スカイツリーを攻略した凄腕霊能者チームでも番組が全面協力する霊能者チームと勝負したら流石に勝てない説 1
完全なネタ回です。
「さあ! 始まりました日曜日のアップタウンです」
司会者の濱崎がいつものパンチパーマでタイトルコールをした。ゲストのタレントと相方の松田が拍手をしている。
この日曜日のアップタウンとは、大人気芸人であるアップタウンの濱崎と松田の番組であり、多くの芸人がそれぞれの〇〇の説を持ち出し、検証するという人気番組だ。
悪質なドッキリや、今のご時世では挑戦的な番組作りをしているという事もあり、常に世間と戦いながら今も継続している番組だ。
そうしてまた1人。〇〇な説を持った芸人が登場し番組では大きな拍手が上がった。
芸人の名前はケンジ村田。大きなサングラスを掛けながら大きくお辞儀をしている。
「さて。みなさん。最近ニュースはご覧になりましたか?」
「あれですか。ケンジさんの焼肉屋でボヤ騒ぎが起きたってニュースなら見ましたけどね」
「いやいや! そんなニュースないですから! 松田さん捏造しないでくださいよ。いいですか。ちょうど2週間ほど前ですね、某スカイツリーの幽霊騒ぎがようやく終わりました。いや長かったですよね」
そういいながらケンジはサングラスをクイクイと動かしている。
「いいからはよいえ」
「あいた。ええっとですね。このスカイツリー騒動。海外の有名霊能者が来ても中々攻略できなかったのですが、なんと日本の霊能者4人組によって攻略されたという事です。当然皆さんかなりの実力者ではあるんですが、特にその中に1人、日本でも上から数えた方が早いという程の所謂霊力を持った人もいるそうです。――そこで今回の説はこちら!」
モニターに大きく今回の説が表示された。
【スカイツリーを攻略した凄腕霊能者チームでも番組が全面協力する霊能者チームと勝負したら流石に勝てない説】
スタジオに爆笑が起きた。ドSで有名な濱崎は嬉しそうに笑い、松田は「ほんま悪い番組やなぁ」と机を叩き、ゲストは拍手していた。
「今回はですね。ご先方には偽番組という形で勝負する形式をとると伝えております。まずはVTRをご覧ください」
某月某日。
スタジオの会議室に4人の凄腕霊能者チームが集まっていた。1人は鮫田大樹。有名霊能者事務所に所属しており、今回の攻略チームのリーダーをしていた。茶髪のロン毛の大男であり、非常に人相が悪い。もう1人は同じ事務所所属の福部幸太郎。今回の攻略における索敵をメインに行っていたという非常に若い青年である。そして黙々と手帳に何か描いているこのチームの紅一点である芹沼うお。本業イラストレーターであり、霊能者は副業という経歴の持ち主だ。
そして。どう見ても外国人にしか見えない銀髪の男性。彼の名前は勇実礼土。日本人のような名前だがどう見てもいけ好かない外国人にしか見えない。彼はスマホを触りながらポッキーを食べていた。
『え!? この人ハリウッド俳優じゃないの?』
『一応日本国籍を持った方です。今回の功績もこの人の力が大きいと聞いてますね。まあむかつく顔してます。なんやポッキー喰いおって。仕事やろ』
『ケンジ。うるさい』
会議室に番組ディレクターが入る。当然、偽ディレクターだ。
「初めまして。今回、【最強霊能者集合! 最強は俺だ!】のディレクターを務めます藤田です。どうぞよろしくお願いします」
そうして始まった打ち合わせを隠しカメラで見ていく。まずディレクターの藤田が番組内容の説明をしていた。
「今回ですね。皆さまには凄腕チームという名前で番組に出て頂き、もう一組の霊能者チームとゲームで競っていただければと思っております。ゲーム内容は3つ用意しておりまして」
そういうと簡単なゲーム内容を記載した用紙を4人に配った。
