第10話「慎重な会議」
そして鉱石採取のために火山へ向かう前日のことだ。
ラヴォスは静かな書庫にひとり座っていた。
周囲には整然と書物が並んでいる。
「最終のターゲットは分かってるな?」
「ずばり、カルロスですね?」
「ああ、そうだ」
「ラヴォス様を不幸に追いやったカルロスを始末します!」
「待て、始末するのは俺だ! この手でな。お前は俺のサポートや、カルロスの周りの奴らに危害を加えろ。それだけでいい」
「はっ!」
「分かったなら出ていけ! 俺は忙しい!」
「失礼します!」
少しずつではあるが、我が軍が完成されつつある。
今日もまた近くの町に立ち寄った。
他の町で奪った金を、その町にいた若者に見せつけ若者たちを味方にした。
その後、近くの町を襲撃しろと命じた。
どうやらうまくいったらしい。
「………っと」
ラヴォスは日記を書き終える。
「着々とカルロス暗殺計画が整っているな。フッ……今に見てろよカルロス!」
「なにを書いてらっしゃるの?」
背後にはヴァルサがいた。
「ヴァルサか!? いたのか。そうか、音がしないと思ったらさっきの奴、扉を閉め忘れたな」
「ラヴォス様……あなたにはほんと感謝しているわ。ひ弱な私を強くしてくれたんですもの」
ラヴォスは眉をひそめ、軽く苦笑した。
「急にどうした。褒めてもなにも出やしないぞ。それより明日に控えている侵略の件でお前とミクロンたちで事前のミーティングはしなくてよいのか?」
「あと五分後に行うスケジュールでいるわよ」
「そうか、しっかりやってくれよな、ヴァルサ兵長」
「はっ! ラヴォス様もお越しください!」
「ああ」
♢♦︎♢
「では第三百十二回会議を始めます。私からは明日の侵略の件をお話しします。」
ヴァルサが会議を進行する。
「その前に、近況報告をしてください。最近なにがあったか共有をお願いします。まずはクルー」
「ええぇぇぇ! 俺っちが一番っすかー?」
「おい、クルー、いちいちうるさい。そういや先日業務命令した魚は捕まえたのか?」
「あい! ラヴォス様! ボルテックスマシンでたいりょーに魚を調達してきやした!」
ボルテックスマシンとは、ラヴォス軍が発明した魚を大量に捕獲するマシンだ。
クルーは頻繁に海に出て魚を捕獲していた。
「おう、ご苦労だった。これで当面の間、我々の食料は浮きそうだな。引き続き、適宜、食料の量を確認して、減ってきたらマシンで食料採取してこい! 食料のことはお前に任せた!」
「りょ、了解しやしたぁー! ま、任されちゃいやすー!」
「それでは次はクラウンさん……は今出先のようですね?」
「ではクラウン代理で」
「おう、ミクロンか」
「クラウン下士官は敵軍の偵察に行っています」
「そんなこと指示した覚えはないが?」
「彼はラヴォス様に指示された業務は終わったので、自分で仕事を見つけてその行動に出たようです」
「クラウンはいつも勝手だな。そういうところがあるんだ。俺の助言を無視することだってある。なにかやるときは相談しろといつも言っているのによ! 万が一、その行動とやらで奴らに疑われたりしたら俺がコツコツ積み上げてきた計画が台無しだ! 奴は腕はたしかなんだが、そこがネックだ。いいか、お前ら! 必要な時に必要な事を俺から指示する! 必要以上のことはしなくてよい!」
「「はっ!」」
「クルー! 聞いてんのか! 勝手な行動は慎むように! 後始末に手を焼くことになりかねないからな!」
「き、聞いてやすよ! ちょっとよそ見してただけじゃないですか!」
「フン……」
「それではミクロン、あなた自身の報告をお願いします」
「では私ですが……侵略は一段落着いたので、久しぶりに城の清掃などに取りかかりたいと思いますが、問題ないでしょうか?」
「掃除ですか? 下級兵士にしてもらったらいかがでしょうか?」
「そうだ、ヴァルサの言う通りだ。この頃侵略ばかりで城の清掃や整備を怠りつつあったからやってもらうのは助かるが、お前の仕事じゃないから下級兵士に指示しとけ! お前はいざという時の訓練でもしておくんだ!」
