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かごめ1

お待たせしました。本編終了後のお話です

 キャンプへ訪れた浩紀と綾香は都会では中々見れない満天の星空を眺めながらコーヒーを飲んでいた。二人は都内の大学生であり、浩紀がキャンプ系の動画を見たことが切っ掛けで彼女である綾香を誘い、こうしてキャンプへ訪れたのである。

 最初は渋っていた綾香であるが、キャンプという非日常に次第に笑みが増えていき、今では来てよかったと思うようになっている。



「いい場所知ってるんだね。山って聞いたときはもっと変な場所だと思ってた」

「結構調べたんだ。ほら薪を集めている時に、焚火の跡が合っただろ? 結構有名スポットらしいぜ」

「ふーん。まあ完全に山の中ってわけじゃないし、結構いいかもね」


 そういいながら近くに止めてある車を見る。この日のために浩紀が借りたレンタカーである。この場所は自然に囲まれた場所であるが、車で20分も走れば近くの街へ行ける程度の場所だ。だから車でここまで一気にくることも出来たし、迷うなんてこともないだろうと綾香は考える。事実少し視線を下ろせば街の光が見える程度には街に近い場所なのだ。


「じゃ、そろそろ行こうぜ」



 そういうと浩紀は手にもったマグカップを飲み切りテーブルの上に置いた。それを見て少し綾香は顔をしかめる。



「本当に行くの?」

「ああ。大丈夫、俺はまだ霊能力使えるから」



 そういって浩紀は自分の腕を軽く叩く。



「嘘つかないでよ。浩紀の力は先月消えて泣いてたじゃない」

「はは……まあ大丈夫。最近は霊能力消失に伴い、霊も消え始めているってニュースでもやってるだろ?」

「そりゃ、そうだけど……まあいいか」


 これ以上ごねても無理そうだと悟った綾香は自分のコーヒーを飲み切り近くの懐中電灯を手に取る。



 今回のキャンプは二人にしてはちょっとした旅行だった。だがただの旅行ではつまらないと考えた浩紀はキャンプを提案したのだ。

 レンタカーとレンタル用のキャンプグッズを取りそろえ、2人でここまでやってきた。とはいえ現代の若者がただキャンプするだけで終わるなんてことはない。必然的にプラスアルファを求め始める。それが肝試しであった。



 霊能力が消失し始めたというニュースが飛び交い、街を徘徊していた多くの悪霊は消えていった。多くの学会はなぜ霊能力が消失し始めたのかという事を研究し始めている。現在では、ランクⅢ以下の霊能力はすべて消失。ランクⅣの霊能者であっても日に日に力は弱くなっていると報道されている。

 多くの霊能者たちが失っていくこの霊能力(特別な力)に嘆き、どうにか自身の霊能力を保持しようと躍起になって悪霊を探し祓い始めた。だが不思議な事にあれ程溢れていた悪霊も消え始め、今では昔のようにほとんど悪霊を見なくなっていた。さらにここ最近生まれた子たちは皆霊能力を持たず生まれてきたという事もあり、もう数年もすれば霊能力自体この世界から消えるのではないかと噂になっている。



「……霊がいないなら肝試しなんて意味ないんじゃない?」

「なに言ってんだよ。霊が実在するってなる前も肝試しは普通にやってただろ。雰囲気を楽しむんだって、こういうのはさ」


 そういって笑う浩紀に釣られるように綾香も笑い、手をつないで二人は電灯を持って奥へ歩き始めた。整備された道の上を2人が歩いていく。夜の山。僅かな生き物の声、2人の足音だけが静かに響く。2つの懐中電灯の光が照らす道を歩いていくと、何かが見えてきた。


「ん、なんだろ。あれ」

「……お地蔵さんじゃない?」

「うわ、マジだ」



 

 そこにはボロボロのお地蔵さんが並んでいた。横に一列に、ずらっと並んでいる。




「なにこれ――なんでこんなに地蔵があるの?」

「わ、わかんねぇ。雰囲気ある場所だな……」



 少し強がっている浩紀の手を強く握る綾香。真っ暗な場所に懐中電灯の光で照らされた地蔵はどこか笑っているように見え不気味であった。ゆっくり懐中電灯で1つ1つの地蔵を照らしていくとある事に気づく。



「ね、ねぇ」

「ん、どうした綾香」

「いや――これ――」






 綾香の手が僅かに震え、懐中電灯の光がブレ始める。





「奥の方のお地蔵さんの目が……全部抉られてない?」

「――は?」




 綾香の言葉を聞き、すぐに浩紀も手に持っている懐中電灯で全部の地蔵を照らし始める。すると一番手前にいる地蔵の2体は無事だが、その奥にいる地蔵すべて目が何かで削られたかのように抉れていた。一瞬で浩紀の手に鳥肌が走り、すぐ懐中電灯で地蔵を照らすことをやめる。




