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第1話「傲慢な男」

人生とは本当になにが起こるか分からないものだ。

たった一つの水晶が、まさかあんな悲劇を招くとは──

あの時の私は、想像すらしていなかった。

そう、あの時までは──


 ♢♦︎♢


ここはギブタウン。

昔エクネ・ウルファと呼ばれていた場所は、時を経て今の名へと変わった。


ギブタウン城は、街の中心に堂々とそびえ立つ巨大な城である。

ギブタウンの周りにはウッドタウン、サハラタウン、ウィンタータウン、ボルタウンなど、小規模ながら個性豊かな町々が点在し、さらに外縁にはいくつかの無人島が浮かんでいる。

これらの道中にはモンスターが生息しており、旅人にとっては安易に踏み入れられぬ地でもある。


ギブタウン城の実態は商業複合施設のようなものだ。

主な業務は商品販売で、冒険者や商人が訪れ、武器、防具、日用品など、ありとあらゆるアイテムがここで取引されている。

ショップでは最寄品を中心とした商品の販売を行っている。

ギブタウン周辺の町は冒険家も多く、武器や防具などニーズに応える商品をも取り揃えている。


構造は五階建てで、エレベーターも完備されている。

一階にはエントランスと受付、二階にはショップ、三階は倉庫や金庫、四階が事務フロア、そして五階には城外へ続く廻縁と呼ばれる特別エリアがある。

さらに別館には資料室やゲームセンターまで併設されており、訪れる者を飽きさせない作りとなっている。


防備のため、門や要所には哨兵が配備されている。

これは、近隣にある敵対的な町テイクタウンからの襲撃に備えた措置である。


そこはもはやただの城ではなく、人と物と金がうねる、ひとつの市場であった。


ギブタウン城は、城内での商品の販売はもちろん、ECサイトも運営しており、通信販売にも力を入れつつある。

なぜなら、ギブタウン周辺にはモンスターが多く生息しており、一般人が出歩くのは危険とされているため、通販は冒険家以外の需要が高い。

そのため、通販で販売した商品の配達業務は欠かせないものとなっている。


それ以外も、ギブタウン城では最寄品、そして武器や防具などの商品の仕入れや販売、PB商品などの開発や卸売業者への販売も行っている。


ギブタウン周辺はあまり栄えておらず、この一帯が商圏内とされているため、この城は地域で圧倒的な知名度と利用者数を誇っていた。

──ある男がやってくるまでは。


カルロスという男が入社してからそれは一変した。

由緒ある家系の出身で、財も地位も持つその男は、実力とは無関係にトップへと抜擢された。

そうなれば、業績不振はもちろん、社内の雰囲気はかなり悪化するのも早かった。

カルロスは販売の知識がほとんどなく、自分が理解していないまま部下に指示を出したり、自身の仕事を平然と部下に押し付けたりしていた。


無理な指示、責任の押し付け、他人任せの態度。

その傲慢さに嫌気が差し、役員は次々と辞職していった。

人員不足により、接客や仕入れなどあらゆる業務に支障が出始め、顧客満足度の低下につながる。

彼の存在はまるで腐敗だった。

じわじわと組織の血管を詰まらせ、ギブタウン城の名声は、みるみるうちに失墜していった。


 ♢♦︎♢


「クッソ! どうして! どうしてだ! どうして終わらんのだ! この仕事量は一人では処理できんぞ! 前に奴隷にした奴は使えん奴だったしよ!」


カルロスが机を叩きながら怒鳴っている。

その手にはなぜかビデオカメラが握られていた。


「僕ちゃんは世界一エリートな男だ。金をたくさん持っていたり、美形な顔を持つだけではなく、心まで広い完璧な男さ」


カメラに向かって自撮りを始めるカルロス。

向かいで腕組みしているニーナは、明らかに呆れた目を向けていた。


「またその顔か。人を睨むクセ直せよ。不快だ」


「いい大人なのに恥ずかしいと思わないの?」


「黙れ小娘! 今は城のPR動画を撮影している最中だ! 口を挟むな!」


「……これ、誰が見て好感持つと思ってるの?」


「うっせーってんだよ!」


ニーナは溜息を吐いた。


「人が少ないのはアンタの横柄な態度が原因で皆辞めていくからじゃない。それでアンタもアンタで仕事もロクにやらないから、倒産寸前なんじゃないの? 前にどれだけ私が仕事を手伝ってるか覚えてる!?」


