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第3幕 神社にて

 「ツモ!」


 久那(くな)さんの声が廊下まで響いていた。まだみんな麻雀やってたのか……

 ゆっくりと(ふすま)を開け中に入るとそこには眼が死んでいる蓮、禍築(まがつき)、久野宮さん、めちゃくちゃ生き生きしてる久那さんが居た


 「なんだよ、クナの一人勝ち中かよ」


 菊姫命(きくひめ)がケタケタと笑いながら麻雀卓を見下ろす


 「菊姫命も一緒にどうですか?楽しいですよ?」

 「いや、オレはいい。こういうのは負けまくるからな」


 渋い顔をする菊姫命。そういえばこの前どこかの賭場でぼろ負けしたって言ってたか


 「おじゃまします。あら、職務中に麻雀で遊んでるとはいい度胸じゃない、禍築?蓮?」


 真っ赤な髪をなびかせ少々ご立腹な琴葉ちゃんがやってきた


 「綺姫。今は昼休憩の時間だ。それにこいつらはとっくに書類仕事は終わらせておるだろ。こいつらを咎めるというのなら風咲の散歩も咎めるべきであろう?」


 桜花さんが琴葉ちゃんをたしなめる


 「確かにそうね。2人ともごめんなさい。無礼な言動だったわね。お詫びというのはなんだけど明日の書類仕事は無しでいいわ。それと将鷹、今すぐ隣の部屋に来なさい。虎織も来たければ来なさい」


 琴葉ちゃんが怒っている原因は当然、我輩の行動なのだ。琴葉ちゃんは仲間を危険に晒す事を最も嫌っている


 「了解した」


 その一言と共に我輩は歩きだし隣の部屋へと足を運ぶ。どうやら虎織はこのまま部屋に居るようだ。まぁ怒られるところとか見られたくないしそこをくんでくれているのだろう。

 部屋の襖が思いっきり閉められ大きな音が鳴り響く


 「この大バカ!」


 部屋に入るなり怒鳴られた。怒られて当然ではあるが少々びっくりした


 「炎の魔術は使うなって言われてたわよね。なのになんで使ったの?」


 琴葉ちゃんは先程の感情に任せた怒号ではなく、冷静に、淡々と言葉を紡ぎ問いを投げる


 「あれしかないと思ったんだよ」

 「そう。結果として今回は上手く行ったわ。でも、もしもの事を考えなかったのかしら?炎を使えば将鷹はしばらく動けなくなるから虎織にとっての最大の弱点になり得るわ。いうなればお荷物になるわけよ」


