スカイツリーを攻略した凄腕霊能者チームでも番組が全面協力する霊能者チームと勝負したら流石に勝てない説 3
いよいよ、運命の最終種目が始まる。
驚異的なアクロバティック能力を見せる霊能者勇実。彼は霊能者とはなんぞや、という事を我々番組スタッフに突き付けてきた。
【だが、まだだ。――まだ我々は負けていない】
そのテロップに松田は苦笑いをしている。
『いや、もう無理ちゃうん?』
『大丈夫です。最後はもう間違いないと思います』
第3種目。落とし穴バトルロワイヤルレース。特設会場に作られたコースをスタートからゴールまでひたすら走り抜けるという非常にシンプルなゲーム内容だ。距離は約400m。そしていくつかこのコースにはデンジャラスゾーンが用意されている。
第1の刺客”絶壁ゾーン”。コース上に5mの壁が設けられており、それを乗り越える序盤の関門。当然着地地点には落とし穴が用意されている。
第2の刺客”激辛パン食いゾーン”。宙釣りにされたカレーパンをジャンプして口に咥え、完食しなければならない。こちらも当然着地地点に落とし穴が用意さている。
第3の刺客”仁志松田のすべるしかないゾーン”。ローションをぶちまけたコースとなっており、各所に落とし穴が用意さている。
そして最後の第4の刺客”障害物ゾーン”。行く手を阻む障害物が用意されており、それを躱しながら進む必要がある。当然落とし穴は満載だ。
「これら4か所のゾーンを潜り抜け見事最初にゴールしたチームが勝利となります。また一度でも落とし穴に落ちた場合、その時点でその選手は失格です」
そう司会のアナウンサーが表向きのルールの説明をしていると待ったの声がかかる。
「ちょっとまて。これで勝った方が優勝なのか?」
「いわゆる、お約束というやつです」
「は、はあ」
当然のように凄腕チームの鮫田が異議を唱えた。だがこれはバラエティ番組では鉄則の流れであり、いたって自然な流れともいえる。
さて、このレース。普通に勝負していたらあのミスターアクロバティックこと勇実には勝てないであろう事は既に予想済みだ。それゆえ既にいくつかの仕掛けが用意されている。まず1つ目。
「では、事前説明をさせていただきました通り、宙に浮く系の能力は禁止となります。そのため、鮫田さん、芹沼さんはご自身の霊能力は使用禁止でお願いします」
これでレース根本を覆す可能性があったショートカットは阻止できた。だがまだだ。これで安心できるほど日曜日スタッフは愚かではない。既に先の2戦で学んでいるのだ。
まずはコース全体を見てみよう。お気づきだろうか。赤で塗られているのは日曜日チームの走るトラックであり、青で塗られているのは凄腕チームのトラックである。
見ての通り、綺麗な楕円形の形をしている赤のトラックと比べ、凄腕チームの青色のトラックはかなりいびつな形をしているのがわかるだろう。そうなれば当然走る距離も変わってくる。
日曜日チームの距離は発表通り400m。だが凄腕チームの実際の距離は約740m。ほぼ倍の距離だ。
また、トラックの間に壁を設置しているため、凄腕チームに違和感を与えずこの距離を走らせることが可能。
そして当然それだけではない。
【日曜日チームの走る赤のトラックにはデンジャラスゾーン、落とし穴が一切ない。つまり先ほど説明したデンジャラスゾーンは凄腕チームだけに存在しているのだ】
そのテロップにスタジオで爆笑が起きた。
『これはほんま最低なやつらやな!』
『これで負けたら恥ずかしいぞー』
『正直やりすぎかなとも思いましたが、凄腕チームにはここで天狗の鼻を折っていただいてですね』
『いやいや。これは流石にやりすぎですよ。炎上しちゃうんじゃないですか?』
また、万全を期す為、今回、日曜日チームは全員が短距離走のスポーツマンを厳選している。そして第2種目のようにならないために全力で走ってほしいと事前にディレクターからも説明が入っている。
勝った。我々はゆっくりと彼らが落とし穴に落ちるさまを見届けるだけである。
「はあ。どうしたもんか」
何かを察知しているのだろうか。凄腕チーム鮫田が頭を抱えている。
『いや、もう気づいてるやろ』
『大丈夫です。まったく気づいていないと思いますよ』
「どうする? 多分またこっちだけ不利になってると思うぞ」
「でしょうね。こっちの方が落とし穴多いとかありそうじゃない?」
「いや、下手すればこっちにしか落とし穴はないと思うな」
そして悩んでいた鮫田がゆっくりと視線を上げ、一人の男を見た。そう――我らが宿敵、ミスターアクロバティックだ。
「勇実さん。正直かなり気が進まないが俺たちは足手まといになる。どうする? もう番組は無視して俺だけ走って早々に落とし穴に落ちて終わるって手段もある。はっきり言おう。あんたが落とし穴に落ちて笑いものにされるのは、俺はごめんだ」
「そうね。あの領域の戦いをほとんど担ってくれた君が笑いものになるのは私も反対」
「だったら僕も走ります。大樹さんだけ走らせるのもあれですし」
美しい友情がそこでは繰り広げられていた。
間違っていたのは我々だったのかもしれない。だがそれでも見たいのだ。
彼らが落とし穴に落ちる瞬間を。
『一回怒られた方がいいと思いますけどね』
『これは最低やな』
しかしここで彼が動いた。そう勇実だ。
「大丈夫ですよ。この程度、コーヒーを飲むより簡単だ。俺が行きましょう」
この男。これだけの仕掛けを前に、ただコーヒーを飲むより簡単だと豪語した。先ほどの友情シーンで一瞬少し仕掛けを緩くしようと思ったスタッフだったが、ここで決断する。絶対落とし穴に落とすのだと。
