凍った顔に映った真実
途中に出てくる、(ここから続きを書こう。)は無視してください。
これは作者が学校で作った作品のためです。
ご了承ください。
競技場にアナウンスが流れる。競技場の片隅で、Aは自分の頬をパチンとたたいた。ついに出番がやってきたのだ。
隣のBを見ると、両手を強く握りしめてうつむいていた。Bは去年、一度も試合に出ていない。思えば去年、自分もこんなふうに縮こまって、初の試合に臨んだのだ。去年の自分とBの姿が重なり、Bを助けたいと思った。
AはBの肩に手を置くと、小さくほほ笑んだ。
「いつもどおりにやれば大丈夫。安心して。」
顔を上げたBの肩から、力が抜けたのがわかった。
(ここから続きを書こう。)
AとBは互いに大きな赤いリボンと青いリボンを結びあった。
Aはラケットを握る。この一年半、苦楽をともにしてきたラケット。試しに腕を振ってみる。
「うん、大丈夫。」
Aは自分に言い聞かせるように言ったつもりだったが、Bがありがとう、と小さく呟いたのが聞こえた。
二人はコートに入る。コートを踏みしめる感覚。改めて、深呼吸する。言葉もなく、AとBは目を合わせた。
ピー
試合開始の音。それと同時にシャトルが宙に浮く。
パンッ。
Bが打った。
向こうのチームがそれを打ち返す。Aも負けじと腕を伸ばした。ギリギリだった。こんなはじめから、振り回されている。…無理かもしれない。そんな考えがAの心のなかに芽生える。
向こうのチームは日本一の実力を持つとも言われるミナハナだ。
確かに私たちがかなうはずなど、なかったのかもしれない。なぜ一回戦で、ミナハナとあたってしまったのだろう。敗退の二文字がAの頭に浮かぶ。浮かんだら最後、それは頭の中を埋め尽くした。
荒くなる息。高鳴る鼓動。それなのにミナハナはほとんど動かず、平然と打ち返す。それにまた振り回される。
パンッ。
Bが打つ。
パンッ。
腕を伸ばした。あと五センチ。ついに届かなかった。
わああ、と歓声が上がる。
「ミナハナがとったぞ!」
「このまま!勢いに乗ってストレート勝ちよ!」
みんな、ミナハナを応援している。
ミナハナは一点、また一点と、得点を重ねていった。
Aは周りを見た。
腕をあげてミナハナを応援する人。「ミナハナがんば!」と書かれたうちわを持つ人。
敵しかいない…。Aはついそう思ってしまう。唇を噛んだ。
ふと右を見た。目に入ったのは真剣な顔のBの姿。はっとした。今は試合中。たとえ一人でも、戦い抜かなくてはいけない戦場。それに仲間はいるんだ。二人なら。
「大丈夫。」
それにBは深くうなずく。去年はシングルスだったが、今年はダブルスだ。仲間はいる。そう心の中で繰り返した。ラケットを握りなおす。
パンッ。
Bが打ち返す。
パンッ。
ミナはまた、難しいところに打ってくる。でも。
パンッ。
打ち返せた。練習してきたとおりに。
パンッ。
ラリーが続く。振り回されず、戦えている。
パンッ!
そして気持ちの良い音とともにBのスマッシュが決まった。AとBは意識する前にパンッとハイタッチした。
それからはAもBもさすがというべきか、互角に、いや少々優勢に試合を進めていった。
そして、20点、マッチポイントをとった。
ミナハナは17点。いける。Aは確信した。それはBも同じだった。
毎日練習したことを思い返す。
これで決める。
目をカッと見開き、Aはシャトルを上げた。
パンッ。
ミナが打ち返した。目には必死さが滲み出ている。
パンッ。
Bも打つ。この勢いのまま、第一ゲームをとりたい。
パンッ!
ハナのスマッシュ。Aがとった。まだ余裕が見える。
両者、一歩も譲らない。試合の邪魔になると思ったのか、試合に集中したいからなのか、わあわあといううるさい声は聞こえない。代わりに、パン、パンと乾いた音だけが、競技場にこだまする。
パンッ!
一段と大きな音が響いた。Aのスマッシュが決まった。
ゲームセット。
そのアナウンスに、Aは目を輝かせ、Bに駆け寄った。客席はわあわあとまた騒がしくなった。
Bは呆然と客席を見つめる。
「勝った!勝ったんだよ!」
ぴょんぴょん、うさぎかというくらいに飛び跳ね、Bを抱きしめるA。目の前の出来事に、驚きを隠せないB。
「…あ、あ、あ…」
抱かれたBは客席の一点を指さしていた。
彼女らを応援する者は誰一人としていなかった。ミナハナがこのゲームをとれなかったことへの驚きが客席を包んだ。
Bの震える手。それをAは握りしめ、笑う。
「このままの勢いで行こう!勝とう!」
Aはポニーテールを揺らし、振り返った。大きな赤いリボンがほどけた。
そして凍りついた。目から光が抜け、汗だくの体に、鳥肌が立つ。
二人は客席の端の一点を見つめ、微動だにしなかった。
見つめられたCはにっこり微笑んだ。赤い唇に白い肌。黒い髪がふわりと揺れた。
「なんで…?」
Aはかすれた声でつぶやいた。