 返す言葉がない


 「それに将鷹自身も腕が焼けていたと聞いてるわ。扱えないものを無理に使って怪我なんて笑えないわよ」


 沈黙。言い訳をする気はない。今はただ自分の行動の愚かさを受け止め、戒める他ない


 「それで、怪我はどうなの?」

 「もう治ってるよ」

 「そう、なら腕を見せなさい」


 そう心配そうな顔で見ないでくれ。そう思いながら羽織の袖を捲る。てかそのアロエの火傷薬どこから出てきた……さっきまで手元にも無かったぞ


 「火傷した感覚もない状態だよ」


 両腕を差し出し我輩自身も傷等がないか確認をする。腕は火傷どころか傷1つない状態に見える


 「治ってるわね……というか本当に火傷したの?」

 「さてねぇ……我輩も起きた時には治ってた。でもアリサが火傷してたって言ってたからなぁ」

 「そう。ならこの薬は不要だったわね」


 パン。と柏手(かしわで)を1つ、すると火傷薬は消えていった


 「それどうやってんの……」


 思わず聞いてしまった。空気読めないなって思われたかもしれない


 「あぁ、これね。将鷹の羽織の袖と同じような術式を指輪に仕込んで貰っただけよ。まぁせいぜい入るものは化粧ポーチぐらいかしらね」


 我輩の羽織の袖には物を収納して重さを軽減する術式が編み込まれている。収納許容量は人が乗る籠に入る程度なら入れる事はできるが人は入れることができない。

 おおよそ琴葉ちゃんの指輪の術式は月奈に仕込んで貰ったのだろう。こういうのは月奈の得意分野だしな


 「なるほどな」と短く返し一息置いて

 「今日の件は本当に申し訳ない」


 頭を下げる。唐突すぎて面食らったのか琴葉ちゃんは「えっ、あっ、うん。」と少々戸惑っていた


 「次は無いからね」


 琴葉ちゃんが不安そうにそう言いながら我輩の両の頬に手を添える。

 そしてその手でほっぺたを伸ばされた


 「みょーん。あっはははは!なんかハムスターが食べ物頬張った時みたい!」


 多分そこまでは伸びていない。多分……


 「さて、さっきの変な顔で今回は許してあげるわ。全く私も甘いわよね。でも本当に次はないから。そこは心に置いておきなさい」

 「ほんとにあまあまだよ。普通なら殺されてもおかしくないし」

 「私はそんな血も涙もない人間じゃないわ。あと今日の夜からの仕事忘れないでよ」


 ……思いっきり忘れていた。先代様の件の調査があったな


 「おう」

 「頼んだわよ。話は終わったし隣の部屋に戻りましょう。くのみーも将鷹に話が有って来た訳だしね」


 久野宮さんの事を教科書に載っている魚の物語のように言うのはどうかと思うがまぁそこは個人の自由と言うやつだろう。

 久野宮さんの話はおおよそ先代様の件だろう。あの人は先代様の事となると真っ先に動く人物と聞いている


 今日は本当に長く険しい1日になりそうだ……そんな事を思いながら廊下を歩き隣の部屋の襖を開ける


 「おう小童(こわっぱ)、戻ってきたか」


 襖を開けると久野宮(くのみや)さんがその部屋に居た


 「あら、虎織が居ないわね。私は虎織を呼んでくるから先に話を進めていてちょうだい」


 そう言うと琴葉ちゃんは部屋の外に出ていった


 「そうさせてもらう。まぁ座れ」


 座布団があったのでそこに座る事にした。久野宮さんとは向かい合うという形である


 「小童、お前は(ほのか)様、先代鬼姫をどういう人物と捉えておる」

 「実際会ったことはないんでなんとも言えないって感じですかねぇ。ただ、人物ではないですがあの先代が原因で起きたって言われてる一揆に不自然な点があると個人的には思ってますよ」

 「ほう。どこが不自然というのだ?」


 久野宮さんは少し嬉しそうに次の問いを投げてきた


 「まず1つ目は財政に余裕があったはずなのに上納金制度とか市民の反感を買うようなことをする意味がない」


 財政難ならば仕方ない行動だが、制度を建てた頃は財政難ということは無かった


 「2つ目は墓に遺体が無いこと」


 先代様は目の前に居る久野宮さんが首を刎た訳だが遺体の所在が不明なのだ。市民からの一揆の末、討ち取られたとはいえ墓まで建てたのに死体どころか灰もないのは不自然というかこの土地では有り得ない。行方不明になったならまだしもその場で首を(はね)られたのなら死体はきっちり埋葬されるはずだ


 「3つ目は一揆の参加者がその時のことを曖昧にしか思い出せないこと。まぁこれが不自然な点ですかね」


 1度調べ物のテーマとして聞き込みをした事もある。聞いた人達も高年齢だっためボケて思い出せないとかそういう線も考えていた。というかそう考えるようにしていた


 「ほう。なるほど。では、1つ、お前に言っておく事がある。ワシは仄様を殺してはいない」


 何となくそうだろうなとは思ったが殺していないというのは殺さず偽装して逃がしたのかそれとも誰かが久野宮さんに扮して先代様を殺したのか


 「殺していないと言うと具体的には?」

 「一揆の日、ワシは華姫の外に居たのだ。記録は誰かに消されているがな。それにあの政策が発表されていたなど帰ってきてから知ったことだ。ワシがいない間に仄様を唆した輩が必ず居るはずと今まで情報を集めてきたがしっぽすら掴めない状態でな」


