第一幕 この世界はこんなもの
我輩の働いている部署は「華姫市黒影対策課」といって黒影の討伐を主な仕事とする部署である。
しかし黒影も常に湧いて出てくる訳では無い、というか無限湧きしてたら日ノ元はとっくの昔に黒影に蹂躙されているだろう。
まぁそんな黒影が出ない時は市長である琴葉ちゃんの仕事を手伝ったり、市内に異常がないか散歩……もとい巡回に出たりと仕事自体は簡単だ。まぁ、とある人達は喫茶店を営業して黒影が出た時にのみ討伐に赴くという副業のような事をやっている。
朝礼から約1時間。我輩は琴葉ちゃんへの報告書等の整理及び処分をしていた。
閉店と書かれた書類に目を通しながら「ここの敷地の店また閉店かぁ……」と呟く。
大きな駅の近くにはさながら商店街かのように居酒屋が乱立している。そこのちょうど中腹にある飯屋がまたも閉店したのだ。1月から数えて4ヶ月、その間に2回もの閉店と新しい店の開店が行われている。
ぶっちゃけ、ここの土地が悪いというのが大きい理由なのだろうが、昔有った店が酷すぎたというのも一因を担っている気がしなくもない。
「あそこは仕方ないよ。目の前に美味しいお店とか安価でお酒呑めるお店とかあるからお客さん寄り付かないもん。それに2年前に有ったあの店も原因じゃないかなぁ……」
我輩の独り言に虎織が反応する。店が潰れた原因の考察は2人揃って同じようだ
「食べ放題で注文して30分以上飯来ないとかそんなことやってりゃ潰れるしかないわなぁ……」
実際は約50分待たされた。2時間の食べ放題コースで半分の時間を無駄に過ごす事になったのだ
「そうそう。私たちだけならまだしも他のお客さんからもそんな苦情上がってたしね」
「あの時は電話で詐欺みたいな事やる店舗がありますって電話1日に3件はかかってきたよな」
「あったねー。あの後乗り込んで差し押さえしたりとかを琴葉ちゃんが直々にやったんだよね」
「だったなぁ懐かしいな」
「お前らー席に着けー」
高校時代よく聞いた馴染みのある声が室内に響き、ついに来てしまったか、と恩師の声のした方へと回転式の椅子と共にくるりと回る。
そこにはやはり恩師である三左衛門堀大和が立っていた。
彼は中等部の中頃から高校3年にかけて我輩達に魔術やこの世界を生き抜く術、金銭的に困った時に食べられる野草や生物を教えてくれた人物だ。
先生曰く三左衛門堀という苗字が長くてあまり好きではないようで我輩達には大和先生と呼ばせていた。
大和先生はにまりと笑いながら「起立!」と声を発し、背筋を伸ばす。
正直な所この号令に従う必要などはない。
しかし我輩は席を立ち背筋を伸ばす。見渡せば室内に座っている者は居らず、この室内で最も偉い琴葉ちゃんでさえも立ち上がっており次の掛け声を待つ
「礼!着席!」
腰をそこそこな角度まで曲げて顔を上げ席に着く。
恩師はムフゥっと少し満足気に胸を張って「お前らは変わらないな!先生嬉しいぞ!」と笑いながら親指を立てサムズアップというらしいポーズをした。
「大和先生。懐かしさに浸るのもいいですけど今日の説明の方よろしくお願いしますね」
琴葉ちゃんが珍しく敬語で大和先生に就業体験の説明を要求した。
「そうだな。ではまず、実習生の紹介をするぞ。アリサ、入ってこ」
大和先生の呼び掛けが終わる前に入り口の扉が開き金髪の大空のように澄んだ蒼い瞳をした少女、アリサがスタスタと大和先生の横まで歩き、1歩前へ出て
「おはようございます。そしてはじめまして。アリサ・ノーラ・アンダーソンです。今日から3日お世話になります」
アリサは淡々と冷静に挨拶をした後に一礼し1歩下がる。ちょっと待った。3日間?今日1日だけじゃないのか?
