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業の蔵23


ご報告です。

私の拙作【追放された異世界勇者 -地球に転移してインチキ霊能者になる-】の書籍化とコミカライズが決まりました!


いつも応援して下さっている皆様、本当にありがとうございます。

去年から話を貰っていたのですが、ようやく告知しても良いとお話を頂けました。

書籍化は、キネティックノベル様、コミカライズはマッグガーデン様になります。


「”極光霊耀(きょっこうれいよう)”」



 閃光が煌めき、結界内に収まっていた校舎や土地、それらすべてを包み込み眩い光が繭のように編み込まれ、そして閉じていく。



 外部から見れば突如発生した光の繭に、そしてその大きさに驚くだろう。大きな校舎を、そして土地ごと丸ごと包み込んだ光の繭。だが太陽のような光を発しているわけではない。淡く、どこか優しい光。魔力を持たない人間からすれば、その存在は別としてその程度の感想を持つだろう。だが魔法に覚えるのある者が見ればそれはまた違った側面を持つ。




「うげぇ」

「天ヶ瀬代表!? どうされましたか!」

「き、気にするな。だが気分が悪い。少し休ませてもらう」




 呪星があの学校へ放たれた時点で天ヶ瀬はその土地の買収へ移ろうとしていた。名目はいくらでも用意できる。あの呪いを封じるため、アマチの力があれば浄化も出来るなど、取り繕えばいい。そのために、あの学校の土地の主の元へ行き、その交渉をするはずだった。

 天ヶ瀬は彼の事をよく知っている。その強さも、残忍さも。だがそれでも、人間である以上踏み入れない領域というものはある。そして呪星による土地の浄化はまさにそれであった。

 アレは正真正銘、神が与えた星の呪いだ。どれだけ強かろうが、一個人にどうすることも出来ない。だから天ヶ瀬も人命救助の方は全力で行い、あの土地だけを回収するつもりだった。



 だというのに。





(なんだ。あの馬鹿げた魔力は!? ありえない、ただの人間が持っていい力を超越している!)


 あの世界の何百人、何千人、いやそれ以上の膨大な魔力量。それに匹敵するだけの魔力があの繭には込められている。





「……貴様は何なのだ」



 そう絞り出すように零した。




 







 礼土が区座里との闘いの際に、覚えた技は、本来人ならざるものが作り上げる仮想空間に餌となる人間を数人招き入れる神秘に近いもの。それを魔力で強引に乗っ取り作り方を学習したものだ。

 この空間におけるすべてを礼土は手に取るように理解できる。自身の最大魔力の約半分を消費し、作り上げたこの空間は、もはや違う世界に等しく、例え神であろうと干渉できない完全な別次元の空間となる。


 

 


 作り上げたこの光の空間の中。中沢愛であった彼女は校庭にいた。音楽室にいたはずがいつのまにか校庭へ移動している。そのことに驚きこそすれ、それでも彼女のやることは変わらない。既に中沢愛としての意識はなくとも、彼女の記憶の通りに、想いの通りに、ただこのゲーム空間に近い世界で魔王として振舞い、勇者と戦う事だけが本能となった。




 だが、そんな人の意識さえなくし、神の呪いに蝕まれ、それでもなお刻まれた記憶の通りに行動する彼女ですら、この光景に言葉を失う。






「千躰身代わり坊主」




 下半身を光で纏った光の勇者?がそう告げる。だがその言葉は聞こえてもこの光景に目を奪われている。


 一見すると普通の校庭だが少し視線を上げればその異常性ははっきりしている。赤く染まった空。黒い月。そして宙に浮かぶ、()()()()()()()()

 


「身代わり坊主っていう話があってな。その昔、ある村では病が流行った。そんな時旅の僧侶がある物を作ったそうだ。それは身代わり地蔵といってな。あらゆる災難を、病を、苦行さえすべて身代わりとなったらしい。するとその村の病は収まった。皆、その地蔵に感謝した。だが、数年も経過しまた違う病が流行った。村人は地蔵にその病の身代わりになってもらおうと思った。だが、地蔵は崩れ落ちた。限界だったんだろう。無遠慮に、小さな怪我も、病も、苦しみもどんどん押し付けて耐えられなくなったんだ」




 校庭の土がどんどん黒く変色していく。




「だが一度身代わりになってもらう事を覚えた村人は考えた。あの地蔵を作った僧侶はもういない。ならどうするか。そうだ、自分たちで作ろうと。だが当然うまく行かない。そうして病が進行し、村人が次々死んでいくと、ある日、一線を越えた。人間を地蔵の代わりにしよう考えたんだ。口減らしも兼ねて選ばれたのは村の子供。白い布で顔を包み、赤い前掛けを与え、首を吊り、天へ捧げ、皆で祈ったらしい。どうか、我らの痛みを、苦しみを、変わってほしいと」



 黒く変色した土から黒い泥のようなものが湧き上がっていく。

 



「すると不思議な事に、村に流行った病は消え、平和になったんだそうだ。それからだ。毎年その時期に村の子供の顔を白い布で包み、赤い前掛けをつけ、天へ捧げたんだそうだ。そんな犠牲になった子供たちの無念を象った伝承霊」



 泥は天を昇っていく。いや違う。天に吊るされた死体に吸収されていく。校庭から、校舎から、そして中沢愛から生まれるこの黒泥は何かに吸い寄せられるように死体に吸い込まれていく。


 その異常とも言える光景を目の当たりにしていると、気づけば全ての泥は吸収されていく。そして――。






 ぼと。





 ぼと、ぼと。






 ぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼと。






 黒い何かが落ちていく。それは吊るされた死体の首。まるで雨のように降り注ぐ黒い首は、白かった布が黒く染まり、それが黒い雨のように降ってくる。





「この身代わり坊主は、この土地を蝕む呪いをすべて身代わりになって引き受けてもらった。願いを聞き入れ、身代わりとなった坊主たちは役目を果たすと白い布は黒く染まり首が落ちていく。とはいえこれで終わりじゃない。まだ呪いは消えていない」