 なるほど。ということはまだ先代様がそのまま生きている可能性と誰かに殺されて死体を利用または再生された可能性が残っている状態か


 「久野宮さん。この14年で集めた情報全部教えて貰ってもいいですか?」

 「大したものではないがここにまとめてある」


 久野宮さんは懐から古いノートと新しいノートを取り出し我輩の前に置き古いノートをパラパラとめくり、とあるページを開く


 「旧拾弐本刀(じゅうにほんがたな)の名簿ですか」


 そこに記されていたのは拾弍本刀、つまり鬼姫の警護や外敵の排除、黒影退治を行う集団の名簿であった。12人の名前があるはずなのだが不自然に6と10が空いているのが気になる


 「ここに誰かの名前があったはずなのだが全く思い出せないのだ。きっとここの2人が何か関わっているはずだ」

 「側近2人による謀反か……その2人に関する情報は一切ない、というか消されている……」


 何が目的なのかさえも分からない。そして相手は自らの情報を一切合切消し去るほど用意周到、いや、むしろ不自然な点を残している辺り存外抜けているのかもしれない。それとも……


 「有益な話は出来たかしら?」


 考えていると琴葉ちゃんの声がした


 「なんとも言えないのが現状かな」

 「そう。なら掻い摘んで簡単に説明貰えるかしら」

 「久野宮さんは先代様が討たれた日華姫には居なかった。今回の件及び14年前の一件に旧拾弍本刀の6番目と10番目が関わっている可能性がある。以上」

 「なるほど。それはそうとくのみー、先代は闘えるのかしら?」


 久野宮さん本人の前でその渾名使うのか……


 「ワシらよりは弱いがそこらの黒影よりは強いな。なんせ鬼だからな」


 鬼の血を引いている人は普通の人より身体能力は高いと聞く。武術も多少なりとも身につけていたとしたら少々厄介ではある。そしてくのみーという渾名には一切突っ込まない。そういうの大丈夫な人なのか?