「誰も倒産寸前とは言ってないだろ! マジでグチグチうるせぇ奴だな。口だけで動かない給料泥棒を雇うんじゃなかった。ただでさえ人件費とか出したくないいうのによ!  ったく、お前にもっと僕ちゃんの仕事を押し付けることができればなんも問題ないのだが……」


「そんなの嫌に決まってるでしょ! なんでアンタがやらなきゃいけない仕事を私がやるのよ! 給料泥棒とか思われてるのムカつく! 私は私で仕事してるんだからね? アンタ、ちょっとくらい働こうとか思わないの?」


「めんどくせぇから極力、働きたくねぇんだよ。大体、僕ちゃんはお前の上司だぞ。さっきから生意気な態度取りやがって。嫌なら城から出てってもいいんだぞ? ま、そうなれば今までの給料はやらんがな」


「なによそれ! 散々働かせておいてそういう言い方はないんじゃないの!」


「チッ、うっせーな! 耳障りだ」


 ♢♦︎♢


数時間後が経過した。


「アンタなにしてんの?」


カルロスは微動だにせずに、城の上から手をかけて下を覗いている。


「求人を出したのだが、誰一人と来やせん」


「そりゃそうでしょ」


「おかしいな……ホワイト企業をアピールしていたのによ」


「ブラックが滲み出ているのよ。でもなんで城の下をそんなに見つめているの?」


「ああ、お前が役立たずだから、僕ちゃんの仕事を片付けてくれる有能な奴を雇おうと思ってな! 下に通った奴を意地でも連れてきて、働かせるのだ!」


「それって奴隷ってこと? もう呆れて言葉もでないわ……」


「おっ、よく見えんが、真面目そうな奴が来たぞ〜」


カルロスは猛ダッシュで城を駆け下り、門付近でその人物に声をかける。


「すまないが、君を連行する」


 ♢♦︎♢


数日前、青年は自宅で岩の図鑑を見ていた。


「磐〈いわ〉……各地形に色のついた磐があり、地形によって磐の色が変わる……と……なるほど……」


青年は宝石店で働く一般社員であり、石や岩、そして水晶などについての知識が豊富であった。


続いて青年は他の図鑑『特殊な水晶図鑑』を取り出した。


「えっと……なになに……時の水晶? なんだこれは?」


★時の水晶…使い方により、自分の未来の姿を視たり、過去や未来にタイムスリップすることができる。

形はダイヤモンドのように見える。

なぜ時の水晶が誕生したのか、誰がなんの目的で作ったのかは現在も不明である。

この水晶にはいくつか色があり、タイムスリップの際は、色によって過去に行くか、未来に行くかが決まるが、あまり解明されていない。

明確なのは、一度破壊されると、二度と修復はできないということである。

同じような物を作るにはこの水晶の欠片をいくつか集め、組み立てる必要がある。


「世の中にはこんな水晶もあるのか」


★ただこの水晶を目撃した人間は数えるくらいしかおらず、実際に実在するかどうかは未だ分かってない。


青年は退屈そうに図鑑を見ていた。

数少ない休みの日も自宅で水晶の勉強をするように言われている。


 ♢♦︎♢


彼の勤める宝石店は、いわゆるブラック企業だ。

サービス残業が当たり前で、給料も割に合わない。

そしてなにより人間関係が最悪であった。

青年は上司から横柄な態度を取られていた。

青年は髪が青く顔が整っていたため、イケメンを妬んだおっさんたちにイジメのようなことも受けていたこともある。


その後エスカレートし、息子にも危害が及び、ついに堪忍袋の緒が切れた。

上司と揉め、不当解雇となった結果、未払いだった給料も全ては支給されなかった。

常識が通用しない世界だった。


貧しい生活が始まり、数日経った日のことである。


「おっと、もうこんな時間か……昼ご飯の食材の買い物に行かなくては……お金足りるかな。こないだ入られた強盗のせいで、管理がなってないとか言われて減給されるしついてないな……」


そこには息子がいた。


「息子よ、私は買い物に行ってくる。留守番をしていてくれ」


「分かった」


「では行ってくる」


 ♢♦︎♢


青年はギブタウン城へ向かった。

そして──


「すまないが、君を連行する」


その瞬間、歴史の歯車は音を立てて狂い始めた。

やがて時を越えた惨劇へと繋がるなどするのだが、その時は誰も知る由がなかった。

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