「――もう行こうぜ」

「う、うん」



 そうして地蔵を無視して先を急ごうとした時だった。






「きゃぁあッ!!」




 綾香が叫び、浩紀にしがみついた。手に持った懐中電灯も落としてしまい、ライトがあらぬ方向を照らしていく。




「お、おい! どうした!?」

「地蔵の向こう! 何かある!」

「は……?」




 ゆっくり懐中電灯の光で前を照らす。そこには小さな籠が置いてあった。




「――なんだ。ただの籠みたいだぞ」

「だっておかしいじゃん! さっきまであんな籠なかったんだよ!?」

「え、で、でも……そこに……」



 そういってもう一度籠の方を照らそうとして浩紀は絶句した。




 ――――女がいた。





 籠のある場所のすぐ近くに、首が異様に伸びた女がいる。一目でわかったあれは人間じゃない。霊だと。だがそれでも浩紀は頭の中でそれも否定する。もう霊力は消え始めている。なのになんであんな霊がここにいるのか。浩紀の能力はもう使えない。それは綾香も同じだ。だというのにそれは間違いなくいるのだ。




 逃げるしかない。そう分かっているのに身体がまったく動かない。




「いやぁ。た、助けて……」



 泣き始める綾香を抱きしめる。だが抱きしめている自分の腕も振るえているのを浩紀も自覚していた。身体が震える。涙も出てきた。逃げたい、すぐにでも。なのに身体が動かない。そうしているうちに女が動いた。



 地面に置いていた籠を拾い、こちらに近づいてくる。ゆっくり、だが確実に近づいてくる。女は裸足でよく見ると爪がなく肉が盛り上がっている。身体も傷だらけであるが、やはりその顔が異様の一言であった。



 首が普通の3倍以上に伸び、骨と皮だけのような顔に、落ち窪んだ眼孔から血が流れ続けている。ゆっくり歩いているはずの女だがどういう訳がもうすぐ目の前まで接近していた。



「――ッ」



 声が漏れそうになるのを必死に我慢する。身体の震えがいっそう強くなった。その時だ。女の手が動いた。ボロボロの手、爪も何枚かはがれている。そんな手を籠の中へ伸ばしていく。視線だけ動かし籠の中を見ると何か白いものが入っているようだった。粘液のようなものが籠の隙間からこぼれ地面に置いている。

 あまりの気持ち悪さに吐き気が出そうになった時、女がしゃべった。それを聞いた浩紀はようやく身体が動くようになる。




「うわあああああああ!!!!」




 悲鳴を上げ、綾香の手を引いた必死に走った。途中、上手く走れない綾香を抱きかかえ、そのまま車まで止まることなく走り続ける。キャンプ用品などはそのままに浩紀は綾香を車に乗せ、自分もすぐに運転席へ乗った。



 エンジンをかけ車のライトをつける。暗闇の向こうには誰もいない。だがまだ見られているような気配を強く感じ、浩紀は後ろを振り向いた。




「はぁ……はぁ……はぁ」




 誰もいない。安堵し浩紀は正面を向くと車のすぐ正面に女がいた。



「うわああああああッ!!!」


 すぐ車をバックさせ、その場を後にする。途中強引にUターンしそのまま浩紀達はその山を後にした。





 山から逃げ帰り、レンタルしたキャンプ用品はすべて買い取りという形にした。とてもじゃないがあの場所に戻って回収する気になれなかったからだ。浩紀達はアパートへ戻ると綾香は気絶するように眠ってしまった。だがどうしても眠れなかった浩紀はソファーに座っていた。そうして何度目かになるため息をついているといつの間にか日が昇っている。窓から差す日の光を見てどこか安堵した。




 ようやく戻ってこれたのだと。



 シャワーでも浴びて一度眠ろう。そう思い浴室へ移動しようとするとベッドで寝ていた綾香が起きた。




「綾香? 大丈夫か?」

「浩紀……うん。平気――ねぇ……昨日の事なんだけど」

「忘れよう。キャンプ用品は後で友達に回収してもらうから心配しないで。とりあえず今日は授業サボろう。俺もちょっと寝て……」




 そう言いかけて浩紀は固まった。






「どうしての。浩紀……え」




 綾香も浩紀を見て固まる。




 互いの顔が段々険しいものへ変わっていく。そして浩紀は急いで綾香の元へ近づき肩を掴んだ。



「綾香! どうしたんだ、その目は!?」

「浩紀こそ! なんで、どうしたのその目!!」

「は? いやそれはこっちの――いやまさか……」



 浩紀はすぐに近くの鏡を見る。そして絶句した。





 浩紀と綾香の片方の瞳が白くなっているのだ。黒かったはずの瞳が白く濁っている。――何故か片方だけ。すぐに洗面台へ行き目を何度も洗うがやはり戻らない。一体何が起きているのか分からず混乱しているとある事に気づいた。





「まさか――」





 そう零した浩紀に綾香は震えながら質問をする。




「なに、まさかやっぱり昨日のッ!?」

「あの時、あの女が言ってたんだ……」







 綺麗な目だねって。







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