 「そう。なら捕縛出来そうなら連れてきて貰えるかしら。無理そうなら撤退の後作戦会議ね」

 「捕縛かぁ……苦手分野なんだけどやるしかないよね」


 虎織が難しい顔をしながら我輩の横に座る


 「そうだな。やるしかない。無理なら無理で撤退すればいいだけの事だしな」


 そう、重く考える必要は無い。あくまで今日は様子見だ。まず相手の力量と存在を見極めなければならない。


 「やはり捕縛か……いつ作戦を開始する、ワシも同行する」


 某漫画みたいな言い回しだなぁ……


 「決行は今夜。くのみーは事務所に居てちょうだい」

 「しかし……」

 「話し相手が欲しいのよ。久しぶりに叔母(おば)様のお話聞かせて貰えないかしら?」


 叔母様というと先代様のことか。琴葉ちゃん的に現地で久野宮さんが万が一先代様側に着いた時の事を考えての予防線なのだろう


 「それなら仕方ないか」


 少し嬉しそうな久野宮さん。この人先代様大好きなんだろうなぁ……

 そう思うと何故か微笑ましく思うのは何故だろうか。

 答えなどないのだろうから考えるのはやめておこう


 「腹いっぱい食ってもいいとは言ったが……いや、なにも言うまい……」


 先程の話を終え外に出ると菊姫命(きくひめ)が悲しそうに財布を眺めていた。

 その理由は高く積まれた皿を見て察した。

 あぁ、アリサがマジで遠慮せずに寿司食ったな。そりゃ悲しそうに財布眺めるわ。

 アリサがバイキング形式の店に行くと店が採算が取れない、というか赤字になると言えばわかりやすいだろうか。

 とにかく大食いなのだ


 「先輩、アリサちゃんなんであんな大食いなんですか……?いっぱい食べる子は可愛いなと思いますが大丈夫なんですか……」


 禍築(まがつき)が心配そうに我輩に声をかけてきた


 「大丈夫だ。バイキング連れていったらもっと食うから」


 最初は驚いたがもうアリサの食べっぷりに慣れてしまっている自分がいる。

 どうやらアリサは食べても太らない体質らしいから羨ましい限りだ


 「そんなことより禍築、財布は大丈夫か?」

 「やばいっすね。今月キャバクラ行けないっすわ」

 「お前なぁ……」


 金の遣い方は人それぞれ、特になにも言うまい


 「そういえば吉音(よしね)先輩3日後帰って来るらしいっすよ。気を引き締めないとですよ」


 禍築は少々嫌そうな顔をしてそんな事をいう。


 「お前ほんとに月奈のこと苦手だよなぁ」

 吉音(よしね)月奈(つきな)、土地神を祀る神社の巫女であり、華姫きって魔術師。正義感が強く悪人には一切の容赦が無く冷徹。しかし情に厚い。

 今は仕事で華姫を離れて情報収集をしているらしい


 「だって吉音先輩って昔から俺には厳しくないですか?」

 「そうか?普通だと思うけどな」

 「馬鹿みたいに酒飲んで吐いたら怒られたんですよ!」

 「それ居酒屋の真ん前でしかも吐く前に見知らぬ人にめっちゃめんどくさい絡み方してたからだろ」

 「社会人ならたまにあることじゃないですか」

 「いや、社会人でそれになるのは……」


 口篭る。遠出した時に複数人そういう人を見てきた。特に中間管理職的な立ち位置の人が多かったか……


 「たまにあることなのか……?」


 自信が無くなってきた。我輩が異常でそれが普通なのだろうか?

 いやいや。それが普通とすると華姫は普通じゃない人の集まりになる


 「冗談っすよ。あの時のことは普通に反省してます」


 珍しく真面目な禍築である。いつもこうなら月奈になんだかんだ言われることもないんだけどな


 「そういえば好きな人に昔から意地悪したくなるってよく言いますけどもしかして吉音先輩俺のこと好きだったり?」


 確かにそうは言うが果たして


 「聞いてみるか」


 我輩はそう言うと同時に月奈にメッセージを送る。

 秒で返事が来るとはこういう事だろう。送って直ぐに「辻井君は嫌い」と短く書かれていた


 「月奈は禍築が嫌いだそうだ」

 「そりゃそうっすよ。冗談で言ったのに聞いたんすか……これ絶対後が怖いじゃないですか」


 携帯が振動を幾度か繰り返す。通知を見ると月奈からのメッセージ


 「なんでいきなりそういうこと聞いたのかな?」

 「辻井君に聞いてみて欲しいとか言われたのかな?」

 ふと気になったから聞いてみただけだ。と返すと

 「そっか」と短く返事きた



 他愛もない事を禍築と談笑しながら過ごしていた時ふと目線がアリサの方へと向かう。どんどん積まれていく皿に少々申し訳なさを感じて財布から1万円札を3枚取り出し禍築に渡す