「というわけで今日から3日間、アリサの事を頼むぞ。」
大和先生も3日と言った。確かに3日としっかりと聞こえた
「大和先生。聞いてた話と少し差異があるのですが?」
琴葉ちゃんもアリサと大和先生の発言に疑問に思ったようだ
「アリサちゃん制服で来るって言ったじゃないですかぁ!」
もの凄い勢いで先生に掴みかかる琴葉ちゃん。どう見てもお父さんにじゃれつく子供にしか見えない……というかツッコミ所はそこなのか。
ということは3日間という期間を知らなかったのは我輩だけなのだろうか
「先生。私は職場体験は1日のみと聞いてたんですけど」
どうやら虎織も知らなかったようだ。てか知ってたら朝の会話の時に言っていただろうな
「えー、まずは鬼姫様の質問から答えるとアリサには今日、明日は私服で最終日に制服で仕事をしてもらいます。それと雪城の質問については1日じゃ仕事のイロハもなにも学べないという理由から鬼姫様に無理を言って3日間に延長させてもらった。アリサも3日ぐらいがいいって言ってたし」
なるほど。そういう事か。先生の意見は確かにご最もだが期間延ばすためにアリサの制服姿を交渉材料に使ったな?
「まぁ3日間アリサの事は頼んだぞ。しっかり勉強させてやってくれ。アリサも学ぶ事は多いだろうがひとつでも学んで帰ってくるように」何か言われる前に退散しますと言わんばかりに大和先生は足速にその場を去っていった
「先生があんな感じで申し訳無いです……3日間よろしくお願いします」
先生があんな感じな分アリサがめちゃくちゃしっかりして見えた
「取り乱してしまっていたけど誰か質問とかあるかしら?」
いつも通りの真面目な琴葉ちゃんだ。こういう場で質問することはないだろう
「それじゃ、アリサちゃんは仕事の見学より先に私達魔術師、黒影、日ノ元についてどこまで知っているか教えてもらおうかしら。ここじゃ禍築が作業に集中しないでしょうから市長室にでも行きましょうか」
琴葉ちゃんは度の入っていない眼鏡をかけアリサの手を取り出入り口ではないもうひとつの扉の方へと向かい、扉の前で
「あと将鷹と虎織も同伴しなさい。黒影については私より詳しいでしょうし」と一言言ってから扉の向こうへと消えていった。
まぁ身内ですし呼ばれるのも当然か
「あいよ。」と返事をした後、我輩は席を立ちインスタント珈琲を2つのマグカップに注いで市長室に向かう。
虎織はお盆にお茶2つとお茶菓子を持って扉の前に立った。そして扉の前に立って我輩達は気づいた。
2人ともドアノブ回せないんじゃない?
「あっ、これ開けれないね……」
虎織が苦笑いをしながらお盆を片手で持とうとしたが残念ながら難しかったようだ
「れーんー。ドア開けてくれー!」
書類に目を通す素振りをしながら薬のカタログを読んでいる蓮に声をかけ開けてもらうことにした
「全く仕方ないやつらだな」
「ありがとね薬師寺君」
「お礼に今度パンでも差し入れするわー」
「どういたしまして。パンならあの若干高い食パン寄越してくれ」
なかなか高いパンを注文してくるじゃないか……いや、でも食パン1斤となると安いのだろうか?