第1種目。○×クイズ。○×問題が出て正しいと思った方向へ走って頂く内容。間違った場所には泥が用意され、正しい場所にはマットが用意されている。霊能力を使ってどちらが正しいかを見るのは有り。
第2種目。おにごっこ。鬼役のハンターにつかまってはいけない。また15分後にゴールが設置されるため、鬼に捕まらず、ゴールへたどり着けた方が勝ち。逃走に霊能力を使うのはありだが、相手チームや鬼への妨害はNG。
第3種目。落とし穴バトルロワイヤルレース。各場所に落とし穴が設置されており、その落とし穴に落ちた人が負け。霊能力で落とし穴を探すのは有りだが、相手チームへの攻撃はなし。
以上3つゲームを用意しております。と説明がされた。
なお、今回番組側が用意した霊能者チーム、名付けて日曜日チームは平均的な霊力はランクⅣ~Ⅴであるが、この日曜日チームが絶対勝てるように番組側が全面的にバックアップをする予定だ。
【どんな汚い手を使っても勝つ】
そうテロップが流れ、またスタジオに爆笑が響いた。
「質問いいですか。これはっきりいって霊能力関係ありませんよね?」
相手チームのリーダー鮫田が鋭い突っ込みをした。
「まあそうですね。本当は霊力を使ったスポーツとかの方が盛り上がるんですが、それだと皆さんが圧勝してしまうと思いますので、ある程度公平になるようなルールにしました。ああ、すみませんが、最後の種目について鮫田さんと芹沼さんは能力は使用禁止でお願いします。浮いてしまうと落とし穴に落ちませんしね」
『いやいやいや。無茶苦茶言うとりますやん。霊能力対決なのにそれを使うなって!』
『何が何でも勝つためです』
スタジオの松田の発言にゲストたちはいくら何でも酷いとコメントがあったが、司会の濱崎は「ええぞ」と嬉しそうに言っていた。
その後、凄腕霊能者チームをなんやかんや言い含め、撮影当日。
「最強霊能者集合! 最強は俺だ!」
アナウンサーが元気よくタイトルコールをし、芝が生い茂る広い土地で撮影が始まった。タイトルコールをしている場所から少し離れた所に、今回第1種目を行うためのセットが組まれている。大きく〇と×と書かれた紙があり、その向こうにマットと泥がスタンバイしている。
今回番組側が絶対勝てるように番組が用意した日曜日チームにはイヤホンで答えが指示される。つまり、日曜日チームは全員答えを最初に知っているのだ。これなら間違いなく勝てる。と大きくテロップが表示される。
『ええぞ!』
『濱崎さん、本当にこういうの好きですよね』
「この種目は皆さんで話し合って代表者1名が走ってください。まずは日曜日チームからです」
【問題。大人気お笑い芸人、松田仁志が食べた本日の朝食は――カニカマである。〇か×】
アナウンサーがそういうと日曜日チームで話し合いが始まった。もちろん振りである。小声でどうします? と言っているが、全員答えは知っている。
『なんやそれ! わかるかぁ!?』
『実際カニカマ食べたんですか?』
『……明日の朝食に食べます』
そして話し合いの結果、日曜日チームが出した答えは――――〇。
綺麗なジャンプで〇を突き破り、見事マットに身体を預けた。これに対し、凄腕チームは苦笑いをしている。何かに感づいているのかもしれない。
「次の問題です」
【人気タレント勝股さんはファン0人ですが、安治大サーカスのグロちゃんのファンは20人以上いる。〇か×】
「誰かわかるか?」
鮫田が質問を投げるが、全員首を横に振る。するとこの中で一番若い福部が手を挙げた。
「確か霊能力使っていいんですよね。僕の蟲で見てきます」
「そうだな。そうしよう」
福部の霊能力は蟲を作る事。一見地味な能力だがこの能力があのスカイツリーでの索敵に一躍買っていたという。
当然その方法であれば答えを知ることはできるが番組的にそれは面白くない。そこで。
「あれ、蟲消えました」
「いや……幸太郎の蟲を攻撃したやつがいるな。審判! 今のはありなのか?」
