閲覧注意12
「大和君久しぶりね。もう体調の方はいいの?」
「はは。野上さんこそ。陽子ちゃんに聞いたけど大変なことになってるみたいだね」
野上さんと親しそうに話している来栖大和という男をじっと見つめる。以前礼土とりこさんから聞いた話を思い出す。
(確かアタシを倒すためにあっちの世界に召喚された3人目の人だったかしら)
向こうの世界で魔王として動いていた時、実際にあったのはりこさんだけだ。そしてこっちの世界へ来たときに唯斗さんと会った。それで最後の3人目。
礼土によって時間を巻き戻され既にあの世界の記憶がなくしているって話だっけ。あ、いや正確にいえば少しずつ記憶は戻っていくって話か。
「えーっとそちらの女性は? ははは。初対面でじっと見られるのは少し照れるね」
「ちょ、ちょっとネムさん! 大和は私のだからね!?」
じっと観察していたら何かいらぬ誤解を与えているような気がする。
「あーごめんなさい。アタシは勇実ネム。よろしく」
「うん。よろしく」
「ところで体調が悪いって聞いたけど病気か何か?」
アタシがそう聞くと大和さんは少し驚いた様子を見せてすぐに笑みを浮かべた。
「ああ。まあ……そんな感じかな」
「ふーん。大変ね」
「まあね。――ってちょっと待って。勇実?」
ん。なんだろ。アタシは一度もあったことがない。向こうの記憶をどこまで思い出しているかしらないけどなんでその名前で反応するのかしら。いやもしかして……。
「ごめんね。もしかしてお兄さんいる?」
「……なんで?」
「ああ。ごめんね。なんていえばいいのかな」
アタシが疑問に思いながらそう答えると少し慌てた様子で手を顔のまで振っている。
「確かネムちゃん。お兄さんいるよね。あの超絶イケメンの」
「あ、そうなんだ! ネムさんすごい綺麗だしやっぱりお兄さんもそうなんだ」
「だって。一時期モデルやってたらしいよ」
ちょっと待って。野上さん、なんでそんなに詳しいの。
「え、それすごくない? 検索すれば出るかな。名前なに?」
「勇実礼土さんって人。多分検索すればすぐ出てくるよ」
「ちょっと調べちゃお」
一応身内だからか、妙に気恥しい。あまり気にしたことなかったけど、礼土ってこっちの世界でも有名なのだろうか。
浅海さんがスマホで検索するとその画像を見て盛り上がっているとその様子を後ろから見ていた大和さんが神妙な顔でスマホに映る礼土の写真を食い入るように見ている。
「……やっぱり似てる」
そう小さくこぼした大和さんの声を聞き、アタシは状況をある程度理解できた。恐らく大和さんは記憶を結構取り戻しているのだろう。確か5年分時間を戻したと聞いている。だからてっきり5年間は取り戻すのに時間がかかっているのだと思っていた。
でも話を聞いていた限り礼土にあったのは5年間の中で随分後の方だったはず。という事はもうほとんど記憶を取り戻しているって事?
「ねえ。ネムさん。お願いがあるんだ」
「何?」
「ぜひ一度礼土さんに会わせてほしいんだ。お願いできないかな」
そういうとテーブルに頭をつけるくらいに頭を下げた。その様子に浅海さんも野上さんも凄く驚いていた。
「理由を聞いてもいい?」
「なんていうのかな。こんな話笑われちゃうかもしれないんだけどね。実は1年前から妙な夢を見るんだ。ここじゃない別の世界の夢。でも妙にリアルで、まるで本当にそれが起きていたかのような感覚まである。その夢であった人が何人かいてね。僕はその人が本当に実在するんじゃないかなって思ってるんだ。だからずっと探しててね」
「会ってどうするの?」
「とにかく話してみたい。それにもし僕の想像通りの人なら相談したいこともある」
少し考える。まあ聞いていた話から考えて悪い人ではないだろう。礼土がどう考えているかさっぱりわからないけど、会いたいといういなら別にいいかな。
「うーん。一応本人に聞いてからでもいい?」
「ああ! もちろんだ。よかった、これでここ1年のモヤモヤが晴れるかもしれない」
「一応言っておくけど浮気は許さないわよ」
少し半目で睨んでいる浅海さんが大和さんにそういった。するとかなり慌てた様子で首を振っている。
「とんでもない。それに礼土さんは男性だろ?」