蓮が開けてくれた扉にささっと入り周囲を見渡すと
「失礼しま……なんじゃこりゃ……」
事務所の市長室に入ったはずなのだがソファーがあるのは当然としてもベッドが置いてあった。それとクローゼット、しかも結構大きめの
「わぁ……市長室にベッドとクローゼットがある……これ琴葉ちゃんの?」
虎織が若干引いている。それもそうだ。応接室も兼ねていた市長室におおよそ私物と思われるベッドとクローゼットが鎮座していたらそういう反応するだろう。我輩もそうだった。
というか重要な来客でも市長室じゃなくて応接室に通してたのはそういう事か
「引かないでよ!私だって好きでここにベッドとかクローゼット置いてるわけじゃないのよ!たまーに帰れないから仕方なく!仕方なくなの!」
アニメとか漫画ならばきっと今の琴葉ちゃんはぐるぐる目で表現されているだろう、という感じに狼狽えている。
まぁ市長の仕事上帰れないというか帰る気力も残らない時も有るだろうし仕方ないといえば仕方ないのだ。
「仕方ないのは分かるけど……市長室って深夜になると幽霊とか出るって聞くけど……」
虎織は少し心配そうに琴葉ちゃんに問いを投げる。華姫の怪談のひとつに先代鬼姫様の呪いというのがあるからそれの事だろう。
市民にその地位から引きずり降ろされた後に殺された先代鬼姫の怨念が市長室に残っているという噂話だ。
我輩達がこの仕事に就く前から居た職員の何人かが見た事があるらしい
「大丈夫。私、霊感とか無いもの。それに先代の幽霊なら会って話がしたいわね」
「そっか、でも怨念ってなると話せるのかな?よく本とかで書かれる怨念だったり悪霊って話通じないよね」
「確かにそうね……それ聞くとなんか怖くてしばらくここで寝れないわ……」
「さて、立ち話はもういいだろ。アリサも待ってるし早く実力テストしちまおう」
「それもそうね。アリサちゃん待たせて悪かったわね」
「いえいえ。問題ないですよ」
アリサはそう言いながら読んでいた小説をパタリと閉じ、懐にしまう
「これ珈琲な。好きに飲んでいいから」
我輩はアリサの目の前に珈琲を置きながら使わないと分かってはいるがガムシロップとミルクも横に添える
「お兄ちゃんありがとう」
「どういたしまして」
我輩はソファーに座り持っていたマグカップを自分の前に置く。虎織も琴葉ちゃんにお茶を渡して我輩の横に座る
「これから歴史とかそういうの質問していくから知ってる範囲で答えてちょうだい。分からないなら分からないでいいわ。あとで教えるから。そしてもし正解数が少なかったら罰ゲームではないけど私の趣味に付き合って貰うわ」
琴葉ちゃんが手元の紙を見ながら少々早口で説明をする。そして「虎織達は口出し厳禁ね」と一言
「「了解」」
見事に返事が被った。まぁたまにある事だし特に驚くことでは無い
「それじゃぁまずは1問目、日ノ元って今どんな状態?」
説明しろと言われたらなかなか難しい問題をいきなり出してくる辺り琴葉ちゃんらしいがこれくらいならアリサは答えられるだろう
「日ノ元は日ノ元全土で見れば政治家及び統治者が居ないため昔、改名前の日ノ元、日本で作られた法律が機能しておらず、ほぼ無法地帯状態ですが60年ほど前現状日ノ元を実質的に統治している火野姫のお父さんが提案した、ある程度その土地から信頼されている人を市長という形でその土地の代表として、市長が土地の管理をするというのを一部地域で実施したところそれが各地に広まり現在に至りその土地に合った漢字1文字と市長が男性なら殿と女性なら姫とを組み合わせて会議の場等の呼称としています。海の向こうの国からは黒影が出るからという理由からあまり関わって来ない、下手に手が出せないというのが今の日ノ元です」
「うん、ほぼ正解。ちなみに政治家全員が仕事を投げて消えたのは58年前ね。それじゃ次の質問、黒影って何かしら?」
「黒影は未だに謎が多く発生原因は不明。昆虫や動物を模した物が多く大きさは1mから大きい物で3mで影のように黒くどこからともなく現れ人を襲う習性を持っています。物理攻撃も効きますが魔術による攻撃の方が効率的と言われています。土地によって黒影の特性が違い、華姫付近の黒影は耐久性が異様に高いです」
「では魔術師と魔術について説明できるかしら?」