 

 落ちた黒い首が転がっていく。少しずつ、少しずつ、そして一か所に集まっていく。





「この伝承霊の本来の用途は、何かの身代わりをさせ、そして受けた苦しみが、痛みが具現化し、それが本来の持ち主を殺すというものだ。この呪いの主は誰か。作った本人がここにいないのは知ってるが、少なくともこの呪いをバラまいたのはお前だ。いや正確にいえばその頭の中のものか」




 黒い無数の首が集まり、繋がり、形を成していく。




「俺の魔法で破壊してもいいんだがそれで本当に呪いが潰せるかわからん。それにお前を破壊してもこの土地の呪い自体はそのままの可能性が高いからな。だから確実性を取る。目には目を、歯には歯を。呪いには呪いをってね。お前のばらまいた呪いに喰われろ」



 


 それは巨大な大蛇だ。ただし身体は無数の黒い首で形成された歪な大蛇。それを見た中沢愛は思わず一歩後ろに下がる。下半身が光で纏われた男の前にいる巨大な大蛇。まるでダンプカーのようなサイズの巨大な蛇が大きく口を開く。




「返してもらうぞ。その身体はお前の器じゃないんでな」

「ち、違う。私は私だ。私は――」

「お前はただの呪いだ。その子の記憶を宿しただけの呪い。悪いが容赦はしない」






 走った。何がなんだかわからない。でも逃げなくてはならないという気持ちだけが身体を支配する。同じ同種の呪い。だが呪星としての力をほぼあの大蛇に奪われている。死にたくない? いやそもそも私はそういう存在じゃない。呪いをばらまき、実りを作り、種をばらまき、更に多くの呪いをばらまくだけの存在。だというのに喰われそうになっている。こんなはずじゃない。違う、そもそもこの感情がおかしい。死にたくない。違う、そもそも私は死んでいる。消えたくない。それも違う、私は増殖する存在。消えるはずがない。消えたくない。消えたくない。消えたくない。





 校舎の中を必死に走る。無人の校舎。誰もいない静かな建物。だがそのすぐ後ろに黒い大蛇が廊下の天井や壁を破壊しなら口を大きく開け迫っている。

 




「死にたく――」







 校舎の壁が破壊される。その破壊された壁から黒い大蛇が顔をだし音にならない奇声を上げている。すべての呪いを喰らい、完全となった呪いの大蛇。そしてその大蛇の前に、下半身に光を纏った男が目の前に迫る。




「さて、躾だ」



 

 

 礼土の振るった拳が大蛇の頭部を叩きつけ、校舎ごと破壊しながら大蛇は吹き飛んだ。吹き飛んだ方向へ先回りした礼土は更に大蛇を蹴り上げ、空中へ吹き飛ばす。





「呪いつってもこうやって形を与えてやると殴りやすい」




 礼土は指につけていた指輪を取り出す。そしてそれを蛇に投げた。黒い大蛇はその銀色の指輪に吸い込まれていく。苦悶の声を上げ、暴れるが、更に礼土の追撃によって次第におとなしくなり、そのまますべて吸収されて消えた。





 残った指輪は黒く変色しており、礼土はそれを魔法で包み、封印した。





「呪いを魔力でゆっくりすり潰していけば爆発しないだろ。せっかくだし……そうだな。スネ尾って名前で」



 いつまでの付き合いか分からない蛇に名前をつけ、視線を下ろす。そこには頭から血を流し、頭部に酷い縫い目が施されている中沢愛の死体があった。原因である呪いを奪ったから、ただの死体に戻ったという事だろう。薄く開いた目を指で閉じ、その場で祈りを捧げた。




 どうか、安らかに逝けるようにと。



 

 

 その後、魔法を解いた俺は逃げ出した。一応表向きは怪我を癒すために家に戻って治療をしているという事にしている。苦しい言い訳だが空さんは納得してくれた。空さんの話だと学校を光の繭が突然包み込み、それが解けた瞬間、すべてが終わっていたそうだ。気絶している人々、いくつかの死体。色々疑問もあるだろうが既に呪いはなくなったと説明しているからすぐに救助活動に入るという事だった。



「中沢さんの遺体はこちらで丁寧に弔います」

「はい。お願いします」



 


 まだ栞や朱音さんは目が覚めていないらしい。だがあの呪いの効果を受けただけなら、すぐ目が覚めるだろう。俺も服を着たら一度病院へ行こう。そう思っていた時だ。







「ごめん、礼土。――――アーデが攫われた」

 



 青ざめた表情のケスカの話を聞いて俺は窓を破壊して飛び出した。







ずっと長く続いていた今回のエピソードはこちらで終了です。

次エピソードは多分短いです。ええ、礼土が初手から全力で動くので短いです。


更新が遅い作品ではございますが、是非作品のフォローやレビューなど頂ければうれしいです。どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 書籍化おめでとうございます!楽しみにしてます! レイドが初手から本気とか楽しみすぎるw どうなっちゃうんだ! そしてアーデが本格的にヒロインムーブしてて嬉しい! [気になる点] スネ尾く…
[良い点] 書籍化おめでとうございます! こんなオモロイ設定の話しが書籍化されてなかったほうがおかしいんだ! [気になる点] アーデ様。。。 [一言] 次回も楽しみにしていまーす!
[良い点] 書籍化おめでとうございます [気になる点] 次回予告: レイドは念じた 対象は消滅した  -完- 本気出したら2行で終わっちゃうじゃないですか やだー
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