「まあ。一応ね。――それで本題なんだけど……体調が回復したところで申し訳ないんだけどさ」
「ああ。大丈夫。任せてよ」
何か2人でやり取りをしているがどういう事だろう。
「ねぇ陽子。もしかして……」
「うん。真鈴、大和に任せて。こうみえて大和ってランクⅦの霊能者なのよ」
「え? すごいね!」
これはアタシも驚いた。りこさんや唯斗さんは二人とも霊力が低い。なのに大和さんは霊力が高いんだ。記憶を取り戻しかけているなら多分大和さんは魔法も使えるはず。もしかして……記憶と一緒に魔法も封印されていたから? そうなるとやっぱり魔法と霊力の関係は……。
「場所を移そうか」
アタシたちは学校から離れ、近くのカラオケへやってきた。近くに程よい個室がないかららしい。
「なんか大和君。随分見られてたね」
「ははは……。この面子に僕一人だしね」
「はいはい。さっさと移動しましょ」
何を言っているかよくわからなかったけど、アタシは初めてのカラオケだ。周りから様々な人の歌声が聞こえてくる。何となく結構変わった場所だなと思う。
「さて。一応だけど陽子は外に出てて。気を付けるけど結構危ないかも」
「ん、了解。じゃジュースでもゆっくり取ってくるよ」
そういうと野上さんは個室から出ていった。
「じゃあ。始めようか。まず僕の霊能力なんだけど……基本的になんでもできる」
「え、なんでも?」
「うん。なんていうのかな。結構特殊体質でね。ちょっと霊力とは違う別の力があってそれと組み合わせるとほとんど望んだ事が出来るよ」
これは流石にアタシも驚いた。もしかしてりこさんや唯斗さんがやろうとしている魔力と霊力の同時使用を実践できてるの? 確かあの2人から聞いた話だと大和さんは全属性の魔力を使えるって話だっけ。普通別属性の魔力は混ざり合って打ち消しあってしまうのに、それを完全に分けて使用できるかなり稀有な才能。もしかしてそれが影響してる?
「呪いが何か僕も詳しくない。でも実際に野上さんが被害にあっているなら何かあるはずだ。それを洗い出すよ。手を出して」
「う、うん」
野上さんの手をゆっくり握った大和さんは目を閉じた。すると大和さんから霊力があふれ出す。いやそれだけじゃない。魔力も一緒に流れ出した。大和さんの身体が薄く発光し空気が張り詰めていく。アタシは咄嗟にこの部屋全体に魔力を通し結界を張った。
周囲に響いていた音が消え、無音となった個室で大和さんの声が静かに響く。
「――生贄。業の蔵。星の神。呪星。夢。拡散。脳。愛。印。永劫の浄化……ッ!」
突然、大和さんの目と鼻から血が噴出した。
「ごめん。止めるね」
それを見てアタシは強制的に中断させるため、握っている手を無理やり離す。すると光が収まり放出されていた力が落ち着き始めた。
「いたた。参ったね」
そう少し軽い口調で大和さんは近くにあったティッシュで顔の血を拭っている。よく見ると野上さんは気絶しているようだ。無理もないあれだけの力を一般人が近くで受けたのだ。
「どういう事?」
「なんていうのかな。今のは過去視と未来視だね。野上さんに触れて妙な異物があったからそれの過去をみようとしたんだ。そうしたら少し引っ張られちゃって、そのまま少し先の未来まで見えたみたい。ああごめん。これ秘密にしてくれる? ちょっと偉い家に睨まれる可能性が高くてさ……」
「それはいいけど、身体の方は?」
「しばらく休めば大丈夫。ただ反動がすごくてね。多分1か月くらいは霊力は練れないかな」
なるほど。つまりおおよそ霊力で可能なことならなんでもできるって事か。ただ反動が強くてあまり使用はできないと。強大な力に対する代償みたいなものかしら。
「本当は僕の力で祓えればいいんだけど、これ想像以上に強いね。でもネムさんなら大丈夫そうかな」
「……どうして?」
「ははは。だってそうとう強いでしょ? 僕なんて相手にならないくらいにさ。正直最初見た時はどうやって陽子ちゃんを連れて逃げるか考えちゃったくらいだよ。……とりあえず僕の方でわかった事だけでも説明させて」
「うん。お願い」
何も見えずわからない事だらけのこの一件がようやく進みそうな、そんな予感がした。