鮫田がそうアナウンサーに質問をする。
「はい。直接的なものでなければ妨害はありです」
その答えに鮫田は大きくため息をついた。
「確かに妨害はだめって言われてないものね。この場で飛んで向こうを見てもいいのかしら」
「それはNGでお願いします」
アナウンサーの答えにスタジオでも突っ込みが止まらない。
『ほんまに勝たせる気ないやん』
『これは悪質やなぁ』
『いやー誰が泥だらけになるんですかね。楽しみです』
苦しむ凄腕チーム。そこで一人の男が手を挙げた。
そう、いけ好かない外国人のような男、勇実である。
「ようはマットがある方へ行けばいいんだよね?」
「はい」
勇実はぐっと腰を下ろし前を睨む。そして数秒後、勇実は走り出した。軽快な走りでそのまま進み、×を選択する。全身で飛び込んだ先には――マットが用意されていた。
『あああ! なんでそっちいくねん!』
『運がええね』
『いや。ぜひあの人は泥だらけになってほしいです』
そうして問題が続いていく。しかし番組の予想に反して凄腕チームが全問正解をしている。
【何か不正をしているのではないか】
そのテロップに松田が声を上げた。
『お前がいうな!』
〇×の向こうに凄腕チームのスパイがいないか確認をする。だが向こう側にいるのはすべて番組側が用意したADだけであり、間違っても答えを知らせるようなことにはなっていない。
何かがおかしい。こうなれば奥の手を使うべきか。そう番組側が考えた時だ。
「あーーっと、日曜日チーム失敗!」
ありえないことが起きた。答えを知っているはずの日曜日チームが間違えたのだ。凄腕チームはハイタッチをして喜んでいる。一体何が起きたのか。
確認のためもう一度VTRを見てみよう。
「問題です」
【チーター小形は愛妻家で有名であるが――実家は壊れていいと思っている。〇か×】
答えは〇。当然日曜日チームにもそれを伝えていた。そして走り出した瞬間、衝撃的な出来事が起きる。
セットの〇と×が入れ替わっていた。
〇は青で大きく書かれており、×は赤で大きく書かれている。それが一瞬で入れ替わった。走っていた日曜日チームは困惑する。そして指示されていた〇の方へ走った。だがそこは泥だ。そしてもう一度〇×を見ると、元に戻っている。結果的に日曜日チームは×へ飛び込んだという事になる。まるで魔法だ。
「あの――すみません。これって凄腕チームが何かされましたか?」
「直接的でなければ、妨害はありなんですよね? ならこのくらいは」
そういったのはあのいけ好かない男、勇実である。彼は一体何をしたのかわからない。だがこのままでは第1種目で負けてしまう。そうはさせない。
「問題です」
【大人気お笑い芸人、濱崎正弘は人を叩くのが好きなドSで有名ですが……実はフレンチクーラーが好き。〇か×】
『なんやこれ』
『濱崎さんは甘い物食べると涙流しますもんね』
『うるさいわ』
実は今回の問題。どちらへ飛ぼうとすべて泥となっている。答えてはならない問題というのは世の中にある。それを身をもってあのいけ好かない男に覚えて貰いたいという番組からの願い。果たして届くのか。
また同じようにじっと睨む勇実。そして立ち上がり手をあげた。
「すみません。両方泥の場合どうすれば?」
『ええええ!?』
『うそやん! やらせちゃうの?』
『いやいやいや。マジっすか!』
「つまり勇実さんはどちらの答えも泥になっていると?」
「ええ。マットないですよね」
「……ちなみになぜそう思ったのか教えて下さい」
「霊力で見たんです」
しばらくの沈黙。そして――。
「正解ッ!」
第1種目は凄腕チームの勝利。だが次の第2種目は絶対に負けない。そうテロップが流れていた。
「勇実さん。実際どうやって答え知ってたんだい?」
「ああ。簡単ですよ。一瞬、後ろ回ってみてきたんです」
「はぁ!? いつ?」
「――ははは、冗談です」