オマケ 後日談2
「んっ……」
妾は夢を見ていた気がする。1番信頼していた男に裏切られたと勝手に思い込みその男を殺そうとする夢・・・正確には夢ではなく昨日の出来事だったか。寝覚めが悪い。ソファーから身を起こし欠伸をする
「仄様、いい加減ソファーで寝る癖を直しては如何でしょうか」
寝ぼけまなこを擦り声の主の方を向く。黒髪の男、妾が最も信頼している男。久野宮竜吉がブラックコーヒーを飲みながら向かいのソファーに腰掛けて居た
「別に構わんだろう、迷惑はかけておらんし妾はこっちの方が落ち着いて眠れる。てかお主はなんで30代くらいの見た目になっておるんじゃ?」
「遊び心というものです。馴染みの無い白髪頭よりはこちらの方がよろしいかと」
「まぁそうじゃな。で、なんで妾達は生きておるんじゃ?」
「ワタシ達は死んでいますよ」
「平然と恐ろしい事を抜かすな……しかし確かに昨日お前に斬られたな……」
「そうでしょう。本来ならあの刀、心中で斬られた者は魂を刀に囚われるか地獄へ流されるからしいのですが心中が砕けたことによりワタシ達は自由な霊となってしまったそうです」
「久野宮。妾がお化けが怖いのを知ってその発言をしておるのか……?」
「存じております。しかし幽霊が幽霊に怯えるのは如何かと」
「いやいやいやいや!怖いわ!怖いものは怖いし!何故お主は平気な顔をしておるんじゃ!?」
妾が幽霊だと!?ということは同族、つまりは怪談話に出てくるお化け達も見えてしまうのではないか!?それは困る!
「それを気にしても仕方ありませんから。それはそうとしてどうせですし今日は華姫を共に歩きませんか?」
「気にしても仕方ない、か……それもそうか。よし、今の華姫の案内は任せるとしよう。楽しませてくれるのだろう?」
見えぬ物に怯えても仕方ない。しかしこやつから散歩の打診とは明日は雨が降るかもしれんな。誘うのは何時も妾だった訳だし
「ではそのジャージから動きやすい服にでも着替えてください」
「ジャージは動きやすい服だろう?」
これはこやつを揶揄う丁度いい機会やもしれない。この期を逃す手はない
「……外出用の服に着替えてください」
予想通りの反応を見せる。こうも予想通りだと口角が上がってしまうな
「ジャージでも外出できるだろうに。生きている時はコンビニくらいはこれで出かけていたぞ」
「えぇい!外出用のお召し物に着替えてください!ジャージは無しです!よいですか!?デート服でお願いします!」
「ふむ。良かろう。最初からそういえば良かったものを……で、デートぉ!?」
揶揄うはずがこちらが揶揄われてしまった気がする……
「何故お主はそこに居座る……着替えられんではないか」
「これは失礼しました。今出ていきます」
「覗くでないぞ」
「の、の、覗くわけないではないですかー」
「まぁ見られて減るものではないがな……」
ジャージを脱いでシャツのみになった時に気がついたのだが妾着替え持ってなくない?
「久野宮ー!着替えの服がない!」
「我らは幽霊、着たい服を思い浮かべればある程度のものは魔力で生成できるかと」
ドア付近から久野宮が返答する。なるほど。そういう風になっているわけか
「どうせだ。生前では着なかった様な物を着ようかの。さて、うーむ。そういえば琴葉が昔着ていたワンピースと麦わら帽子、中々良かったな。よし、それでいくとしよう」
魔力の使い方は何となくでしかわからないがまぁ何とかなるだろう、そう思いながら着たい服を思い浮かべる
「おぉ、これは中々便利じゃ」
姿見で全身を写しくるりと回ってみる。白の肩出しワンピースに赤いリボンの付いた麦わら帽子、外見も20代くらいの頃には戻っている気がする
「着替えは済みましたか」
「タイミングがバッチリ過ぎないか?」
「そういう時もあります」
「そうか。それで何処へ連れていってくれるのだ?」
「それは散歩の楽しみということで」
久野宮はいじらしく口元に人差し指を持っていき口を噤んだ。まぁ分からぬまま散歩するのも良いものだな。
白鷺城の付近の宿を出て大通りへと歩を進める。あの頃とあまり変わらない景色に胸がほっこりと温かくなる
「ここは変わらんな」
「えぇ、それが良さですので」
「そうだな。おっ、久野宮、あの店!」
昔金平糖をよく買っていた和菓子屋が昔の面影のままそこにはあった
「昔よく買いましたね」
「店主!金平糖2袋!」
「仄様!?それに久野宮様まで!?」
「何故死人を見るような目で妾を見るのだ?」
「仄様、我らはもう死人です」
「そうだったな!いやぁ訳あってこうして久野宮とお散歩中なのだ」
「な、なるほど。事情はぶっちゃけどうでもいいのですが金平糖2袋ですね」
「あぁ、すまんあと2袋追加してくれ。それと2袋は贈り物用の包装を頼む」
「かしこまりました」
「なぁ、何故2袋余分に買うのだ?」
「恩人への手土産です」
恩人とはあの夜に城に来ていた風咲殿の孫と雪城の娘の事だろう
「そうか。律儀なやつよな」
金平糖を受け取り妾達は歩き出す。少し道は外れているがこの先は……
「久野宮、まさかデートでゲームセンターとは言わぬよな?」
「いけませんか?」
それはちょっとどうなんだ?もっとオシャレなカフェとかで甘味を楽しんだりとか……そう思ったがなるほど、久野宮の意図が見えて来た
「いや、良い。まさかお主と最初に会った日の道をまた共に歩くとはな」
「生前は職務中に何度も一緒に通りはしましたがね。しかしどうせですこういうのも悪くないでしょう」
「あぁ、良い。実に良い」
懐かしい、あの日の久野宮は仏頂面で常につまらなそうにしておった。ここでクレーンゲームに挑むやつは微かに笑っていたか……本当に懐かしい
「おぉ?これはまた可愛げのあるストラップじゃな」
デフォルメされた猫のストラップがあり、奇しくもあの日の猫と同じ様な物だった
「このシリーズはまだ続いていますから、どうせですし取っていきましょうか」
「そうじゃな」
妾は専用のコインを貰いに行こうとしたが久野宮は機体の前に立ち操作を始めた
「コインは?」
「一部電子化されました」
「なるほど……便利な時代になったな」
「えぇ、ですが現金が手元に無いとついつい使い過ぎてしまうのが欠点ではありますね」
「お主は躍起になってしまうからなぁ」
「それでいくらか痛い目も見てきましたからね」
「そんなこともあったな。あの時は大変だったものだ」
「忘れてくださいよ」
結局2つ取るまでに20回ほどプレイして居た。最初の1個でやめておけば傷は浅かったろうに……
「さて、この後は風咲の家へと向かいそこから旅に出ましょうか」
「華姫ともお別れという訳か」
「永遠の別れという訳では無いので。新婚旅行の様な物とお思いください」
「ははっ、そういうのは生前にやりたかったものだな」
笑って妾達は行く宛ての無い旅へと向かう。またこの地に戻ってくるまでしばしの別れだ