「魔術は日ノ元でのみ使用できるとされているもので魔術式を組み上げて現実では有り得ない事象を起こせます。でも人によって向き不向きが有って組み上げる魔術式が同じでも人によって効果が変わったりとまだまだ未知の部分があります。魔術師は魔術を行使する人達をさす言葉です。男性より女性の方が魔力量や資質が高く魔力量が高い男性は魔力に順応できず短命という傾向にあるそうです。最近は黒影を狩る人達を魔術師と呼ぶのが普通になって来ています」
「最後にここ華姫市の歴史を教えてくれるかしら」
「華姫市ができたのは54年前で元は播州姫路と呼ばれていました。先々代の和煎鷺草さんによって統治後華のある市にしたいという思いと旧地名の姫路から姫を取って華姫という名称になりました。土地に合う漢字は和煎家が鬼の血を引いているという事もあり鬼の統べる国として鬼の1文字が選ばれたそうです。鷺草さんは華姫をまとめてから26年後に死去、その跡を継いだのが娘である仄さんで14年前狂ったような法を敷き市民によってその地位を剥奪され部下の1人、久野宮竜吉さんによって首を刎ねられたと聞いています。そして9年間市長不在の状態を琴葉ちゃんと白鷺さんがまとめあげ5年前に琴葉ちゃんが正式に市長に就任し鬼姫となりました」
「少々端折ってるけどまぁいいでしょう。お疲れ様」琴葉ちゃんとアリサの問答はここで終わりらしい。
内容を軽くまとめて、足りない点を補うならば
・現在日ノ元には法律がないが各地域によって独自のルールが存在している
・各地域に市長という統治者がいる。戦国大名みたいな感じ
・その市長達を纏める火野姫という人物が居る
・海の向こうの国は黒影が存在する為日ノ元とは関わりたくないが肥前の出島で物資のやり取りをすることがある
・黒影という化け物が存在する。そして黒影は地脈の中心付近から現れるのが基本
・華姫の黒影は数十秒間で致死量のダメージを与えなければ消えない。致死量は個体差がありたまに恐ろしく硬いやつもいる
・魔術師は魔術を行使する人達の名称で最近は黒影討伐をする人達の名称になりつつある。解せぬ
・魔術師の延長線のようなもので己の魔力と術式を札に込めて使う人を符術士と呼ぶ
・魔術は自らの魔力と日ノ元の地脈の力を使って現実では有り得ない事、例えば火を操ったり風をおこしたり水を作り出して自由に操ったりできる
・華姫市は54年前にできあがり、琴葉ちゃんで3代目である
・先代は突然狂った法というか上納金制度をいきなり作り市民達の一揆によりその地位を奪われ側近に殺された
という感じだろうか。まぁ我輩事態全部が全部分かってるわけじゃないが……
「特に補足する事項はないかしらね」
琴葉ちゃんは1口お茶を啜り、お茶菓子である小さいバームクーヘンに手を伸ばし「今からはお仕事と言うか華姫市全体に関わる話だからよく聞いておいて」
静かに、真剣な面持ちでバームクーヘンの封を切る
「と言うと?」
我輩はいつになく真剣な琴葉ちゃんを見てただ事ではないのだろうと推測する。
黒影が大量発生でもするのだろうか?
それとも街中で何かあったのだろうか?
琴葉ちゃんは1口サイズのバームクーヘンを口に放り込み、味わってからお茶を飲む。
至福と言わんばかりに頬が緩んでいたが食べ終わってから先程の真剣な面持ちへと戻る
「先代様が生きてるかもしれないわ。確固たる証拠はまだないのだけれども市民の目撃情報とか解像度は悪いけど写真も撮れてるわ」
そう言って琴葉ちゃんは手元に置いてあった資料類から1枚の写真を取り出し我輩達の手元に置く
先代様、先代鬼姫である和煎仄である。死んだ人間が生き返るか……正直な所有り得ない話じゃないし、もしも本当に生き返っていると言うのなら早めにこの事態を片付けなければ……
「結構遠くから撮ったみたいだね。ちなみにこれは誰が撮った写真か分かったりする?」
虎織は目を細め写真をながめながら写真の提供者を問う。ズーム最大で撮影したのだろう。写真はもはやドット絵と言っていいほど画質が悪い
「日々喜よ。城付近の店の屋根から撮ったものらしいわ」
「なるほど。日々喜ちゃん的にはこの人は本物の先代様なのかな?」
虎織が上を向くと天井に黒髪の女性が立っていた
「本物ですかね。簪の造形、綺麗な白髪、佇まいどれをとっても先代様と言ってもいいと思います」
天井に立っている女性、黒鉄日々喜はそう言うと共に天井から足を離しくるりと半回転してから地面に降り立つ。
正直この部屋のどこかには居るとは思っていたがまさか真上とは……
「あの、その人は……?」
アリサが唖然とした顔で日々喜を見る。そりゃそうなるわ。
てかそもそもアリサはさっきからの先代様の話置いてけぼりくらってるのでは?