 「禍築、アリサの食った分これで足りるだろうか……?」

 「どうすっかね……とりあえずこれは有難く頂戴します」


 禍築は財布に渡したお金を仕舞い「あっ、そういえば」と言いながらポケットから銀色の球体を出し

 「これ何かの役にたつかもしれないんで今日の調査とかの時に持ってってください」

 そう言って渡してきた


 「これは?」

 「煙玉っす。捻ると唐辛子とか諸々が混ぜてある煙が辺り一帯に充満するんで人間相手ならもしもの時の逃亡率が飛躍的に上がるはずっすよ」

 「なるほど。じゃあ有難く貰っておくよ」

 「使う時は必ず眼とか鼻とか守ってから使ってください。めちゃくちゃ痛いんで」


 自分を実験台にするとはなかなか根性があるなと少々禍築に関心した。



 気づけばもう夕方が近い時間か。商店街の人々も集まっており大人数でのどんちゃん騒ぎとなっていた。

 我輩は遠くからこういうのを眺めるのが好きな為少し離れてお茶を飲んでいた。少々土臭いような味が口に広がり気づく


 「これ麦茶かよ……」


 そう呟きながら飲み干す。麦茶は苦手なのだ


 「麦茶苦手だっけ?昔よく飲んでた気がしたけど」


 横に座っている虎織が緑茶を飲みながら疑問を投げかける


 「最近土臭さというかそういうのを感じるようになってきてな……」


 20歳までは普通に飲めていたのだが味覚が変わったのかすすんで飲めなくなってしまった


 「そうだったんだ。まぁ煮出した麦茶って土っぽくなりやすいしね」

 「作り方の問題かぁ……今度また挑戦してみるか」

 「無理に作らなくてもいいじゃないかなぁ。いつも通り緑茶でもいいんじゃない?」


 どうやら虎織も麦茶が苦手なようだ。ポーカーフェイスを気取っていても目が泳いでいる


 「そうだな。茶葉とかもいちいち変えるのも面倒だしな」

 「そうそう。手間は省かなきゃ」


 普段言わないような事を口走る辺り麦茶がどれだけ苦手か伺える


 「夜に備えて仮眠しとくか……」

 「そうだね。今日は長丁場になるかもだし」


 アリサと蓮に一声かけて我輩達は帰路へとつく事にする。


 帰ってから畳に布団を敷き眠りにつく。そして夢と現の狭間というか眠りに落ちる寸前、ゴソゴソと布団が動き布団に誰かが入ってくる。多分虎織だろう。こういう何か大事な仕事の前は緊張して眠れないと我輩の近くで眠る事が多い。

 心地よい温もりを感じながらゆっくりと眠りへと落ちていく



 「もう夜か……」


 仮眠から目が覚めると外は真っ暗だった。時間は20時過ぎ。虎織はまだスヤスヤと眠ったままだった。

 起こすべきなのだろうか?あまりにも気持ち良さそうに寝ている為、起こすのが憚られる。というか寝顔がめちゃくちゃ可愛い。

 葛藤の末シャワーを浴びてから起こす事にした


 「お兄ちゃんおはよ。」

 「おー、アリサ。おはよう。そしておかえり」

 「ただいま。今ご飯作ってるからちょっと待っててね」

 「おう。我輩はシャワー浴びてくる」

 「了解!美味しい料理作るからね!」

 「そりゃ楽しみだ」


 わしゃわしゃと髪をバスタオルで拭きながら居間へと向かう。


 「おーはーよー」


 あくび混じりの普段聞けないようなだらけた声で虎織が挨拶をくれる


 「おはよう。まだ眠そうだけどもう少し寝るか?」

 虎織は「うん」と短く答え倒れ込むように眠りに落ちる


 「あっぶな。ここで寝ることはないでしょうが……」


 信頼してくれているのはいいことなのだがいきなり倒れ込むのはやめて欲しい。心臓が止まるかと思った


 「あれ?私将鷹の部屋で寝てなかったっけ?」


 どうやら虎織は完全に目が覚めたようだ。時刻は21時手前


 「おはよう。寝ぼけて廊下で寝ようとしたから居間に運んだんだよ」

 「お兄ちゃん。話詳しく聞かせて貰えるかな?」

 「廊下で寝ようとした虎織を居間まで運んできただけだけど」


 アリサがまるで少女漫画を読んでいる時のように目をキラキラさせながら聞いてきた


 「その前!お兄ちゃんの部屋で虎姉寝てたの!?」

 「あぁ、そうだな。畳に布団敷いて隣で……」


 おや?勘違いが起きている気がしなくもない。なにもなかったからな!なにも!


 「普通に寝てただけだよー」

 「なんだ。少女漫画風な感じになってるのかなぁと思ったけど」


 少々残念そうな顔をしながらエプロンの結び目を解くアリサ


 「さて、気を取り直して。今日の晩御飯は特製カツカレー!」

 「「おぉー」」


 この後の勝利を願っての験担ぎと言うやつだろう。

 そういうのは嫌いじゃない。むしろ好きな部類である


 「22時出発としてあと30分くらいあるから私も軽くシャワー浴びて来ようかな」


 ご飯を食べ終わって少しした頃に虎織が呟く


 「そうだな。眠気は取れてるとは思うが一応目覚ましも兼ねてな」

 「それじゃあちょっと待っててね」


 虎織はそういうと席を立ち風呂場へと向かう


 虎織がシャワーを浴びている間にアリサに色々と聞かれ我輩の片想い中ということを答えると意外そうにして質問責めから解放された


 「では!行ってくる!」


 気合い十分にアリサに手を振り玄関を出る


 「行ってらっしゃい!無理はしないでね!」

 「大丈夫!今度は私がきっちり見張ってるから!」

 虎織がサムズアップで応える。

 街灯に照らされ我輩達は白鷺城へと歩を進め、城近くの百貨店の屋上へと魔術式を足場にして登る

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