放尿刑事
午前零時三十分──。
冬の凍てつく寒さもなんのその。銃器密売組織の幹部の行方を追っていた俺は、犯人の目撃情報をキャッチし、ネオンままたく繁華街へと足を向かわせた。
そして、カジノバーで女をはべらせ豪遊している犯人を発見。繁華街から入り込んだ、寂れた路地裏へと追い詰めるまでに成功した。
さて、あとはこいつを逮捕するだけだ。
「動くな!」
俺の相棒、44マグナムが犯人をロックオンした。すると犯人は両手を挙げ、観念した様子でゆっくりと振り向き、愛想笑いをしていた。
「へへへ旦那。そんな物騒なもの、おろしてくださいよ」
俺のマグナムに恐れをなしたようだ。なんて素直な奴なんだ。
だが、マグナムをおろし、手錠を出そうとした刹那の瞬間、犯人が懐に手を忍ばせた。
「き、貴様!」
俺は慌ててマグナムを構え直し、再び犯人を捉えた。と同時に犯人の銃口も俺を捉えていた。
犯人の銃は、トカレフ型の改造銃。恐らく台湾からの密輸品だろう。銃器密売を商売にしているだけあって、こいつもなかなか物騒なものを持ってやがる。
立場が同等になったことにより、一気に緊張が高まる。互いにピクリとも動くことができず、吐く息が綿菓子のように、冷たい空気に溶けていく──、ただそれだけだった。
だが、そんな渦中にありながらも、俺の下半身は大変な事態を迎えようとしていた。実は、たまらなく小便がしたくなってしまったのだ。
ここ最近、食事もろくに取らず、ウィダーインゼリーとポカリスエットのヘビーローテーション。そういえば、最後にいつトイレに行ったか、記憶がまったくと言っていいほどない。
俺はとうとう我慢ができず、マグナムで犯人を捉えたまま、下半身のマグナムちゃんをポロリと出してしまったのだ。
口径が小さいので、44とまではいかない4マグナムだ。
「な、なにしやがる!」
ここで驚いたのが犯人だ。それはそうだ、いきなりマグナムをもう一丁出されたのでは、驚かない方がどうかしてる。
だが俺は、犯人を一点に見据え、そのままの状態で一気に放尿した。
「単なる小便だ。気にするな」
俺がそう言うと、犯人は妙に納得した表情を浮かべていた。話しがわかる奴なのか、ただのバカなのか、今のところ謎だ。
しかし、事態はとんでもない方向へと向かいつつあった。なんと、小便が止まらなくなってしまったのだ。こんなに出るのは、生まれて初めての経験かもしれない。
足元にはすでに、大きな水溜まりならぬ小便溜まりができており、アンモニアを含んだ蒸気がマグナムにまとわり付き、さらにはこの寒さで蒸気が結露し、塩の結晶のようなものがキラキラと輝きはじめていた。綺麗なのだが、なんだか複雑な心境だった。
「長いな」
「まあな」
引くに引けぬ、犯人との睨み合いは続く。
だが、さらに事態は悪化。あまりにも小便が止まらないため、体の水分が不足し、目の前がぼやけ、立ちくらみがしてきた。
そんな俺の様子を察した犯人は、ニヤリと並びの悪い歯を覗かせた。
ヤバイ! 撃たれる!
そう思った矢先、ふらついた俺の足が小便溜まりをおもいっきり踏み付けてしまい、飛び散った小便が犯人の顔を直撃した。
「き、汚ねえぞ!」
手段が汚いのか小便が汚いのかは知らない。たぶん両方の意味だろう。
そのおかげで、体勢を崩してしまった犯人は、俺の44マグナムの餌食となり、事件は終演を迎えることとなった。しかし4マグナムの方は、まだ放尿を続けている。
どうやら署に戻る前に、泌尿器科に寄らなければならないようだ。
(了)




