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人身共食12

 小笠原はスマホを握りしめ、歩調を気持ち早く歩く。この事件は大詰めまで来ている。勇実さんによって霊の特定が、そして桜さんによってその背景が特定できた。あとはこちらの仕事だ。


 井戸を探せ。



 そう桜さんは言っていた。このホテル周辺の地図は散々見た。だがどこにも井戸なんてないのは確かだ。捜査資料ももう一度漁ったがやはりない。あの周囲の昔の地図を探すように指示を出しているが、当時の状況を考えるにそこまで細かく書かれた地図があるか怪しいもんだ。



 ならどうするか。




「聞くしかねぇよな。知っている奴に」




 ネクタイを緩め、ガムを噛み煙草を咥える。多少強引にでも聞き出す必要がある。じゃないとこの事件は終わらない。タクシーで移動し朝霧大智が住む邸宅を訪れチャイムを鳴らした。



『……はい、どちら様でしょうか』

「刑事課の小笠原です」


 そう言いながら警察手帳の顔写真をカメラに向ける。




「例の事件について朝霧さんにお話ししたい事がありまして。ご在宅でしょうか」

『少々お待ちください』




 アポを取る暇がなかったが、多分会える。なんせ向こうもこちらの報告を心待ちにしているはずだからな。




『どうぞ中へ』

「ありがとうございます」


 案内された部屋に煙草を吸いながらどこかやつれた様子の朝霧がいた。憔悴している。思ったより線が細いタイプだ。いやそれだけこの一件が効いているという事なんだろう。




「待っていました。解決したんでしょうね?」

 

 会って早々か。いやこちらも実りの無い雑談をするつもりはない。



「進展しています」

「進展じゃ困るんだよ! 解決だ、私が求めているのは解決! 金輪際このような事がないように解決することなんだよ」


 貧乏ゆすりが激しくなっていく。随分イライラしているようだ。


「私に会いに来る暇があるならもっと尽力したらどうなんだ。ええ?」

「……無論解決に向かっています。そしてそのために朝霧さんに伺いたい事があって参りました」


 そういうと俺は鞄から1枚の紙を取り出した。それはホテルの図面だ。



 「これはあのホテルの図面です。教えてください、井戸はどこです?」



 これは勘だ。ホテルの周囲は今も警官が井戸の捜索をしている。だが俺はホテルの近くにあるんじゃないかと思っている。恐らく隠されている。だから井戸という言葉を出した時、俺は瞬きもせずずっと朝霧の顔を直視していた。




「――し、知らん」



 当たった。




「よかった。ご存じなんですね。教えてください。どこです。井戸さえ見つかれば解決する可能性が飛躍的に上がるんです」

「し、知らんといっている!」


 刑事をなめるなよ。この程度の嘘ならわかるさ。俺は図面のある場所を指さした。それは事件があった部屋の場所。




「ここですか?」



 図面には何も書かれていない。だが何かある気がする。



「知らないと言っているじゃないか。いい加減にしたまえ!」

「ここ?」

「さっさと帰れ。事件を解決しろ!」

「ああ、こっちかな」



 汗を垂れ流し唾を飛ばしながら怒りを表す朝霧だが視線はずっと図面を凝視している。その表情を見ながらゆっくり指を動かす。その中で一番激しく表情が動いた場所。ここか?



 俺は自分の指がある場所を見た。そこは事件のあったフロアの一番奥の部屋。




「ご協力感謝します。ここですか」

「ち、違う!! やめろ、やめろ!! あそこに近づくな! 開けるんじゃない!!!」



 決まりだ。だが図面上では何もない。まさか……。俺は手持ちの図面を広げる。上面図、そして側面図。問題の井戸があると思われる場所に注目する。





「まさか……」

「よせ、本当に――あそこは本当に……」



 涙を流しそうになりながら震えている朝霧を横目に自分自身の考えを口にした。




「埋め立てたのか? 井戸のある空間全部を。だから不自然にこのホテルの敷地は高いのか?」

「違う、違うんだ……」


 壊れた機械のようにそう呟く朝霧。一気に老け込んだように見えるがまだやる事がある。


 

「建築法的にどうなのかっていう話もあるが今はいい。それより許可を貰いたい。床を破壊して井戸を確認する」

「よせ、よしてくれ」

「これだけの騒動だ。井戸は無事だろう。恐らく井戸を破壊しようとすると何か起きたんじゃないか?」


 俺がそういうとすさまじい顔で睨んできた。アタリのようだ。



「貴方も終わらせたいんだろう。力を貸してくれ。こっちには頼もしい霊能者がついている」

「む、無理だ。あれは下手に触っちゃいけない!」

「やるんだよ!」



 俺は朝霧の肩を掴み激しく揺らす。




「ここで終わらせるんだ。もう被害者も出ている。放置なんて出来るわけがないのは貴方も覚悟していただろう! さあ!」











 額に汗を滲ませながら俺は朝霧の邸宅から外へ出た。欲しいものは揃った。後は実行するだけだ。スマホを取り出しメールを送り、すぐ電話をする。





「勇実さん。準備出来ました。場所はメールした通りです。ただ床を破壊する必要があり何か機材を……」

『必要ありません。任せてください。損害賠償さえ出ないならこちらの得意分野だ。すぐ動きます』

「え、ちょッ!?」

 


 

 え、どういう意味だ? 任せていいんだよな?


 

次でこのエピソードは終わりになります。

コンテスト用に新作を書く予定なので暫くお休みになるかと思います。

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― 新着の感想 ―
賠償さえなければ破壊活動は超得意だもんね
賠償しなくていいなら余裕よw
レイドが本気出すとだいたい破壊力が高いからね。屋敷消し飛ばしたときもあるし。
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