レイドブレイク2
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VR対戦型Eスポーツ施設クサナ。都内にあるアミューズメント施設を改良し作られたまったく新しいゲームを体験できる施設として改装された。
1階は受付となっているが、そこから男女別に更衣室が用意されている。そこで自身の身体にあったスーツに着替える。スーツにはセンサーが組み込まれ、身体を動かせば館内にあるカメラとセンサーが動きを察知し自動的にその動きをスキャニング、そしてアバターにその動きが反映されるようになっている。
2階から様々な対戦フィールドが用意され、その様子を観戦できるイートインスペースもある。そこには巨大スクリーンが用意され、今対戦している様子を見る事ができるのだ。もちろん、それもアバターに差し変わったものであり、一見するとゲーム画面を見ているような雰囲気を味わえる。
そしてそれは当然ながら実際に遊んでいる人達も体験が可能だ。
カメラ付きのヘッドマウントディスプレイを装着しその画面には加工された映像が表示される。自分の身体も、仲間も身体も、そして対戦相手さえすべてアバターに差し変わっており、またそれだけではなく風や匂いなどもその場所に合わせたものを用意することによってより没入感を与える事を可能としている。
軽やかに動けるように床は体操競技などにも使用されているタンブリングバーンを改造した素材を使用して軽くジャンプするだけでも普段以上に飛び、また転んでも床が衝撃を吸収するため、怪我のリスクを最小限に抑える事ができる。
それだけではなく、様々なゲーム事業と連携を取り、この施設を用いた新しいゲームの開発、または既存のゲームをこの施設ように改良を加えたものの開発も依頼している。
そんな壮大なプロジェクトを飾るゲームイベント。
それが今危機に陥っているという事を、ただ1人……天ヶ瀬という男だけが理解していた。
「VR技術を用いたシューティングゲームか」
2階のフロアに用意されているゲームは5対5で分かれて戦うシューティングゲームだ。それぞれ専用のアバターを選択し、独自のスキルを用いて戦場を駆けまわり、銃を強化して戦うという目玉のゲームである。
用意された銃型のコントローラーから向けられたセンサーは引き金を押す事によって銃弾が発射されたと判定される。そしてそのセンサーの軌道上にプレイヤーがきるスーツがあれば反応しダメージを受けるという判定が下されるのだ。
むろん、バトルするフィールドの至る所にセンサーは埋め込まれており、また全体を覆うように設置された百台近いカメラと連携され、銃弾を受けた際のフィールドのアクションも映像として表現されている。例えば壁を撃てば銃撃音と土煙が発生するし、爆弾を投げれば即座に着弾地点から爆発の判定が広がり近くにいるプレイヤーにダメージを与える事も可能だ。
天ヶ瀬は事前に受けていた説明を思い出しつつ、実際にクサナギに赴き現場を見ていた。
大企業のトップであり、今回のスポンサーの1人でもある天ヶ瀬の近くには秘書、そしてクサナギの責任者である大場が直立して立っている。
「大場君。このゲーム。確か名前は――」
「はい。スピリッターズというPCゲームを元にしたタイトルです」
「ふむ。そのスピリッターズというゲームは銃の攻撃を受けると大体どのくらいで死亡判定となる? 1発ではゲームにならないだろうし、2,3発程度かね」
天ヶ瀬はこういったゲームに疎い。配られた資料にはゲーム名、どういう遊びをするゲームなのか、そこから予想される客層はどこか、集客率の予想と売り上げというものは把握している。だが根本的なゲーム内容をわかっていない。銃で撃ち合い、またスキルと呼ばれる魔法のようなものを使い戦うという概要しか知らないのだ。だから実際に銃を受けた場合に動けるのは何発程度だろうと予想しながら質問をした。
「いえ。スピリッターズは最初アーマーが用意されており、そのアーマーをアイテムを拾うか、敵を倒すと強化されて行きます。初期アーマーでも1マガジン撃ちきるまでダメージを受ければほぼ瀕死になります。もちろん頭を狙えばさらにダメージが上がる仕様ですね」
「アーマーか。なるほど。確か武器も戦いながら強化していく、というものだったかな?」
「はい、その通りです」
つまり一番最初が一番弱いという事だ。
「もう1つ質問だ」
「はい、なんでしょうか」
「このゲームの銃弾は実際の銃弾とどちらが速い?」
「……は?」
大場は思わず聞き返す。意味がわからなかったからだ。そんな困惑している大場を無視して天ヶ瀬は質問を重ねる。
「ライフルなんかの実弾は大体秒速600メートルから1000メートル程度、これはマッハ2を超える。ならスピリッターズの銃の速度は?」
「いや……え?」
「どうした君はここの責任者だろう。なぜ即答できない」
「い、いや……少々お待ちを。この場合ゲームの設定に関わるため、一度メーカーに……」
大量の汗を流しながら困惑している大場の横にいた秘書が口を開いた。
「代表。この場合ですが、銃弾の速度というより、コントローラーから発せられる光センサーがスーツのセンサーに到達する速度と思われる。つまり……」
「実質光の速度と同じ弾丸という事か」
無表情の秘書によるアシストにより大場はこの意味の分からない状況を乗り越えた事に安堵し、同時に疑問が頭をよぎる。
(マッハ2だろうが、光の速度だろうが、撃ったら当たるのは一緒では?)
そんな疑問をつゆ知らず天ヶ瀬は考える。
(礼土に銃弾があたるか? 無理だ。確実に躱される。ならこのゲームにおけるアドバンテージは計り知れない。なんせ銃を撃っても当たらないのだから。だが光の速度で発射される銃弾なら?)
礼土は光魔法使い。万が一躱すという離れ業をしそうな気がするが、殺気もないただのお遊びの場なら反応は遅れるはず。事前に奴の魔法使用禁止という誓約書を書かせるのは当然として純粋な肉体性能だけでも躱しそうな気がして嫌になる。
ここは賭けになる。だが当たっても効かない弾丸ならいざ知らず今回は当たればシステム的にダメージ判定が発生するのだ。ならば十分にゲームとして成立する可能性があるはず。
「出来ればもう少し速度を上げたい。銃のコントローラーに設置されているセンサーの質を上げるようにこちらも工面しよう。精度を上げ、より早く確実に相手にダメージを与えるようにバックアップする」
「え……は?」
大場は天ヶ瀬の言っている意味が理解できない。
「では次のゲームを視察しよう」
そう言い残し天ヶ瀬は3階へ上がる。それを困惑したまま大場は後を追った。