「はっ!」
「では、ラヴォス様……なにかご報告などはございますか? あの、先ほどからそこにいるモンスターは?」
会議室にはモンスターが五体並んでいた。
「ああ、今言おうと思った。では俺からだが、こいつらは道中で捕獲したモンスターだ。これからはギブタウンの周辺のボス(1~5)として配属を命ずる」
モンスターの中には道中の雑魚モンスター以外にもボスと呼ばれた強敵が存在する。
ステータスなどが高く、道行く人はそのボスによって命を落とすことが多い。
「ギ、ギブタウンですかい?」
「ああ、ギブタウンを徐々に侵略していくつもりだ」
「しかし、いいのですかい?」
「ん? なにがだ?」
ミクロンは眉をひそめる。
カルロスの所在はギブタウンにある。
しかし、町の内情はまだ完全には把握できていない状況だった。
「最終の狙いであるカルロスはギブタウンにいるんですよね? ギブタウンを内情もまだぼちぼちとしか掴めていない現状で、よく分かんないボスを撒いたりして。いつもラヴォス様がおっしゃるようにもう少し慎重に動いたらどうです?」
「そのような考えをするのは慎重で見事だ。だがちゃんと考えはある。あそこにはモンスターは数え切れないほどいるってことは知ってるだろ?」
「はい」
「それも最近増殖を繰り返してるようだ。ボスたちは我々とは違い、みてくれがモンスターだ。ギブタウンの連中の目は欺くことができる。すなわち、敵軍が迫ってきているとは一切考えないという寸法だ」
「いわゆるこのボスたちは敵情収集の覆面調査的な役目ってことですね」
「そういうことだ、ヴァルサ」
ボスの見た目はミノタウロスや半魚人などで、人間とは見た目がかけ離れていた。
そのボスたちがギブタウンに潜伏し、こっそり内情を把握してラヴォスに伝えるといった作戦である。
ラヴォスは手早く地図を広げ、各ボスに配置場所を示す。
「というわけでお前ら! モンスターになりきり、近づいてきた敵軍を密かに敵情偵察、そして邪魔な弱そうな奴は殺せ!」
「「はっ!」」
「ではボスたちよ。この場所の配置についてくれ」
「「はっ!」」
そしてボスたちはギブタウン周辺に向かっていった。
「あいつら、大丈夫なんスかねぇ……戦力になることやら」
「クルーよ。お前よりよっぽど役に立つと思うぞ」
「ちょっと! ラヴォス様! 俺っちのことどんだけ信用してないんスか!」
「フン……お前はいろいろと失敗しすぎなんだよ」
「……」
「いいですか? 次は私ですね」
ヴァルサが発言する。
「私は侵略のために開発中である新兵器製造に必要な鉱石が近くの火山で採取できるという情報を得たので、明日向かおうと思います」
「そうか。近くの火山ってあの危険とこか? そんな危険な場所で鉱石が採取できるのか」
ラヴォスは火山の噴煙が空を覆う様子を頭に浮かべた。
「はい、危険を冒すことになるでしょう。そのため外部委託〈アウトソーシング〉も考えていたのですが、委託をする、すなわち外部に情報を送るわけですから、万が一情報が漏洩して敵軍にでも行き渡れば対策されてしまいます。ですのでリスクはかかってしまいますが、材料の採取から行ってもよろしいでしょうか?」
「おう、そういうことなら行ってこい。きちんと考えがあるのだな。ヴァルサのおかげで兵器の計画については心配することはない。おいヴァルサ、未熟なチェロスと同行してやってくれないか?」
「チェロスとは先日ラヴォス様が」
「ああ、俺が連れてきた奴だ。あいつはなにかしらの素質がある。しっかり者のお前と一緒に行動して経験値を積んでほしい」
「はっ! 了解です!」
ラヴォスはヴァルサを信頼していて普段から全てを任せていた。
火山と聞き、危惧の念を抱いたが、ヴァルサの筋が通った理由を聞いたのと、未熟なチェロスの経験値を積む絶好の機会だと思い、明日向かわせるように命じた。
「以上で本日の会議は終了だ」
その後、ラヴォスは采配を振るった。
しかし次の日悲劇は起きる。




