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7話

「シレウス!」

自分の叫び声に驚いて飛び起きた。

「あ・・・・・」

零れた失望の声に、シレウスがどこにもいないことを知る。

未練がましく探しても、どこにもあの綺麗な瞳はなくて、先ほどまでの静かな空間に馴染んだ体には部屋に満ちる光が眩しい。

あれは・・・夢?

自覚すると、今度は自分の行動を冷静に思い返してしまった。

「うわ、夢で飛び起きるなんて恥ずかし」

片手で顔を覆って、誰にともなく照れ隠しでそう呟くと、枕元の時計を探った。

アラームは鳴っていないようだからまだ起床時間より前だろう。

でも、それにしては視界が明るいような気が・・・と思いながら伸ばした手が空を切る。

「あれ?」

どこかに落ちちゃったかな?

ならば壁にかけている時計を、と顔を上げる。

そこには小さなベッドと折り畳まれる事のない折り畳みの机とクローゼット、その他もろもろが詰め込まれた見慣れた6畳部屋があるはずだった。

けれど、実際広がっていたのは、6畳どころではない、10畳も20畳もあるような広い空間で、私が寝ていたのは天蓋付の大きな寝台の上。

「あ、れれ?」

真っ白になった頭からはそれ以上の台詞が出てこない。

ええと、これどういう状況だろう。

ぽかんと口が開いてしまう。

それでも取り乱さずにいられるのは先ほどの夢の影響だろうか。

一旦今の状況を頭から追い出し、目を閉じて、巨大で美しい夜空のような存在を思い出す。

それだけで心のどこかが解けるような、やさしい何かに包まれているような感覚になれた。

しばしその感覚に浸るも、ふと浮かんだ疑問に思わず目を開ける。

そういえば。

なんの疑いも抱かずに“彼“だと思って名前つけちゃったけど、もしかしたら“彼女”の可能性もあったんじゃ?

試しに想像の中ででっかいリボンをつけてみる。

「・・・・・」

ただの想像なのになんとなくシレウスに酷い無体を強いてしまった気分になって、ごめんなさいごめんなさいと土下座したくなってしまった。

や、自分の夢の登場人物に謝るというのもおかしな話だけどさ。

しっかし、私、爬虫類フェチのつもりはなかったんだけど、夢に見るほど好きだったのかしら・・・。

新しい自分を発見してしまったような気になって、思わずばふっと枕に顔を埋めた瞬間、軽やかなノック音が響いた。

「失礼いたします」

寝台から遠い正面の扉が開かれると、年の頃は16,7だろうか、赤毛を三つ編みにして頭の後ろで纏めて紺のワンピースに身を包んだ少女がきちんと手を体の前に揃えて立っていた。

上体を起こしてそちらを向いた私と目が合う。

と、突然ぶぅわっという音がしそうなほどの勢いで少女の目から涙が溢れ出した。

「え、えぇ!?」

ちょ、なんで!?

私、何もしてないよね?

はっ、もしかして、私の起き抜けの顔がそこまで酷いとかそういうこと!?

そういうことなの!?

思いもしない展開にあたふたと彼女に駆け寄ろうと大きく体を動かして------びきっと固まった。

痛い。

腰が痛いし腕も足も痛い。

特に内腿の辺りがめちゃくちゃ痛い。

なんだこのすっごい筋肉痛。

昨日何したっけ。

あ、そうだ、竜に乗ったとき、内腿で支えてたからか。

あーそうだった、と思い当たった原因に頷いて、はた、と止まった。

「・・・って、ことは、あれ、現実ってこと・・・?」

ということはこの見知らぬ部屋にいる今も勿論現実ということで。

頭の動きを最小限にして部屋の様子を探る。

何度瞬きをしても不必要なほど広い部屋の様子は変わらず、全身に鈍痛が響けば響くほど現実感に打ちのめされる気分になった。

「うーわ、マジで」

体力的にも心理的にも脱力以外できることがない状況にげっそりした時、ようやく現実に戻ってきたのか、少女は勢いよく駆け寄ってきて枕元に跪いた。

「あぁ、神女様!なんと気高いお姿!伝説どおりの美しい黒い髪、黒い瞳!サシェアは感動しております!」

「え、う?」

脈絡もなく最高潮まで跳ね上がったテンションについていけず目をぱちくりとさせる。

そんなこちらの状態に一切構わず、彼女はがっしと私の両手を握り締めた。

「こたびは世界を救うためにご光臨なされたとのこと、神女様の尊いお気持ちにお応えするべく、このサシェア全身全霊を持ってお仕えさせていただきます。なんなりとお申し付けくださいませ!」

えーと、うん、まだ現実に戻ってきてないみたいね、この子。

「あの」

「あっ、私ったら自己紹介もせず、失礼いたしました!」

そう言ってぱっと手を離し、スカートを摘まんで優雅に一礼をした。

「私今日よりシオリ様のお世話をさせていただきます、ハルバード候が息女サシェアと申します。神女様にお仕えできますこと、身に余る光栄と存じております。至らぬ点も多々あるとは存じますが、誠心誠意お仕えさせていただきますので、よろしくお願いいたします」

だ、誰かこの子のテンションのスイッチ教えて。

だけど、なんだこの子ちゃんとした話し方もできるんじゃない。

ちゃんとした、というかちゃんとした以上というか。

畏まった挨拶に思わず身体が痛いのも忘れて正座をしてしまった。

「は、あ、ご丁寧な挨拶痛み入ります。よろしくお願いします、柚木星織です」

優雅な一礼なんてできないので日本式に頭を下げると、サシェアがひっと息を呑む音が聞こえた。

「いやです、いやですわ、お顔をお上げください。私などにそのように頭を下げられてはなりません、あぁ、お願いします、お願いします」

あまりに切羽詰った様子に慌てて頭を上げると、困惑の極みで激しく手を揉み絞る彼女の姿があった。

くりっとした丸い瞳が今にも零れ落ちんばかりに涙を溜めている。

えぇ、そこまで!?

「あぁ、ごめん、えーと、これは私の国での正式な礼でね、別にそんなうろたえるほどのことじゃないのよ」

そんなにうろたえられると逆にこっちもうろたえてしまうから!

「ね、落ち着いて?ほら、涙を拭いて」

手元にハンカチがなかったので親指で零れ落ちた涙を拭う。

すると、みるみる彼女の頬が紅く染まり、滂沱の涙が流れ落ちた。

「なんてお優しい・・・・。姿形だけでなく、お心までも清らかで美しいのですね!そんな神女様にお仕えすることができるなんて、あぁ、サシェアは幸せ者です・・・!」

「・・・・・・」



だめだこりゃ。



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