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獣人の彼と猫達とで異世界でカフェを開く前の話

作者: リーシャ

見慣れない天井が、ぼやけた視界に飛び込んできた。


ここはどこだろう?


最後に覚えているのは、トラックのヘッドライトだったはず。


まさか、死んでしまった?


「え、どこ?」


ゆっくりと体を起こすと、自分が簡素な木造の部屋にいることに気づいた。


どこだと本気で慌てる。


窓の外には、緑豊かな森が広がっている。


あれ。


服装も、いつものジャージではない、麻のような素朴なワンピースを着ている。


「転生、しちゃった?誘拐?夢?」


信じられないけれど、状況証拠はそれを示唆していた。


夢でもなく、無傷。


途方に暮れていると、足元に温かいものが擦り寄ってきた。


「にゃあ」


見れば、ふわふわの茶色い毛並みをした子猫が、不安げな瞳でこちらを見上げている。


「ねこちゃん!」


大の猫好きだった気持ちが、一瞬で奪われる。


「あら〜、どうしたの〜迷子なの〜?よしよし」


そっと抱き上げると、子猫は喉をゴロゴロと鳴らした。


その小さな体温が、生きているという実感をくれる。


それから数日後、この世界が魔法の存在する異世界であり。


自分が「カナエ」という名前の女性に転生したことを知った。


ホログラムのような板が目の前に現れたと思えば、そこにプロフィールが書いてあったのだ。


幸い、前世の記憶はしっかりと残っている。


この世界には、同じように行き場のない猫たちが、たくさんいるようだった。


ある日、森の中で怪我をして蹲っている黒猫を見つける。


放っておけなくて手当てをしていると、背後から低い声が聞こえた。


「何をしている?」


振り返ると、そこに立っていたのは、信じられないほど美しい男性。


そっちこそ、どなただろう。


銀色の長い髪、精悍な顔立ち。


何よりも目を引いたのは、彼の頭の上にちょこんと乗った、ふさふさとした狼のような耳だった。


(ねこ、ちゃん?いや、犬?狼?なんなら他の?)


彼は警戒したように見つめている。


「あの」


慌てて猫を抱き上げ、説明した。


「この猫が怪我をしていたので、手当てをっ」


すると、彼の表情が少し和らいだ。「猫好き、か?」


と、意外そうな声で彼は尋ねた。


「大好きですよ」


その出会いが、さらなる賑やかな生活の始まりだった。


森で保護した猫たちは、いつの間にか周りを常に数匹でうろつくようになり、まさに猫まみれの毎日。


そして、あの獣耳の男性。


ネルは、猫たちの世話をするのを手伝ってくれるようになった。


最初は警戒していた彼も、猫たちの愛らしさに触れるうちに、表情が優しくなっていく。


「カナエ、今日の森は少し深いところまで行ってみようと思うんだが、一緒に行くか?」


ネルが、そう声をかけてきたのは、いつものように、猫たちにご飯をあげ終えた朝のこと。


彼の狼のような耳が、朝日を受けてキラキラと光っている。


「いいですよ。何か珍しいものでも見つかるかもしれませんね!」


周りでは、保護した子猫たちがじゃれ合っている。


最近、また一匹、怪我をしていた三毛猫を保護。


名前はまだ考え中。


「ああ。それに、この辺りの薬草に詳しい長老に、いくつか話を聞きたいこともある」


ネルはそう言って、少しだけ真剣な表情に。


彼が薬草に詳しいなんて、意外だ。


数匹の猫たちを引き連れて森へと出発。


木漏れ日が心地よく、鳥のさえずりが耳に優しい。


猫たちは、思い思いの場所に駆け出しては、すぐに足元に戻ってくる。


「本当に、猫が好きなんだな」


歩きながら、ネルが少し照れたように言った。


「ええ、ずっと好きなんです。こんなにもたくさんの猫に囲まれて暮らせるなんて、夢みたいです」


「ふむ。カナエは時々、不思議なことを言うな」


彼は不思議そうに首を傾げたけれど、深くは追求してこなかった。


「あなたも初めてみた人なんですよ。突然子ここに飛ばされて初めてみた時は、驚きで腰を抜かすかと」


この世界の常識とは違う言葉を、彼は受け止めてくれているようだ。


森の奥へ進むにつれて、空気はひんやりとしてきた。


「おれは普通だと思うがな」


大きな木々が生い茂り、昼間でも薄暗い場所がある。


そんな中、一匹の白い子猫が、木の上を見上げて「にゃあ、にゃあ」と鳴き始めた。


「どうしたの?」


声をかけると、子猫は必死に木を登ろうとしている。


その視線の先には。


「あ!あれは……」


木の枝に、同じように白い、でも少し大きな猫が挟まっているようだった。


「助けなきゃ!」


駆け寄ろうとした時、ネルの方が素早く木に登り始めた。


「ネルさん!」


彼の身のこなしは軽やかで、あっという間に猫のいる高さまで達する。


「大丈夫か?」


ネルは優しく声をかけながら、挟まっている猫を優しく丁寧に引き抜いた。


白い毛並みは泥で汚れ、少し弱っているようだ。


「ありがとう、ネルさん!」


彼が猫を抱いて降りてくるのを、ハラハラしながら見守った。


「礼には及ばない。放っておくわけにはいかないからな」


白い猫を差し出した。


その顔は、いつもの少し眉間に皺を寄せたような表情ではなく、どこか優しい。


「この子も、連れて帰りましょう。温かいミルクでもあげたら、元気になるかもしれません」


そう言うと、ネルは小さく頷いた。「ああ、そうだな」


帰り道、白い猫は腕の中で小さな声で鳴く。


「ネルさん、本当に優しい」


ネルは、自分たちの少し前を、他の猫たちと一緒に歩く。


その広い背中を見ながら。


(ネルさんは、見た目は怖いけれど、本当はすごく優しい)


森の中で出会った、新しい白い猫。猫を助けてくれた、ネルの優しさ。


絶対に、幸運に当たったと拳を握った。


そんなネルと共に、将来猫カフェを開いて、大繁盛する未来を誰もまだ知らない。

⭐︎の評価をしていただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
朝から優しいお話を読むことが出来て癒されました。1日頑張れそうです。 この世界がどんな所で、2人がどんな風に心を通わせて猫カフェを開くのか、ぜひ続きが読みたいです。 ネコたくさん、モフたくさん、幸せで…
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