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クソゴミ陰キャ伝説〜デート編〜

 人間とは弱い生き物である。


 なまじ脳みそが大きくなってしまったから、余計なことを考えてしまう。あの時こうしていれば。もしもの世界があったなら。一度溢れ出した〈IF〉への憧れは、いつしか願いとなり、脳みそにこびりつき離れてはくれない。いつだって、ここではないどこかの世界を目指してしまう。誰だって助かりたいからだ。


 生きていくということは、すなわち後悔の海で荒波に揉まれることである。だからこそ、助けを求めるように人は変わっていく。同じ想いを抱きながら生き続けられる人間なんて、この世には存在しない。



 俺だってそうだ。



 ゴブリン(仮称)が塵と化し、ファンファーレが脳髄にこだまする。遂にレベルアップだ。帰りたいぜ。


 勿論、俺がやった訳じゃない。こちとら隠キャ高校生だ。ローファンタジーに片足突っ込んだからと言って、すぐさま戦いの日々に適応しろってのは、ちょーっと無理な話だろ。帰りたいぜ。


「ユウくん!」


 脱線したままぐるぐると回り続ける俺の思考に、アクセントに少し違和感がある日本語が割り込む。


「アレはナニ屋さんなのデすか?」

「あーっと……文房具屋兼駄菓子屋、かな」


 俺の隣を歩く、誇張抜きで俺の理想そのまんまの女こと、流菜ちゃんは目を輝かせた。数秒前に無表情でゴブリン(仮称)を消し去ったとは思えない変わりようだ。正直に言おう。こわい!


 俺の覚悟はすでにボロボロに風化し、ライオン如く研ぎ澄まされた世界への憎悪も、今やハムスターレベルの臆病さへと変貌していた。


「駄菓子! 食べてみたイです!」


 そんな俺をよそに、流菜ちゃんは興奮を抑えられないご様子。駄菓子特有のチープさに満足してもらえなかったらどうしよう。やっぱり殺されるのかな。俺は恐怖した。


 しかしすでに俺たちは歩き始めている。もう後戻りはできない。ウキウキで歩く流菜ちゃんを横目に、俺は仮病を使わなかったことを後悔するのであった。






 俺は流菜ちゃんと落ち合い、ギラギラした目で街へ繰り出した訳だが、そんな俺を出迎えたのはオーク(Lv38)だった。


 こう見えて戦おうって気はあったんだぜ? 俺がステータスオープンだのなんだのほざく前に、流菜ちゃんが無表情で塵に還したが。


 いやもうそんなん見たらテンションも元に戻るって。死にたくないもん。人は変化する生き物だ。誰だって変わっていく。じゃあ今回の俺もセーフだよな? ほんとに。ナマ言ってすいませんでした。


 その後。特にデートプランを一切考えていなかった俺は大いに焦り、流菜ちゃんの「街ヲ案内してクださい!」と言う提案に従い、今に至ると言う訳だ。


「ユウくん! 見てくダさい! アタリでス!」

「おお〜、いいね」


 文房具屋の横のベンチで、駄菓子のアタリハズレに一喜一憂する流菜ちゃんの横顔を眺める。


 こう見るとただの女の子、なんだけどなぁ。


 正直さ、人間じゃないんだろ? この子。全国チェーンのコンビニを物珍しい目で見てたりとか、怪しい日本語とか、無表情でモンスターを塵に還す姿とか。ここまで見せられたら誰にでもわかるって。


 本命は人間に擬態するタイプのモンスター、対抗に『魔王』そのもの、大穴でエイリアンってところかね。人外であることは確かだ。


 つまらねー日常に、急に属性過積載ガールを出現させやがって。どうしてこうも極端なんだ。どこの誰のせいなのか分からなかった俺は、とりあえずふわっとした『青春』と言う概念を恨むこととした。おのれ青春めッ!


