとこの配達、手伝え!」
青年は静かに首を振った。
「……だから断ります」
カルロスの顔が真っ赤になる。
「な、なんだと!? 僕ちゃんの頼みを断るだと!? お前は俺の部下だろうが!」
「しつこいですよ。もう違います。私はあなたの奴隷じゃない。過去に散々こき使われました。だからこそ、二度と従いません」
カルロスは絶句し、地面に手をついた。
「くっそ……なんで……僕ちゃんばっかり……憎まれるんだ……」
「あなたは力なき憎き存在だからですよ」
「誰が力なきだ! 誰が憎きだコラァァ!! 僕ちゃんはスーパーエリートだ!!!」
「それも聞き飽きました」
そう叫んで荷物を担ぐが腰なる。
「ギクゥゥ!!」
またも地面に崩れ落ちる。
「実に情けない」
ギブタウンの人々は大爆笑する。
カルロスは顔を真っ赤にして、荷物の山を前に拳を握りしめ、絶叫した。
「もう嫌だァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」
汗臭い体を揺らしながら、カルロスは荷物を抱えて立ち上がる。
転び、文句を呟き、また荷物を持ち上げる姿は滑稽でありながら、どこか哀愁を帯びていた。
今日も彼の戦いは続く。
人々は遠くからその姿を見送りながらこう呼んだ。
『力なき憎き滑稽マン』と。
♢♦︎♢
そして数日後──
ギブタウンの人々は、あの滑稽な光景を永遠に記憶に留めるため、ギブタウン城にカルロスの等身大サイズの像、その名もカルロス像を建てることにした。
像は荷物を背負いながら必死に走るカルロスの姿そのまま。
表情は赤ら顔で汗も流れている。
町の人々は大笑いしながら像を眺める。
「これで、後世の人々も彼の苦労と滑稽さを忘れないわね」
「……いや、見た目だけでもう笑い死にそうだ」
「な、なんで僕ちゃんがこんな目に!」
カルロスは顔を真っ赤にして、照れ隠しに小走りで去っていった。
だが、カルロス本人は像を見て、ちょっとだけ誇らしげだった。
「ふふ……僕ちゃん、像にまでなるとは……やはりスーパーエリート……」
少し背筋を伸ばし、胸を張って像を眺めるその姿は、滑稽さと自己陶酔が混ざり合って、ギブタウンの人々をさらに笑わせた。




