相対する1
更新が遅くなり申し訳ありません。
仕事と書籍用のプロット作業でバタバタしておりました……
『先日起きた都内のタワーオフィスビルの爆破事件について、その被害にあった株式会社アマチより声明が上がりました。アマチ代表である天ヶ瀬梨央氏の記者会見の様子をご覧ください』
スーツに身を包んだ男が数多のフラッシュを浴びながら複数並ぶマイクに向かって丁寧に言葉を紡いでいる。
『つまり事故であったと?』
「はい。まずは世間の皆様に謝罪をさせて頂きます。誠に申し訳ございませんでした。弊社で開発しておりました新製品の試運転をしようとしたところ、まだ開発が甘かったようで想定以上の威力を擁してしまい、あのような結果となってしまいました。割れたガラス片による怪我人がいなかったことに今はただ安堵しております」
『アマチの技術力を妬んだテロの噂がありますが?』
「派手にガラスが割れましたからね。そのような噂もある事は存じています。ただ弊社においても怪我人はおりません。なんせ中心にいた私が無事だったのですから」
『事故であった場合、今後のアマチ製品の安全性を不安に思う利用者も多くいるかと思いますが、その辺りはどうお考えですか?』
「当然の疑問でしょう。我らは多くの利用者に、安全に使用して頂くために日夜努力を重ねております。安全点検のため代表である私自ら製品を使用し、安全性の確認をしているのです。今も世界中で多くの霊被害のニュースを拝見しております。多くの霊能者の方々が安全に活動できるように、霊能者ではない、一般の方々も何の憂いもなく日常を過ごせるように私たちは引き続き商品開発を進めていく所存です」
1つ1つの質疑応答に答えていく天ヶ瀬、それを俺はテレビ越しにピザを食べながら見ていた。
「ねぇ。あれってこの間、礼土が突っ込んでいった所でしょ?」
「ああ。正直、周りの事考えてなかったからな。怪我人がいなくて本当によかった」
俺とネムはピザを食べながらテレビを見ているとずっと寝ていたケスカが起き上がりテレビの画面を切り替え、動画配信サイトが表示された。
「あ……」
「薬中ドクターフェイン観る」
「…………面白いかそれ」
現在ケスカがハマっているギャンブルアニメ。【薬中ドクターフェイン。トロイの木馬編】という作品だ。既に長く続いている作品で、フェインというヤブ医者が薬代を稼ぐためにギャンブルに身を落とすという医者要素が皆無のギャンブル作品である。特に主人公のフェインは薬をキメる事で、灰色の脳細胞が活性化され、次々と相手のイカサマを見抜くという爽快さが売りらしい。曰く、フェインが自身の手に注射を打つときは勝ちフラグなんだそうだ。
「またそんなものを見ているのですか――」
キッチンから紅茶を用意しテーブルに置くアーデ。俺の隣に座りそのまま困った顔で紅茶を飲んでいる。
あの一件以降、アーデが妙に近い。いや理由は分かる。危険な目にあったばかりなのだ。まだ怖いのだろう。聞けば捕まっている間、自分をどう解体すればよいのかをずっと話し合っているのを聞いていたらしい。そりゃ怖いわ。
そういう訳で俺もしばらく外出は控えている。本当は利奈たちの近くにいた方がいい気もしているのだが、あの事件以来学校は封鎖。既に所属していた生徒たちは別の学校への転校が決定されているという。そのため、かなりバタバタしている状況だ。一応利奈にはマサを預けており、3日に1度のペースでだが直接会って無事も確認している。意識不明だった栞も、その救助のために能力を使用した朱音さんも今では意識を取り戻しているが未だ入院生活と聞いている。
「そういえば、利奈ちゃんの件。聞きましたか?」
「ああ。結婚話はなくなったらしいな」
そもそも今回の栞の依頼の根っこにあった話。利奈と和哉という男の子との結婚話。元はこれを何とかするべく、栞は行動していた。だが事件明け、意識が戻った和哉は憑き物が取れた様子のようで、以前のような刺々しさが消えているらしい。また、当主である朱音は元々2人が望むなら良いが、そうでないなら反対するつもりだったそうだ。昔ならともかく今の時代で政略染みた結婚は幸せになるとは思えないだとか言っていたと栞から電話で聞いた。
「ん、待て。アーデはその話誰から?」
「利奈ちゃんからですよ。最近はよく連絡をとりあっていますので」
「――はい?」
「今度一緒に遊びにいく約束もしています」
なんだろう。疎外感を感じる。
「ちなみにアタシも行く予定!」
ピザを食べながら元気に手を挙げるネム。楽しそうに笑ってやがる。こやつ俺さえも知らない情報を知ってるだと!?
「俺は……」
「女子会という奴らしいです」
「ああ、はい」
いいさ。ピザ食べながら漫画読んで、映画みてやるさ。そういえば映画館とかいった事ないな。いい機会だし行ってみようか。そんな事を考えているとピンポーンという音が響いた。誰か来たか?
「どなたでしょうか」
アーデがそういって立ちあがり、インターホンへ近づく。そして画面に映っている人物を見て固まった。
「……礼土。お客様のようですよ」
「誰?」
そういうとアーデは身体を横にずらす。そこに映っていた人物。それは――。
先ほどまでテレビで記者会見をしていた天ヶ瀬梨央であった。