あれから
あの出来事から5年。俺は霊能者という立場から引退した。色々と目立ち過ぎたためか、頻繁にテレビの出演依頼、モデルの出演依頼、除霊依頼などが多発した。事務所に押し掛ける人間も多くなり色々疲れてしまった俺は一家総出で引っ越しをしたのである。
そこでちょうどいいかと思い、俺は引退という形で我が事務所のホームページにそれを記載、しずかに余生を過ごそうと思ったのだ。
あの日までは。
目が覚めると何もない無の空間にいた。見覚えのある場所だ。
『久しぶりだね』
「ん?」
目のまえに女がいた。若い女で知らない顔。だがこの場所でこの雰囲気、非常に覚えがある。
「お前あれか? あれなのか? あれなんだろう? イニシャルGなんだろ?」
『神相手にアレとか不敬すぎんか。いやまあいいが……さて元気か?』
元気かだって? 色々あって心労が半端ないわ。
『何やら子供が出来たようだの』
「要件は?」
『元気な子のようじゃないか。というかお主が父親になるとは私も思わなんだぞ。しかも元聖女に襲われるとか。あれはもう聖女ではなく性女――』
「要件はなんだ?」
こいつを殴りたい。力いっぱい殴りたい。あの一件の後アーデに寝込みを襲われ、なぜか一発で子供が生まれ、それからネムに白い目で見られ、ケスカに薬中ドクターフェインのBDをねだられ、利奈に泣かれた。なんなんだ、どうすりゃいいんだ。しかもいつのまにかアーデと利奈が内緒の話をしていたと思ったら気づけば二人は仲良くなっていた。何が起きている。最近は家にいるのが怖くてしかたない。
『仕方ないの。さて5年前。お前に魔力なるエネルギーをもらった事を覚えているな』
「そりゃあな。なんだようやく追加が欲しいって話か」
あれから一切催促がないからどうなったのかと思っていたがようやく次の飯の催促という事か。
『いやあの時貰った力はまだ完全に消化できていない。なんていうのかの。人間に例えるとまだ胃袋に残った状態という奴だな』
「胃袋って……っていうかまだそんな状態なのか」
『ふむ。お前さんも気づいているだろう。この星はまた変化しようとしている。今度は私による強制的な変化ではなく、自然的な変化だ』
ニュースとかで聞く霊力現象問題か。周りの霊能者の霊力が落ちて色々問題になっているらしい。一応真っ先に京志郎さんに確認してみたが、京志郎の霊力も落ちたそうだ。正確にいうと元に戻ったという話だ。利奈の実家である神城家も軒並み霊力は落ち、利奈も以前同様に多少霊感があるという状態になったそうだ。ただ過去視という力はまだ残っているらしい。もっとも以前ほど過去は見れず、能力は激減しているらしいが。
個人的に意外だったのは、俺のペットたちの霊力がまったく落ちていない件だ。どうなってるんだ? と首をかしげてしまった。まあ最近は家でマスコット扱いだからいいんだが……。
「どう変化するんだ?」
『わからん。だがお前さんの力の影響は間違いなく受ける。恐らく更に数年後には魔力が地球に生まれるんじゃないかと思っている』
「……そうか」
余計な事をしてしまったのかと後悔が頭をよぎる。だがあの場合、他に代案が思いつかなかった。こうなるとある程度割り切るしかないか。
「まあ、数年後の自分に任せるさ。それでこれだけか?」
『いや違う。今話したのはここから更に数年後の未来の話。今回相談しようと思ったのはまた別だ』
厄介そうなにおいがする。
「どういう話だ?」
『これを見てほしい』
そういうと神の手元に石の欠片のようなものが現れた。金色に輝き光沢を放っている。
「なんだそれ?」
『お前の力を完全に消化できず、こういう形で私の身体』の外に排出されてしまったものだ』
「ん? 待て。よく意味がわからんぞ」
『簡単に言えば、これは高純度のエネルギーの塊だ。お前が私に与えた魔力を消化しきれず、こういった形の結晶となって表れている。そうだな。人間でいえば……うんこみたいなもんだ。これが問題なのだ』
うーん。一気に緊張感が消えたな。
『このうんこが近くに現れた場合、この結晶の影響を受けて妙な現象が現れ始めている』
「なるほどね。とりあえず、うんこはやめろ」
『わかりやすいと思うんだがな。とりあえず、この私のうんちを手に入れた人間や霊が狂暴になり暴れる可能性が高い。数年後はまたどうなるかわからんが、現時点では私のうんちは過ぎたものだ。故にお前には――』
「待て、待て、待て! その表現に異を唱えるぞ!」
そう必死に叫ぶと神はにやりと笑った。マジで殴りたい。何が悲しくてこいつの汚物を掃除しなきゃならんのだ!
『私のうんちを回収、もしくは処分をしてくれ。すまんの』
「糞ったれがぁぁああああ!!!!」
こうして俺は文字通りの尻ぬぐいが始まった。
ここまでがプロローグで、次回から新しいエピソードの人身共食編になります。




