プロローグ 大陸の夜明け
シューネスラント王国は、1000年にわたり世界の中心であった。
眠らぬ王都フェルドブルク、広大な国土、肥沃な農地、強力な軍隊、最先端の産業…そして、王侯貴族の支配する華やかな宮廷が、その象徴である。
先進的な法体系と封建体制による統治は、王国を中心とする大陸の秩序を支え、多数の兵士と最先端の兵器により支えられた軍隊は、周辺に無数に存在する小国と独立民族集団から王国を守ってきた。
圧倒的な富と数量こそが、王国の繁栄の礎であった。
しかし、何よりも王国の地位を確固たるものにしたのは、精神的な権威であった。
民族を問わず、大陸の人々の信仰するシューネス教の起源は、王国の創設したフェルドブルク教会にあった。
王国の伝説上の初代国王であるヨハン1世は「神の子」とされ、その子孫であるシューネスラント国王こそが神の使徒であり、代理者とされた。
王国に逆らう者は、たとえ君主や諸侯であろうとも、神の敵として抹殺される運命にあった。
ほとんどの国家が王国に服属し、莫大な貢納と、非常時の軍役を余儀なくされた。
王国の経済は潤い、市民でも豊かな生活を謳歌する一方、他の国々は王国への貢納のために貧困に苦しんだ。
しかし、そんな状況の大陸に「救世主」が現れた。
これまでは見向きもされてこなかった、北方の草原の騎馬民族集団、テラロドである。
テラロドは800年前に王国に征服されて以降、族長も政府も持ってこなかった。伯爵の領地として、圧政下にあったのである。
しかし、貧しい遊牧民の子として生まれた青年バヤル・サンサルは、同志を集め、軍事訓練を行い、苦心の末伯爵を追放すると、3247年にハーンに即位し、新国家の成立を宣言した。
それがテラロディア諸部族連邦帝国である。
テラロディアは王国の勢力圏に侵入を開始し、次々に都市や城を陥落させていった。
王国は大軍を派遣して阻止を試みるが、テラロディアは騎馬軍を駆使しており、歩兵中心の王国軍にはなす術もなかった。
テラロディアは占領地では掠奪や虐殺を禁じ、王国の半植民地的な支配に苦しんでいた住民から解放者として歓迎された。バヤルは連邦制を採り、占領地をいくつかの地域に分けると、それぞれの住民を「部族」として自治権を認めた。内政は部族ごとに置かれた部族評議会が行い、ハーンである自身は立法と外交、軍事のみを担った。
しかし、バヤルは3260年、志半ばで病没した。皇太子であるバータルが即位し、第2代ハーンとなっている。
この結果、テラロディアの領土拡大は停滞し、栄光の翳りつつあった王国にも、起死回生のチャンスが訪れた。一方、テラロディアも発展を止めまじと、日々政治制度の整備と、軍隊の拡張に力を注いでいる。
3264年現在、大陸には21の国家が存在し、そのうち実に17の国家が王国に従属している。
王国を中心とする国際体制を崩壊させんと試みるテラロディア諸部族連邦帝国、そしてこれを護持せんと図るシューネスラント王国。今、その二大国が、直接刃を交えんとしている。