 そんな事を言ってる間にも、流菜ちゃんは黙々と駄菓子を食べ続けている。アタリで喜んでるとこ悪いが、そのチョコはアタリ確定のヤツだぜ。


 ガーン、と分かりやすくショックを受ける流菜ちゃんを見ているうちに、俺はだんだんと穏やかな顔つきになってきた。死が近い。






 計700円の豪遊を終え、俺たちは再び歩き始めた。案の定、さっきまでモンスターだった塵が風に吹かれて飛んでゆく。諸行無常。俺に入ったであろうカスみたいな量の経験値に、追悼の意を示しておく。


 そういう体質? なのかは分からないが、流菜ちゃんはやけにモンスターからのヘイトを買う。というかこの間のキングスライムの件で、俺(とマー君)がめっちゃヘイト食らってたの、流菜ちゃんに気に入られてるからとかある? いやスライム(小)の敵討ちっぽいところもあったしなんとも言えないわ。考えるだけ無駄だと思考を放棄する。デート中だしね。


 ていうかモンスターが多いなぁ!? どうなってんだ! なんで曲がり角を曲がるたびに敵にエンカウントせねばならんのじゃい! 今までどこに隠れてたんだよ。イライラしてきた。


 しかしここで不機嫌を表に出すようなことはしない。かっこ悪いからだ。心にヒマがある生物……なんと素晴らしい……


「ふふっ……ユウくんを見テると退屈しまセんね! お顔がコロコロ変ワって、楽しそうです」


 どうやら表に出ていたらしい。悔しいぜ。


 しかしここで「なに笑っとるんじゃい!」とキレ散らかしたりはしない。かっこ悪いからだ。その上、流菜ちゃんは現在進行形でゴブリンを屠っているからだ。怖いぜ。


「そんなに面白いかな、俺」

「はい! とってモ!」


 俺に百万ボルトの笑顔が直撃する。


 クソッ! 可愛いぜ。やはり俺の理想どストレートの女の子は違う。マー君と喋っている時とは精神的な衝撃の最大値が段違いだ。


 ふわふわの前髪とか、長いまつ毛から覗く瞳とか。アニメから飛び出してきたかのような白い長髪は、まさしくメインヒロインの風格を……


「――――あ?」


 なんだ? 今、メチャクチャ重要なことに気づいたぞ?


 まあいいや。一瞬で忘れるんならどうでもいいことだろ。大事なことならマー君も思いつくはずだしな。今はデートに集中しなきゃ。俺はまだ最悪のパターンを想定し続けている。こいよ、お兄さん(恐)。


 覚悟を決めた俺は、デートの最終目標へと向かう。マー君の入れ知恵、お手軽ロマンチック・スポットである山公園だ。最終地点を俺が決めることにより、悪意の第三者の待ち伏せに備える。我ながら賢い作戦だぜ。






「おお〜、高イ!」

「まぁ、それくらいしか言うことないか」


 山公園――おそらく正式な名前があるはずなのだが、俺は知らない――はその名の通り少し山を登った場所にあり、眺めの良さに対して人が少ないことが特徴の公園である。周辺でもトップレベルで夕焼けが綺麗に見えるが、そのために割と長い坂道を登るのは割にあっていない、と言うことだ。


 実際俺も足ガクガクだしな。明日は筋肉痛。


「ほ〜……」


 疲労困憊の俺をよそに、流菜ちゃんは口を開けたまま景色に見惚れている。


「夕日が綺麗だな」

「はい……こんなに綺麗なの初めて……」


 初めて、か。


 別に今日の夕日が特別綺麗って訳じゃないだろう。ガッツリ雲あるし。ただちょっと眺めのいい場所から見ているに過ぎない。


「寂しいような、懐かしいような…………えっと……その、私……こんなの見たことなくて……なんて言ったらいいのかわかんなくて……」

「……『エモ』かな」


 特に何も考えず、俺はそう口にした。マー君だったら「テキトー言ってんじゃねーよ」と一蹴されるような発言だったが、彼女にとっては違ったらしい。


「『エモ』……ふふ、『エモ』ですね!」

「『エモ』だな」


 人外でも、夕日に感情的になったりするんだ。エモエモと何度も繰り返す彼女を見て、ちょっとだけ親近感が湧いた。こういうのも悪くないかも、なんて、柄でもないことを考えたりもした。


「また見に来ましょうね」


 俺たちは、少しの間、夕陽を見つめていた。






 翌日。デートの顛末をマー君に説明したところ、余りにも会話が少なすぎるとのご指摘を頂いた。吐いた唾は飲めんぞッ、小僧!


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