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ある夏の昼下がり、冒険の始まり
その日も、かなりの暑さだった。
ミーン、ミーンと煩い蝉の声がそこら辺に乱反射する雑木林の中を、僕は汗だくになりながら一歩一歩踏みしめて目的地に向かっている。
僕、田中 隆志は小さな卸商社の営業マン。
扱うのはOA機器、要するにコピー機とかパソコンとかを地域の会社向けに売る仕事だ。
ただ、ウチみたいな小さい会社では売るだけではなくアフターフォローも含めて担当しなくてはならず、今日も田舎町の更に外れの辺鄙な場所にある一軒家に行く羽目になっていた。
依頼主は偏屈な士業のお爺さん。
なんでもパソコンが突然動かなくなったとかで、場所も相まって誰も行きたがらず、僕に白羽の矢が立ったって訳で。
断る理由があれば良かったんだけど、皆んなして「頼むよ、タカシ」って言われた手前、断りきれずに今こうして重たい営業カバンをぶら下げて森の中を歩いているのだ。