「申し遅れました。わたしは黒鉄日々喜。琴葉様の身辺警護およびお世話をしております。平たくいえば……都合のいい奴隷でしょうか?」
日々喜は恐ろしい冗談を真顔で放つ。
「えっ……琴葉ちゃんそういう趣味が……?いや、うちがとやかく言うのはあれなんだけど……」
日々喜さんが真顔で言うからアリサが真に受けてしまった。まぁ仕方ないね!
「違うの!日々喜は普通に身辺警護してくれてるだけよ!奴隷だなんて思ったことも無いし!」
凄い勢いで琴葉ちゃんはアリサの誤解を解こうとしている。ここで日々喜を責めない辺り琴葉ちゃんらしい
「ははは、冗談ですよアンダーソンさん。そこまで真に受けるとは」
遊びがいがありますねと小声で一言……
「日々喜さん、アリサで遊ばないでくださいよ……」
「おや、聞こえてましたか。それは置いておいて脱線した話を戻しましょうか」
誰が脱線させたと思っているんだと言いたいが早く話を進める為に言わないことにする
「その写真は昨日の亥の刻に白鷺城の門付近を撮ったものです。あまり近づくと気配などでバレますので画質が悪くなっています」
亥の刻というと21時から23時だったはずだ。時間感覚ざっくりし過ぎではなかろうか
「結論から申しますとわたしから見た彼女は100パーセント仄様です」
日々喜さんが断言するなら本物なのだろう。何せ、日々喜さんは先代様に拾われ育てられたのだ。
数年間とは言え毎日顔を合わせていたのだろうし間違う事などあるのだろうか?きっとこの人は恩人の顔を忘れはしないだろうし間違う事もない。
「そう。ならここからは先代様が本物という仮定で話を進めるわ。将鷹、虎織、貴方達は彼女の目的とどうして今になって現れたのか。それを調べてちょうだい。あと町を歩いて情報収集するのならアリサもつれて歩くように」
「了解。それでお仕事は今日から取り掛かればいいのかな?」
虎織が左側にいつもつけている蒼い髪留めを触りながら言う。これは何かが不安や心配な時にする仕草だ。付き合いが長いからこそ分かることなのだがどうすればいいかは全く分からない……
「出来れば今夜から取り掛かってくれるかしら?」
「なら、午後は聞き込み兼ねてちと散歩してくるよ。書類はある程度は片してるから残りは頼む」
我輩は虎織の手をとり立ち上がる。気分転換に散歩をしよう。小声でそう言うと虎織がこくりと頷く。昔から何かあったら一緒に散歩をしながら他愛もない話をして気を紛らわしたものだ
「アリサちゃんも散歩着いてきてね」
立ち上がった虎織が笑いながらアリサに声をかけたが当の本人は思考が追いついて来ていないようで少しキョトンとしてから「うん」と返事を立ち上がったその時、バタン!と勢いよくドアが開くき禍築が血相を変えてこう言った
「黒縄山に黒影が出現しました!数は5、急ぎ対処を!」
タイミングが悪過ぎる。しかも数がいつもより2匹ほど多いのが最悪すぎる
「申し訳ないけど2人ともそっちの仕事を優先してちょうだい。桜花も呼んでおくから現地で合流して人里に降りる前に狩りなさい」
琴葉ちゃんもタイミングが悪いと言わんばかりに不機嫌な顔をしていた。本当に空気読んで欲しいもんだ。黒影に言っても仕方ない事だけど
「鳶さん呼んどいてくれよ。時間が惜しいし」
「えぇ、呼んでおくわ」
「それじゃ、行ってきます」
こうして我輩と虎織、それとアリサは黒影が跋扈する山へと向かう事になった
占いってやっぱり当たるもんだな……