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人身共食11

 祖母が死に幸子は今まで床に臥せていたのが嘘のように活動を始めた。山に罠をはり食料用の犬を捕まえ、祖母の教えに従い、近所で買っていた花子という犬を捕まえる。大人しい花子をそのまま連れ出し祖母の日記通りに山に身体を埋めた。


 当初大人しかった花子だったが空腹になるにつれ暴れ始めた。それを見ながら幸子は自分で殺した野犬の肉を喰らい見るのが楽しみになっていた。



 そうして村で花子が行方不明になったと小さな騒ぎになっていた頃に花子は飢餓状態と成り果てていた。愛くるしいその姿は既になく、獰猛な獣のように暴れ始めている。幸子はそろそろだと考え用意していた自分の食事を目の前に放り込む。狂ったように暴れながらそれを喰おうとした花子の首を用意していた包丁で刺し殺した。


 

 何度も、何度も。その刃を突き立て千切るようにその首を取る。



 そしてその晩にその花子の首を村でも頻繁に使われる道の真ん中に深く埋めた。



 そして余ったその身体を食べようとして幸子は考える。




 自分の腹の中にいる赤子に美味しいものを食べさせたいと。




 祖母の日記を見て呪いという本質に気づいた幸子はある事を思いついた。




 現在行っているこの狗神という呪いは飢餓状態になった犬の首を地面に埋め、人に踏ませる事によってその恨みを増幅させるというもの。それを利用できないだろうかと。




 方法は単純だ。





 狗神に使用した花子の首を1週間後に回収。そして既に腐敗が始まったそれを回収し元の花子の身体と頭を無理やり混ぜた。骨は石で砕き、肉は細かくちぎり1つの肉団子のようにこねていく。



 ()()()()()()()()()()()()()



 

 既に幸子の身体は腹が大きくなりもうすぐ身動きが取れなくなる。出来てあと1度だ。そしてそのころにはきっと愛する英夫の子が生まれている。




「愛しているわ」









 村でそれが発覚したのは花子が行方不明になってから数か月後だった。村の近くの山から腐臭が漂ってくるという事でその原因を調べるために幾人かの村人が山を訪れ、()()()()()



 


「な、なんじゃ……」

「鬼じゃ、鬼がおる!!」

「化け物めぇ!!!」



 犬の死体に囲まれ、生まれたばかりの赤子を抱えた血だらけの女がその指で肉を赤子に喰わせていたのだ。



 本来歯も生えそろっていない赤子がそんな固形物を喰えるわけがない。だというのに赤子は美味そうにその肉を喰っている。



 その光景をみた村人はすぐに村へ戻り集会を開いた。そしてすぐに幸子であると断定される。多くの犬を殺しその肉を喰らう幸子は鬼と呼ばれすぐに殺すべきだと言う声も上がる。奴は狂っている、もはや人ではないのだと。


 そうして話し合いをしている最中に村に大きな声が叫び声が響いた。その声を聞き集会所から出た人々は驚愕する。それは赤子を抱いた幸子が村へやってきたからだ。


 夥しい血の臭いに鼻が捥げそうになりながらもその狂気に染まった姿に動けずにいると幸子は声を上げた。




「英夫さぁーん。英夫さぁーん。貴方の子よ。貴方の、貴方の子」



 英夫の名を呼び村をゆっくり歩く幸子。そして人だかりの先に英夫を見つけ幸子は笑った。以前の美しい様子は欠片もない。顔の半分は焼け、何度も犬を殺したためか顔の至ところが裂け、更に狂気を煽っている。




「ひぃぃ!!! く、来るんじゃない!!!」

「ほら、可愛いでしょう。貴方にそっくりよ」

「う、うわああああああ!!!!!」




 身体の中の空気をすべて吐き出すように叫んだ英夫は赤子を抱え近づいてきた幸子を思いっきり突き飛ばした。その先は枯れた井戸がありそこに幸子は頭を強打した。それを見た英夫は狂乱状態になりながらも幸子の足を持ちそのまま井戸の中へ落とす。




「すぐに蓋をしろ!! いいか、この女は自分で井戸に落ちたんだ、僕じゃない。僕じゃないからな!!!」



 そう叫びながら英夫は自分の家へ走っていく。呆然としたまま見ていた村人たちはその井戸に大きな石の蓋をした。














「ああ。可愛い我が子。ごめんね、ごめんね。やっぱりお婆ちゃんの言う通りだった。あの村にいるのは犬ばっかり。私たちだけが人間よ。ごめんね、ごめんね。ああ、こんなに泣いてしまって。可哀そうな子。お腹が減ったのね。待っていて直ぐにお肉の用意をしてあげ――――」









 そして1週間後。村全体に響く犬の遠吠えが聞こえたその日。その村の地主一家が惨殺された。原因は一族揃っての共食いによるものだと断定される。さらに翌日、3件の村人が共食いによって死亡した。更に翌日も、翌日も死んでいく。村人たちは幸子の呪いだと気づきすぐに村から少し離れた場所にあるお寺へ駆けこんだ。そうして住職が村に足を運んだ瞬間にその様子は激変した。足が動かないのだ。




「お坊さん、どうしたんですか! 早く、早く助けてください!」

「お願いします。今晩も誰か死ぬ! ああ、早くあの呪いを何とかしてください!」




「む、無理だ。近づけない。いいですか、私はこれ以上近づけない」

「何を言っているんです。早く来てください!」



 無理にでも引っ張ろうとする村人に対し住職はその手を払い喝ッと叫んだ。




「何があった知りたくもない。だが私は人間だ! 犬ではない! 私を巻き込むな! いいか! これを井戸の中に投げ入れろ。そしてすぐに村から離れるんだ。それしかない。この呪いが薄まるには村人がいなくなる必要がある。最低でも数年以上は近寄ってはならない!」

「な、何をいっているんです! ここは俺たちの村だ。今更他所になんか、畑だって!」

「なら好きにしなさい! 言っただろう、私を巻き込むな!」



 そういうと住職は1つの仏様を村人に渡し逃げるようにその場を後にした。





 

 そしてその晩、村人は全員が喰い合い死亡する。







 

 「井戸を……探しなさい……どこかにきっとあるはずよ――それを見つけたら勇実さんに後を……」

 「お師匠さん!!!」


 そこまで見えた桜はそう言い残し倒れた。その後弥七に呼ばれた救急車呼んだ。そしてそのままもう1つの番号に電話を掛ける。


 



「刑事さん。このホテル近辺のどこかに井戸があるはずです。ですがそんなもの今までの調査で見たこともない。それを探してほしいんです」


 その電話を受けた小笠原は焦燥した様子の弥七の言葉聞き、力強く答えた。


「……任せろ。朝霧大智なら何か知っているはずだ。何が何でも吐かせてやる」

 

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