1.プロローグ
「なんだ?これ?」
大学のボランティア活動で参加した清掃作業。
その時、橋の下で見つけた一冊の本。背表紙にも表紙にも本のタイトルが書かれていない不思議なハードカバータイプの本だった。
雨に濡れた様子もなく今置かれたばかりのような本。
「どうした?圭太」
ゴミ袋片手に英治が近づいてきた。
「いや、本が落ちてると思ったが・・・日記だったみたいだ」
英治が近づいてきている時に、なんとなく開いてみたが、本だと思っていたのは女の人の日記だった。
「え〜?なんでこんな所に日記?」
背後から、英治が覗きこんできた。
読んでみると、女同士の職場内での嫌がらせ。冤罪による叱責。職場内での孤立。職場の人に彼氏を奪われた事が書かれていた。
「うわ〜。なんか、悲しい内容の日記だな。書いてて辛くなって捨てたのかな?気味悪いし、それは回収せずに置いとけば?何か嫌だよ。こんなの回収するの」
「そうだな。しかし、この彼氏奪った女が俺の彼女と同じ名前ってのも嫌な感じだな」
「彼女、鈴音ちゃんだっけ?看護師してるんだっけ?」
「そう。看護師の卵。仕事忙しいらしくてさ、最近会えてないんだよな。」
そんな俺の言葉を聞き、大げさなリアクションを取りながら英治が1トーン下げた声で、
「もしかしたら、その本は呪いの本だったりして。鈴音ちゃんと会えてないんだろ?もしかして・・・ 。活字には魂が宿ると言うし・・・ 読んだ者はこの内容の通りになるとか・・・もしかして・・・ もしかして・・・ 鈴音ちゃん・・・」
俺は英治の腹にワンパン食らわしてやった。「ぐえっ」という変な声が聞こえてきたが、そんな事知ったこっちゃない。
「うるさい!面白がってんじゃねーよ!俺の鈴音は浮気なんかしねぇよ。ほら、もう行こうぜ」
日記を元あった場所に戻して、清掃作業を再開した。
そして、日記のことはすっかり忘れ去ってしまった。