『言うねぇ!』
『今のはかっこいいですけど、これで落とし穴に落ちたら最高ですよ』
『落ちろ! 落ちてくれ!』
勇実と日曜日チームが並ぶ。クラウチングスタートを決めようとしている日曜日チームに比べ、勇実はただ立っていた。この笑みがもうすぐ消えると思うと楽しみである。
「では、位置について。……よーい。スタート!」
合図が鳴った。一斉に走り出す日曜日チーム。しかし勇実は動かない。それどころか懐からポッキーを咥え始めている。一体どうしたのか。そしてポッキーが食べ終わった時。マイクは衝撃的な声を捉えた。
「このくらいハンデあればいいのかな」
そして勇実が走り出した瞬間、その足元に大きな落とし穴が出現した。
勇実の足が踏み込んだ瞬間、仕掛けていた落とし穴が炸裂。――だが、勇実は前方へ宙返りをしてそれを回避。
『ちょーッ!!! 今の落ちないんか!?』
『どんな運動神経してんだ!?』
『っていうか。最初に落とし穴ってホント意地悪な番組』
スローで見てみよう。
勇実が右足を一歩踏み出した。その瞬間、間違いなく落とし穴は発動している。足元が崩れ普通であればそのまま落ちていくはずだ。しかし――勇実は残った左足で地面を蹴り、瞬時に跳躍に変更。そのまま前方へ回転して着地している。
既に体重が乗った右足で踏んでいるはずなのに、なぜその状態から宙返りできるのか。意味が分からない。だがしかし落とし穴は踏んでいる。ただ落ちていないのだ。
【これは――不正なのか?】
画面に大きく出たテロップに松田が大声で突っ込んだ。
『いや! もうそういうレベルの話じゃないから! はあ!? 意味わからんぞ!』
『踏んでいるんですけど落ちてないんですよね。これは……どうなんですかね』
勇実は走る。第2種目で見せたような驚異的な速度で青のトラックを爆走していた。道中仕掛けられた落とし穴はすべて回避している。落ちたと思った瞬間には跳躍して脱出しているのだ。はっきり言って意味が分からない。
そして最初の関門。絶壁ゾーン。登るためのロープも完備されているが、果たしてどう攻略するのか。
――だがこれを勇実は――ただ跳んだ。
5mの壁をまるで水たまりをジャンプして避けるかのように跳躍。またスタッフが想定した以上の飛距離で飛んだため、着地地点に用意していた落とし穴をスルーした。
『一人だけ漫画のキャラみたいやん』
『ほんまですね。実は彼だけCG合成とかじゃないんですか』
そして次の刺客。激辛パン食いゾーン。ジャンプしなければ届かない場所に吊るされたカレーパンを口でキャッチする必要がある。またちょうど着地地点には落とし穴が仕掛けられているという鬼畜使用だ。
彼はどう攻略するのか。そう思い見ていると、勇実は華麗にジャンプし、コマのように回転しながらカレーパンを奪取。そして第1の刺客同様に想定以上の距離を飛んでいるため、落とし穴には落ちず、さらに驚異的速度で跳躍そのままカレーパンを食べて走り続けた。
『フィギュアスケートみたいに回転しながらカレーパン食っとったで』
『顔のアップにするあたり女性視聴者を狙ってますよ』
『あれ、一応ハバネロ入りの激辛仕様なんですけど、平気そうですね』
そして第3の刺客。仁志松田のすべるしかないゾーンだ。ローションだらけの道が約30m続いている。当然落とし穴も完備。だが勇実は30mの距離を一足飛びで跳躍した。もう意味が分からない。
『ちょっと待て、日曜日チーム追い付かれてんとちゃうの!?』
『ほんまですね。これって日曜日が遅いんですかね?』
『どう考えても、向こうが速すぎるやろ。え? やっぱ映像倍速にしてますよね』
そして勇実は最後の第4の刺客、障害物ゾーンへ。そこは少し傾斜になっており、上から巨大な球が転がってくる。当然出入り口となる場所に落とし穴は完備している。だが――。
『えぇ!? 2mくらいあるボールを上に蹴ってない?』
『……これは――蹴ってますね。あれサッカーボールじゃないんだけど、俺疲れてんのかな』
そのまま一度も落とし穴に落ちることもなく、勇実はゴールした。記録は42秒。そして遅れること日曜日チームがゴール。記録は56秒であった。
ゴールで手をあげている勇実へアナウンサーが近づく。
「勇実さん。おめでとうございます! 凄まじい内容でしたね」
「ええ。全部霊能力のおかげです」
カメラのアップで笑う勇実。それに対しスタジオでは拍手が送られていた。
『もうそう言えば許さると思ってるやろ!』
『本当にすごいですね!』
『無加工なんですよね? 意味わかんないなぁ』
『でもかっこいいじゃないですか! 絶対ファン増えましたよ!』
「はい! お疲れ様でした!」
ディレクターの合図があり、撮影は終了した。撮影に協力してくださった4人の凄腕チームに拍手をが送られる。そしてADの案内の元、ロケバスへ。談笑しながら近づいた瞬間――。
最後の落とし穴が発動する。
――しかし。
勇実が右手で鮫田をつかみ、そのまま福部を腕で拘束。残った左手で芹沼をつかんだ状態で後ろに跳躍していた。やはりあり得ない反応速度。しかも今度は3人を抱えての出来事だ。すると勇実は笑いながらスタッフの方へ振り向いた。
「全部霊能力のおかげです」
検証結果。霊能力ってすごい。
これにてネタ回は終了です。
正直作者の自己満かなと思っていましたが、思っていた以上に反響がありうれしく思います。
次回から新しいエピソードの予定です。
ちょっとだけ長いかもしれません。
お付き合いいただけますと幸いです。